学位論文要旨



No 120685
著者(漢字) マクブール,サジャット
著者(英字)
著者(カナ) マクブール,サジャット
標題(和) 三軸・平面ひずみ試験における礫の強度変形特性に及ぼす締固めの影響
標題(洋) Effects of compaction on strength and deformation properties of gravel in triaxial and plane strain compression tests
報告番号 120685
報告番号 甲20685
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6105号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 講師 内村,太郎
内容要旨 要旨を表示する

締め固めた礫の強度変形特性に及ぼす締固め程度の影響を調べるために、3種類の系統的な試験を実施した。試験材料として、千葉礫(最大粒径38mm,平均粒径11mm,均等係数30)を用いた。3つの主応力(σ1, σ2, σ3)を独立に制御できる大型三主応力制御試験装置を用いて、最初と2番目の系統の試験として三軸圧縮試験と平面ひずみ圧縮試験を実施した。三軸圧縮試験における供試体寸法は断面23.5cm×23.5cm,高さ50cmで、平面ひずみ圧縮試験では断面22cm×25cm,高さ50cmとした。最後の系統の試験では、三軸圧縮試験に加えて、載荷中の供試体の写真を撮影するために2枚の拘束板のうち1枚を透明なアクリル板に変更した試験装置を用いて平面ひずみ圧縮試験を実施した。

最初の系統の試験を始める前に、自動式衝撃締固め装置を用いて3通りの異なる締固めエネルギーにおける締固め曲線を求め、最適含水比を決定した。締固め前後における供試体のふるい分け粒度分析を行うことにより、締固めに伴う粒子破砕についても検討した。その結果、どの締固めレベルにおいても、粒径10mm以上の粒子において若干の粒子破砕が生じることを明らかにした。

最初の系統の試験のために、P波とS波を発信受信できる動的測定システムを改良し、豊浦砂の供試体を用いた予備的試験によりその妥当性の検証を行った。このシステムを用いて、動的と静的に測定した弾性的変形特性の比較を行った。ほぼ同様な乾燥密度のもとでは、密な豊浦砂の動的測定による鉛直ヤング率は静的測定結果と比べて15〜25%程度大きかった。一方で、締め固めた礫の乾燥密度を変化させた場合には、静的測定と動的測定による鉛直ヤング率の差は乾燥密度の増加とともに小さくなった。

最初の系統の試験の結果を、動的測定に用いた半波長で正規化した平均粒径(D50/(λ/2))と、静的測定と動的測定結果から換算した弾性波速度の比率(Vcyc/Vsv= )の関係として整理した。その結果、これらの関係が乾燥密度に依存することが明らかになった。動的測定の際には、大きな粒子で形成された剛性の高い経路を波が伝達したために、異なる乾燥密度によらず同程度の動的ヤング率が得られたものと考えられる。一方、静的ヤング率は供試体の全体的な剛性を反映しているために、その測定結果が乾燥密度により強く依存したものと考えられる。

二番目の系統の試験においては、締固めた礫の単調載荷試験を拘束圧100kPa三軸及び平面ひずみ条件下で実施した。三軸試験では従来手法を用いたが、平面ひずみ圧縮試験では、従来手法によるパッシブ制御に加えて、新たにアクティブ制御もとり入れた。パッシブ制御試験では2枚の拘束板を両方とも固定して、3対の水平局所変位計による中間主ひずみε2の計測を行った。その結果、局所変位計測によるε2はピーク応力状態において1〜2 %程度かそれ以上であることがわかった。そこで、アクティブ制御試験では、1枚の拘束板を前後に動かすことにより、局所変位計測によるε2がほぼゼロとなるように制御した。

二番目の系統の試験の結果、局所変位計測によるε2をアクティブ制御しても、得られる応力ひずみ特性はせん断初期を除いてパッシブ制御と変わらなかった。同程度の乾燥密度のもとでは、これら2種類の平面ひずみ圧縮試験によるピーク強度qmaxが三軸圧縮試験による値よりも大きくなった。供試体の乾燥密度または締固めレベルが大きくなるほど、三軸圧縮試験と平面ひずみによるqmaxの差が大きくなったが、これらの比は乾燥密度や締固めレベルによらず0.8程度であった。一方、締固めエネルギーを680kJ/m3から4倍および13倍に増加させると、試験のタイプによらずqmaxの値はそれぞれ約1.3倍および1.9倍に増大した。

最後の系統の試験においては、締固めた礫供試体2グループを用いてそれぞれ三軸および平面ひずみ条件下で試験を行った。それぞれのグループの供試体に、単調載荷、大振幅繰返し載荷、クリープ載荷を行った。繰返し載荷時にはその振幅も変えて強度変形特性に及ぼす影響を調べた。一番目のグループの三軸試験結果として、大振幅繰返し載荷後の単調載荷時に、軸ひずみがほとんど増加しないのに軸応力が急激に増加する現象が観察された。載荷履歴が異なってもピーク強度はほぼ同様であったが、それが発揮される軸ひずみの大きさは異なることがわかった。大振幅繰返し載荷およびクリープ載荷過程では、単調載荷過程よりも体積収縮傾向が強く現れた。二番目のグループの平面ひずみ試験でも、大振幅繰返し載荷後とクリープ載荷後の応力ひずみ曲線の変化は最初のグループの三軸試験結果と同様であった。また、大振幅繰返し載荷およびクリープ載荷中の体積収縮傾向も確認された。

最後の系統の試験におけるこれらの結果から、大振幅繰返し載荷過程とクリープ載荷過程では、土粒子の再配列の生じ方が単調載荷時とは異なっていることが示唆された。このような違いにより供試体中での局所的な高密度化がより強く発生し、供試体全体の挙動としてはより強い体積収縮傾向を示したものと考えられる。

本研究で得られた成果は実務において次のような意義を有する。礫質土の微小ひずみ剛性を例えば原位置弾性波探査などの動的測定により評価する場合、測定波の波長および土の粒径と密度の複合的な影響について十分に留意する必要がある。礫のピーク強度は締固めエネルギーの増加に対して非線形的に増大するため、実務においてはそれ以上締固めると経済性が低下するような最適な締固めレベルが存在する。締固めた礫の三軸圧縮試験結果に基づいて平面ひずみ条件下での設計ピーク強度を設定する場合、ある拘束圧のもとでの補正係数は礫の密度や締固めレベルによらない。礫をある程度のレベルまで締め固めた場合、大振幅の繰返し載荷履歴やクリープ載荷履歴がその後の単調載荷時に発揮されるピーク強度に及ぼす影響を無視することができる。

審査要旨 要旨を表示する

礫質土は、盛土構造物や鉄道・道路の路盤を建設する材料として広く利用されている。密な礫は剛性が高いために、通常の荷重下で生じるひずみレベルは小さく、弾性的な変形成分が占める割合が比較的高い。一方で、礫は大粒径の土粒子を有し堆積構造の不均質性が高いため、弾性波速度測定等による動的な測定と繰返し載荷等による静的な測定で得られる弾性的な変形特性が必ずしも一致しないことが指摘されている。

近年では、締固め施工機械の大型・高出力化に伴い、極めて高いレベルまで礫の締固めを行うことが可能になってきた。締固め程度の把握のための動的測定結果の利用についても検討がすすめられている。しかしながら、上記の動的・静的測定結果の違いに及ぼす締固め程度の影響について詳細に検討した例はない。

さらに、軸方向に十分に長い盛土や路盤の場合、設計上は平面ひずみ条件下にあると仮定することが多いが、礫の平面ひずみ圧縮試験は大型供試体を必要とするため、容易に実施することができない。そこで、通常の三軸試験を実施して、その結果から平面ひずみ条件下での強度変形特性を予測することが行われるが、これらの試験において締固め程度を変えた場合の影響や、繰返し載荷履歴やクリープ載荷履歴の影響については、これまで検討例が極めて限定されている。

以上の背景のもとで、本研究では、大型の試験装置を用いて動的および静的な測定を行いながら三軸試験と平面ひずみ試験を系統的に実施することにより、礫の強度変形特性に及ぼす諸要因の影響、特に締固め程度の影響について検討している。

第一章は序論であり、研究の背景と目的を説明し、最後に論文の構成を記述している。

第二章では、研究に用いた試験装置と試験材料の詳細、および試験方法と試験条件を記述している。

第三章では、新たに開発した締固め装置と、これを用いた千葉礫の締固め試験結果、および締固めに伴う粒子破砕に関する検討結果について記述している。

第四章では、弾性波を発信受信できる測定システムの改良内容とこれを用いた検証試験結果、および密な豊浦砂と締固めの程度を変えて作製した千葉礫の大型供試体を対象とした、微小ひずみレベルにおける鉛直ヤング率の動的測定結果と静的測定結果の比較について記述している。入力波形とその周波数の設定なども工夫することにより、大型供試体における弾性波の測定精度を大幅に向上させることに成功している。さらに、動的測定結果と静的測定結果の比率が、動的測定に用いた波長と試料の平均粒径だけでなく、乾燥密度にも依存することを明らかにしている。

第五章では、局所的に計測した中間主ひずみ増分をほぼゼロに保てるようなアクティブ制御の特殊な平面ひずみ圧縮試験方法を開発し、締固めの程度を変えて作製した千葉礫を対象に、拘束板を固定した従来型のパッシブ制御平面ひずみ圧縮試験と、拘束板を用いない三軸試験も実施して、これらの試験結果を比較している。アクティブ制御してもせん断初期を除いて応力ひずみ関係がパッシブ制御と変わらないことを示す一方で、これらの平面ひずみ圧縮試験によるピーク強度が、締固め程度によらずほぼ一定の割合で三軸圧縮試験結果よりも大きくなることを見出している。また、締固めエネルギーを増加させた場合のピーク強度の増加が、線形的には生じないことを報告している。

第六章では、大振幅の繰返し試験履歴とクリープ載荷履歴の影響についての検討を、ある一定の締固め程度で作製した千葉礫を対象に実施した結果を記述している。平面ひずみ圧縮試験と三軸試験の両者において、これらの載荷履歴を与えた後の単調載荷時のピーク強度が履歴のない場合と変わらないこと、およびこれらの載荷中には単調載荷中よりも体積収縮傾向が強く現れることを報告している。

第七章では、結論と今後の課題を記述している。

以上を要約すると、本研究は、新たに開発または改良を行った試験装置を用いて礫の大型試験を系統的に実施することにより、微小ひずみレベルでの剛性の動的・静的測定結果の違いと、平面ひずみ・三軸条件下での強度変形特性の違い、およびこれらに及ぼす締固め程度と繰返し・クリープ載荷履歴の影響を明らかにしたものであり、地盤工学の発展に貢献するところが大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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