No | 120761 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Lopez Guillaume | |
著者(カナ) | ロペズ ギョーム | |
標題(和) | ウェアラブル生体・環境情報センシングシステム | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120761 | |
報告番号 | 甲20761 | |
学位授与日 | 2005.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第151号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年におけるインターネットを取巻く急速な技術革新は、デバイスの小型・高性能・省電力化、超広帯域IPネットワーク、時間や場所を選ばずにインターネット接続ができる小型無線端末、サービスのプラグ・アンド・プレイを実現する自動設定技術などをもたらし、ユビキタス・コンピューティングが目指した世界が今まさに幕を開けようとしている。同時に、先進国におけるの医療費の増加、ヘルスケアヘの意識の増大により、信頼できる緊急医療システム、回復後の連続的なモニタリング、生活習慣病、日常生活において個人が実際に曝露している環境情報の健康への影響等に対する日々の健康管理、安全性を保証できる福祉システムの新しい形態が要求されている。そこで、センシング、情報技術と通信ネットワーキングに基づいた様々なソリューションが研究されているが、その多くは単一のセンサを用いるため、得られる情報が少なく、満足のいくシステムとなっていない。 このような背景を踏まえ、本論文では、異なる多数のウェアラブルセンサを効率的に接続し、家庭内、屋外、工場などあらゆる環境でシームレスに生体及び環境データを入力、蓄積、共有、解析できる汎用的なベンチプラットフォームの構築によって、近い将来にウェアラブルセンサを用いた生体や環境情報システムをどのように日常生活に導入されるかを検討し、それに基づいた生体と環境情報を統合した日常生活の支援に有利な応用方法を提案するシステムに関する研究をまとめた。 今までのユビキタス・コンピューティングに関する研究では、多くの物にセンサが搭載され、そこから大量のデータが収集され、人間の生活環境をバックアップする技術についての研究が多い。しかし、本来のユビキタス・コンピューティングは複数のセンサを組み合わせて人間の行動や感情などの情報を識別し、それに応じたコンテンツを提供するコンテキストアウェアネスの概念が重要である。そのため、生体環境や自然環境にもセンサとITを用いて、幅広く日常生活の支援ができるシステムの構築が可能となる。そこで、ウェアラブルでセンシングを行うことが求められている。要求されるセンサの数は少ないが、ユーザごとに種類が異なるので、システム開発にコストをかけられない。どのようなセンサ、通信方式がベストか分からない。現場実験までやらねば、決められないがシステム開発コストがネックになっている。ウェアラブルでセンシングを行うことによる具体的な課題を以下に列挙する。 モバイル性:移動しながらのセンシング、通信、視覚化の実現。 低重量化:センサ・コントローラ・通信モジュールの小型化。 無線化:チャンネル数が限られている(有線だと線を引けば良い)。 電池の寿命:長時間連続計測が求まれている。 いつもネットに繋いでいない:蓄積データではなくて、リアル・タイムでデータの前処理による簡易フィードバックを行う。 センシングシステムの流れの自動化。 従来のセンシングシステムにおいて、データ処理は、センシング→通信→蓄積→解析→公開の手順で行なわれるが、本研究の際はウェアラブル情報センシングにおいて、データ処理が各分野共通で行えるような手順を開発することができることを目標とした。 それを実現するために、本研究においては、ウェアラブル生体・環境情報センシングシステムを以下の5つにカテゴライズし、 (1)ウェアラブルセンシングシステムの評価プラットフォーム (2)ウェアラブル生体センサに基づいた診断支援ツール (3)携帯端末を用いた環境情報モニタリングシステム (4)ウェアラブル生体・環境情報センシングによる行動認識を用いた日常生活情報フィードバックシステム (5)福祉現場の作業支援における行動認識の評価システム それぞれのシステムにおけるニーズを挙げ、そのニーズを満たすようなアプリケーションの開発例を実際に示すことで、ウェアラブルセンシングシステム共通なデータ処理の流れの評価を行った。 上記のウェアラブルセンシングシステムの各モデルに基づき、実際に特定の生体・環境情報センシングをウェアラブルで行うシステムを構築した。次の(1)-(5)の各ウェアラブルセンシングシステムの構築方法及びシステムの評価を行った。 (1)あらゆるウェアラブルセンサに適用可能なデータフォーマット、無線・有線プロトコル、センサの追加・変更に柔軟な簡易診断アルゴリズム、標準的なデータ取得が可能な試験環境を構築した。生データを送るだけではなく、有用情報として生データを解析する機能を備えたアプリケーションを付け加え、実用化のための応用分野の絞込みが素早くできるように、ウェアラブル生体情報システム用の評価プラットフォームの設計を行った。 (2)エキスパートシステムを用いて、ウェアラブルに計測した血中酸素濃度と心電波形データの並列リアル・タイム処理から、呼吸不全、喘息などの病変の簡易認識を行うシステムを構築した。 (3)同研究室において構築されたPDA型端末を用いた大気浮遊粒子状物質モニタリングシステムの計測データを迅速(測定した直後)に公開するために、センサデータ受信、データサーバへ格納・加工し、モニタリング情報を端末上で提示するソフトウェア環境を自作した。 (4)モバイル環境において、センサにより得られる個人の環境情報(生体、位置、照度など)と、インターネットにより取得可能な公共の環境情報(天気、ニュース、 電車の時刻表等)を結合し、日常生活中の行動認識を行い、自動的に時々刻々有用な情報を提供するシステムの設計とプロトタイピングを行った。 (5)福祉現場の作業支援における、患者の歩行中の足圧を計測し、無線で両足の生データを伝送できるセンサシューズを開発し、そのデータを長時間連続的にウェアラブル端末上で蓄積し、解析できるようなシステムを構築した。 本研究では、多様なアプリケーションのフィールドによる検証し、多数の事例を試して、システム構成法のノウハウを蓄積した。さらに、構築した各システム全体の情報の流れ踏まえ、本研究で扱ったウェアラブルセンシングシーンにおける共通のデータ処理手順を抽出し、それをそれぞれのウェアラブル生体・環境情報センシングシステムにおいて汎用的に応用する方法について述べた。そのための主なアイデアは生データの扱いとして、XMLに基づいた共通のアプローチを用いたことで、「データ量が少ないこと」に特徴がある。センサデータは主として1次元の低周波信号である為、冗長なデータ構造を用いても、データ量増大の問題は起こらないため、XMLが使える。また、生体・環境情報としては多くのシステムに共通して有用である情報を検討し、これにより人間の心理的・生理的側面を反映した情報の取得が可能であると示した。これにより、人間の日常生活において、主に医療分野、救急医療分野、健康管理分野、生活環境分野と作業環境分野に焦点を当てたウェアラブルで生体・環境情報センシングの有効的な活用方法の実現可を明記した上でそのシステムをもとに結論づける。 図1に示したのは、ウェアラブル生体・環境情報センシングシステムのデータ処理の流れ。二つのデータの扱い方がある。それは以下の二つのユーザを想定する時に必要となってくる: 研究者→生データを利用する。 一般の人か →パターン化(特徴量抽出)したデータを利用する。 パターン化という処理は主に生データから特徴量を抽出することである。それによって、ハイレベルな情報になり、一般ユーザにとって直感的に意味の分かるデータとなる(例:診断結果、運動パターン)。統一した通信モジュールとして、通信速度が高く、扱いが簡易、多元接続が出来るBluetoothを想定している。状態認識処理はエキスパートシステムや行動識別等のアルゴリズムによる現状態を推定する処理を意識している。さらに、知識データベースに、医療診断だけではなくて、機械故障診断の知識や、環境情報に基づいた診断の知識も組み込めることが可能であると考えられる。 このデータ処理の流れに沿って、本研究で構築した各ウェアラブル生体・環境情報センシングシステム内のデータ処理の流れを振り返り、表1にまとめた。 図1ウェアラブルセンシングシステムのデータ処理の流れ 表1本研究で構築した各システムにおけるデータの流れ | |
審査要旨 | 本論文は,「ウェアラブル生体・環境情報センシングシステム」と題し,全7章で構成されている. 第1章「序論」では,高齢化社会の到来と日常生活における健康管理や環境に対する意識の高まりという社会的背景と,情報ネットワークインフラの進歩と情報機器の小型化という技術的背景のもとで,ウェアラブルセンサを用いた健康管理システムやITを駆使した緊急医療体制に対する社会的ニーズを論じた上で,技術的課題について整理し,本研究の目的を明らかにしている. 第2章「ウェアラブルセンサを用いた健康情報システムの検討」では,現状の利用可能なセンサ技術を幅広くサーベイするとともに,プロトタイプの試作のために具体的なセンサとして血中酸素飽和度(SPO2),脈波,心電図,等の各種生体センサ,およびそれらの無線通信インタフェースとして微弱無線通信,Bluetooth通信の機能について実験データに基づいた評価を行っている.さらにウェアラブルPCとPHSを用いて複数のウェアラブル型生体センサの情報をリモートサーバに伝送するシステムのプロトタイプを試作し,ウェアラブルセンサシステムのデータ伝送に関する機能評価を行っている. 第3章「ウェアラブル生体情報システム用の評価プラットフォーム」では,第2章で試作したプロトタイプをベースに様々な生体センサが接続可能な評価プラットフォームを構築している.ここでは健康管理に必要な生体情報の多くは,一部の画像情報を除き,比較的周波数の低い1次元のアナログ信号であることに着目し,各サンプルデータにサンプル時刻のタグを付加する冗長なデータ構造を持たせることにより,過度なデータ量の増大を招くことなく,異なるサンプリングレートで採取した複数の生体情報に関する時間軸上の操作を容易にしている.このデータ構造の考案により,健康管理を目的とした実用システムから生体情報の研究を目的とした専用システムに至るまで,幅広いアプリケーションにおける信号処理とデータ伝送を可能にしている. 第4章「ウェアラブルセンサに基づいた診断支援ツール」では,第3章で設計したプラットフォームをベースに,指輪型パルスオキシメータを用いた医療分野応用のシステムを開発している.このシステムはセンサから無線で送られてくる血中酸素飽和度と脈拍数から喘息などの簡易診断を行うエキスパートシステムであり,症状の変化が診断された場合には,その症状を発見するに至った期間の心電図のデータと併せて医療機関へ送る機能を組み込み,本研究で設計したプラットフォームの有効性を検証している. 第5章「携帯端末を用いた環境情報モニタリングシステム」では,本研究で提案しているウェアラブルセンシングシステムの2番目のアプリケーションとして,一般人が生活する環境の環境情報を携帯端末によってモニタリングするシステムを構築している.本システムでは,PDA端末に大気中浮遊粒子状物質(SPM)の簡易計測器,および,位置,気温,湿度,紫外線強度等を計測するセンサを接続している.携帯端末においては,環境情報の計測とデータ処理と処理結果を研究所等の施設に無線伝送するとともに,研究所等で集約・解析した環境情報を受信し,グラフィックス表示する機能を実現している. 第6章「ウェアラブル生体・環境情報センシングによる行動認識」では,本研究で設計したプラットフォームの3つ目の応用システムとして,腕時計型の加速度センサと足の裏に加わる圧力変化のパターンを検出する中敷き型圧力センサを用いて歩行,走行,着座,立位等の運動パターンの認識とその運動量を計測し,さらにウェアラブルPCに接続したGPSによる位置情報と組み合わせることにより日常生活における人間の行動を自動的に認識し,行動に応じた適切で有用な情報を提供する新しい情報サービスシステムを構築している. 第7章「結論」では本研究で提案したウェアラブル生体・環境情報センシングシステムの設計指針,およびその応用システムの構築によって明らかとなった知見を総括し,結論としている. 本研究の第3章と第4章は川久保佐紀,杉本千佳,有光知理,辻昌彦,佐々木健,保坂寛,板生清との共同研究であるが,論文提出者が主体となってソフトウェアの設計・開発を行ったもので,論文提出者の寄与が十分であると判断する. 以上のように本論文は,複数の生体・環境センサとウェアラブル型PCを用いて,日常生活における健康管理,生活環境の環境計測,日常生活の行動認識に基づく情報サービス等を行うセンシングシステムの設計において,センサの選定基準,データ通信方式とデータ構造の設計に関する新しい指針を提案し,複数のプロトタイプ試作によって,その有効性を実証している.本論文の研究成果は,高齢化が進むとともに健康と環境に関心が高まりつつある今後の社会に大いに貢献する基礎技術であると考えられる. よって本論文は博士(環境学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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