学位論文要旨



No 120725
著者(漢字) 朴,鍾元
著者(英字)
著者(カナ) バク,ジョンワン
標題(和) 機能性リン脂質ポリマーを用いたバイオインタフェースのデザイン及び抑制による医学診断への応用
標題(洋) INTERDISCIPLINARY APPLICATIONS FOR MEDICAL DIAGNOSTICS WITH THE DESIGN AND THE CONTROL OF BIOINTERFACE USING FUNCTIONAL 2-METHACRYLOYLOXYETHYL PHOSPHORYLCHOLINE POLYMERS
報告番号 120725
報告番号 甲20725
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6145号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,一彦
 東京大学 教授 片岡,一則
 東京大学 助教授 吉田,亮
 東京大学 講師 高井,まどか
 東京大学 講師 山崎,裕一
内容要旨 要旨を表示する

水溶性人工リン脂質ポリマーである、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC) ユニットを含むPoly(MPC-co-n-butyl methacrylate) (PMB)を用いて水晶振動子式(QCM)免疫センサーでのブロキング効果と安定化効果の機能性について検討を行った。三つの種類の抗体が固定化されたQCM免疫センサーに対して八個の市販試薬との比較を行った結果、PMBの方が温度促進、長時間保存、検量線での実験結果によって固定化された抗体の免疫力を維持できた事が明らかになった。また、人間血清中でのC反応性蛋白質(CRP)の検出実験では、他の試薬と比べPMBを修飾したQCM免疫センサーは血清中での他の蛋白質から起こるセンサー表面での非得意的結合の高効率的に抑制が可能になった事が明らかになった。

金表面に抗体を安定に固定化し、医学診断への応用を検討するため、従来のラジカル重合法によりpoly(MPC-co-n-butyl methacrylate-co-p-nitrophenyloxycarbonyl) (PMBN)を合成した。水溶性及び両親媒性であるPMBNの水溶液中での会合体生成特性について蛍光分子を用いて検討した後、PMBNの活性エステルに選択的にチオル分子を結合させた。表面重量変化を検出できるQCMを用いて金表面での吸着挙動の検討を行った。その後、多様な表面分析手法を用いてホスホリルコリン基の配列性を検討した結果、21.5%チオル化PMBNを用いて金表面修飾を行った場合が一番良いと判明された。そのPMBNで修飾された金表面を用いて蛋白質による非特異吸着実験や固定化抗体の安定性を調べた結果、金表面にホスホリルコリン基の良い配列によってMPC特性を発現できたことが明らかになった。

PMBNを用いて溶媒蒸発法によりMPCポリマーナノ粒子(MPC-PNP)を調整した。粒子表面についた分子デザインによってMPCユニットのホスホリルコリン基は高密度で表面に配列されている事が観察できた。牛血清アルブミン(BSA)を用いて非特異吸着実験を行った結果、ポリスチレン粒子との比較によりMPC-PNPの場合、ホスホリルコリン基による蛋白質吸着が抑制できた事が明らかになった。粒子の表面上にある活性エステル基を用いて坑CRP抗体を結合させ免疫凝集反応方法によって血清中でのCRP検出可能性を検討した。坑CRP抗体結合ポリスチレン粒子と比べ、結合抗体の安定性や非特異吸着などの問題から自由な粒子が出来た事を示し、従来診断試薬であるポリスチレン粒子を代用出来る可能性を明らかにした。

機能性検討を行ったMPC-PNPを用いてQCM免疫センサーでのシグナル増幅による分析感度向上について検討を行った。QCM免疫センサーを用いてタゲット分子であるビスフェノルーA(BPA)との抗原−抗体反応後、坑BPA抗体結合MPC-PNPを添加し、第2段目抗原−抗体反応を行った。センサー表面上での粒子による大きい重量変化によって、BPAに対する分析感度は第1段目反応と比べ、役8倍増幅出来た事が明らかになった。これらの研究結果により、MPCポリマーを用いて医学診断で用いられる材料やデバイスの表面をデザイン及び抑制によって高感度 高信頼性医学診断が可能になると期待出来る。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、最先端のバイオ技術を応用して医療診断を中心とした分野で社会に貢献できるバイオマテリアルと界面修飾法の創製を目的としている。リン脂質ポリマーである2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC) ユニットを含むポリマー(MPCポリマー)利用してバイオインタフェースをデザインし、疾病の診断や治療のデバイスを開発することを目指している。具体的にはMPCポリマー水溶液による会合体を生成し、それをマテリアル界面の修飾に応用している。さらにMPCポリマーにエステル官能基を導入した機能性MPCポリマーを合成し、界面改質やポリマーナノ粒子製作などを行い、医療分野での医学診断の可能性について検討している。その結果については全6章で展開している。

第1章は本研究の背景と意義、また免疫測定に関する研究例、そして医学診断での免疫測定材用及びデバイスの界面改質の必要性について記している。

第2章では水溶性人工リン脂質ポリマーである、MPCユニットを含むPoly(MPC-co-n-butyl methacrylate) (PMB)を用いて水晶振動子式(QCM)免疫センサーでのブロキング効果と安定化効果の機能性について検討している。三つの種類の抗体が固定化されたQCM免疫センサーに対して八個の市販試薬との比較を行った結果、PMBの方が温度促進、長時間保存、検量線での実験結果によって固定化された抗体の免疫力を維持できた事を明らかにした。また、ヒト血清中でのC反応性タンパク質(CRP)の検出実験では、他の試薬と比べPMBを修飾したQCM免疫センサーは血清中での他のタンパク質から起こるセンサー表面での非得意的結合の高効率的に抑制が可能であることを示している。

第3章では金表面に抗体を安定に固定化し、医学診断への応用を検討するため、従来のラジカル重合法によりPMB にタンパク質の固定化を温和な条件で可能にする活性エステルユニットを導入し、poly(MPC-co-n-butyl methacrylate-co-p-nitrophenyloxycarbonyl) (PMBN)を合成している。水溶性及び両親媒性であるPMBNの水溶液中での会合体生成特性について蛍光分子を用いて検討した後、PMBNの活性エステルに選択的にチオール分子を結合させた。表面重量変化を検出できるQCMを用いて金表面での吸着挙動の検討している。その後、多様な表面分析手法を用いてホスホリルコリン基の配列性を検討した結果、21.5%チオール化PMBNを用いて金表面修飾を行った場合が最適であることを示している。そのPMBNで修飾された金表面を用いてタンパク質の吸着抑制効果や固定化抗体の安定性を調べた結果、金表面にホスホリルコリン基を高度に配列させることによってMPCユニットのタンパク質吸着の低減と安定性の向上が達成できることを認めている。

第4章ではPMBNを用いて溶媒蒸発法によりMPCポリマーナノ粒子(MPC-PNP)を調製している。粒子表面にはMPCユニットのホスホリルコリン基は高密度で表面に配列されている事を表面解析法を駆使して明らかにしている。牛血清アルブミン(BSA)を用いて非特異吸着実験を行った結果、ポリスチレン粒子との比較によりMPC-PNPの場合、ホスホリルコリン基によるタンパク質吸着が抑制されることを明らかにしている。粒子の表面上にある活性エステル基を用いて抗CRP抗体を結合させ免疫凝集反応方法によって血清中でのCRP検出の可能性について検討を加え、抗CRP抗体結合ポリスチレン粒子と比べ、高い検出感度と安定性を発現できることを明確に示している。これらのことから、新しい高感度診断デバイスとしての有効性を結論している。

第5章では機能性検討を行ったMPC-PNPを用いてQCM免疫センサーでのシグナル増幅による分析感度向上について議論を加えている。QCM免疫センサーを用いてターゲット分子であるビスフェノルーA(BPA)との抗原−抗体反応後、抗BPA抗体結合MPC-PNPを添加し、第2段目抗原−抗体反応を行っている。センサー表面上での粒子による大きい重量変化によって、BPAに対する分析感度は第1段目反応と比べ、約8倍もの増幅が可能となったことを認めている。これらの研究結果により、MPCポリマーを用いて医学診断で用いられる材料やデバイスの表面をデザイン及び抑制によって高感度o高信頼性医学診断が実現できると結論している。

第6章では本研究をまとめている。

これらの研究の遂行によりMPCポリマーを用いたバイオインタフェースの構築によって、界面に固定化された生体分子の安定性と他のタンパク質からの非特異吸着の抑制を実現し、ヒト血清中でのターゲット分子を高感度及び高信頼性で検出することを明らかにしている。この界面改質の知見を基にして、粒子の表面に高密度でホスホリルコリン基が配列した人工細胞膜バイオインターフェイスの構築により、ポリマーナノ粒子の医学診断での新しい診断材料の開発に成功している。これらの結果はバイオマテリアルを中心とした材料工学の新たな分野を開拓し、これを基盤として医学診断分野に多大な波及効果与えると判断できる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。

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