No | 120675 | |
著者(漢字) | 金,經雲 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | キム,キョンウン | |
標題(和) | 新規Zinc fingerタンパク質EZIの機能解析 | |
標題(洋) | Functional Analyses of The Novel Zinc Finger Protein EZI | |
報告番号 | 120675 | |
報告番号 | 甲20675 | |
学位授与日 | 2005.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4751号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 生物化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 目的 サイトカインは細胞間の情報伝達を担う分泌性のタンパク質群で、個体の発生をはじめ免疫系や神経系など様々な生命の高次機能の形成と維持に必須の役割を果たしている。サイトカインは細胞膜上の受容体に結合して細胞内シグナル伝達経路を活性化し多彩な機能を発現する。サイトカイン受容体は構造的特徴からいくつかのファミリーに分類されている。免疫・造血系で主要な役割を果たしているインターロキンやインターフェロンの受容体自身にはキナーゼ活性がないが、受容体細胞内ドメインの膜近傍領域にJakファミリーのキナーゼが結合しており、サイトカインの受容体への結合により活性化されて受容体のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化された受容体には様々なシグナル伝達分子が引き寄せられてJakにより活性化される。 STAT(signal transducer and activator of transcription)はSH2ドメインとチロシンリン酸化部位をもち、多くのサイトカインのシグナル伝達において主要な役割を果たしている転写因子ファミリーで、哺乳動物においては STAT1、2、3、4、5a、5b、6の7種類が存在する。不活性型STATは細胞質に存在し、サイトカイン受容体の活性化に伴いチロシンリン酸化された受容体に結合する。Jakによりチロシンリン酸化されたSTATはSH2ドメインにより互いのリン酸チロシンを認識し、2量体を形成する。この2量体は核に移行し、DNAに結合して標的遺伝子群の転写を制御する(図1.)。最終的にSTATは脱リン酸化を受けて、核から再び細胞質へと移行する。すなわち、STATがその機能を発現するためには細胞質から核内への移行が必須であるが、STATには配列上明らかな(典型的な)核移行シグナルが見いだされず、どのような仕組みで核ヘ移行するのか不明であった。最近チロシンリン酸化を受けたSTAT1には、核膜孔へのタ−ゲティンクに必要なImportin α/β複合体が結合すること、またこの結合にはSTAT1上の新規の(典型的でない)核移行シグナルが必要であることが報告された。しかしながら、STAT3に関してはSTAT1とはまた異なる核移行のメカニズムが存在すると考えられており、その実体は未だ明らかとなっていない。 STAT3はインターロイキンー6(IL-6)ファミリーのサイトカインやEGFにより活性され、細胞の増殖・分化、生存維持などにおいて中心的な役割を果たしている。さらに、v-srcなどのがん遺伝子によっても活性化され、細胞の癌化への関与が指摘されている。本研究では、がん細胞の増殖抑制因子として見いだされたIL-6ファミリー、オンコスタチンM(OSM)がAGM(aorta-gonad-mesonephros)領域での造血発生を促進するという現象を解析する過程で、OSMの刺激によって内皮様細胞から誘導される遺伝子としてEZI(endothelial cell-derived zinc finger protein)を同定し、その機能解析を行った。EZIは、12 個のZinc finger(ZF)モチーフを有する新規のタンパク質であり、EZIの機能解析を通じて、これがSTAT3の活性化を制御する重要な因子であることを見出し、さらにその作用の分子メカニズムを明らかにした。 結果と考察 EZIはSTAT3の活性化を促進する。 まず、EZIの詳細な発現について解析を行った結果、EZI発見当初の結果とは異なり、OSMによるEZIの誘導性は弱く、内皮細胞以外にも様々な細胞や組織で構成的に発現していた。EZIはZFモチーフをもつことから、転写因子である可能性を考え、様々なプロモーターを介した転写活性化に対する作用を検討した結果、EZIにはacute phase response element (APRE)などSTAT3により転写が誘導されるプロモーターからの発現を促進する作用があった。一方、免疫沈降法により、EZIとSTAT3には物理的な相互作用があることが明らかとなり、さらにEZIの欠失変異体を作製し解析することで、STAT3との結合領域を同定した。STAT3結合領域を欠失したEZI変異体ではSTAT3依存的転写活性化の促進は見られなかったことから、EZIとSTAT3は細胞内で協調的に作用することが示唆された。また、EZIは核内に局在しておりSTAT3の核移行を促進するが、STAT3結合領域を持ちZFを欠失したEZI変異体は細胞質に局在し、STAT3の核移行とSTAT3依存的転写活性化を抑制した。以上の結果から、EZIはSTAT3に結合してSTAT3の核移行を促進し、核内に留めてSTAT3の活性化を促進することが示された。 EZIによるSTAT3核移行の抑制 EZIの変異体を過剰発現させたこれまでの実験から、この分子がSTAT3の活性化に重要な機能を担っていることが示唆された。そこで、EZIを標的とするsiRNAを用いて内在性のEZIの発現を抑制した場合の、STAT3の核移行および核局在化およびSTAT3依存的転写活性化に対する影響を検討した。作製したEZI siRNAによって内在性EZIの発現量は減少し、それに伴って、OSM刺激によるSTAT3依存的転写活性化も抑制された。さらにsiRNAによりEZIの発現が抑制された細胞では、OSMによるSTAT3の核移行および核局在化が阻害されていた。したがって、EZIはSTAT3の核移行および核局在に必須の機能があることが明らかとなった。また、核移行できない既知のSTAT3変異体ではEZIとの結合能が失われていたことからも、STAT3の核移行におけるEZIの関与が支持された。 EZIの核移行のメカ二ズム EZIは主に核に局在するタンパク質であったが、EZIの欠失変異体を用いた解析の結果、全てのZFモチーフを欠損した変異体においてその核への移行が阻害された。そこでEZIの核移行のシグナルを同定するため、EZIの ZFモチーフを段階的に欠損させた変異体を多数作成し、それらの核移行能力を検討した。その結果、EZIの核局在には3番目と8番目のZFモチーフが重要であった。さらに、その変異体はSTAT3依存的転写活性化を阻害した。一方、プロテオミクス法を用いた EZIに結合するタンパク質の解析からImportin 7が見いだされ、siRNAによりImportin 7の発現を抑制するとEZIの核移行が抑制された。以上の結果から、EZIはImportin 7を介してSTAT3の核への移行を制御している可能性が強く示唆された。 オリゴヌクレオチドデコイとペプチドによるSTAT3の活性化阻害 EZIはDNAに結合する分子であり、STAT3と同様にAPRE配列に結合することができる。そこで、EZIに結合するオリゴヌクレオチド(デコイ)を細胞に導入することにより、内在性のEZIの活性が阻害されるか、さらにSTAT3の活性化にも影響があるかどうか検討した。APREに種々の変異を導入したオリゴヌクレオチドを作製し、EZIとより強く結合する変異体を見出した。このオリゴヌクレオチド(EZIデコイ)を導入した細胞では、EZIは核へ移行せずに細胞質に溜まっており、OSM刺激に従うSTAT3の核移行も阻害されていた。また、 STAT3依存性の転写活性化も抑制された。したがって、EZIデコイは細胞質でEZIとSTAT3に結合して、これらの複合体の核への移行を阻害することが示唆された。 一方、EZIのN末端領域に存在するSTAT3結合領域に関して、さらに変異体を作製して詳細な解析を行ったところ、91アミノ酸からなるドメインが結合に必須な領域であり、特に4残基の酸性アミノ酸からなるモチーフが重要であることを見出した。このモチーフを含む7アミノ酸からなるペプチドを合成し、膜透過シグナルを付加して細胞に導入したところ、このペプチドはSTAT3とともに細胞質に留まり、STAT3の核移行を阻害することが明らかとなった。 結論 本研究では、新規ZFタンパク質EZIの機能解析を行い、EZIはSTAT3の活性化において必須の因子であることを明らかにした。すなわち、EZIは活性化STAT3を Importin 7とともに核に移行させる重要な因子であり、核内ではSTAT3とともにDNAに結合して転写能力を高めることが強く示唆された。STAT3の核移行の機構は未解決の重要な課題であったが、EZIの発見によりSTAT3の核移行機構解明の突破口が開かれた。本研究により細胞レベルでのEZIの機能は明らかになったが、今後はEZI欠損マウスの作製などにより生体での機能解析が期待される。また、EZIとSTAT3との間にみられた協調的な作用が他のSTATについても存在するのか、今後の解析が期待される。さらに、EZI結合オリゴヌクレオチド(EZIデコイ)およびEZI由来のSTAT3結合ペプチドは、いずれもSTAT3の新たな活性阻害剤としての可能性が考えられる。 図1.Jak-STAT シグナル経路。 | |
審査要旨 | サイトカインと総称される分泌タンパク質は細胞間のシグナル伝達分子として細胞の増殖、分化を制御する。サイトカインは細胞膜の受容体に結合し、そのシグナルは様々な細胞内因子によって細胞核へと伝えられ、遺伝子発現を調節する。この細胞内シグナル伝達機構の解明は生命現象の理解に必須である。本論文において、金君は、新規のzinc fingerタンパク質、 EZI (endothelial cell-derived zinc finger protein)を同定し、それがサイトカインの細胞内シグナル伝達分子である STAT3(signal transducer and activator of transcription 3)の機能発現に重要な働きをすることを明らかにした。本論文は論文の要旨(第1章)、略語の説明(第2章)、に始まり、第3章の序論では、サイトカインのシグナル伝達系とその中心的な分子STAT(signal transducer and activator of transcription)について述べ、続く第4章と第5章でEZIの同定と機能解析の結果と考察が述べられている。まず始めに、血管内皮前駆細胞においてインターロイキンー6 (IL-6)ファミリーのサイトカイン、オンコスタチンM(OSN)の刺激によって誘導される遺伝子としてEZI (endothelial cell-derived zinc finger protein)を同定した。 EZIは12個のZinc Fingerドメインをもつ新規のタンパク質である。 Zinc Fingerタンパク質の多くは転写に関与することから、様々なプロモーターからの転写に対するEZIの作用を検討し、 STAT3依存的なプロモーターからの転写を促進することを見いだした。また、免疫沈降法により、 EZIはSTAT3と結合することを明らかにした。さらに、 EZIの欠失変異体を用いた解析を行い、STAT3結合領域を持ちZinc Fingerを欠失したEZI変異体はSTAT3の核移行とSTAT3依存的転写活性化を抑制することを示した。siRNAによりEZIの発現が抑制された細胞では、OSMによるSTAT3の核移行および核局在化が阻害された。さらに、EZIに結合するオリゴヌクレオチド(デコイ)やEZIのN末端領域に存在するSTAT3結合領域から作製したペプチドを用いて、それらがSTAT3の核移行を阻害し、結果的にSTAT3の活性化を抑制することも見いだした。以上の結果から、EZIはSTAT3に結合してSTAT3の核移行を促進し、核内ではSTAT3を核内に留めてその活性化を促進することが強く示唆された。第5章においては、 EZIの核移行メカニズムについて述べている。EZIは主に核に局在するタンパク質であったが、EZIの欠失変異体を用いた解析を行った結果、全てのZinc Fingerモチーフを欠損した変異体において、その核への移行が阻害された。そこでEZIの核移行のシグナルを同定するため、EZIのZinc Fingerモチーフを段階的に欠損させ、それらの核移行能力を検討したところ、 EZIの核局在には3番目と8番目のZinc Fingerモチーフが重要であることが示され、さらにその変異体はSTAT3依存的転写活性化も阻害する事を見いだした。一方、プロテオミクス法を用いた解析からImportin7がEZIに結合することを明らかにした。 Importin7はタンパク質の核移行を制御する因子として知られている。実際、 siRNAによりImportin7の発現を抑制するとEZIの核移行が抑制された。以上の結果を踏まえ、金君は本論文の結論として、EZIはImportin7を介してSTAT3の核移行を制御していることを論じている。 STAT3がその生理的な機能を発現するためには細胞質から核内への移行が必須であるが、STAT3のアミノ酸配列には典型的な核移行シグナルが見いだされず、STAT3の核移行の機構については長年不明であった。本研究は、新たに同定されたzinc fingerタンパク質EZIがimportin7を介してSTAT3を核に移行させることを示し、STATの作用機序の解明に大きく貢献するものである。STATはサイトカインなどのシグナル伝達における重要な分子であり、論文提出者の研究は、分子生物学に大きく貢献するものと考えられる。なお、本論文中のすでにEMBO J.に発表した部分については、中山恒および宮島篤との共同研究であるが、本論文においては論文提出者が主体となり実験及び考察を行っており、論文提出者の寄与が十分であると判断し、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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