学位論文要旨



No 120714
著者(漢字) 朴,哉炯
著者(英字)
著者(カナ) パク,ゼヒョン
標題(和) 構造要素および多層塗膜の衝撃損傷シュミレーションに関する研究
標題(洋)
報告番号 120714
報告番号 甲20714
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6134号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 都井,裕
 東京大学 教授 湯原,哲夫
 東京大学 教授 影山,和郎
 東京大学 助教授 鈴木,克幸
 東京大学 助教授 高橋,淳
内容要旨 要旨を表示する

自動車、船舶、海洋構造物、列車、飛行機などの構造物は外力を受けたとき巨視的な変形とともに、不可逆な微視的内部構造変化を伴うことが多い。これらの構造物は初期設計段階から構造安全強度が厳密に検討されており、巨視的な変形による構造安全性が確保されている。また、微視的内部構造変化による構造安全性と構造物の残存寿命評価に対しても様々な研究が行われているが、実際の構造物の設計まで適用される場合は数少ない。最近、微視的内部構造変化による微小空隙の発生、成長とその力学的効果を評価するための有力な方法として連続体損傷力学に基づく研究が行われている。この研究は塑性損傷、疲労損傷やクリープ損傷などの多く問題に適用されているが動的問題に適用された例は比較的少ない。本研究では損傷力学に基づいて、損傷を考慮する動的解析法を利用し、メッシュ依存性を解消するために層分割法によるはりの弾塑性動的損傷解析方法を提案する。また、セラミック材料と塗膜材料の衝撃強度を評価するために、損傷を考慮する動的解析法を提案する。そのため、セラミック材料と塗膜材料において、弾粘塑性損傷構成方程式モデルの適用可能性を確認する。さらに、複雑な材料特性を有する特殊な材料の衝撃耐久性評価において、弾粘塑性損傷構成方程式モデルに基づいた損傷を考慮する動的解析法の有効性を検討する。

損傷力学を考慮した動的解析に関する従来の研究としては、複合材料構造物の衝撃損傷解析分野とスポール損傷解析分野に適用された研究がある。複合材料において損傷力学の適用可能性がTalrejaによる論文で多様に議論された。また、Johnsonらによるファイバー強化複合材料構造物において剛体でない物体による衝撃問題に対して材料モデリングとシミュレーションを実施した研究がある。一方、Williamsら, Iannucciら, Ladevezeらは、複合材料の破断を表現するために、損傷力学を用いた有限要素解析方法を研究している。スポール損傷に関して、SeamanやPerzynaは空げきの発生、成長機構を考慮することによってスポール損傷の発展モデルを提案し、板衝撃の解析を行っている。また、スポール損傷に対する系統的な解析方法を確立し、延性スポール損傷解析への損傷力学の適用の可能性を検討した村上らによる研究がある。

完全塑性体およびひずみ硬化のある塑性体の解析結果では、塑性崩壊荷重と損傷発生時の荷重値に良好な収束性が得られたが、損傷発生時の変位値およびその後の荷重の変動は要素数によって大きな違いが見られた。損傷を考慮した解析を行った場合、損傷の発展に伴う荷重の変動にメッシュの影響が現れる。すなわち、損傷力学による局所的破壊解析法は、損傷の発生から進展、最終破断までを一貫してモデル化できる利点を有するが、解析結果が有限要素サイズに依存する問題点が指摘されている。損傷解析について、メッシュ依存性を解消するために、都井は断面力法により損傷力学に基づく弾塑性損傷解析法を提案した。しかしながら、層分割法による要素寸法に依存しない解析法の研究については報告されていない。そのため、本研究では要素寸法に依存しない層分割法によるはりの弾塑性損傷解析方法を提案し、その方法の有用性を数値計算例を通じて確認した。

層分割法に基づき、はりの弾塑性損傷挙動に対する有限要素解析法の定式化を行う。有限要素として線形チモシェンコはり要素を用いた。連続体損傷力学に基づいてマイクロクラック、マイクロボイドなどの微視的損傷の影響を考慮し、接線剛性法による増分解析法の定式化を行った。簡単な数値例を通じて、定式化の妥当性を確認するとともに、有限要素解のメッシュ依存性およびその解消策について論じた。さらに、層分割法を利用するはりの損傷解析における要素寸法依存性を排除するために、相対塑性回転角により記述された新しい損傷発展式を導入した。提案された層分割法を利用するはりの弾塑性損傷解析方法を動的問題にも適用することができるように拡張した。すなわち、相対塑性回転角により記述された新しい損傷発展式を導入し、動的問題における要素寸法非依存性を確認した。

ガスタービン分野では高温部にセラミックスを用いた高効率ガスタービンの開発研究が進められている。セラミックスは構造部材として使用するためには種々の破損モードに対して安全性を確認する必要があるが,そのひとつとして衝撃破壊がある。特にガスタービンでは高速の燃焼ガス中に各種の微粒子が含まれており、これに対するセラミック部品の耐衝撃強度評価法を確立することがセラミックガスタービンの実用化に向けての重要な課題のひとつである 。本論文では、セラミック円盤の動的損傷シミュレーションに対し、セラミック部品を対象とした弾塑性損傷解析手法の開発した。また、セラミック部品の損傷の発生、進展、破壊までの衝撃破損メカニズムの確認し、衝撃を受けるセラミック部品の強度評価法として損傷を考慮した動的解析法の有用性を確認する。そのため、炭化ケイ素(SiC)の弾塑性変形、破断などを含む力学的材料特性は、連続体損傷力学に基づいて都井らにより導入された弾粘塑性損傷構成方程式モデルにより同定される。また、同定された応力・ひずみ曲線と材料試験結果との比較を通じて、妥当性を確認した。決めた材料定数を用いて鋼球がセラミック円盤に衝突する衝撃実験に対する有限要素解析を行い、計算結果と実験結果を比較することにより、連続体損傷力学モデルによる動的損傷計算法の有用性を検討した。また、数値計算による損傷破壊ボリュームを試験結果と比較し、セラミック部品において動的損傷計算法の有効性を確認した。

塗膜の耐久性の問題、特に外部衝撃による塗膜の耐久性低下による車体外面の腐食進行の問題が重視されている。自動車の走行時に跳ね上げられた石等による衝撃で塗膜が損傷を受ける現象がチッピングであるが、この現象により、局部的に塗膜が破壊され剥離するため塗装外観が著しく損なわれるだけでなく、金属面まで影響が到達する。自動車用塗膜は、通常は電着/中塗/上塗で構成されており、高速度衝突物に対する多層塗膜の耐チッピング性が重要な性能の一つである。良好な耐チッピング性を得るには塗装系のどこかの層で飛び石の衝突エネルギーを吸収、拡散させる必要がある。

本論文では、多層塗膜に関する研究に対し、多層塗膜の各層の弾性変形、塑性変形、ひずみ速度の影響、破断などを含む力学的材料特性を厳密に考慮できる弾粘塑性損傷構成式モデル提案した。さらに、実際の塗膜材料に対する静的・動的引張り下の材料試験結果からこの弾粘塑性損傷構成式モデルを同定し、正確な弾粘塑性損傷材料定数を決定した。さらに、同定した弾粘塑性損傷構成式モデルをインプリメントした陽的有限要素法プログラムにより、多層塗膜の耐チッピング性評価および設計を支援する計算ツール開発した。

開発した計算ツールを利用し、多層塗膜モデルの引張り破壊実験において数値計算を行う。多層塗膜モデルの引張り破壊実験モデルに対して多層塗膜の各層の弾性変形、塑性変形、ひずみ速度の影響(粘塑性)、破断などを含む力学的材料特性は連続体損傷力学に基づいて弾粘塑性損傷構成方程式モデルにより決めた。このモデルは、損傷発展のひずみ速度依存性を考慮するために新たに導入した3つの材料定数を含め、総計14個の材料定数を含んでいる。さらに、多層塗膜モデルの引張り破壊実験において数値計算結果と対応する実験結果と比較検討した。

開発した計算ツールを利用し、横衝撃を受ける多層塗膜の動的損傷挙動に対する有限要素解析を行った。そのため、多層塗膜モデルの落下実験モデルに対して多層塗膜の各層の弾性変形、塑性変形、ひずみ速度の影響(粘塑性)、破断などを含む力学的材料特性を考慮して、塗膜各層の静的、動的引張り試験結果に基づいて総計14個の材料定数を決めた。多層塗膜モデルの落下実験において数値計算結果と対応する実験結果と比較検討することにより、本解析手法の有用性を論じた。

本研究で提案した連続体損傷力学に基づいた動的損傷力学モデルにより、セラミックなどの簡単な材料特性を有する材料の挙動だけでなく塗膜などの複雑な材料特性を有する特殊な材料の挙動を厳密に表現することに成功した。また、より多くの実験結果との比較による検証を蓄積することにより、特殊な材料の設計および評価のための計算ツールとして有効に活用されることが期待される。

複雑な材料特性を有する特殊な材料の設計に有用な、高精度かつ汎用性の高い計算ツールは未だ存在しない現状であるため、損傷を考慮した動的有限要素法による本計算手法の開発はこの分野おける初めての試みとして重要な意義を持っている。

本研究のはりの弾塑性損傷解析と横衝撃損傷解析に対しては鉄材料が使われており、セラミック円盤の動的損傷シミュレーションに対しては炭化ケイ素(SiC) 材料が使われており、多層塗膜に関する研究に対しては多様な塗膜材料が使われている。損傷を考慮した動的有限要素法による本計算手法を利用し、鉄などの延性材料だけでなくセラミックスなどの非常に脆い材料と自動車用多層塗膜などの高分子材料に対しても衝撃強度評価法としての有用性を確認した。また、塗膜などの複雑な材料挙動を有する特殊な材料を用いた構造物の耐久性評価において、有効な利用が期待される。

審査要旨 要旨を表示する

自動車、船舶、海洋構造物、列車、飛行機などの構造物は外力を受けたとき巨視的な変形とともに、非可逆的な微視的内部構造変化を伴うことが多い。近年、微視的内部構造変化による微小空隙の発生、成長とその力学的効果を評価するための有力な方法として連続体損傷力学に基づく研究が注目されている。損傷力学は塑性損傷、疲労損傷あるいはクリープ損傷などの多く問題に適用されているが、動的問題に適用された例は比較的少ない。本研究ではいくつかの構造要素および多層塗膜に対する動的損傷シミュレーション手法を提案し、数値計算によりその有用性を実証することを目的としている。すなわち、メッシュ依存性を解消した層分割法によるはりの動的弾塑性損傷解析法を提案している。続いて、セラミック材料と塗膜材料の衝撃強度を評価するための動的弾粘塑性損傷解析法を開発している。さらに、これらの解析法による計算結果と実験結果などとの比較により、提案した動的損傷解析法の有効性を実証している。

本研究ではまず層分割法に基づき、はりの弾塑性損傷挙動に対する有限要素解析法の定式化を行った。有限要素として線形チモシェンコはり要素を用いている。損傷力学に基づいてマイクロクラック、マイクロボイドなどの微視的損傷の影響を考慮し、接線剛性法による増分解析法の定式化を行った。層分割法を利用した、はりの弾塑性損傷解析における要素寸法依存性を排除するために、相対塑性回転角により記述された新しい損傷発展方程式を導入した。静的問題における有用性を確認した後、提案された弾塑性損傷解析方法を動的問題に適用することができるように拡張した。数値計算例により、提案アルゴリズムの動的問題における要素寸法非依存性を確認した。

ガスタービン分野では高温部にセラミックスを用いた高効率ガスタービンの開発研究が進められている。セラミックスを構造部材として使用するためには、種々の破損モードに対して安全性を確認する必要があるが、その一つが衝撃破壊である。特にガスタービンでは高速の燃焼ガス中に各種の微粒子が含まれており、これらの微粒子に対するセラミック部品の耐衝撃強度評価法を確立することがセラミックガスタービンの実用化に向けての重要な課題の一つである 。本論文では、セラミック円盤の動的損傷シミュレーションに対し、損傷力学に基づく弾塑性損傷解析手法を開発した。鋼球がセラミック円盤に衝突する衝撃実験に対する有限要素解析を行い、計算結果と実験結果を比較することにより、損傷力学モデルによる動的損傷解析法の有用性を検討した。また、数値計算による損傷破壊ボリュームが試験結果と良好に一致することを確認し、セラミック部品に対する動的損傷解析法の有効性を示した。

塗膜の耐久性の問題、特に外部衝撃による塗膜の耐久性低下による車体外面の腐食進行の問題が重要視されている。自動車の走行時に跳ね上げられた石等による衝撃により塗膜が損傷を受ける現象がチッピングであるが、この現象によって局部的に塗膜が破壊され剥離するため、塗装外観が著しく損なわれるだけでなく、金属面まで影響が到達する。自動車用塗膜は、通常は電着/中塗/上塗で構成されており、高速度衝突物に対する多層塗膜の耐チッピング性が重要な性能の一つである。良好な耐チッピング性を得るには塗装系のいずれかの層で飛び石の衝突エネルギーを吸収、拡散させる必要がある。本論文では、多層塗膜の各層の弾性変形、塑性変形、ひずみ速度の影響、破断などを含む力学的材料特性を厳密に考慮できる弾粘塑性損傷構成式モデル提案した。実際の塗膜材料に対する静的・動的引張り下の材料試験結果からこの弾粘塑性損傷構成式モデルを同定し、精密な弾粘塑性損傷材料定数を決定した。続いて、同定した弾粘塑性損傷構成式モデルをインプリメントした陽的有限要素法プログラムにより、多層塗膜の耐チッピング性評価および設計を支援する計算ツールを開発した。さらに、多層塗膜モデルの引張り破壊実験および多層塗膜モデルの落下実験に対し、数値計算結果と対応する実験結果を比較検討することにより、本解析手法の有用性を論じた。

以上を要するに、本論文は連続体損傷力学に基づいた動的損傷シミュレーション手法を提案し、他の解析解および実験結果との比較により、その設計支援ツールとしての有用性を実証しており、高い工学的価値を有すると判断される。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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