No | 120733 | |
著者(漢字) | 相内,正治 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アイウチ,マサハル | |
標題(和) | 創造活動としての製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発の支援 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120733 | |
報告番号 | 甲20733 | |
学位授与日 | 2005.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6153号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究では、マーケティングにおける製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発の支援を扱う。これらの作業を支援するための具体的方法と、それに基づいたシステムを提案することが研究の目的である。 マーケティングとは、組織の目標を達成するためターゲット市場のニーズやウォンツを同定し、競争相手よりも効率的、効果的にそれらを満足させる活動である。企業組織はマーケティングの4Psと一般に呼ばれる自ら操作可能な4つの手段、製品(product)、価格(price)、販売チャネル(place)、広告コミュニケーション(promotion)を通じて具体的なマーケティング活動を行う。そしてこれらの活動を統合し全体としての効果を高めるため、個々のマーケティング活動が参照すべき指針であるマーケティング戦略が策定される。マーケティング戦略の策定は一般に、市場の細分化(market segmentation)、ターゲット市場の決定(targeting)、製品ポジショニング(product positioning)の3段階から構成される。 なかでも製品ポジショニングは、ターゲット市場あるいはターゲット消費者に対し、自社製品を競合製品との関係においてどのような位置づけで提案していくのかを決定する作業であり、マーケティング戦略策定の要である。また、新製品の開発導入の場合、はじめに製品コンセプトの開発が行われるが、ここでも市場に存在する競合製品に比べて、新製品をどのような位置づけでターゲット消費者にアピールしていくかが慎重に検討される。したがって、既存製品のポジショニングと新製品コンセプトの開発とでは、作業内容に重なる部分が大きい。さらに、製品ポジションニングや新製品コンセプト開発のあとには、製品生産、流通、広告宣伝など莫大なコストをかけた大規模かつ組織的なマーケティング活動が続いていく。このためこれらの川上の作業段階がマーケティング全体に与える影響は非常に大きい。 このようにマーケティングにおいて重要な位置を占める製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発だが、企業組織においてこれらの作業が十分に支援されているとはいえない。製品ポジションニングや新製品コンセプト開発に携わる実務家には、新商品企画を行う商品プランナー、ブランド管理を行うブランド・マネージャー、マーケティング戦略を立案するマーケティング・プランナー、広告コミュニケーション戦略を立案するコミュニケーション・プランナーなどが挙げられる。彼らは、ターゲットとする消費者、競合製品、製品原料、関連技術など、さまざまな領域のデータや情報を綜合してプランニングやコンセプトづくりを行う。しかし、膨大なデータや情報をどのように読み解きアイデアをつくり出すのかについては、ブレイン・ストーミングやKJ法など一部の発想技法を除いて支援は乏しく、もっぱら属人的な勘と経験に頼った作業とならざるを得ないのが現状である。 また、ナレッジマネジメントの観点からは、組織に蓄積されているデータや情報はその組織固有の経験を反映したものであり、積極的に共有、再利用していくことが望まれる。しかしこれら蓄積された情報は、日々の個別具体的な作業との関連が見えにくいため、実際には十分活用されているとはいえない。さまざまな情報の綜合というただでさえ認知的負荷の大きいプランナーの作業状況では、組織に蓄積された情報を彼らに再利用してもらい成果を得ようと目論んでも、作業負荷がさらに増すのみでありかえって悪影響すら及ぼしかねない。 以上の状況を踏まえて、本研究では、定量データ、定性データ、消費者からの情報、組織に蓄積されたデータ・情報など、さまざまな種類のデータや情報を統合的に活用しながら、プランナーの製品ポジショニングや新製品コンセプト開発作業を支援する方法を提案する。また、提案手法に基づいて支援システムの開発を行ない、利用実験による有効性の検証を行なう。 本論文の構成はつぎのとおりである。第1章では研究の目的と動機について述べるとともに、本研究の研究方法について説明する。 第2章では、支援対象である製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発について、その作業プロセスや性質を把握する。マーケティングのテキストで一般に説かれている規範的な作業プロセスの把握にとどまらず、実際の作業事例の観察、作業に関わったプランナーへのヒアリング、多数のプランナーへのアンケート調査を行い、支援対象に関する理解を深めていく。これにより、製品ポジショニングや新製品コンセプト開発が、他の問題領域と共通して有する性質はどのようなものか、またこれらの作業に特有の性質は何かについて明らかにしていく。 第3章では、関連する諸研究を精査し、将来に残されている課題を明確に認識することにより、研究のすすむべき方向性を見出していく。本研究が支援対象にしている、製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発は、企業組織における創造活動のひとつであるとともに、ターゲット消費者という相手に向けて行われる活動でもある。このため、創造性研究、創造活動支援研究に加えて、マーケティング意思決定論、消費者行動論、ナレッジマネジメントといった複数の研究領域における関連研究の把握が必要となる。本研究では、これらの研究分野における知見や研究課題を、分野の枠を超え横断的に扱うという学際的な研究アプローチをとっている。本研究の進むべき方向として、複数の創造的認知活動の統合的支援、消費者認知の考慮、蓄積情報の作業文脈に沿った再利用などがあげられる。 第4章では、前章で見出された研究の方向性を踏まえて具体的な支援方法について考えていく。支援の大きな枠組みは、製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発に携わるプランナーの思考制約の変更を促して、プランナー自身ではたどり着けないような解領域に到達させるというものである。このような枠組みのもと、本章で新たに提案する消費者認知モデルに基づいた3つの支援方法を提案する。 第5章では、提案する支援方法に基づいて支援システム(製品ポジショニングのための統合的概念形成環境、ICEPP / Integrated Conception Environment for Product Positioning)を設計、構築する。本研究では、支援システムを次のような設計方針で構築していく。システムの操作に注意を奪われ思考が妨げられないようにすること。適切な情報の可視化を行い情報の可読性を高めること。複数のモジュール間をスムーズに渡り歩けるようにすること。 第6章では、消費者アンケート調査の実施により、4章で提案した消費者認知モデルと支援方法の妥当性を検証する。 第7章では、提案方法に基づいて構築された支援システムICEPPを実際にプランナーに利用してもらい、提案方法およびシステムの効果を検証し考察を行う。なお効果の検証は、システムの操作ログと、発話プロトコルの解析によって行なう。 最終章では、結論と今後の課題について述べる。本研究はこれまで個別領域に専門分化しがちであった意思決定支援や創造活動支援の研究活動とは異なり、マーケティングにおける現実的な作業課題を事例に、複数の支援アプローチを統合した支援環境を構築しその効果を検証するものである。利用実験の結果から一定の支援効果が示唆されるが、今後はこのような支援環境を整えた企業組織における中長期の事例研究を行なうことでより詳細かつ広範に効果を検証することができると考える。 | |
審査要旨 | 本論文は、「創造活動としての製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発の支援」と題し、8章からなる。 知識社会と呼ばれる現代社会においては、組織の持つ知識をいかにして有効活用するかという知識マネジメントの問題が、重要な問題として認識されている。本論文は、製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発のための新しい知識マネジメントシステムを提案するものである。製品ポジショニングとは、市場あるいは消費者に対して製品を競合製品との関係においてどのような位置づけで提案していくのかを決定する作業であり、新製品コンセプト開発とは、新たに開発する製品の概念的な意味付けを決定する作業である。これらの作業は、マーケティングの最上流工程に位置し、その善し悪しがマーケティングの全行程に大きな影響を与えるが、従来、その作業を効果的に支援するための知識マネジメントシステムはなかった。これらの作業においては、独創的なアイディアが求められるため、本論文では、それを創造活動としてとらえ、組織の持つ知識資産を総動員してそれを支援することを可能にするようなシステムを提案し、専門家を被験者とした実験によりその効果を実証している。 創造活動支援のための理論的根拠としてFinkeの提案したgeneploreモデルを採用し、geneploreモデルにおけるproduct constraintsを適切に制御することにより、製品ポジショニングと新製品コンセプト開発の作業を支援することを提案している。product constraintsの情報源として、組織の保有する定量的データおよび定性的データからなる知識資産を横断的に結合して利用するシステムを構築した。さまざまなデータを統合して用いる際に生じる恐れのある組み合わせ爆発を防ぐための方法として、消費者認知モデルを利用する方法を与えている。 第1章は序論であり、本研究の背景、位置付け、および目的を述べている。 第2章では、製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発について、その作業プロセスと問題点を詳述している。そこでは、製品ポジショニングと新製品コンセプト開発が悪定義問題のひとつであることが明らかにされる。 第3章では、従来研究を網羅し、本研究の位置づけを明らかにしている。創造性研究、創造活動支援研究、マーケティング意思決定論、消費者行動論、および知識マネジメントの従来研究と本研究の関係を述べている。 第4章では、製品ポジショニングと新製品コンセプト開発を支援するための新しい方法の提案を行っている。消費者カテゴリーニーズの制約、消費者カテゴリー認知の制約、消費者連想の制約、自社資源の制約、および競合関係の制約を効果的に用いる方法が必要であることを述べ、それらを組み合わせて利用できるような支援手法を提案している。 第5章では、実際に構築した支援システムの構成と利用法について詳述している。消費者カテゴリー知識モジュール、消費者連想モジュール、および自社資源・競合関係モジュールと称するサブシステム群からなるシステムを実装した。 第6章では、第4章で提案した手法の前提条件が成立しているかどうかを消費者アンケートのデータを用いて検証している。 第7章では、構築した支援システムを4名の専門家に利用してもらう実験を行うことにより、その効果を検証している。システム操作ログと発話プロトコルを分析することにより、支援システムの効果を検証している。 第8章は、結論であり、本研究の成果をまとめ今後の課題を示している。 以上を要するに、本論文は、製品ポジショニングおよび新製品コンセプト開発を対象として、組織の持つ知識資源を統合して活用することにより創造活動を支援する方法を提案し、その有効性を実証したものであり、工学上寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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