学位論文要旨



No 120798
著者(漢字) 藤島,知則
著者(英字)
著者(カナ) フジシマ,トモノリ
標題(和) 腹部血管造影CTを用いた肝細胞癌の診断 : 検査適応の決定と非定型所見を示す腫瘍のフォローアップによる検討
標題(洋)
報告番号 120798
報告番号 甲20798
学位授与日 2005.11.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2583号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 深山,正久
 東京大学 教授 小池,和彦
 東京大学 教授 幕内,雅敏
 東京大学 教授 大西,真
 東京大学 講師 石川,隆
内容要旨 要旨を表示する

【研究の背景および目的】

肝細胞癌(HCC)の精査に用いられる画像検査には、腹部dynamic CT(CT)、dynamic MRI(MRI)のほか、腹部血管造影CT (CT during arterial portography;CTAP/CT hepatic arteriography;CTHA)が有用で、CTAP/CTHAは、肝細胞癌の治療前診断に最も有用と報告されている。しかし、CTAP/CTHAは侵襲的で高価な検査であることから、ルーチンとして行うのは不適当であり、適応を吟味する必要がある。

また、CTAP/CTHAには偽陽性が多いという問題があり、特に1-2cm以下の小さなものに関しては、HCCか否かの判定が困難であり、治療方針決定に困難を来たす場合が少なくなかった。

本邦ではHCCの多くは慢性肝疾患を背景として発生する。またラジオ波焼灼療法(RFA)などの経皮的治療の対象となる症例は再発例が多い。このような背景があると、肝小葉構造の改築に伴う血行動態異常、切除や穿刺によるシャントの影響により、いわゆる偽病変が多く認められる。偽病変はその部位や形、二相性CTHAの後期相でのリング状濃染によりある程度は鑑別可能といわれている。しかし、小さな点状のものは形や造影パターンによる特徴付けは困難である。

我々は年間約400例のHCC症例に対しCTAP/CTHAを施行し、その後、主にRFAによる治療を行っている。治療にあたり、どのような症例にCTAP/CTHAを行えば有効であるか。また、CTAP/CTHAで指摘された結節のうち、サイズが小さく、非典型的なパターンを示すものは治療すべきか否か、二部に分けて以下に検討を行った。

【研究の方法および結果】

検討1

我々は、2000年1月から2000年12月までに、dynamic CT上5個以下のHCCがあると診断された、もしくは疑われた137例の連続した症例にCTAP/CTHAを施行した。

CTAP/CTHAは、dynamic CT施行後30日以内に行った。CTはGE社製Pro Seed SA Libraを用いた。CTAPは、上腸間膜動脈から150mgl/mlの濃度の非イオン性造影剤を3.0ml/秒、計90ml注入し、30秒後から撮像を開始した。ついでCTHAは、5分以上の間隔の後、固有肝動脈もしくは総肝動脈より200mgl/mlの非イオン性造影剤を1.2ml/秒、計30ml注入し、10秒後から第1相の撮像を開始し、45秒後から第2相を撮像した。CTAP/CTHA施行後、リピオドールを肝両葉に注入し、ゼラチンスポンジで塞栓を行った。

DynamicCTの所見は、CTAP/CTHA施行前に2人の医師によって読影された。CTAP/CTHAの所見は、dynamic CTの所見を伏せた上で別の2人の医師によって読影され、両者を比較した。

HCCの診断は、137例中113例では経皮的針生検による組織診断で行い、その他の症例では腫瘍へのリピオドール沈着によって行った。

CTAP/CTAを施行した事によってdynamic CTで指摘された以外の新たな病変が見つかった群と、見つからなかった群との2群に分け、性、年齢、初発か再発か、肝炎ウイルス、dynamic CTで指摘した病変数、最大腫瘍径、血清アルブミン、総ビリルビン、GOT、GPT、PT、P1t、腫瘍マーカー(AFP、AFP-L3、DCP)、Child分類による肝機能の各種パラメーターに関し、両群間で比較した。

データは平均値±SDで示した。平均の差の検定にはt検定を用いた。名義変数の比較にはカイ二乗検定を用いた。Dynamic CTおよびCTAP/CTHAのHCC検出能に寄与する因子の比較では、まず上記の単変量解析を用いて検討した後、P<0.1の項目に関してロジスティック回帰による多変量解析を行い、検討した。

検討2

次に我々は、CTAP/CTHAで指摘された非定型的所見を示す腫瘍について、その性質を明らかにするために以下の検討を行った。2001年8月から2002年9月に、HCCと診断された、もしくは疑われた387例の連続した症例にCTAP/CTHAを施行した。検査の装置、プロトコールは検討1と同様であった。

684結節の明らかなHCCを認めた他に、2cm以下で、リピオドールCTでリピオドールの沈着が無く、エコーにて明らかな結節として指摘できない小結節を23例に41結節認め、これらを対象として経過観察を行った。経過観察は、原則として毎月腫瘍マーカーを含む血液生化学検査、3ヶ月毎に腹部超音波検査を行い、必要に応じてdynamicCTを施行した。経過観察中に結節の増大や他部位にHCCの再発が疑われた場合、CTAP/CTHAを再度施行し、結節のサイズ変化、CTAP/CTHAでの造影パターン、リピオドールCTでのリピオドール沈着の有無、経皮的針生検によって得た組織を評価した。

データは平均値±SDで示した。平均の差の検定にはt検定を用いた。名義変数の比較にはカイ二乗検定を用いた。

[結果]

検討1の結果

対象となった137例の内訳は、131例がHCV抗体陽性、14例がHBs抗原陽性であり、10例はB・C型肝炎ウイルス陰性であった。

137例中33例で、CTAP/CTAにより、dynamic CTで指摘された以外のHCCが見つかった(Table2)。33例中17例は6結節以上のHCCが確認され、特に9例では10結節以上のHCCが確認されたため、最終的に14例はRFAの候補からはずれた。

この33例と残りの104例とで、先述した各種パラメーターを比較し、単変量解析を行った。有意であった因子を多変量解析したところ、再発症例であることが、有意にCTAP/CTAによりdynamic CTで指摘された以外の病変が見つかる条件であることが明らかになった(p=0.015、オッズ比4.20、95%CI 1.3-13.4)。

検討2の結果

対象結節の観察開始時の平均径は0.9±0.4cmであり、観察期間17±7か月(4-28か月)で、23症例41結節中8症例8結節(19.5%)に明らかなHCCへの変化を認めた(平均径1.4±0.5cm)。HCCの診断は、8例中4例は経皮的針生検による組織でHCCを証明し、残り4例はリピオドールCTによるリピオドールの沈着の確認で証明した。HCCに進展した結節としなかった結節を比較すると、フォロー開始時の大きさには差が無く(p=1.00)、CTAP/CTHAによる血流動態も、前者の7結節(87.5%)、後者の30結節(90.9%)がCTAPでdefect、CTHAでhigh densityのclassical patternであり差は無かった(P=0.77)。しかしdynamic CTでは、描出があったのが前者のうち4結節(50.0%)だったのに対し、後者では7結節(21.2%)のみであり(p=0.10)。さらにdynamicCTの動脈相でhigh、門脈相でlowのclassical patternであった3結節はすべて明らかなHCCとなった(p<0.01)。

【考察】

CTAP/CTHAはnon-surgicalな画像検査の中でもっともHCC検出の感度が高い検査であり、検出率は80-95%と報告されている。三相性CTやMRIで代用可能との報告もあるが、interventional CTの登場によりCTAP/CTHAの施行は容易となり、肝動脈塞栓術を引き続き行うことができる利点もあって、特に多発が疑われる症例では有用と考えられる。進展した肝硬変や治療後の症例では、肝内の血行動態の異常により、dynamic CTによる描出が損なわれるケースが多いが、そのような症例でもCTAP/CTHAにより肝細胞癌が描出できる場合がしばしばある。また描出パターンにより、質的診断にも有用である。

しかし、CTAP/CTHAは侵襲的な検査であり、コストもかかることから、ルーチンに用いることは適当ではなく、適応をしぼる必要があると考えられる。今までCTAP/CTHAの適応に関して、患者背景から検討した報告は無く、検討1で得られた結論は、CTAP/CTHAの適応を決定するにあたって、有用と考えられた。

Dynamic CT上単発の症例や初発の症例は、従来CTAP/CTHAの良い適応と考えられていたが、むしろ多発の症例や再発症例にこそCTAP/CTHAは行うべきと考えられた。実際、RFA予定でCTAP/CTHAを行った症例でも、CTAP/CTHAを行うことにより多数のHCCが指摘され、TAEに治療方針がかわった症例があった。再発症例のうち29例でCTAP/CTHAを施行することによりdynamic CTで認めなかった新たなHCCを認めたが、このうち16例では5個を越える多数のHCCを認めたため、RFAは中止となり、TAEのみが行われた。

CTAP/CTHAにおいては、その感度の高さと相まって、偽病変の多さが診断上の問題であった。特に小さなものに関しては、そのサイズゆえに生検も困難であり、治療方針決定にあたり、そのような結節がHCCか否かは大きな問題であり、検討2ではそのような結節の性質を明らかにするため、フォローアップによる検討を行った。

その結果、CTAP/CTHAで指摘された小結節には明らかなHCCとなるものがあり、鑑別に有用な因子として、dynamic CTでも描出され、特にclassical patternであったものはHCCに進展しやすいことが明らかになった。

CTAP/CTHAは再発症例に対して行うと有意に多くdynamic CTでは指摘されないHCCを診断することが可能であり、有用であると考えられた。

CTAP/CTHAで指摘される小結節には、経過観察により明らかなHCCに進展するものがあり、その判別にはdynamic CT所見の併用が有用であった。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、肝細胞癌(HCC)の診断に用いられる腹部血管造影CT(CT during arterial portography; CTAP/ CT hepatic arteriography; CTHA)に関し、その検査適応の決定にあたり考慮すべき因子が何であるかを明らかにするため検討1を、腹部血管造影CTで非典型的な所見が得られた場合、それがどの程度HCCの可能性があり、鑑別に有用な因子は何かを明らかにするため検討2を行なった。下記の結果を得ている。

検討1

137症例にdynamic CTおよびCTAP/CTHAを施行し、CTAP/CTAを施行した事によってdynamic CTで指摘された以外の新たな病変が見つかった群と、見つからなかった群との2群に分けた。両群間で、性、年齢、初発か再発か、肝炎ウイルス、dynamicCTで指摘した病変数、最大腫瘍径、血清アルブミン、総ビリルビン、GOT、GPT、PT、Plt、腫瘍マーカー(AFP、AFP-L3、DCP)、Child分類による肝機能などの各種パラメーターを比較した。その結果、多変量解析にて、再発症例であることが、有意にCTAP/CTAにより dynamic CTで指摘された以外の病変が見つかる条件であることが明らかになった(p=0.015、オッズ比4.20、95%CI 1.3-13.4)。

検討2

387例の連続した症例にdynamic CTおよびCTAP/CTHAを施行し、CTAP/CTHA所見上、684結節の明らかなHCCの他、2cm以下で、リピオドールCTでリピオドールの沈着が無く、エコーにて明らかな結節として指摘できない小結節を23例に41結節認め、これらを対象として経過観察を行った。経過観察は、原則として毎月腫瘍マーカーを含む血液生化学検査、3ヶ月毎に腹部超音波検査を行い、必要に応じてdynamicCTを施行した。経過観察中に結節の増大や他部位にHCCの再発が疑われた場合、CTAP/CTHAを再度施行し、結節のサイズ変化、CTAP/CTHAでの造影パターン、リピオドールCTでのリピオドール沈着の有無、経皮的針生検によって得た組織を評価した。その結果、フォロー開始時のCTAP/CTHAの他、dynamic CTでも描出があったものは、8結節中4結節(50%)が明らかなHCCとなったのに対し、dynamicCTで描出がなかった33結節では、明らかなHCCとなったのは7結節(21.2%)のみであった(p=0.10)。さらにdynamic CTの動脈相でhigh、門脈相でlowのclassical patternであった3結節はすべて明らかなHCCとなった(p<0.01)。

以上、本論文は、肝細胞癌(HCC)の診断に用いられるCTAP/CTHAに関し、その検査適応の決定と結果の判定につき解析した報告である。CTAP/CTHAの適応に関して患者背景から検討した報告はなく、また、CTAP/CTHAで認められる偽病変の鑑別は困難とされており、本検討はCTAP/CTHAによる画像診断に大きな貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

尚、審査会時点から、論文の内容について以下の点が改訂された。

内容に基づいて、タイトルの小修正を行なった。「腹部血管造影CTを用いた肝細胞癌の診断:検査適応の決定と非定型所見を示す腫癌のフォローアップによる検討」。

検査の追加(リピオドールCT)を行なった。

議論を充実させ、参考文献を大幅に増やした。

UTokyo Repositoryリンク