学位論文要旨



No 120712
著者(漢字) 曹,俊杰
著者(英字)
著者(カナ) ソウ,シュンケツ
標題(和) PZT積層膜を用いた RF MEMS スイッチの研究 : 高信号隔離特性および低電圧駆動設計
標題(洋) Study of RF MEMS Switches Using PZT Thin Films : For High Isolation and Low Voltage Actuation
報告番号 120712
報告番号 甲20712
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6132号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 助教授 伊藤,寿浩
 東京大学 助教授 年吉,洋
 東京大学 教授 下山,勲
 東京大学 助教授 森田,剛
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,「Study of RF MEMS Switches Using PZT Thin Films For High Isolation and Low Voltage Actuation」(和訳:PZT積層膜を用いたRF MEMSスイッチの研究(高信号隔離特性および低電圧駆動設計)に関する研究)と題し,英文で書かれている.

高周波(RF)回路において、MEMSスイッチはPINダイオードスイッチやFETトランジスタースイッチなどの半導体スイッチに比べて低い挿入損失、高い信号隔離特性、広い周波数帯で使用可能、という優れた特徴を有している。本論文はこのRF MEMSスイッチに、誘電、圧電特性に優れたPZT積層膜を用いることによる挿入損失、信号隔離特性、および低電圧駆動特性の向上に関して述べたもので,全7章より構成される。

第1章は「Introduction」(序論)である。本章では現在の半導体スイッチにおける問題点と,将来有望なRF MEMSスイッチの研究開発動向についてまとめており,本論文の背景と目的を明確にしている。

第2章は,「Design of Electrostatically Actuated MEMS Switches」(静電で駆動されるスイッチの設計)と題している。本章では始めにPZT膜の成膜について、Sol-Gel方とHybrid法について検討し、成膜したPZT膜の誘電特性がスイッチ応用に十分なものであることを実証した。続いて、PZT/HfO2積層膜を用いた容量性接触方式のシャント抵抗型MEMSスイッチの設計し、このスイッチの挿入損失、隔離特性および駆動電圧の理論解析と数値計算を行った。

第3章は,「Fabrications and Measurement」(製造と測定)と題している。前章で提案したデザインを元にPZT/HfO2積層膜を用いたスイッチをMEMS微細加工技術によって試作し、その特性を評価した。その結果、試作したスイッチが世界最高レベルの低挿入損失、高信号隔離特性を実現していることを実証した。さらにスイッチに用いたPZT/HfO2積層膜の信頼性評価にも言及し、従来用いられたSi3N4膜に比べて圧倒的に高い信頼性を有することを実証した。

第4章は,「Design of Low Voltage Actuated Shunt MEMS Switches」(低電圧で駆動されるスイッチの設計)と題している。ここでは、RF MEMSスイッチの駆動電圧を低減可能なデバイスとして、容量性接触方式のシャント抵抗型MEMSスイッチとPZTカンチレバーを集積したスイッチを提案した。理論解析と数値計算の双方によって、本章でデザインしたスイッチがRF周波数18GHz以下で高隔離性能を示すことを実証した。

第5章は,「Fabrications and Measurement」(製造と測定)と題している。第4章でデザインしたスイッチをMEMS微細加工技術によって試作し、3章で実証した低挿入損失、高信号隔離特性に加えて、低電圧駆動も可能であることを実証した。

第6章は,「Integration of RF MEMS Switches」(RF MEMSスイッチの集積化)と題している。信号線周囲の構造としてグランドシールド構造を提案し、数値解析によって信号の低損失化が可能であることを実証した。そしてこのグランドシールド構造をAuとAuの界面熱結合法を用いることで試作し、信号の低損失化を実験によって証明するとともに、この構造がRF MEMS

スイッチと信号線の集積、およびスイッチ駆動部の保護にも有効であることを実証した。さらに、このような集積化がSingle-Port-Double-Throw(SPDT)MEMSスイッチの実現に有効であることを数値計算によって実証した。

第7章は「Conclusions」(結論)であり,本論文の結論を述べるとともに、RF MEMSスイッチの将来動向に言及している.

以上のように本論文は,RF MEMSスイッチに誘電、圧電特性に優れたPZT積層膜を用いることで、世界最高レベルの低挿入損失、高信号隔離特性、および低電圧駆動性を示すスイッチが実現可能であることを理論解析、数値計算、実験によって提案・実証したものであって、精密工学上寄与するところが多い。

審査要旨 要旨を表示する

本論文の目的は高周波(RF)回路用の高信号隔離と低電圧駆動マイクロマシンスイッチを実現するためのPZT積層膜を用いた手法の開発である。

高周波回路において、伝達する情報が大量化し、信号伝達速度の増加が求められていて、0.1〜100GHz帯周波数の信号が多くの応用で使われている。そのために、高周波数信号のスイッチング特性に優れるスイッチが望まれている。一方で,従来高周波信号のスイッチング素子として用いられてきたPINダイオードスイッチやPETトランジスタースイッチなどの半導体スイッチに比較すると、スイッチオン状態の抵抗が低いため、インサーションロス(挿入損失)が小さい;スイッチオフ状態のリーク信号が小さいため、アイソレーション(隔離特性)が大きい。又は、半導体スイッチより広い周波数帯(40GHz以上)で使用可能という優れた高周波信号スイッチング特性を満たすスイッチとして、市場での期待が高まっている。この要点に着目した研究開発も1979年にIBMより最初で提案されたMEMSスイッチからすでに行われている。しかしながら、実用に耐えるMEMSスイッチは実現されていない。大きいな理由は容量性接触方式のMEMSスイッチより、よく使われているSi3N4接触薄膜は誘電特性が低いため、Kuバンド以下に信号隔離特性が-20dB以上を満たない点にある。又は、長時間にスイッチングオン・オフされた後でチャージされた誘電膜は、可動接点を開離するための操作安定性に大きいな影響がある。また、従来静電方式で信号開閉に使用するアクチュエータ機構によって、大きいな駆動電圧の20V以上が必要、携帯電話、モバイル機器に実用化ができない問題がある。またこれらの研究においては高周波特性をチップ単体で評価しているため、パッケージングを施した場合とシステム回路に整合しておいても優れた高周波特性が得る事ができるかどうかについては不明であるという課題があった。従って,これから広い周波数帯で低挿入損失、高信号隔離特性の両方を兼ね備えていることがある。また、従来の静電スイッチに比較した場合、低駆動電圧と低誘電チャージ性能の実現に、高周波信号用MEMSスイッチの開発が必要である。

そこで本研究では、始めにPZT膜の成膜について、Sol-Gel方とHybrid法について検討し、成膜したPZT膜とPZT/HfO2積層膜の誘電特性と圧電特性が容量性接触方式のMEMSスイッチ応用に十分なものであることを実証した。続いて、PZT/HfO2積層膜を用いた容量性接触方式のシャント抵抗型MEMSスイッチの設計し、このスイッチの挿入損失、隔離特性および駆動電圧の理論解析と数値計算を行った後、MEMS微細加工技術によって試作したスイッチが、低挿入損失だけでなく、今まで発表された結果よりKuバンド以下に最高レベルの高信号隔離特性を実現した。さらに、スイッチに用いたPZT/HfO2積層膜の信頼性評価にも言及し、従来用いられたSi3N4膜に比べて圧倒的に低リーク電流と低チャージ性能を測定した結果によって、低消費電力と高信頼性を有することを実証した。さらに, MEMSスイッチの駆動電圧を低減可能なデバイスとして、容量性接触方式のシャント抵抗型MEMSスイッチとPZTカンチレバーを集積したスイッチを提案した。理論解析と数値計算の双方によって、デザインしたスイッチが10V以下での低駆動電圧、Kuバンドまで優れた接触容量を示した事に関する高隔離性能を実証した。

また,さらに,スイッチのパッケージングという課題を解決することを目的とし、まず低い高周波信号損失と低クロストーク性能を求めるため、低電圧駆動スイッチと低損失信号線を集積して、AuとAuの界面熱結合手法でパッケージングを含めたSingle-Pole-Double-Throw(SPDT)MEMSスイッチを提案した。このような集積化がスイッチデバイスの実現に有効であることを数値計算によって、広い周波数帯の30GHzまで低挿入損失と高信号隔離特性が可能になることを示した。一方、低損失信号線を開発するため、同じAuとAuの界面熱結合法で信号線周囲の構造としてグランドシールド構造を提案し、従来の高周波信号使用的な共平面導波管の損失に比較した場合、50GHzまでより小さな信号損失効果であることを実証した。

以上のように、本研究で得られた工学的知見は極めて大きく、また、工学の発展に寄与するところは多大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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