学位論文要旨



No 120677
著者(漢字)
著者(英字) FARAHANI,Alireza
著者(カナ) ファラハニ,アリレザ
標題(和) 地震時の地盤挙動の時間・周波数結合表現
標題(洋) Joint Time-Frequency Representation of transient behavior of soil medium in Earthquakes
報告番号 120677
報告番号 甲20677
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6097号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 目黒,公郎
 東京大学 助教授 井上,純也
内容要旨 要旨を表示する

地震被害で現れる地形効果は多くの地震被害調査で示されてきた。また一方で数値解析による地形高架の検証もまた1970年以降の重要な研究課題として連綿と進められてきたものである。しかしながら双方のアプローチの間で実例と解析を比較しその乖離と課題を積極的に論じた議論は必ずしも多くなかったように思われる。一つには地震の被害が地盤の極めて浅い部分の非線形挙動に大きく支配されること、そして実際の被害分布を議論するには地震動観測網があまりにも疎らであることなどがその一因であろう。以上を背景に本論文は以下の2つの課題に取り組むものである。

(1) 近傍地盤の非線形性と波動の無限遠への逸散の影響を取り込める時間領域での解析プラットフォームの開発、そしてこの手法を用いて(2) 2003年12月26日に発生し4万3千人にもおよぶ死者を出したイランBam地震の被害分布と地震動分布を議論することである。

非線形性の解析は基本的に時間領域で行われることになる。一方で無限遠への波動逸散を有限領域の境界処理で行う場合、境界のインピーダンスが周波数に大きく依存するため、これまでの解析のほとんどは周波数領域で行われていた。境界に粘性ダンパーを並べた手法(Lysmer法)は時間領域でも活用できるが、あくまでこれは境界のインピーダンスの近似的扱いでしかない。

この論文で提案する手法は地震動をいくつかの時間区分に分割し、それぞれにおいて最も寄与の大きい周波数成分を取り出し、これを対象にLysmer法における最適の粘性境界のパラメータを設定し、これを時間とともに変化させていくものである。卓越する周波数のトラッキング検知にはAdaptive Optimal Kernel法を用いた。

本論文の構成は以下の通りである。

第1章は、研究の背景と、これまでの数値解析手法のレビューを行っている。

第2章から第5章までは数値解析手法に関わるものである.第2章は半無限地盤の2つの基本方程式を紹介し、本論文で提案する境界表現にどう関連するのか論じている。第3章は周波数をトラッキング検知して、波動伝達境界のパラメータを時刻を追って変化させるスキームを提案している。波動伝達境界としては無限要素を用いるのが最も精度がよいが、簡便な手法として粘性ダンパーを用いるLysmer法でも実用上十分なほどその精度を向上できることを示している. 第4章は周波数をトラッキング検知として本論文で用いるAdaptive Optimal Kernel法を紹介し、第5章ではその提案手法への組み込みについて述べている。第6章では提案手法の検証をいくつかの明確な条件の下で行ない、第8章では地震入力に対する応答解析手順をまとめている。

第8章では、第7章まで出提案した数値解析手法を用いて実地震の被害分布を検討している。対象とした地震は2003年12月26日に発生し4万3千人にもおよぶ死者を出したイランBam地震である。イランは1000台にも及ぶ強震計を国内に配置し、その地震観測網は世界でも最も整備されたものの一つである。それにもかかわらず東西8km、南北6kmの市街地に地震計は1台しかなく、その被害も街区ごとに大きく異なっていた。そこで地震後2ヵ月後に現地に入り、街中で唯一共通する構造を持ち、地震の揺れの痕跡をとどめている電柱に着目し、およそ300本に及ぶ電柱の亀裂を計測し、残留ひずみの分布を調査した。そして開発した数値解析手法(2次元)を用い、可能な地震動分布の推定を行い、SI値と電柱の残留ひずみの関係、そして電柱の残留ひずみと、電柱近傍の区域の住宅(アドベ、鉄骨組石造など)の被害率の関係を求めた。これは、この地域の住宅の被害関数を与えるものであり、地震多発国であるイランの被害推定に科学的論拠を与えるものになると期待される。

そして第9章では.本論文で検討した結果をとりまとめるとともに,今後の課題について述べている.

審査要旨 要旨を表示する

地震被害で現れる地形効果の数値解析による検証は1970年以降の重要な研究課題として連綿と進められてきたものである。複雑な近傍地盤形状の影響やここに置かれる構造物の挙動を解析しようとする場合、はるかに大きな広がりを持つ遠方地盤への波動の逸散などの影響をも適切に表現しなければならない。さらにこのような地形効果を実際の地震被害の実態と対比しその乖離と課題を積極的に論じた議論は必ずしも多くなかったように思われる。一つには地震の被害が地盤の極めて浅い部分の非線形挙動に大きく支配されること、そして実際の被害分布を議論するには地震動観測網があまりにも疎らであることなどがその一因であろう。以上を背景に本論文は以下の2つの課題に取り組んでいる。

(1) 近傍地盤の非線形性と波動の無限遠への逸散の影響を取り込める時間領域での解析プラットフォームの開発、そしてこの手法を用いて(2) 2003年12月26日に発生し4万3千人にもおよぶ死者を出したイランBam地震の被害分布と地震動分布を議論すること、である。

非線形性の影響も含めた地形効果の解析は時間領域で可能になる。しかし一方で無限遠への波動逸散を有限領域の境界処理で行うことは決して容易ではない。遠方地盤の構造は水平成層地盤などのように単純化されることが多いが、その場合でさえ遠方地盤のインピーダンスは周波数の複雑な関数として与えられ、これを時間領域で計算することは決して容易ではなかった。そこで、これまでの解析のほとんどは周波数領域で行われていた。境界に粘性ダンパーを並べた手法(Lysmer法)は時間領域でも活用できるが、あくまでこれは境界のインピーダンスの近似的扱いでしかない。

この論文で提案する手法は、波動逸散境界に到達する寸前の地震波動の卓越周波数成分を、時間を追って追跡し、最も寄与の大きい周波数成分を取り出し、これを対象に最適の波動逸散境界のパラメータを時々刻々設定していくものである。

本論文の構成は以下の通りである。

第1章は、研究の背景と、これまでの数値解析手法のレビューを行っている。

第2章から第5章までは数値解析手法に関わるものである.第2章は半無限地盤の2つの基本方程式を紹介し、本論文で提案する境界表現にどう関連するのか論じている。第3章は周波数をトラッキング検知して、波動伝達境界のパラメータを時刻を追って変化させるスキームを提案している。卓越する周波数成分の時間変動をトラッキングする場合、時間分解能を高くすれば周波数分解能が低下し、一方で周波数分解能を上げれば時間分解能を下げざるを得ないジレンマがあるが、論文提出者は波動に応じて核関数を適合させていくAdaptive Optimal Kernel法を用いることで、この課題を解決している(第4章)。トラッキングされた卓越周波数成分に応じて波動伝達境界のパラメータを変化させる場合に、境界のモデルとしては無限要素を用いるのが最も精度がよい。しかし粘性ダンパーを用いるLysmer法のような簡便手法でも、実用上十分なほどその精度を向上できることを示している.第5章ではその提案手法への組み込みについて述べている。第6章では提案手法の検証をいくつかの明確な条件の下で行ない、第7章では地震入力に対する応答解析手順をまとめている。

第8章では、第7章まで出提案した数値解析手法を用いて実地震の被害分布を検討している。対象とした地震は2003年12月26日に発生し4万3千人にもおよぶ死者を出したイランBam地震である。イランは1000台にも及ぶ強震計を国内に配置し、その地震観測網は世界でも最も整備されたものの一つである。それにもかかわらず東西8km、南北6kmの市街地に地震計は1台しかなく、その被害も街区ごとに大きく異なっている。そこで提出者は街中で唯一共通する構造を持ち、地震の揺れの痕跡をとどめている電柱に着目し、およそ300本に及ぶ電柱の亀裂を計測し、残留ひずみの分布を調査している。そして開発した数値解析手法(2次元)を用い、可能な地震動分布の推定を行い、SI値と電柱の残留ひずみの関係、そして電柱の残留ひずみと、電柱近傍の区域の住宅(アドベ、鉄骨組石造など)の被害率の関係を求めた。これは、この地域の住宅の被害関数を与えるものであり、地震多発国であるイランの被害推定に科学的論拠を与えるものになると期待される。

そして第9章では.本論文で検討した結果をとりまとめるとともに,今後の課題について述べている.

以上、本研究は、波動の時間変化に合わせて遠方地盤への波動逸散を効率的に行う独自のアルゴリズムに基づき、地震動増幅の地形効果などの検討を時刻暦で検討するためのツール開発を行い、実事例への適用も通してその効果と課題を検討したものである。今後の地震工学の諸課題の解析に合理的な評価手法の一つを提示したものとして評価でき、よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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