No | 120767 | |
著者(漢字) | 小林,鉄太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コバヤシ,テツタロウ | |
標題(和) | 楕円曲線暗号系の高速演算法に関する研究 | |
標題(洋) | Fast Computartion Algorithms for Elliptic Curve Cryptosystem | |
報告番号 | 120767 | |
報告番号 | 甲20767 | |
学位授与日 | 2005.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(情報理工学) | |
学位記番号 | 博情第64号 | |
研究科 | 情報理工学系研究科 | |
専攻 | 電子情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 公開鍵暗号の実現には、落とし戸つき一方向性関数が必要であるが、従来、RSA暗号・RSA署名などの素因数分解問題に基づく方式が多く使われてきた。しかし、近年の計算機やネットワークの発達により、分散コンピューティングによる素因数分解アルゴリズムが進歩している。 このため、素因数分解問題以外に安全性の根拠をもつ暗号系として、楕円曲線暗号が注目されている。楕円曲線の離散対数問題の困難さに安全性の根拠を置く公開鍵暗号やデジタル署名は,小さい鍵サイズで従来と同等の安全性が確保できるという利点があり、特にメモリ・帯域が少ないモバイルコンピューティングの分野に適している。 また、楕円曲線に特有の写像であるpairing演算を用いることでIDベース暗号や他者間鍵共有、ブロードバンド暗号などを効率よく実現することができる。 楕円曲線暗号方式である、楕円DSA署名や楕円ElGamal暗号などを実装する場合、楕円曲線上の点のスカラー倍演算が主な処理となる。この部分の高速化手法については、大きくわけて 1、楕円曲線演算の回数の低減 2、楕円曲線演算の高速化 3、有限体上の演算の高速化 の3つからなる。 本論文では特に上記の3項目それぞれに着目し,その最適化方法を提案する。 また、pairing演算は通常の楕円暗号に比べて複雑であり、演算コストが大きい。そのため演算高速化の必要性はより大きいといえる。本論文は、楕円曲線スカラー倍と同様に、pairing演算の高速化方法を提案する。 | |
審査要旨 | 本論文は「Fast Computation Algorithms for Elliptic Curve Cryptosystem (楕円曲線暗号系の高速演算法に関する研究)」と題し,主に楕円曲線暗号を実現する場合に中核となる,楕円スカラー倍演算に関する演算法を整理し,楕円曲線暗号を構成する有限体を素体, 2の拡大体, 最適拡大体(OEF)の3つの場合において,それぞれ(1)楕円曲線演算の回数の低減,(2)楕円曲線演算の高速化,(3)有限体上の演算の高速化の三つの部分に関して,高速なアルゴリズムを提案し,その演算効率を理論的および実験的に明らかにするとともに,C言語による実装によってその有効性の検証を行ったものである.これにより,楕円DSA署名や楕円ElGamal暗号に代表される 楕円曲線暗号の世界最高速実装の実現を可能としている.また,IDベース暗号や秘密鍵共有,ブロードキャスト暗号などを実現するのに用いられる楕円ペアリング演算においても,楕円スカラー倍演算と同様に,三つの部分それぞれに対して演算コストの分析を行い,最適なアルゴリズムを提案している.論文の構成は,「Introduction」を含めて7章からなる. 第1章は「Introduction(序論)」で,本研究の背景を明らかにした上で,研究の動機と目的について言及し,研究の位置付けについて整理している. 第2章は「Base-φ Method(φ進展開法)」と題し,楕円曲線演算の回数を最小化する方法であるφ進演算法をOEF上の楕円曲線に適用する方法を提案している.単純にOEFに適用しただけでは効果が無いが,事前演算による高速化手法と組み合わせることにより,OEF上の楕円曲線でもφ進演算法の高速化効果を得ることに成功している.これにより,従来特殊な曲線であるKoblitz曲線でのみ使われていたφ進演算を,初めてOEFなどの別の体へ適用することを可能にした. 第3章は「Cyclic Window Method(巡回窓演算法)」と題し,第2章で提案したφ進演算法の最適化を論じている.スカラー倍演算では,「窓法」と呼ばれる演算法がよく使われる.これとφ進演算法を組み合わせる際に,楕円曲線のフロベニウス写像の特有の性質を用いることにより,φ進展開のみに使える「巡回窓法」を用いることができることを示し,その理論上の効率を示している.また,C言語実装による実測値による検証を行い,従来の方式との比較からその有用性を述べている. 第4章は「Parallel Elliptic Curve Arithmetic(並列度を考慮した楕円演算)」と題し,楕円曲線暗号における基本演算である「楕円加算演算」「楕円2倍演算」の新しい演算法の提案を行っている.従来の楕円加算演算法は,座標系の工夫によって楕円加算演算・楕円2倍演算の演算公式が変化することに着目し,各座標系において,有限体上の乗算回数が最小化されることを目標としていた.本章では CPUアーキテクチャの進歩とともに,複数の乗算器をもつアーキテクチャが基本となっていることを考慮して,乗算回数ではなく乗算ステップ数を最適化することを目標とした座標系および演算法の提案を初めて行っている. 第5章は,「Finite Field Inversion(素体上の逆元演算法)」と題し,素体上の逆元演算のコストおよび効率化について論じている.素体上の逆元演算はユークリッドの互除法または,その改良アルゴリズムによって実現されるが,従来は素体上の逆元演算は素体上の乗算演算の10倍以上遅いとされていた.このため,楕円曲線暗号を実現する場合,アフィン座標を用いると楕円加算演算・楕円2倍演算ともに逆元演算を行う必要があり,乗算回数が多い代わりに逆元を必要としないJacobi座標等のほうが実用上は優れていた.この章では大きなビット長の逆元演算を,短いビット長の演算でエミュレートすることによって高速化する方法を提案している.この結果,提案逆元法を用いることでアフィン座標を用いたほうが高速になるという逆転が生じることが示される. 第6章は,「Fast Computation Algorithm for Pairing(高速ペアリング演算法)」と題し,楕円ペアリング演算の大部分を占めるMillerのアルゴリズムを高速化する手法について述べている.ペアリング演算の高速化において,最もよく用いられるTateペアリングに特化した最適化を行うことで「擬似演算」および「多項式展開」の演算法を導入し,その演算コストについて理論的およびC言語による実装評価を行っている. 最後に第7章は「Conclusion(結論)」で,本研究の総括を行い,併せて将来展望について述べている. 以上これを要するに,本論文は,楕円曲線暗号系の高速演算法をまとめるとともに,すべての部分に関して高速化・最適化のアルゴリズムを提案し,実用上の有効性を明示したものであり,これらの楕円曲線暗号系の高速演算法に関する研究は,電子情報学,特に情報セキュリティ工学上貢献するところ少なくない. よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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