学位論文要旨



No 120676
著者(漢字)
著者(英字) TAHGHIGHI,Hossein
著者(カナ) タヒキキ,ホセイン
標題(和) 地盤と杭基礎の非線形動的相互作用効果の耐震設計への合理的な導入方法
標題(洋) Rational incorporation of non-linear soil-pile interaction effects in seismic design
報告番号 120676
報告番号 甲20676
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6096号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 教授 目黒,公郎
内容要旨 要旨を表示する

構造物の耐震設計は、その推定がきわめて困難な入力地震動に対し、人がその物性を制御できる構造物の応答を合理的な規範の下に考えようとするものである。したがって精粗の著しく変化する諸要因の相互作用をいかに合理的に評価しえるのかの戦略構築が問われるのである。地盤と構造物の動的相互作用は1970年代から地震工学の重要な課題として、一面では成熟しきった学問分野であるものの、未解決の課題は未だに多く残されたままになっている。

最も成熟しきったアプローチの一つが地盤を半無限の領域を持つ線形弾性体とみなしその中に形状、剛性の異なる物体が嵌め込まれているという前提で動的問題を解くものである。この方法は数理モデルとしては完成度が高く、無限遠への波動の伝播によるエネルギー逸散の効果の重要性を浮き彫りにし、その合理的評価の方法を提供してきたという点で評価すべきであるが、非線形現象の圧倒的に卓越する地震時挙動の検証には適さず、したがって杭・地盤の相互作用に関しては、杭の側面地盤を離散的なバネ(Winklerばね)で支え、近傍地盤に特に顕著に発生する非線形性効果を組み込むモデル化が実務面では多用されてきた。Winklerばねに、近傍地盤の非線形性とともに波動逸散の効果を組み込む試みもNogami, Konagai (1987)らによってなされている。しかしながら特定の深さでの杭に対する地盤の反力が、その深さでの離散バネと変位によってのみ規定されるとするモデル化は、地盤が連続体であるという事実を反映しておらず、そのために地盤ばねの評価の多くが経験的手法に拠っている。Nogami. Konagaiらは杭側面の地盤を水平に分割し、それぞれに平面ひずみ状態を想定してインピーダンスを求めるというNovakの仮定を採用し、その時間領域での表現を提示しているが、Novakの平面ひずみモデルの静的インピーダンスは0に収斂してしまうという問題があり、一方で動的インピーダンスは地表に近い部分での応力開放の影響を無視しているため過大な値になっている。非線形のWinklerばねの評価もまた杭のプッシュオーバー解析によるなど多くが経験的な方法に依存している。

本論文は側方地盤を3次元的に無限に広がる層状の連続体として得られる厳密解(インピーダンスマトリックス)の対角項をWinklerバネの初期値と考え、非対角項の存在で生じる変位を、このWinklerばねの外側端に生じる変位(外端変位:Far-end displacements)として加えこむ改良Winklerモデルを提案するものである。対角項は当該深さでの杭近傍地盤の影響を最も直接的に反映する一方、当該部分以外が地盤地盤を通して当該部分の応答に与える影響(非対角項)は遠方地盤の連続体としての影響をより大きく反映していることに着目した表現法である。杭が地盤を押し引きする時に生じる非線形性は、したがってこの対角項のみを変化させることで表現することになる。またWinklerばねの外端変位は、結果的に杭の有効長(active pile length)に大きく依存し、有効長を基準にした無次元深さの関数とすることで、幅広い地盤状況や、群杭の本数に対し一律に表現することが可能であることが示された。したがって地盤の非線形性の進展で有効長が変化すればこれに応じて外端変位も変化し、地盤の連続体としての影響を取り込みつつ、近傍地盤の非線形性を反映した合理的な相互作用解析が可能になるのである。

本論文の構成は以下の通りである。

第1章は、1995年の兵庫県南部地震や1999年の台湾集集地震、そして2004年中越地震の杭の被害事例や相互作用が関連したと思われる被害事例に触れ、研究の背景と、この論文で取り上げる課題について述べている。第2章はこれまでの地盤と構造物の相互作用研究のレビューを行っている。第3章は地盤の中にある杭基礎本体のモデル化について触れている。杭基礎は橋梁などでは、単独ではなく群杭として用いられることが多い。郡杭はこれらを個別にモデル化して解析する手法が設計でも用いられるが、杭間距離が短い場合地盤に生じる破壊のパターンは、むしろ群杭を一体の杭とみなした状況に近く、したがってこれまでKonagai (2000, 2002, 2003)らによって等価梁モデルが提案されている。このモデルは多数の杭間の相互作用を厳密に解析した結果と極めて近い近時解を与えるものであることが証明されているが、杭が破壊していく状況でもこの概念を敷衍できるか検討しなければならない。そこで本章では慣性力相互作用で杭等部分が損傷を受けヒンジとなった状況を想定し、等価梁モデルを拡張し、厳密解との比較を行った。その結果、このような状況でも群杭と地盤の相互作用を精度よく評価でき、以下に続く検討を一体化した等価な梁と地盤との相互作用問題として単純化できることが示された。

第4章ではいよいよ側方地盤のモデル化の詳細に触れ、改良Winklerモデルの提案を行っている。対象とする地盤は無限に広がる水平成層地盤であり、そのインピーダンスマトリックスはTajimi, Shimomura (1976)の提案した薄層要素法を用いて求めた。また同じ手法によって、Winklerばねの外端に加える外端変位ベクトルを算出すると、これが結果として群杭の有効長(activepile length)で無次元化した深さに大きく依存しその他の2次的なパラメータの影響が小さいことも示された。

第5章ではWinklerばねに非線形性を導入し、カリフォルニア大学バークレー校が中心になってPacific Earthquake Engineering Research Centerで開発されたOpenSeesの有限要素法プログラム、単杭の応答解析プログラム、そしてMcVayらが行った遠心力載荷装置内での杭模型の載荷試験を用いて、その妥当性を検証している。

そして第6章では.本論文で検討した結果をとりまとめるとともに,今後の課題について述べている.

審査要旨 要旨を表示する

地盤と構造物の動的相互作用は1970年代から地震工学の重要な課題として多くの研究者に連綿と研究されてきた学問分野であり、理想的な地盤・構造物系についてはその精緻な扱いと完成された数理モデルで成熟しきった分野であると見ることも出来る。しかし構造物の耐震設計は、予測しがたい入力地震動に対し、その物性を人間がある程度制御できる構造物の応答を合理的な規範の下に考えようとするものである。したがって情報の精粗が著しく異なるものが複合された状況でいかに合理的に相互作用を評価しえるのかの戦略構築が問われるのである。

最も成熟しきった相互作用解析の一つは地盤を半無限の領域を持つ線形弾性体とみなしその中に形状、剛性の異なる物体が嵌め込まれているという前提で、波動問題を解くものである。この方法は数理モデルとしての完成度が高く、波動の散乱・逸散の効果の重要性を浮き彫りにし、その合理的評価の方法を提供してきたという点で評価すべきである。しかし地盤と異質の剛性と質量を有する構造物近傍の地盤では地盤、あるいは構造物の非線形性の影響が強く、変形が大きくなれば剥離、すべりが圧倒的に卓越し、これらが大きく構造物の挙動を支配することになる。このような背景から杭・地盤の相互作用に関しては、杭の側面地盤を離散的なバネ(Winklerばね)で支え、近傍地盤に特に顕著に発生する非線形性効果を組み込むモデル化が実務面で多用されてきた。そして、こうした非線形性の表現に重きを置く研究者のグループと、波動論に重きを置く研究者のグループはそれぞれの立場からの研究の深淵化には貢献していったが、それぞれの研究成果を融合し、相互作用解析の表現できる幅を広げようとする試みは決して盛んであったとは言えない。

本論文は杭基礎と地盤の相互作用解析において側方地盤を3次元的に無限に広がる層状の連続体として得られる厳密解(インピーダンスマトリックス)の対角項をWinklerバネの初期値と考え、非対角項の存在で生じる変位を、このWinklerばねの外側端に生じる変位(外端変位:Far-end displacements)として加えこむ改良Winklerモデルを提案するものである。対角項は当該深さでの杭近傍地盤の影響を最も直接的に反映する一方、当該部分以外が地盤地盤を通して当該部分の応答に与える影響(非対角項)は遠方地盤の連続体としての影響をより大きく反映していることに着目した表現法である。杭が地盤を押し引きする時に生じる非線形性は、したがってこの対角項のみを変化させることで表現することになる。またWinklerばねの外端変位は、結果的に杭の有効長(active pile length)に大きく依存していることが示された。この傾向は特に深さとともに拘束圧が上がり、土の剛性が大きくなる現実的な場合に顕著で、外端変位を有効長で無次元した深さの関数とすることで、幅広い地盤状況や、群杭の本数に対し一律に表現することが可能であることが示された。したがって地盤の非線形性の進展で有効長が変化すればこれに応じて外端変位も変化し、地盤の連続体としての影響を取り込みつつ、近傍地盤の変化を反映した合理的な相互作用解析に繋がっていく可能性がある。

本論文の構成は以下の通りである。

第1章は、1995年の兵庫県南部地震や1999年の台湾集集地震、そして2004年中越地震の杭の被害事例や相互作用が関連したと思われる被害事例に触れ、研究の背景と、この論文で取り上げる課題について述べている。第2章はこれまでの地盤と構造物の相互作用研究のレビューを行っている。第3章は地盤の中にある杭基礎本体のモデル化について触れている。杭基礎は橋梁などでは、単独ではなく群杭として用いられることが多い。郡杭はこれらを個別にモデル化して解析する手法が設計でも用いられるが、杭間距離が短い場合地盤に生じる破壊のパターンは、むしろ群杭を一体の杭とみなした状況に近く、したがってこれまでKonagai (2000, 2002, 2003)らによって等価梁モデルが提案されている。このモデルは多数の杭間の相互作用を厳密に解析した結果と極めて近い近似解を与えるものであることが証明されているが、杭が破壊していく状況でもこの概念を敷衍できるか検討しなければならない。そこで本章では慣性力相互作用で杭等部分が損傷を受けヒンジとなった状況を想定し、等価梁モデルを拡張し、厳密解との比較を行っている。その結果、このような状況でも群杭と地盤の相互作用を精度よく評価でき、以下に続く検討を一体化した等価な梁と地盤との相互作用問題として単純化できることが示された。

第4章では本論文の核心である側方地盤のモデル化の詳細に触れ、改良Winklerモデルの提案を行っている。対象とする地盤は無限に広がる水平成層地盤であり、そのインピーダンスマトリックスはTajimi, Shimomura (1976)の提案した薄層要素法を用いて求めている。また同じ手法によって、Winklerばねの外端に加える外端変位ベクトルを算出すると、これが結果として群杭の有効長(activepile length)で無次元化した深さに大きく依存しその他の2次的なパラメータの影響が小さいことも示されている。

第5章ではWinklerばねに非線形性を導入し、カリフォルニア大学バークレー校が中心になっているPacific Earthquake Engineering Research Centerで開発されたOpenSeesの有限要素法プログラム、単杭の応答解析プログラム、そしてMcVayらが行った遠心力載荷装置内での杭模型の載荷試験を用いて、その妥当性を検証している。

そして第6章では.本論文で検討した結果をとりまとめるとともに,今後の課題について述べている.

第8章は本論文の結論をまとめている.

以上、本研究は、地盤と杭の動的相互作用効果の評価において、波動の逸散効果から杭基礎近傍地盤の非線形性までを幅広く合理的に表現するためのブレークスルーに繋がる手法を提示したものであり、地震工学分野で重要な研究成果と評価できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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