学位論文要旨



No 120703
著者(漢字)
著者(英字) ISLAM S.M. ATIQUL
著者(カナ) イスラム エス エム アティクル
標題(和) 嫌気性微生物群による汚染土壌からのヒ素ガス化
標題(洋) GASIFICATION OF ARSENIC FROM CONTAMINATED SOLIDS BY ANAEROBIC MICROORGANISMS
報告番号 120703
報告番号 甲20703
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6123号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 福士,謙介
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 教授 矢木,修身
 東京大学 助教授 滝沢,智
 東京大学 教授 渡辺,知保
内容要旨 要旨を表示する

地下水におけるヒ素の毒性は状況が深刻であるバングラディッシュを含む多くの国に共通の問題である。これについて安全な飲料水確保の多くの努力がなされているが、今日までに適切な結果が得られていない。飲料水問題に加えて、ヒ素汚染灌漑用水を用いた農業を続けることによって、農業土壌でのヒ素汚染の拡大も増大している。さらに、様々なヒ素除去装置からのヒ素を豊富に含んだ泥廃棄物も更なる汚染を引き起こしている。この泥廃棄物はは近接した低地や排水溝への投棄に由来するが、それが更なる土壌・地下水汚染を引き起こす可能性は非常に高いと言える。

ヒ素の生物学的ガス化はヒ素を含む泥からのヒ素除去の一手法となりうる。本研究では。牛糞とヒ素を含む土壌由来の嫌気性微生物集積系がヒ素ガス化に有効であるということを明らかにした。モノメチルアルシンはこのガス化の主要生成物であり、少量のアルシンと共に生成する。ヒ素の濃度が重要な役割を担い、ガス化は液相中のヒ素濃度を高くすればするほど促進されることがわかった。メタン生成において、濃度150mgAs/L以下のヒ素が嫌気集積系に効果があることがわかった。この研究では最終濃度7.5mgAs/Lのヒ素で馴養した集積系による嫌気リアクターを用いたヒ素ガス化の実践に成功し、継続している。リアクターは牛糞とヒ素汚染土壌の微生物群を種汚泥として培養を行った。ヒ素のガス化は牛糞由来のリアクターで高い効率を示し、汚染土壌由来のリアクターではそれよりかなり低い効率となった。モノメチルアルシンとしてのヒ素ガス化総量は86日間の運転で、牛糞由来リアクターで980.16μgAs/gMLVSS,汚染土壌由来リアクターで103.2μgAs/gMLVSSであった。従って、本研究では土壌や泥からのヒ素修復のための嫌気微生物処理の可能性を示すことができたと言える。さらに、本研究では非馴養集積系と馴養集積系においてヒ素初濃度7.5mgAs/Lのヒ素ガス化速度の評価を行った。ヒ素は牛糞微生物群と土壌微生物群両方において馴養集積系の方が非馴養集積系の7-8倍の速度でガス化された。おそらく、馴養集積系では高濃度ヒ素環境で遺伝学的変化ではない微生物群集構造の変化がもたらされたものと考えられ、またこれがヒ素のガス化により効果がある、といえる。また本研究では、さらに土壌からのヒ素微生物修復のためのガス化処理実用可能性を検討するために、土壌カラム実験を行った。バッチテスト、リアクター分析と同様に土壌カラムにおいても主構成気体をモノメチルアルシンとするヒ素のガス化が確認された。土壌カラムにおけるヒ素ガス化速度は遅かったものの、処理に時間がかけられるならこの処理は利用可能だと考えられる。また、ヒ素ガス化により強力である牛糞由来微生物群を土壌カラムに加えることにより、ヒ素のガス化を利用したバイオオーグメンテーション効果を確認した。

これらのヒ素の生物学的メチル化を確認したことに加え、本研究ではヒ素メチル化微生物(AsMB)計数のための新しいMPNプロトコルを開発した。この方法ではAsMBの計数と同時にメタン生成菌の計数も可能である。MPNプロトコルには段階的な希釈によりヒ素メチル化微生物の単離を進めるという利点がある。本研究では集積系と純菌間のヒ素ガス化速度を比較するため、既存の研究でヒ素ガス化が報告されているMethanobacterium formicicum純菌のヒ素ガス化の活性分析を行った。

ヒ素を豊富に含む泥の嫌気的処理プロセスを開発するという最終目的において、本研究はヒ素ガス化での嫌気好熱性集積系微生物の挙動を実証した。揮発性メチル化誘導体の中でもトリメチルアルシンは、最も毒性が少なく、生物学的ヒ素メチル化プロセスの最終生成物で、好熱性細菌の培養温度に近い沸点52℃を持つ。以上のことにより、好熱性微生物はヒ素ガス化によりふさわしいと言える。これを考慮に入れると、本研究は最終濃度7.5mgAs/Lのリアクターにおける馴養好熱性混合培養系において、嫌気好熱性集積系によるヒ素ガス化の効果を評価したことになる。主なガス化ヒ素はアルシン(AsH3)として得られ、累積生成量は81日間の馴養で2879μgAs/gMLVSSだった。アルシンの毒性はヒ素ガス中で最も高いので好熱性微生物の利用は生物学的浄化処理には適さない。

本研究の結論を簡潔に述べると、嫌気性微生物によるメチル化誘導体へのヒ素ガス化はヒ素の生物学的修復において重要なプロセスである、といえる。考えられる応用としてはヒ素汚染された汚泥の浄化があるが、これはバングラディッシュを含む多くの国で飲料水の浄化のためのヒ素処理装置から作られている。第二の応用には必要なバイオオーグメンテーションと共に野生の土壌微生物を用いた土壌修復が考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

地下水におけるヒ素の毒性は状況が深刻であるバングラディッシュを含む多くの国に共通の問題である。これについて安全な飲料水確保の多くの努力がなされているが、今日までに適切な結果が得られていない。飲料水問題に加えて、ヒ素汚染灌漑用水を用いた農業を続けることによって、農業土壌でのヒ素汚染の拡大も増大している。さらに、様々なヒ素除去装置からのヒ素を豊富に含んだ泥廃棄物も更なる汚染を引き起こしている。この泥廃棄物は近接した低地や排水溝への投棄に由来するが、それが更なる土壌・地下水汚染を引き起こす可能性は非常に高いと言える。

ヒ素の生物学的ガス化はヒ素を含む泥からのヒ素除去の一手法となりうる。本研究では、牛糞とヒ素を含む土壌由来の嫌気性微生物集積系がヒ素ガス化に有効であるということを明らかにした。モノメチルアルシンはこのガス化の主要生成物であり、少量のアルシンと共に生成する。ヒ素の濃度が重要な役割を担い、ガス化は液相中のヒ素濃度を高くすればするほど促進されることがわかった。メタン生成において、濃度150mgAs/L以下のヒ素が嫌気集積系に効果があることがわかった。この研究では最終濃度7.5mgAs/Lのヒ素で馴養した集積系による嫌気リアクターを用いたヒ素ガス化の実践に成功し、継続している。リアクターは牛糞とヒ素汚染土壌の微生物群を種汚泥として培養を行った。ヒ素のガス化は牛糞由来のリアクターで高い効率を示し、汚染土壌由来のリアクターではそれよりかなり低い効率となった。モノメチルアルシンとしてのヒ素ガス化総量は86日間の運転で、牛糞由来リアクターで980.16 ugAs / gMLVSS, 汚染土壌由来リアクターで103.2 ugAs / gMLVSS であった。従って、本研究では土壌や泥からのヒ素修復のための嫌気微生物処理の可能性を示すことができたと言える。さらに、本研究では非馴養集積系と馴養集積系においてヒ素初濃度7.5mgAs/Lのヒ素ガス化速度の評価を行った。ヒ素は牛糞微生物群と土壌微生物群両方において馴養集積系の方が非馴養集積系の7−8倍の速度でガス化された。おそらく、馴養集積系では高濃度ヒ素環境で遺伝学的変化ではない微生物群集構造の変化がもたらされたものと考えられ、またこれがヒ素のガス化により効果がある、といえる。また本研究では、さらに土壌からのヒ素微生物修復のためのガス化処理実用可能性を検討するために、土壌カラム実験を行った。バッチテスト、リアクター分析と同様に土壌カラムにおいても主構成気体をモノメチルアルシンとするヒ素のガス化が確認された。土壌カラムにおけるヒ素ガス化速度は遅かったものの、処理に時間がかけられるならこの処理は利用可能だと考えられる。また、ヒ素ガス化により強力である牛糞由来微生物群を土壌カラムに加えることにより、ヒ素のガス化を利用したバイオオーグメンテーション効果を確認した。

これらのヒ素の生物学的メチル化を確認したことに加え、本研究ではヒ素メチル化微生物(AsMB)計数のための新しいMPNプロトコルを開発した。この方法ではAsMBの計数と同時にメタン生成菌の計数も可能である。MPNプロトコルには段階的な希釈によりヒ素メチル化微生物の単離を進めるという利点がある。本研究では集積系と純菌間のヒ素ガス化速度を比較するため、既存の研究でヒ素ガス化が報告されているMethanobacterium formicicum純菌のヒ素ガス化の活性分析を行った。

ヒ素を豊富に含む泥の嫌気的処理プロセスを開発するという最終目的において、本研究はヒ素ガス化での嫌気好熱性集積系微生物の挙動を実証した。揮発性メチル化誘導体の中でもトリメチルアルシンは、最も毒性が少なく、生物学的ヒ素メチル化プロセスの最終生成物で、好熱性細菌の培養温度に近い沸点52℃を持つ。以上のことにより、好熱性微生物はヒ素ガス化によりふさわしいと言える。これを考慮に入れると、本研究は最終濃度7.5mgAs/Lのリアクターにおける馴養好熱性混合培養系において、嫌気好熱性集積系によるヒ素ガス化の効果を評価したことになる。主なガス化ヒ素はアルシン(AsH3)として得られ、累積生成量は81日間の馴養で2879 ugAs / gMLVSSだった。アルシンの毒性はヒ素ガス中で最も高いので好熱性微生物の利用は生物学的浄化処理には適さない。

本研究の結論を簡潔に述べると、嫌気性微生物によるメチル化誘導体へのヒ素ガス化はヒ素の生物学的修復において重要なプロセスである、といえる。考えられる応用としてはヒ素汚染された汚泥の浄化があるが、これはバングラディッシュを含む多くの国で飲料水の浄化のためのヒ素処理装置から作られている。第二の応用には必要なバイオオーグメンテーションと共に野生の土壌微生物を用いた土壌修復が考えられる。このように本研究は工学的有用性と学術的独創性を有し、そのレベルも高いことから、審査の結果、本論文は博士(工学)の学位請求論文として認められる。

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