学位論文要旨



No 120740
著者(漢字) 金,相錫
著者(英字)
著者(カナ) キム,サンソク
標題(和) Bi-Te 系熱電材料ならびに熱電モジュールの製造プロセス最適化
標題(洋) Process Optimization of Bi-Te baseThermoelectric Materrials and Modules
報告番号 120740
報告番号 甲20740
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6160号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 香川,豊
 東京大学 教授 宮山,勝
 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 幾原,雄一
内容要旨 要旨を表示する

熱電変換の研究は、1950年代に理論的な枠組みが確立してから、膨大な実験的、理論的な材料探索が行われたにもかかわらず、エネルギー変換効率の大幅な改善を実現できなかった。しかし、1990年代に入り、理論および材料に新しい展開がもたらされ、一方で環境問題の観点から特に排熱利用への期待から、再び熱伝変換技術が脚光を浴びるようになった。特に、約10年前から始まった熱電変換技術の第3の波とも言われている技術革新と熱電変換技術を取り巻く環境の変化の中で、これまで熱電半導体の壁と言われてきたZT=1を越える熱電半導体材料も6種を超えるようになり、新しい段階に入りつつある。すなわち、高ZTバルク熱電材料技術に加えて、大きな温度勾配サイクルを受けても良好に作動する高信頼性、はんだを必要としない鉛フリー技術など、熱電モジュールも含めた製造プロセスの最適化が強く求められている。

本論文は上記のような背景のもとに行われたものである。

第1章では本研究の背景と位置づけを明らかにし、研究すべき内容を示した。

第2章では「バルク熱電材料を創成できるバルクメカニカルアロイングによる固相合成プロセス」について検討した。Bi-Te系も含め、溶解・鋳造法、粉末冶金法では製造が難しいあるいは不可能な物質系においても、バルクメカニカルアロイング(BMA)を用いることで、化合物熱電半導体あるいは固溶体熱電半導体を、ほぼ室温で固相合成することに成功した。特に、採用したプロセスでは元素濃度比が敏感に熱電特性に影響する物質系における精密な化合物合成を行うとともに、設計量を適切に反映させるドーパント制御に本プロセスを利用することができる。後述するように、BMA終了時に得られる高密度グリーン体のグレイン・サイズはサブミクロンからナノ・メートル・サイズであり、物質系に負荷する強ひずみ量によるサイズ制御も可能であることを示した。

第3章及び第4章では「Bi-Te系熱電材料の異方性制御による高ZTバルク熱電材料プロセス」について検討した。熱電材料の一種であるBi-Te系熱電材料は、室温から500Kの範囲において良好な性能を有する低温用熱電材料である。その結晶構造はBiが2層Teが3層を1ユニットとした層状構造を形成しており、その構造異方性から、電気的にも異方性を有しており、a軸方向の性能が、c軸方向のそれに対しておよそ3倍以上も高いため、一方向に整えた成長結晶や単結晶が熱電素子として使われてきた。この溶製材料はc面で容易にへき開を生じ、凝固方向に平行な割れが発生しやすいため、市販材料は常圧焼結法やホットプレス法などを用いた製造方法を用いてきた。この粉末冶金法では、微細化グレイン効果による高強度化が図られる一方で、等方組織形成ゆえに、異方性による性能指数の向上は期待できない。本研究では、多結晶構造のBi-Te系熱電材料に単結晶構造と同等の異方性を発現させるせん断付加押し出し法を採用した。この方法によって、単結晶に匹敵する性能指数を持つバルク熱電材料を創製できるとともに、溶製材料では得にくい高曲げ強度(単結晶材料より6倍)をもつバルク熱電材料を製造することに成功した。

第5章では「はんだフリーp-nモジュールの作製と評価ならびにカップリング有限要素解析によるモジュール設計」を行った。地球環境問題、特に地球温暖化に対する世界的な対応が京都議定書(COP3)という形で実を結び動き出している。それに技術革新によって貢献することが予定されており、それを実現するためのリードタイムが2010年のリミットから逆算してもかなり厳しくなってきた。そのため、現時点で省エネルギーや地球温暖化対策技術として確立出来る見通しが明らかな革新技術課題に絞込みが行われている時期であるといえる。特に、500K以下における排熱利用は、未利用エネルギーの大半を占め、その活用、資源化に、Bi-Te系モジュール化技術による低温排熱利用が必須となっている。しかし、従来のBi-Te系熱電発電用モジュールははんだによる半導体素子と電極の接合法に頼っており、高温部の熱源が400K以上の場合、素子へはんだの成分元素が拡散することによる発電性能の減少あるいは、素子とはんだの界面で亀裂が生じる信頼性欠如により、モジュールの使用温度範囲が制約され、また熱利用効率を低下させている。

本研究では、パルス通電加圧焼結(SPS)法を導入して高温下での信頼性が高いはんだフリーp-n結合体の作製し、熱電発電(V-IおよびP-I特性)実験を行った。高・低温部の温度差が180K(高温部温度500K)において、素子間の接合面あるいは素子内部に亀裂がないp-nモジュールを得た。さらに、p-n結合体の熱電特性は理論的に推定される熱電挙動とよく一致しているのを確認した。

熱電発電によるエネルギー変換技術分野で高変換効率と経済性とのバランスをはかるために、フェルミ−ディラック積分近似法による材料の電子構造と熱電特性の予測に関する数値計算と並んで、有限要素法による熱電変換システムの設計・開発の効率化・合理化は必須である。特に、熱電半導体素子をユニットとするモジュールの熱電挙動の提案・解析が不可欠である。現在の研究では、パルス通電加圧焼結(SPS)法によって作製されたはんだフリーp-nモジュールに対して、2次元有限要素法による熱電変換シミュレーション技術を研究した。このシミュレーションツールを用いた研究により、モジュール・ユニットの各材料物性値、モデル形状、高温面、低温面の温度条件を指定する事で、温度分布、電圧分布、電流密度分布などが予測可能となった。さらに、はんだフリーp-nモジュールに関する熱電発電の実験結果(V-IおよびP-I特性)と比較し、この解析方法の定量的な有用性を確認した。

第6章では、本研究で得られた成果をまとめるとともに、研究の発展性についても検討した。

審査要旨 要旨を表示する

熱電変換の研究は1990年代に入り、理論および材料に新しい展開がもたらされたと同時に、排熱利用により環境やエネルギー問題解決の方法として、脚光を浴びるようになった。近年、これまで熱電半導体の壁と言われてきた熱電変換指数ZT=1を越える熱電半導体材料が多く見いだされ、研究開発が一段と進んだ。本論文は「Process Optimization of Bi-Te base Thermoelectric Materials and Modules (日本語訳:Bi-Te系熱電材料ならびに熱電モジュールの製造プロセス最適化)」と題し、高熱電変換を可能にする熱電材料のプロセス技術及びモジュール化にはんだを必要としない総合的な製造プロセス技術の確立を目指してものであり、全6章よりなる。

第1章は序論であり、本研究の必要となった背景、熱電材料の歴史、現状での問題点と将来性などについて従来の報告を整理し、本研究の位置づけ及び目的を述べている。

第2章ではバルク熱電材料を創成できるバルクメカニカルアロイング法による固相合成プロセスについて検討している。p型の(Bi2Te3)0.2(Sb2Te3) 0.8及びn型の(Bi2Se3)0.05(Bi2Te3)0.95をバルクメカニカルアロイング(BMA)法を利用することで、ほぼ室温で固相合成することに成功している。また、この際に、元素濃度比が敏感に熱電特性に影響する物質系における精密な化合物合成を行うとともに、設計量を適切に反映させるドーパント制御に本プロセスを利用することができることを明らかにした。BMAした材料をホットプレス法で緻密化することにより、熱電性能指数Zがp型では2.77x10-3K-1、n型では2.23x10-3K-1に達することを明らかにした。

第3章ではBi-Te系熱電材料の異方性制御による高ZTバルク熱電材料プロセスについて検討している。第2章で作製したp型の(Bi2Te3)0.2(Sb2Te3) 0.8にせん断付加押し出し法を適用し、電気抵抗を1.008x10-5Wmまで小さくできることを示した。この結果が、板状である(Bi2Te3)0.2(Sb2Te3) 0.8の結晶方位がせん断付加押し出し法で一方向に揃った結果であることを、組織観察、X線回折、電子線後方散乱により確認している。ここで、採用した手法によって、単結晶に匹敵する性能指数を持ち、溶製材料では得にくい単結晶材料の6倍にも達する大きな曲げ強度をもつバルク熱電材料を製造することに成功した。

第4章ではせん断ひずみによる集合組織への組織発達過程と熱電特性に及ぼす焼鈍効果についてn型(Bi2Se3)0.05(Bi2Te3) 0.95熱電材料を用いて検討している。強いせん断ひずみと変形摩擦抵抗による低密度のBMA後のグリーン粉体から材料の緻密化と同時に、塑性変形に伴う結晶の回転と成長が起こり、材料中の結晶粒が再配列されることを確認している。さらに、せん断押し出し後、水素雰囲気中の焼鈍プロセスを取り入れることで、変形ひずみが原因で生じる材料の欠陥、残留応力、酸化の影響を取り除くことに成功し、パワーファクターをせん断押し出ししたままの材料に比べて10%向上させることに成功している。

第5章では、はんだフリーのp-nモジュールの作製と評価を試みている。Bi、Sb、Se及びTeを用いた熱電材料をせん断付加押し出し法にて作製し、p-n接合のモジュールをパルス通電加圧焼結(SPS)法で作製した。特に、接合面にNiをコーティングしたCuを利用した金属層を設けることにより、界面電気抵抗を小さくすることを可能にした。p-n接合モジュールの熱電発電(V-IおよびP-I特性)実験を行い、500Kまで利用でき、温度差が180K の場合、最大出力は63.3mWと国際的にも最高水準に近い値を達成できることを確認した。2次元有限要素法による熱電変換シミュレーション技術についても検討を行っている。モジュール・ユニットの各材料物性値、モデル形状、高温面、低温面の温度条件を境界条件に用いることで、モジュール内の温度分布、電圧分布、電流密度分布などを予測することができることを確認した。

第6章は、総括であり本論文で得られた結果をまとめている。また、熱電素子の今後の展望についても述べている。

以上を要するに、本研究は高性能のBi-Te系熱電材料を作製するためのプロセスを提案し、実験による検証を行い、既存の材料系の持つ問題点を克服する手法を提案したものである。さらに、熱電モジュールの製造を通し、得られた熱電素子をはんだフリーで用いる方法についても実験、シミュレーションの両面から提示している。これらの成果は材料工学に対して大きく貢献するものである。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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