学位論文要旨



No 120679
著者(漢字) 宮下,剛
著者(英字)
著者(カナ) ミヤシタ,タケシ
標題(和) 社会基盤施設モニタリングのためのレーザードップラー速度計による高度計測システム
標題(洋)
報告番号 120679
報告番号 甲20679
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6099号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 助教授 石原,孟
 東京大学 助教授 松本,高志
内容要旨 要旨を表示する

わが国の社会基盤施設に対しては,継続的な投資がされ,膨大なストックが形成されている.しかし,社会基盤整備を高度経済成長期において急速に行ったため,供用年数50年を超える老朽化した橋梁などの社会資本が,今後,急速に増加することになる.従来の実構造物に対するメインテナンスでは,構造物外観の目視検査が主体であり,検査結果は実施者の主観に大きく依存する.そのため,老朽化する構造物の増加および高齢化社会の到来による技術者の不足を考慮すると,定量的かつ効率的な点検手法の確立が求められている.この要請に対して,本研究では,レーザードップラー速度計(以下,LDV)を利用した高度振動計測システムを開発することを目的とした.このシステムは,複数台のLDVにより,振動計測を高精度かつ非接触に遠距離から空間的に高密度に行うことが可能である.さらに,本システムでは,LDVを3台連動させることで,対象物の三次元振動挙動を非接触かつ高密度に計測することが可能となる.

本研究では,社会基盤施設の中でも,近年,老朽化や交通量の増加により疲労損傷や,騒音,振動などの環境問題が発生している鋼橋に着目した.鉄道橋や道路橋などの主に2次部材では,列車・交通荷重を受け,複雑な変形状態の中で疲労き裂が発生している.さらに,実構造物や地盤などの応答性状は外力・境界条件が複雑なため,解析のみの評価は困難である.橋梁などの構造物や周辺地盤が示す複雑な三次元の動的挙動を高密度かつ高精度で計測して,解析モデルを構築・修正する必要がある.そのため,実構造物や実地盤の常時微動や列車・交通荷重による振動を計測することで三次元局所変形・振動特性を明らかにすることが現象の把握,および問題の解決に有効である.

具体的な事例として,今後,走行列車の高速化が予定され,新たな振動の問題が懸念されている鋼鉄道橋を対象として,構築した高度計測システムを適用した.本橋では,列車走行による高次モードによる振動が,低次モードでは励起されないような局部応力を伴うことも予想され,耐久性への影響が懸念された.高次モードがどのようなメカニズムで発生するのかを把握しておくことは今後の列車の高速化,とくに既設橋に対する適切な補強を考える際に極めて重要である.

列車高速化に伴う高次モードの発生メカニズムを解明するためには,多断面について詳細な振動計測を行う必要がある.従来の加速度計やひずみゲージなどによる固定式センサと共に,LDVを利用した非接触振動計測により,多断面の振動モード形など,計測対象物の動特性を把握することは非常に有効的である.LDVおよび固定式センサによる詳細な振動計測に基づいて現象を把握し,計測結果を利用したハイブリッドな解析モデルを構築することで,今後の列車高速化による挙動の予測が可能となった.

本論文は,全8章で構成されている.各章の概要は以下のとおりである.

第1章では,序論として,本研究の背景と位置づけを述べ,研究の方法と目的を示した.

第2章では,単点計測型LDVを利用した三次元振動計測システムを開発した.まず,本研究で使用するLDVの特徴および計測原理,スペックについてまとめた.次いで,LDVによる一次元振動計測の問題点を簡単な実験により説明した.さらに,商用化されている単点計測型LDVを利用した三次元振動計測システムについてまとめ,問題点を述べた.最後に,屋外計測への適用を可能とするために.計測の原理,計測距離,LDVの配置方法について実験的検討を行った.

第3章では,多点計測型LDVを利用した三次元振動計測システムを開発した.具体的には,スキャニング可能な多点計測型LDVを3台組み合わせた三次元振動計測システムを開発した.LDVの配置方法により,2種類の三次元振動計測手法(平行設置法および任意設置法)を提案し,屋内実験による妥当性の検証および現場計測への適用を行った.

第4章では,複数のLDVを利用した常時微動計測による実構造物の振動計測システムを開発した.まず,LDVを利用した常時微動計測から動特性を同定する手法についてまとめた.次に,1台の単点計測型LDVと3台の多点計測型LDVを組み合わせた振動計測システムの開発を行った.最後に,構築した振動計測システムを既設鋼鉄道橋の常時微動計測に適用し,複数断面の振動モード形の同定を行った.

第5章では,複数のLDVを利用した非定常振動計測による実構造物の振動計測システムを開発した.まず,非定常スペクトル解析による動特性の同定手法について述べ,理論の妥当性を数値シミュレーションおよび屋内実験により検証した.最後に,構築した振動計測システムを利用して既設鋼鉄道橋における列車走行時の振動計測を行い,複数断面について固有振動モード形を同定した.

第6章では,まず,第4章および第5章における既設鋼鉄道橋のLDVを利用した振動計測結果に基づき,加速度計やひずみゲージなどを利用した詳細な振動計測を行った.振動計測結果に基づき,既設鋼鉄道橋における高速列車の走行に伴う高次モードの発生のメカニズムおよびその特性を調べた.さらに,計測結果を利用するハイブリッド解析モデルにより,今後の列車高速化による挙動の予測を行った.

第7章は結論および今後の課題とし,各章で得られた主要な研究成果を要約し,結論とするとともに,今後の研究の課題について述べる.

審査要旨 要旨を表示する

わが国の社会基盤施設に対しては,継続的な投資がされ,膨大なストックが形成されている.しかし,社会基盤整備を高度経済成長期において急速に行ったため,供用年数50年を超える老朽化した橋梁などの社会資本が,今後,急速に増加することになる.従来の実構造物に対するメインテナンスでは,構造物外観の目視検査が主体であり,検査結果は実施者の主観に大きく依存する.そのため,老朽化する構造物の増加および高齢化社会の到来による技術者の不足を考慮すると,定量的かつ効率的な点検手法の確立が求められている.この要請に対して,本研究では,レーザードップラー速度計(以下,LDV)を利用した高度振動計測システムを開発することを目的とした.このシステムは,複数台のLDVにより,振動計測を高精度かつ非接触に遠距離から空間的に高密度に行うことが可能である.さらに,本システムでは,LDVを3台連動させることで,対象物の三次元振動挙動を非接触かつ高密度に計測することが可能となる.

本研究では,社会基盤施設の中でも,近年,老朽化や交通量の増加により疲労損傷や,騒音,振動などの環境問題が発生している鋼橋に着目した.鉄道橋や道路橋などの主に2次部材では,列車・交通荷重を受け,複雑な変形状態の中で疲労き裂が発生している.さらに,実構造物や地盤などの応答性状は外力・境界条件が複雑なため,解析のみの評価は困難である.橋梁などの構造物や周辺地盤が示す複雑な三次元の動的挙動を高密度かつ高精度で計測して,解析モデルを構築・修正する必要がある.そのため,実構造物や実地盤の常時微動や列車・交通荷重による振動を計測することで三次元局所変形・振動特性を明らかにすることが現象の把握,および問題の解決に有効である.

具体的な事例として,今後,走行列車の高速化が予定され,新たな振動の問題が懸念されている鋼鉄道橋を対象として,構築した高度計測システムを適用した.本橋では,列車走行による高次モードによる振動が,低次モードでは励起されないような局部応力を伴うことも予想され,耐久性への影響が懸念された.高次モードがどのようなメカニズムで発生するのかを把握しておくことは今後の列車の高速化,とくに既設橋に対する適切な補強を考える際に極めて重要である.

列車高速化に伴う高次モードの発生メカニズムを解明するためには,多断面について詳細な振動計測を行う必要がある.従来の加速度計やひずみゲージなどによる固定式センサと共に,LDVを利用した非接触振動計測により,多断面の振動モード形など,計測対象物の動特性を把握することは非常に有効である.LDVおよび固定式センサによる詳細な振動計測に基づいて現象を把握し,計測結果を利用したハイブリッド解析モデルを構築することで,今後の列車高速化による挙動の予測が可能となった.

本論文は8章から構成されている.第1章では,序論として,本研究の背景と位置づけを述べ,研究の方法と目的を示している.

第2章では,単点計測型LDVを利用した三次元振動計測システムを開発した.まず,本研究で使用するLDVの特徴および計測原理,スペックについてまとめた.次いで,LDVによる一次元振動計測の問題点を簡単な実験により説明した.さらに,商用化されている単点計測型LDVを利用した三次元振動計測システムについてまとめ,問題点を述べた.最後に,屋外計測への適用を可能とするために.計測の原理,計測距離,LDVの配置方法について実験的検討を行っている.

第3章では,多点計測型LDVを利用した三次元振動計測システムを開発した.具体的には,スキャニング可能な多点計測型LDVを3台組み合わせた三次元振動計測システムを開発した.LDVの配置方法により,2種類の三次元振動計測手法(平行設置法および任意設置法)を提案し,屋内実験による妥当性の検証および現場計測への適用を行っている.

第4章では,複数のLDVを利用した常時微動計測による実構造物の振動計測システムを開発した.まず,LDVを利用した常時微動計測から動特性を同定する手法についてまとめた.次に,1台の単点計測型LDVと3台の多点計測型LDVを組み合わせた振動計測システムの開発を行った.最後に,構築した振動計測システムを既設鋼鉄道橋の常時微動計測に適用し,複数断面の振動モード形の同定を行っている.

第5章では,複数のLDVを利用した非定常振動計測による実構造物の振動計測システムを開発した.まず,非定常スペクトル解析による動特性の同定手法について述べ,理論の妥当性を数値シミュレーションおよび屋内実験により検証した.最後に,構築した振動計測システムを利用して既設鋼鉄道橋における列車走行時の振動計測を行い,複数断面について固有振動モード形を同定している.

第6章では,まず,第4章および第5章における既設鋼鉄道橋のLDVを利用した振動計測結果に基づき,加速度計やひずみゲージなどを利用した詳細な振動計測を行った.振動計測結果に基づき,既設鋼鉄道橋における高速列車の走行に伴う高次モードの発生のメカニズムおよびその特性を調べた.さらに,計測結果を利用するハイブリッド解析モデルにより,今後の列車高速化による挙動の予測を行っている.

第7章は結論および今後の課題とし,各章で得られた主要な研究成果を要約し,結論とするとともに,今後の研究の課題について述べている.

本論文では,既存のLDVシステムを組み合わせることで,三次元振動計測および多断面をスキャニング振動計測することが可能な計測システムを構築している.三次元振動計測システムは,複雑な三次元挙動を示す実構造物の動的現象を解明することを可能にしており,社会基盤構造物の維持管理・モニタリングに大きなインパクトを与えることが予想される.また,本論文では,鋼鉄道橋を列車が高速走行するときに発生する局部応力発生のメカニズムを,構築した高度計測システムと詳細計測から明らかにしている.さらに,計測結果に基づいた解析モデルにより,今後,高速化が予定されている速度領域における挙動予測を行っている.その結果,局部応力が卓越する列車速度の存在およびその発生メカニズムについて明らかにしている.以上により,本研究の成果は極めて学術的価値の高いものと判断される.よって,博士(工学)の学位請求論文として合格と認める.

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