No | 120705 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | PIADAENG,NIRAMON | |
著者(カナ) | ピアデン,ニラモン | |
標題(和) | 利害関係者間の協働と地域型観光開発に関する研究 : タイの農村地域を事例として | |
標題(洋) | A Study of Stakeholder Collaboration and Locally-based Tourism Development : A Case Study of the Rural Communities in Thailand | |
報告番号 | 120705 | |
報告番号 | 甲20705 | |
学位授与日 | 2005.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6125号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究の目的は、以下の3点である。(1)地域型観光(locally-based tourism :LBT)の発展のための利害関係者間の協働のプロセスとメカニズムの検証、(2) 地域型観光開発における地域参加の側面での利害関係者間の協働の効果の測定、(3)地域型観光における地域参加がコミュニティ開発に与える効果の測定、である。 第一章では、地域型観光開発のための利害関係者間の協働に関する本研究の重要性、必要性について説明し、研究の課題を示した。 第二章では、(1)観光システム、(2)観光計画論の進展、(3)発展途上国における地域基盤型開発の試行及び需要、(4)地域型観光開発における利害関係者間の協働、といったテーマの関連文献のレビューを行った。この文献調査によって、以下に示す理論的な空白部の存在が明らかになった。 発展途上国においてコミュニティ開発のツールとして地域基盤型開発のコンセプトを実践することの限界 発展途上国における地域基盤型開発における利害関係者間の協働の性質や展開についての研究の不足 発展途上国におけるコミュニティ開発のツールとしての地域型観光の評価の枠組の欠如 以上の知見は、第一章で示した研究課題に対する解答の追及を正当化する。 第三章では、本研究に最適な研究手法を導出した。研究戦略の選択肢を検証し、最適な研究戦略を見出したが、それは、「何故、如何にして地域型観光開発のための利害関係者間の協働が生じたのか、また発展してきたのか」という設問に対して、協働のプロセスとメカニズムに焦点を当て、解答を試みる戦略である。研究のアプローチとして実証的研究を、研究の手法として事例研究を選択した。そして、事例選択のための明確な基準を決定し、田園地域での地域観光型開発の事例として、タイのナコンシ・タマラート県の3事例を抽出した。 第四章では、タイにおける地域型観光開発に関連する事項について、第一に、タイにおける観光開発の歴史、第二に地域型観光開発に関連する政策、組織、計画制度、を検証した。観光開発から地域コミュニティが利益を得る機会は、1997年のナショナル・エコツーリズム政策の策定以降に増加してきたことが明らかになる。当初の目標は、観光開発における地域参加の促進、観光資源の保全であった。しかし、この政策は有効には機能しなかった。その障害となったのは、第一に、2002年に公的観光機関に適用された組織再編プログラム以降に顕著な組織間の分裂状況、第二に、新設された公的観光機関における人材不足、第三に関連組織(公共機関、民間企業、NGO、市民組織等)間の協調や協働の枠組の欠如、第四に地域型観光開発の政策決定プロセスにおけるトップダウン的性質、であった。ここで、タイにおける地域型観光開発における利害関係者間の協働に関する研究の必要性が確認される。 第五章から第八章において、地域型観光開発における協働の形態がそれぞれ異なる3つの事例を、以下の3つの側面から検証した。先ず第一に、地域型観光開発における利害関係者間の協働のプロセスとメカニズム、第二に政策決定と観光利益共有の観点からの地域参加レベルでの利害関係者間の協働の効果、第三に地域型観光開発における利害関係者間の協働のコミュニティ開発に対する効果に対する地域の認識、である。 キリウォン地区(第五章)では、NGOの支援を受けて、地域型観光と観光開発の自己規制に責任を持つ中核組織が地域住民によって設立された。観光客も継続的に増加した。地域型観光開発を通じて、広範かつ集中的な利害関係者間の協働が見られた。利害関係者間の高次の協働のメカニズムは、コミュニティに根ざした組織、自己規制、能力開発を含んでいた。地域型観光の展開のプロセスにおいて、地域住民の高次で広範な参加は、課題設定、計画策定、実行の三段階のそれぞれで見られた。観光活動における高次な地域参加や社会経済的利益の地域住民間の広範な分配も明らかになった。コミュニティ開発における地域型観光の地域の認識はポジティヴなものであった。地域住民は、観光事業に従事している、していないに関わらず地域型観光が経済的、環境的に生活の質の向上や、観光開発における能力開発に寄与すると感じていた。 チャンクラン地区(第六章)では、地域ビジネス企業グループによって中核組織が設立された。そして、観光客の急速な増加が見られた。県レベルの政府やビジネスセクターに属する幅広い外部団体との高次かつ集中的な協働がこの成功を導いた。しかし、キリウォン地区と比較すると、地域型観光開発における地域参加のレベルは低く、観光がコミュニティ開発に与えるポジティブな価値を認める人の割合も相対的に低い。地域型観光に対してポジティブな価値を認識している人の殆どは観光事業に従事している人であり、高収入、高学歴のグループであった。トップダウン型の政策の結果として、観光の初動期において、キーとなる利害関係者の参加が充分ではなかったことがこうした結果を生んだ。結局、地域型観光は、地域のコミュニティの特定の団体の関心と需要に応えたことになった。 クランチン地区(第七章)では、クランチンの地方政府(SAO)が地域型観光開発に責任を有する中核団体であった。キリウォン地区、チャンクラン地区に比べて、参加組織数や協働の度合いは低かった。結果として、観光客は急速に減少し、地域型観光開発における地域参加も低レベルなものとなった。主な障害は、クランチン地方政府において、観光開発に関する技術的、人数的の両面で、人材が不足していたことであった。 第八章では、地域型観光開発、及びコミュニティ開発に向けた地域型観光開発に対する地域の認知における利害関係者間の協働のプロセスと地域参加に対する効果とのクロス分析を行った。結果として、第一章で設定した研究課題に対する以下のような解答が得られた。 第一に、利害関係者間の協働のプロセスは、課題設定、計画策定、実行の三段階に分けられるが、それぞれの段階において、以下のような補足的な段階で構成されている。 課題設定段階 ・観光開発に関する相互関係についての地域住民の認知 ・観光開発における初期合意形成のための観光開発の利害関係者の同定と合法的取り込み ・観光目標を追及する中核組織の設立 ・観光開発のネットワークの拡大 計画策定段階 ・目標、手法の確立、ワーキングチームの設置 ・情報収集 ・利害関係者の関心の同定 ・合意形成 実行段階 ・関係の制度化 ・実行 ・結果のモニタリング 第二に、利域参加レベルでの利害関係者間の協働の効果を分析した。地域型観光開発において、利害関係者間の協働は地域コミュニティの参加の度合いを増加させることが明らかになった。利害関係者間の高次の協働は、政策決定プロセス及び観光事業からの利益共有における高次の地域参加に貢献する。 第三に、協働に影響を与える要因が、中核組織、自己規制、能力開発、仲介者の4つに同定された。 第四に、地域型観光開発における地域参加の度合いと、コミュニティ開発に対する地域型観光開発の貢献度合いとの関係が明らかになった。コミュニティ開発に対する地域型観光開発の貢献度合いは、地域型観光開発における地域参加に左右される。参加が高次にあり、地域の意見が聞き入れられる場合、地域住民は地域型観光をポジティヴに捉え、サポートする傾向にある。 第九章では、得られた知見に基いて、理論的、実際的な示唆を整理した。理論的には、地域型観光開発における利害関係者間の協働は、以下のような示唆を与えるであろう。 地域型観光開発における利害関係者間の協働は、初動期においては観光開発と地域人口との相互関係性への理解を必要とする。 地域型観光に対する初期の合意形成においてキーとなる利害関係者の同定と取り込みは、長期的には、衝突を減少させる。 中核組織の関心は、利害関係者間の協働に参加する組織のタイプや地域型観光開発の方向性に影響を与える。 中核組織は参加諸組織との良好な関係を維持する必要がある。 地域コミュニティからの代表者が計画策定プロセスにおける地域参加のレベルを引き上げることに貢献する場合がある 情報収集段階においてキーとなる利害関係者の同定と取り込みはマスタープランの総合性を増加させる。 関心の同定、地域型観光開発の合意形成のための主要な利害関係者の同定と取り込みは、長期的には、衝突を減少させる。 第三の組織が、関心の調整や地域型観光開発に対する合意形成に関して有効に働くことがある。 効果的な実行のためには、協働関係の公定化が必要である。 実行者は、効果的な実行のための資源と権威を必要とする。 制度的な脆弱さと地域型観光の十分な発展のための利害関係者間の協働の必要性は、タイにおける地域型観光開発をサポートする新しい制度の提案を促す。つまり、地域型観光の進展のためのコミュニティの努力を援助するパートナーシップの制度化であり、具体的には国及び県レベルでの地域型観光の促進委員会の設立である。委員会はタイ政府観光庁、観光開発局、観光関連の政府系組織、地域コミュニティ、学者、NGO,観光産業などからの代表者で組織されるべきである。委員会の責務は、地域型観光のマネジメントのための能力開発プログラムの提供も含めて、コミュニティに根ざした組織を援助することである。 | |
審査要旨 | 本論文はタイの農村地域を事例として、筆者のいう地域型観光の発展のために利害関係者の協働のあり方とそのメカニズムを明らかにし、地域参加がコミュニティ開発に与える効果を明らかにすることを目的としている。ここでいう「地域型観光」とは、持続可能な開発の一形態として、地域コミュニティの参加のもとに開発される小規模な観光事業のことで、観光によって得られる収益の多くも地域コミュニティにおいて分配されるものである。 論文は9つの章から成っている。 第1章は、序説であり、本研究の意義および研究上の課題を明らかにしている。同時に研究対象国であるタイにおける観光開発の状況を述べ、対象国としてタイを採り上げることの妥当性を明らかにしている。 第2章は、文献研究であり、既往研究を通して地域型観光の定義及び地域型観光における当事者間の協働の重要性が明確に提示されている。さらに、従来の研究においては、途上国における地域型観光に着目した研究が少なく、そこでのまちづくりとの関連に言及したものはほぼ皆無であることが明らかにされ、本研究の独自性が確認されている。 第3章は、研究の方法論と調査対象地区の選択経緯を述べた章である。南タイの3地区の事例を採り上げることの妥当性が論じられている。同時に、資料収集の手法が明らかにされている。 第4章は、タイにおける地域型観光のあり方一般とその歴史的経過が明らかにされている。他方、地域型観光をめぐる各種組織の機能とその変遷も示されている。観光の重要性は1970年代より国家経済社会開発計画等において明記されているものの、各主体間の協働のあり方に関する関心の欠如が示されている。 第5章から始まる3つの章は、南タイの3つのケーススタディに対応している。 これらのケーススタディの成果を受けた第8章では、地域型観光及びコミュニティ開発に向けた利害関係者間の協働のプロセスと地域参加の効果とのクロス分析がなされている。その結果、第一に、利害関係者間の協働のプロセスは課題設定、計画策定、計画実施のそれぞれの段階において、プロジェクトの認知度の向上や中核組織の設立、合意形成の手法、モニタリングの手法等に関して課題があることが明らかにされている。 また、第二に、地域コミュニティの計画参加に関して、課題設定、計画策定、計画実施の各段階における参加のあり方の差異とそれがもたらす効果の違いについて明らかにされている。 第三に、協働に影響を与える要因として、中核組織のあり方、自己規制の文化的要因、能力開発の方法、仲介者の有無の4点が抽出された。 第四に、地域型観光開発における地域参加の度合いと、コミュニティ開発における地域型観光の貢献度合いとの間に明確な正のそ卯間関係があることを明らかにしている。 以上の議論を受けて結論と提言を述べる第9章では、合計10点にのぼる理論的発見と実際的な提言とを行っている。このうち主要なものとして、地域型観光開発における利害関係者間の協働は、初動期においては観光開発と地域人口との相互関係性への理解を必要とすること、地域型観光に関する初期の合意形成にあたっては、主要な利害関係者の同定とその取り込みが最も重要であること、地域コミュニティあらの計画策定プロセスへの参加は地域参加一般のレベルを引き上げる効果を有する場合があること、協働関係の公定化が計画の効果的な実効には不可欠であることなどがあげられる。 以上の調査結果の総括によって、本研究は開発途上国の農村地域における地域型観光の望ましいあり方とそのまちづくりへの貢献の可能性を実証的に示すことに成功していると共に、今後の地域型観光開発に対する実際的かつ有効な提言を数多く行っている点で非常に有用であるといえる。 よって本論文は博士(工学)の学位申請論文として合格と認められる。 | |
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