No | 120797 | |
著者(漢字) | 山田,晴耕 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマダ,ハルヤス | |
標題(和) | 総合失調症(精神分裂病)患者脳実質におけるMR拡散テンソル解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 120797 | |
報告番号 | 甲20797 | |
学位授与日 | 2005.11.16 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2582号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生体物理医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【背景・目的】 拡散テンソル画像法(diffusion tensor imaging:DTI)は拡散能、拡散異方性を定量的に評価できる新たな画像解析法であり、脳実質、とくに白質に対する拡散異方性の評価は、従来の方法では検出しえなかった微細な変化を検出しうるものと脚光を浴びている。 統合失調症(精神分裂病)患者の頭部MR所見として、側脳室拡大、内側側頭葉構造の体積減少、灰白質の体積減少などが報告されているが、近年、それらを連絡する白質の異常の有無について注目されている。統合失調症を対象としたDTIの報告は少なく、本研究では統合失調症患者の脳内拡散について、DTIを用いた解析により拡散能や拡散異方性の変化として検出しうるかどうかを検討し、その異常領域を同定する。得られた結果について臨床指標との相関についての検討を行う。 【対象・方法】 自作ファントム(蒸留水、0.8%寒天、1.0%寒天、1.5%寒天、5mM硫酸銅水溶液、アセトン)に対してDTIの整合性を検討した。次に関心領域(region of interest:ROI)解析として、健常群として精神科通院歴のないボランティア11人(男性8人、女性3人、19〜58歳、平均39.0歳)、疾患群としてDSM-IVにて診断された早期例ないし投薬治療中の統合失調症(精神分裂病)患者11人(男性6人、女性5人、26〜58歳、平均39.1歳/妄想型4人、緊張型2人、解体型1人、鑑別不能型4人)を対象とした。さらにSPM(statistical parametric mapping)を用いたボクセルに基づく解析(voxel-based analysis)として、健常群として精神科通院歴のないボランティア42人(男性36人、女性6人、19〜55歳、平均31.2歳)、疾患群としてDSM-IVにて診断された早期例ないし投薬治療中の統合失調症(精神分裂病)患者33人(男性21人、女性12人、20〜58歳、平均32.5歳/妄想型9人、解体型1人、緊張型2人、鑑別不能型7人、残遺型14人)を対象とし、全脳について健常群と疾患群とのADCおよびFAに有意差があるかどうか検討した。 1.5T臨床用MR装置(Signa Horizon LX ver8.25/8.3、GE横河メディカルシステム、東京)を用い、前交連・後交連を結んだ線(AC-PC line)に平行に設定した撮像面で、全脳のDTI元画像を撮像した。この際single-shot spin-echo echo-planar sequence(TR 5000 ms、TE 102ms、スライス厚5mm、スライス間隔6.5mm、FOV 21×21cm2、マトリックスサイズ 128×128、加算回数4)を用い、1軸当たりb=500もしくは1000s/mm2の拡散検出傾斜磁場を6通りに印加し、さらにT2強調画像を併せて撮像した。解析用ワークステーション(Advantage Workstation ver3.1/4.0、GE横河メディカルシステム、東京)を用いて、見かけの拡散係数(ADC)の計算画像およびfractional anisotropy(FA)計算画像を作成し、各計算画像について部分容積効果および値のばらつきを可能な限り排除するように、脳実質内に複数の関心領域を(脳梁を除き)左右対称に設定し計測した。 また、SPM解析のためには、得られたADCおよびFA計算画像を、EPIT2強調画像を皮質、白質、脳脊髄液その他に分離(segmentation)し、SPMに同梱されている白質テンプレートを用いて、各対象の白質を標準脳空間に正規化し(spatial normalization)、そのパラメータを用いてADC、FA計算画像を解剖学的に標準化した。さらにノイズを減少させボクセルごとの検定を行いやすくするための平滑化(smoothing)処理を行ってから、SPMによる統計解析を施行した。 【結果】 自作ファントムの解析では、アセトンを除く試料のADCおよびFAの値は、おおむね既知の値と一致したが、アセトンのみ拡散係数が非常に大きいため、信号減衰により正確な値を計測できていないものと考えられた。 ROI解析では疾患群の両側海馬のFAは健常群に比して有意に低値を示した。従来報告されている前頭葉白質の異方性に有意差は得られなかった。健常群に対する疾患群のADCは、右頭頂葉白質、右海馬で有意に高く、左視床で有意に低いという結果が得られた。 SPM解析では両側鉤状束、両側傍海馬白質、両側前部帯状束などにおいて、疾患群におけるFAは健常群に比して有意に低下していた。FAの有意な上昇を呈するボクセルや、ADCが上昇、低下するような有意なボクセルは検出されなかった。統合失調症症状の評価の指標である陽性陰性症状評価尺度(PANSS)との相関については、右中前頭白質、左側頭葉白質、左帯状束にFAと陽性尺度が正の、左側頭葉白質、左前頭葉白質、左鈎状束相当部位にFAと総合精神病理評価尺度と負の、弱い相関の存在(uncorrected p< 0.001)が示唆されたが、多重比較補正(corrected p<0.05)での強い相関は確認できなかった。 【考察】 従来の形態画像の多くの報告において、灰白質体積の減少は一致するところであるが、白質体積の変化を指摘した報告は数少ない。しかしながら、灰白質同士の連絡路である白質にも異常が存在しうるであろうことは推測され、統合失調症脳解析において拡散テンソル解析が行われ始めてからは、健常群との群間比較により疾患群での白質異方性の低下が多くの報告で指摘されている。先行研究の代表的なものとして、体積低下が見られない大脳半球白質の広い範囲で異方性の低下1)、脳梁膨大部ADCの有意な上昇、膨大部FAの有意な低下などが報告されている2)。また、側頭葉前部と前頭葉間の連合線維である鉤状束のFAについて、左側が右側より大きいという正常の左右差が、疾患群では消失しているとの報告3)などがある。ROI法に比べ恣意の入りにくいSPMを初めとする画像統計解析の報告がなされるようになり、ROI法で計測しにくい部位を含め、本研究を含め、辺縁系白質路付近でのFA低下が報告されつつあり、総合失調症脳における白質の異常が示唆される結果と考えられる。 【結論】 統合失調症(精神分裂病)患者について脳実質の拡散異方性の評価により、両側鈎状束、両側傍海馬白質、両側前部帯状束などでの拡散異方性の低下が統計学的に確認された。従来法では早期診断を含め従来にない指標となりうる可能性が示唆され、とくに傍海馬領域白質における拡散異方性の低下についてのボクセル解析の結果は、今回新たに得られた知見である。拡散テンソル解析の応用により、早期診断を含め従来にない指標となりうることが期待される。 | |
審査要旨 | 本研究は磁気共鳴画像法(MRI)による拡散テンソル解析を用い、とくに白質神経線維の異常に着目して、統合失調症(精神分裂病)における脳内拡散の異常部位の検出や臨床指標との相関の探索を試みたものであり、従来の関心領域解析法および、SPECTやPETで多く用いられるSPM(statistical parametric mapping)を応用した新たな画像統計解析法を用いて以下の結果を得ている。 ROI解析では疾患群の両側海馬のfractional anisotropy(FA)は健常群に比して有意な低下が示された。従来報告されている前頭葉白質の異方性に有意差は得られなかった。健常群に対する疾患群のみかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)は、右頭頂葉白質、右海馬で有意に高く、左視床で有意に低いという結果を示した。 SPM解析では両側鈎状束、両側傍海馬白質、両側前部帯状束などにおいて、疾患群におけるFAは健常群に比して有意な低下を示した。FAの有意な上昇を呈するボクセルや、ADCが上昇、低下するような有意なボクセルは示されなかった。 統合失調症症状の評価の指標である陽性陰性症状評価尺度(PANSS)との相関について、右中前頭白質、左側頭葉白質、左帯状束にFAと陽性尺度が正の、左側頭葉白質、左前頭葉白質、左鈎状束相当部位にFAと総合精神病理評価尺度と負の、弱い相関の存在(uncorrected p < 0.001)が示唆されたが、多重比較補正(corrected p < 0.05)での強い相関は確認されなかった。 以上、本論文は統合失調症患者脳実質について、MRIを用いた拡散テンソル解析により海馬・傍海馬白質をはじめとする白質を中心とした異常部位を、健常群との群間差として明らかにした。またSPMを用いた画像統計解析により検出する試みは仮説によらない新しい手法であり、形態的に異常を呈さない統合失調症脳、とくに白質の異常を客観的手法により指摘し得たことから、今後の統合失調症の病因、ネットワーク解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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