学位論文要旨



No 120721
著者(漢字) ユリアルト,ブリアン
著者(英字)
著者(カナ) ユリアルト,ブリアン
標題(和) Sn、W およびV 添加メソポーラス MCM-41 薄膜における表面光電圧法を動作原理とした室温 NO2ガスセンサーに関する研究
標題(洋) Studies of Room Temperature NO2 Gas Sensor Based on Sn-, W-, and V-Modified Mesoporous MCM-41 Thin Films Employing Surface Photovoltage Technique
報告番号 120721
報告番号 甲20721
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6141号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 勝村,庸介
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 教授 長崎,晋也
 東京大学 助教授 工藤,久明
 東北大学 教授 浅井,圭介
 産業技術総合研究所   周,豪慎
内容要旨 要旨を表示する

近年、多くの国で大気環境の保護のために、窒素酸化物の測定と規制を進めている。ガソリンやディーゼル機関、あるいは石炭や石油の燃焼炉から排出される窒素酸化物は、ガス状汚染物質で最も重大な汚染物質の一つとされている。NO2はppbレベルでさえ汚染濃度であり、特に子供や老人には呼吸困難をも引き起こす有害物質である。また、酸性雨を発生させるとともにオゾン層を破壊する。このように窒素酸化物の放出はさまざまな環境問題を引き起こし、光化学スモッグ、酸性沈着、および硝酸塩微粒子などにより、著しい被害が出ている。従って、NO2ガスによる大気汚染は重大な問題であることからNO2ガスの監視技術の開発が急務となっている。

メソポーラスMCM-41は高い比表面積 (500-1000 m2g-1)と高い細孔性を有する材料で、近年、センサー、電気化学機器、光学材料としての利用に関心が集っている。メソポーラス材料の大きな表面積は高いガス検出効率を示し、センサーとしての使用が期待できる。一方、半導体材料は気体分子と半導体材料表面の間の電子移動の結果、表面で吸着されたガスを表面伝導率の変化で検出できる単相セラミックの材料でもある。W、VやSnなどの遷移金属酸化物半導体上の反応化学種と検出対象である気体の分子との相互作用過程を利用し、センサー能力を飛躍的に増大させる事ができる。これは、メソポーラスシリカへの遷移金属添加がセンサー性能を向上する潜在的な手法であることを示す。

本研究では、MCM-41膜の大きい表面積を利用して、Sn、W、およびVの遷移金属を組み込むことにより、非常に高感度MCM-41 SPV(常温常圧)ガスセンサを開発した。論文ではSn、W、Vで改質したメソポーラスMCM-41薄膜の合成法を述べるとともに、そのNO2ガスセンサとしての性能を評価している。

遷移金属を添加したメソ孔シリカフィルムは、ソレノイドゲル法とスピンコーティングを使用して作製された。組成が0.5から3%の遷移金属含有の六角形薄膜状メソポーラスシリカのキャラクタリゼーションをXRD、N2吸着脱離、およびTEMを用いて行った。薄膜の比表面積は、遷移金属添加により242から 661 m2g-1の範囲まで減少する。薄膜は図1に示すような金属絶縁体半導体(MIS) 構造に成形し、SPV NO2ガスセンサとして用いた。 センサー感度はIph-Vbias曲線の移動から決定することができる。Iph-Vbias移動は、次式で定義できる。ここでは表面電位をfs, = 0とした。

ΔQ0,、ΔCi、 CiNO2、およびΔεIは、それぞれ電荷密度、キャパシタンスの違い、NO2ガスの中のキャパシタンス、および誘電体定数の違いを示す。作製したすべての試料は、室温で良いNO2検出特性を示した。

図2はメソポーラスMCM-41に加えた遷移金属の濃度に対する感度S(%)の変化を示す。遷移金属を添加した全てのメソポーラスMCM-41は同じような挙動を示す。添加濃度としては0.5%が最適であった。Sn、W、およびV添加型メソポーラスMCM-41薄膜はNO2 350ppbのような低濃度でも高感度で検出できる。NO2検出のメカニズムは表面積(表面積は誘電率の変化に寄与する)と添加遷移金属(タングステンとバナジウム、これらは半導体表面電荷の変化に寄与する)の両方の結果によると考えられる。

図3に感度特性を示す。図からNO2濃度を350 - 1500 ppbと増加させたとき、

遷移金属添加メソ孔MCM-41のセンサー感度が増大することは明白である。NO2 1500ppbより高い濃度での特性は測定していないものの、図3の曲線から考えて、さらに高濃度で測定可能と予想できる。一方、NO2ガスの最も低い検出濃度は100ppbあるいは、それ以下であろう。添加遷移金属の中では、タングステンが最も高い感度を示した。酸化スズと酸化バナジウムと比較しタングステン酸化物の化学反応効率がより高いためと説明できる。

図 1: MIS構造センサーデバイスとそのエネルギー図

図 2: NO2 気体1ppmにおける遷移金属メソポラスMCM-41の感度

審査要旨 要旨を表示する

本研究では、MCM-41膜の大きい表面積を利用して、Sn、W、およびVの遷移金属を組み込むことにより、非常に高感度なMCM-41 製、常温常圧使用のNO2ガスセンサーを開発した。論文ではSn、W、Vで改質したメソポーラスMCM-41薄膜の合成法を述べるとともに、製作したガスセンサーの性能を評価している。

論文は五章からなり、第一章は研究の背景である。近年、排出される窒素酸化物はガス状汚染物質で最も重大な汚染物質の一つとされ、その放出はさまざまな環境問題を引き起こし、光化学スモッグ、酸性沈着、および硝酸塩微粒子などにより、著しい被害が出ているためにNO2ガスの監視技術は必須であり、高感度NO2ガスセンサーの開発の必要性を述べている。

第二章ではメソポーラスMCM-41のNO2ガスセンサーへの利用を述べている。この材料は高い比表面積 (500-1000 m2g-1)と高い細孔性を有し、これが高いガス検出効率を示せば、センサーとして期待できる。さらに、W、VやSnなどの遷移金属酸化物と検出対象である気体の分子との相互作用過程を利用し、センサー能力を飛躍的に増大させることができ、メソポーラスシリカへの遷移金属添加がセンサー性能を向上させる潜在的な手法であることを述べている。

第三章では、遷移金属を添加したメソ孔シリカフィルムの作製法について説明している。ソレノイドゲル法とスピンコーティングを使用して薄膜化し、焼成して作製された。組成が0.5から3%の遷移金属含有の六角形薄膜状メソポーラスシリカのキャラクタリゼーションをXRD、N2吸着脱離、TEMおよびXPSを用いて行った。薄膜の比表面積や細孔分布の遷移金属添加濃度依存性を測定するとともに、TEM観察を行った。添加により比表面積が減少すること、高い含有量では細孔構造が大きく乱れることを確認した。さらにXPSから表面の遷移金属含有率も評価している。

第四章では、開発したセンサーの特性評価に表面光電圧法を手法として用いることから、この評価法について整理している。金属絶縁体半導体(MIS) 構造に着目し、材料表面と吸着分子間の電子移動によるIph-Vbias特性変化を検討し、吸着分子による電荷密度、キャパシタンス変化、および誘電体定数変化の関係を理論的な観点からまとめている。

第五章で作成したセンサーの特性を測定評価している。Sn、W、およびV添加型メソポーラスMCM-41薄膜はNO2 350ppbのような低濃度でも高感度で検出できる。すべての薄膜は、室温で良いNO2検出特性を示した。遷移金属の濃度に対する感度変化は全てのメソポーラスMCM-41で金属の種類によらず、添加濃度としては0.5%が最適であった。NO2濃度を350 - 1500 ppbの濃度範囲で測定を行った結果、1500ppbより高濃度でも測定可能と判断できる。一方、最も低い検出可能濃度は100ppbあるいは、それ以下と推定できた。さらに、N2、NO、ベンゼン、トルエン、アセトン等の比較測定も行い、NO2に対する著しい選択性を明らかにした。添加遷移金属の中では、タングステンが最も高い感度を示し、その反応効率が最も高いためと説明している。

第六章は結論で、本研究で総重量5kg程度のセンサーヘッドを含む測定システムを構築でき、当初の目標を達成した。これらの成果をまとめるとともに今後の展開について述べている。

以上要すれば、本研究は新材料を駆使して高感度NO2ガスセンサーを開発することに成功した。この成果は環境モニター技術開発分野での成果と位置づけられ、よって本論文は博士 (工学) の学位請求論文として合格と認められる。

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