学位論文要旨



No 120698
著者(漢字)
著者(英字) HANDLBAUER,KURT
著者(カナ) ハンデルバウアー,クルト
標題(和) 操作の空間・空間の操作 : 東京の地区開発プロジェクトにおける空間操作のメカニズムとその応用に関する研究
標題(洋) Spaces of Control・Control of Spaces : A study about mechanisms of spatial control and their application in the context of territorial planning projects in Tokyo
報告番号 120698
報告番号 甲20698
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6118号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 大野,秀敏
 東京大学 助教授 西出,和彦
 東京大学 助教授 曲渕,英邦
 東京大学 助教授 千葉,学
内容要旨 要旨を表示する

この論文の内容は、空間の操作についてその概念的要素やメカニズムを考察したものであり、最近都内で実施された地区計画プロジェクトへの適用例を調査したものである。ここでは、空間というものが単なる独立した存在ではなく、ある意図の表現、つまり、背後から操作された力によってもたらされた明確な位置付けを持った生産物であるということを論じている。これら空間をとりまく関係により、空間はその単なる空間的特徴を超えて研究される。この論文の目的は、空間と操作との関係と、その示唆するところ全てに焦点を当て、空間設定の潜在的な意味を説明しうる概念を創出することである。題名の−操作の空間:空間の操作−はこの関係のもつ両義的意味の両方とも示したものである。空間は、操作を仲介するもの、すなわち空間設定の提供者と利用者の間を仲介するものである。

この論文の中核として、都内の4つの地区計画プロジェクトを、概念を適用するための例として取り上げた。地区計画プロジェクトという言葉は、この研究の文脈の中では一貫したコンセプトによる計画の行われた地域、すなわち特定の意図をもって作られた複合生産物と解釈した。調査対象プロジェクトは全てここ12年間のうちに実施され、公共スペースや消費目的施設の配置構成として似通ったプログラム的構造をもつ。これらのプログラムは全て民間組織によって実施されているため、空間の背後には強い操作の力が働いている。研究対象としたプロジェクトは六本木ヒルズ、恵比寿ガーデンプレース、ビーナス・フォート、ラ・クーア遊園地である。

論文は5章と序文、付録よりなる。

第1章「機能構成」では論文構成の概要を示す。ここでは論文の背景と文脈を明白にし、題目を特定の焦点に絞った。この章ではその他、研究の文脈の中で必要とされる研究の方法的側面や、既往研究についても触れている。

第2章「操作の性質」では空間操作と空間との間の関係を理論的観点から議論した。本章の目的は、操作の課題を考察するにあたっての分析のための軸を創出することである。論文ではこの分析軸を基準として、関連しあう概念が適用できるかどうかについて調査し、試みている。最初に、空間と操作の間の関係を空間設定の物理的要素という軸から議論した。操作プログラムの指定という軸、操作プログラムの維持という軸は空間と操作との関係における運営上の要素を示している。この章の結論として、理解しうる枠の中で発見される、純化された分析的モデルを提案した。

第2章で発見した分析軸を、第3章「操作の実態」では調査事例と結びつけることを試みた。章の始めでは空間表現の問題についての調査について述べ、その後、各調査対象の概要について簡単に説明した。本章の中核をなすのは、操作の概念的要素という観点からの調査事例の詳細な分析である。各プロジェクトの計画の変遷から、プロジェクトの背後にあり中核を担う操作について議論した。次に、各プロジェクトを構成する要素から、その領域的意味を明らかにした。更に、ウェブ上の広報活動による領域の視覚的拡大について調査を行い、本章の中核とした。というのは、ウェブ分析ツールを使うことで、物理的領域の視覚的な鏡ともいえるウェブサイトの内容の詳細な調査を行うことが可能となったからである。これらは各プロジェクトの操作の運営的側面である、プログラム的な特徴についての情報をもたらすものである。最後に、空間設定の提供者が空間の利用のされ方についての情報を得るための道具であるフィードバック・ループの例を挙げて本章の締めとした。

第4章「操作を仲介する役割としての公共スペース」では公共スペースを、各調査プロジェクトの中の独立した領域的分類として説明した。公共スペースは空間利用者のために舞台を形成し、故に公衆を消費目的施設と結びつける鍵となる空間を形作っている。公共スペースは、利用者に対する操作の効果について理解するための鍵となる領域の代表格である。本章は、公共スペースの意味、そして社会のポストモダン変遷の中でたどった衰退を、一般的調査によって探ることに始まる。これに基づき、公共スペースの真の価値はイデオロギー的議論を超えて存在するものであり、実際の利用パターンから指摘されうることを議論している。更にビデオ観察結果から、各プロジェクトの特徴的な公共スペースを明らかにし、空間利用形態の他、空間利用者が空間提供者の明白な操作手法によって行動に影響を受ける「contact points」を抽出した。

第5章「操作の影響」では研究結果をより幅広い枠の中に位置づけ、議論を行った。すなわち、ウェブの内容の分析や空間利用形態の観察の結果から、都市環境の操作の示唆するところについて述べている。最後に、更なる研究に向けての道筋を示唆した。

巻末付録には、調査データと参考文献を入れ、論文を締めくくった。

審査要旨 要旨を表示する

この論文は、最近都内で実現した地区計画プロジェクトの調査分析を通して、空間の操作について、その概念的要素やメカニズムを考察したものである。 論文の目的は、空間と操作との関係と、その示唆するところ全てに焦点を当て、空間設定の潜在的な意味を説明しうる概念を創出することにある。空間というものが単に独立した存在ではなく、ある意図の表現、背後から操作された力によってもたらされた明確な位置付を持ったものであることを意識しており、題名の−操作の空間:空間の操作−はこの関係の両義性を示したものである。

調査対象となったプロジェクトとして、一貫したコンセプト、特定の意図による複合建築計画の行われた地域を選択している。調査対象プロジェクトは、全てここ12年間のうちに実施され、公共スペースや消費を目的とした施設の配置構成が似通ったプログラムをもち、民間組織によって実施されたもので、具体的には六本木ヒルズ、恵比寿ガーデンプレース、ビーナス・フォート、ラ・クーア遊園地である。

論文は5章と序文、付章よりなる。

第1章「機能構成」では、論文構成の概要を示している。ここでは論文の背景と文脈を明白にしており、研究の方法的側面や既往研究についても触れている。

第2章「操作の性質」では、空間操作の課題を考察するにあたって、分析のための軸を探し出すことを目的として、空間と操作との間の関係を理論的観点から議論している。そしてこの分析軸を基準として、関連し合う概念の適用可能性について調査し、空間と操作との間の関係を空間設定の物理的要素という軸から議論している。操作プログラムの指定という軸、操作プログラムの維持という軸は、空間と操作との関係における運営上の要素を示している。

第3章「操作の実態」では、第2章で策定した分析軸の調査事例との結びつけを試みている。まず、空間表現の問題に関する調査について述べ、その後、各調査対象の概要について説明している。本章の中核にあたるものは、操作の概念的要素という観点からの調査事例の詳細な分析である。各プロジェクトの計画の変遷を見て、プロジェクト背後にあり中核を担う操作について議論している。次に、各プロジェクトの構成要素から、その領域的意味を明らかにしている。さらに、ウェブ上の広報活動による領域の視覚的拡大について調査を行っている。その理由はウェブ分析ツールを使うことで、物理的領域の視覚的な鏡ともいえるウェブサイトの内容の詳細な調査を行うことが可能となったからとしている。これらは各プロジェクトの操作の運営的側面である、プログラム的な特徴についての情報をもたらすものである。最後に、空間設定の提供者が空間の利用のされ方についての情報を得るための道具であるフィードバック・ループの例を挙げて章の締めとしている。

第4章「操作を仲介する役割としての公共スペース」では、公共スペースを各調査プロジェクトの中の独立した領域的分類として説明している。公共スペースは、空間利用者のための舞台を形成し、したがって公衆を消費目的施設と結びつける鍵となる空間を形作っているとみなしている。さらに、公共スペースは、利用者に対する操作の効果について理解するための鍵となる領域の代表格であるとし、公共スペースの意味、特に社会においてポストモダンがたどった衰退の状況を探り、これに基づき、公共スペースの真の価値はイデオロギー的議論を超えて存在するものであり、実際の利用パターンから指摘されうることを議論している。これに加えて、ビデオ観察結果から、各プロジェクトの特徴的な公共スペースを明らかにし、空間利用形態のほか、空間利用者が空間提供者の明白な操作手法によって行動に影響を受ける「コンタクトポイント:contact points」を抽出している。

第5章「操作の影響」では、研究結果をより幅広い枠の中に位置づけ、議論を行っている。すなわち、ウェブの内容分析や空間利用形態の観察の結果から、都市環境の操作が示唆するところについて述べている。最後に、今後の研究に向けての道筋を示唆している。

なお、巻末付録には、調査データと参考文献を入れている。

以上のように、本論文は、最近の都市部における地区計画プロジェクトの詳細な調査分析を通して、空間と操作についてその概念的要素やメカニズムを考察したもので、都市空間についての多くの基本的な知見を明確に示して、建築計画学の発展に寄与したものである。

よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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