学位論文要旨



No 120726
著者(漢字) 芮,相湖
著者(英字)
著者(カナ) エ,サンホ
標題(和) リン脂質ポリマーを修飾したセルロースアセテート中空糸膜の作製および医療デバイスへの応用
標題(洋) Cellulose Acetate Hollow Fiber Membranes Modified with Phospholipid Polymer and Their Application for Medical Devices
報告番号 120726
報告番号 甲20726
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6146号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,一彦
 東京大学 教授 片岡,一則
 東京大学 助教授 吉田,亮
 東京大学 講師 高井,まどか
 東京大学 講師 山崎,裕一
内容要旨 要旨を表示する

(研究概要)

現在の医療デバイスによる様々な問題を解決し、次世代の先端医療用具または人工臓器の開発のためには、生体に有害な作用を及ぼさない、優れた生体適合性を有し、なおかつ、使用目的に合致した新素材の開発と医療デバイスへの応用が不可欠である。本研究では生体膜と類似の分子構造を有し、優れた生体適合性を発現するリン脂質ポリマー(2-メタクリロルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー)をセルロースアセテート(CA)膜に修飾し、新しい人工膜材料を設計した。そして、これらの膜の特性評価および性能改善を行ない、優れた生体適合性を有すし、使用目的に合致した機能性膜の開発または医療デバイスへの応用を目指した。

リン脂質ポリマーを修飾したCA膜の作製およびの基本特性評価

(1)相転換法またはDry-jet wet spinning processの作製条件をコントロールすることでよりその構造と透過性が制御されたCA/MPCコポリマー(PMB30またはPMB80)平膜および中空糸膜(HFM)を作製できた。(2)CA/PMB30およびCA/PMB80膜は、高い溶質分画性と水透過性を有するハイパフォーマンスをもちながら、 (3)タンパク質吸着および血小板の粘着が少ない優れた血液適合性を見せた。(4)また、中空糸作製の祭にPMB80を表面に修飾できるように作製されたCA/PMB80 HFMの表面では、PMB80が高い安定性を見せた。(5)さらに、MPCコポリマー修飾膜では長時間の透過実験でも膜の透過性能が落ちないanti-fouling性を有する高性能膜が作製できた。

トータル血液浄化システムへの応用可能な機能性CA/MPCコポリマーHFM

(1)血漿分離膜および血液ろ過として、CA/PMB30およびCA/PMB80の構造を制御し、それぞれ目的に合致した高性能HFMを作製できた。(2)バイオリアクターの足場として使用されるHFMの設計にあたっては、HFM内部と外部に修飾されたMPCポリマーの量が異なるCA/PMB30-80 HFMを作製した。(3)そして、そのHFMの内部表面に尿細管上皮細胞および肝細胞を培養した結果、CA/PMB30-80 HFMの内部表面に尿細管上皮細胞または肝細胞がconfluentに培養でき、優れた透過性および組織適合性だけではなく、優れた血液適合性を発現すると期待された。

高性能ハイブリッド型人工肝臓用バイオリアクター設計と評価

(1) PMB30をブレンドしたCA/PMB30中空糸膜を作製し、その中空糸膜の外部表面にはMPCコポリマー(PMA30)を化学反応をもちい修飾させることで新規な機能性CA/PMB-PMA30中空糸膜が作製できた。 (2) CA/PMB-PMA30 HFMの表面に培養された肝細胞は高い尿素生産量、アルブミン合成性能をみせた。(3) CA/PMB-PMA30 HFMは、血液適合性、組織適合性、高い透過性を合わせもち、次世帯高性能バイオリアクター用HFMとして高い応用可能性をみせた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文では、現在の医療デバイスによる様々な問題を解決し、次世代の先端医療用具または人工臓器の開発のためには、生体に有害な作用を及ぼさない、優れた生体適合性を有し、なおかつ、使用目的に合致した新素材の開発と医療デバイスへの応用について言及している。すなわち、生体膜に存在するリン脂質分子に着目し、優れた生体適合性を発現するリン脂質ポリマー(2-メタクリロルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー)を合成するとともに、これを利用してセルロースアセテート(CA)膜に修飾し、新しい人工膜材料を設計している。これらの膜の特性評価および性能改善を行ない、優れた生体適合性を有し、使用目的に合致した機能性膜の開発または医療デバイスへの応用を目指している。次世代の血液浄化システムまたは高性能バイオリアクター用中空糸膜(HFM)の設計、その応用可能性について系統的に展開している。

第1章では、本研究の背景と意義、医療用中空糸膜の活用例および改善点について記している。

第2章では、多孔質非対称膜を作成するプロセスについて議論し、相転換法に作製されたCA/MPCコポリマーブレンド膜の基本特性と膜の表面特性を調べることで、MPCコポリマーの修飾効果をまとめている。

第3章では、Dry-jet wet spinning processの作製条件を系統的に変えることで、その構造と溶質透過性が制御されたCA/MPCコポリマー(PMB30(非水溶性)またはPMB80(水溶性))中空糸膜(HFM)を作製している。添加するMPCポリマーのMPCユニット組成を変えて界面状態が受ける影響について検討を行っている。CA/PMB30およびCA/PMB80膜は、高い溶質分画性と水透過性を有するハイパフォーマンスをもちながら、タンパク質吸着および血小板の粘着が少ない優れた血液適合性を有するCA/MPCコポリマー中空糸膜が作製できることを明らかにした。

第4章では、中空糸作製プロセスの中で、in situでPMB80を表面に修飾する技術を新たに見いだし、これにより安定な中空糸作成を達成している。この方法で作製されたCA/PMB80 HFMの表面では、PMB80の密度が高く、またホスホリルコリン基の配向性も大きくなることを見いだしている。さらに、MPCコポリマー修飾膜(CA/PMB30またはCA/PMB80HFM)では長時間の透過実験でも膜の透過性能の低下が認められないことを示した。これらの結果より、従来にない新しいハイパフォーマンス膜の作成方法を明確にしたと結論している。

第5章では、次世代のトータル血液浄化システムを考え、それぞれのデバイスに応用できる中空糸膜を設計している。すなわち、血漿分離膜、血液ろ過膜および細胞を要素として組み入れたバイオリアクターを組み合わせるシステムの構築を行い、CA/PMB30およびCA/PMB80の構造を制御し、それぞれ目的に合致した高性能HFMを作製している。さらにバイオリアクターとして利用するHFMの設計にあたっては、HFM内表面と外表面に修飾されたMPCポリマーの量が異なるCA/PMB30-80 HFMの新しい中空糸構造モデルを提案している。そして、そのHFMの内部表面に尿細管上皮細胞および肝細胞を培養した結果、CA/PMB30-80 HFMの内部表面に尿細管上皮細胞または肝細胞がconfluentに培養でき、優れた透過性および血液適合性だけではなく、優れた組織適合性を有するバイオ人工リアクターが作製できることを明らかにしている。

第6章では、PMB30をブレンドしたCA/PMB30中空糸膜を作製し、その中空糸膜の外部表面にはMPCコポリマー(PMA30)を化学反応で修飾することで新規な機能性CA/PMB-PMA30中空糸膜を作製している。このCA/PMB-PMA30 HFMの表面に培養された肝細胞は、CA膜上で培養された肝細胞より高い尿素生産量、アルブミン合成性能をみせ、CA/PMB-PMA30 HFMは、血液適合性、組織適合性、高い透過性を合わせもち、次世帯高性能バイオリアクター用HFMとして利用できると結論している。

本研究は様々な修飾方法で作製されたCA/MPCコポリマー中空糸膜の特性を調べることと共にその応用可能性を生きた細胞の機能を治療に利用する再生医療のバイオ人工リアクターまで展開し、バイオマテリアル研究の発展性を示すマテリアル工学と細胞工学の融合領域を開拓するものである。また、これらの系統的研究の遂行によりMPCポリマー構造と生成する中空糸の構造との相関、溶質透過性の制御技術および細胞との相互作用制御技術は、ポリマーバイオマテリアルの分野においても、これまでにない系統的研究として評価される。これにより高機能人工腎臓、血液浄化器、血漿分離器など、医工学の実用分野にも極めて有意義であり、バイオマテリアル工学の展開と医療を結びつける研究として大きな価値があると結論した。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。

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