学位論文要旨



No 120820
著者(漢字)
著者(英字) Kowhakul,Wasana
著者(カナ) コウハクル,ワサナ
標題(和) 含窒素金属錯体エネルギー物質の熱的挙動に関する研究
標題(洋) A Study on Thermal Behaviors of the Nitrogen Containing Metal Complex Energetic Materials
報告番号 120820
報告番号 甲20820
学位授与日 2005.12.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第2933号
研究科 新創域創成科学研究科
専攻 環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 新井,充
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 教授 土橋,律
 東京大学 助教授 島田,荘平
 東京大学 助教授 阿久津,好明
内容要旨 要旨を表示する

緒言

エネルギー物質と環境

エネルギー物質は熱、衝撃、摩擦などにより多大なエネルギーを容易に放出する物質であり、花火やエアーバッグなどに応用されている。しかし、エネルギ一物質は適切な知見と制御なしでは深刻な事故に陥る可能性がある。エネルギー物質の反応は制御不能となり、爆発、火事および排ガスによる中毒などの原因を引き起こす。爆発物の認織不足による事故を軽減するために物質の特性が安全であると考えられる。その上で事故の場合被害を最小限にすることが可能となる。そのため、一般的にエネルギー物質の事故による被害と損失は他の場合よりも大きい。また有効なエネルギー物質の重要な特性は定義されている。エネルギー物質として、熱的感度は高い熱安定性が望ましく、エネルギーと発熱量では高い反応エネルギーや高い反応応答性が優先される。物質の挙動は外部からの機械的刺激および熱的刺激の両方の存在により変化する。そのため、エネルギー物質の利用により生じるこれらの刺激に対する適切な知見を得るべきである。物質の熱挙動は熱的刺激存在下でそのエネルギー放出の特性を示唆することから、エネルギー物質の特性の評価は重要な判断基準となる。

含窒素エネルギー物質

含窒素エネルギー物質は分解時に窒素を放出する物質である。またその構造に二重結合または三重結合を持っことから分解に伴い、比較的大きなエネルギーを得られる。窒素クラスターと呼ばれる100%窒素で構成される物質があるが、これらは分解時にクリーンなガスを発生するだけでなく、比較的大きなエネルギーを伴う。しかし、窒素クラスターは理論上でしか存在しない。テトラゾール、トリアゾールは50%以上窒素を含むエネルギー物質であり、多量の窒素ガスを与えるが分解時のエネルギーは窒素クラスターと比べ大きくない。また、銅、ニッケル、コバルト、銀のような遷移金属とニトロ基(NO2-)、アミノ基(NH2-)のような置換基は普通熱感度を改善し、反応速度を増加し、反応対処の手段となりうる。有用な物質として実用的な使用する前に、危険性評価を行う必要があり、物質の熱的挙動を調べることにより、エネルギー発生の特性を示唆することが可能となる。

研究方針と目的

金属が配位した窒素含有エネルギー物質は高い安定性と機械的感度を発揮する可能性がある。これらを示すほかの知見は見当たらなかった。本研究では窒素含有エネルギー物質としてトリアゾールとトリアゾールを用いて、その金属錯体の熱的挙動の影響に関する知見を得ることを目的とした。テトラゾール(2)およびトリアゾール(3)を含む無数の物質がある中、テトラゾール、トリアゾールそれぞれの電子構造に着眼した。さらに、置換基効果(4、5)による1Htri金属錯体の芳香族性について調べた。

実験

1Hテトラゾール金属錯体の合成と分析

1HT-Cu、1H-Co、1HT-Niと1HT-Agそれぞれ錯体を前報告に従って合成した。構造確認に元素分析およびIRを用いた。前報告において合成法とFTIRや元素分析のような構造確認を行った。また1HT、金属塩、混合物、金属錯体を密閉セル-示唆走査熱量測定(SC-DSC)を行った。これらの結果を比較すると、金属錯体の場合1HTおよび金属塩の吸熱ピークは見られなかった。

感度試験

感度試験はSC-DSC、静電気感度試験、摩擦感度試験、落追感度試験をJIS規格に基づいて行った。

結果と考察

1HT金属錯体のSC-DSCの結果から分解温度に達する前に1HTは融解の吸熱ピークを示した。金属錯体の場合、この吸熱ピークは見られない。熊崎はこの現象を電子状態の変化に起因することであると報告している。隣接する金属の陽イオンが1HT分子の電子を引き付け、わずかに負に帯電している。イオン化した1HT分子および金属は錯体のクーロン力で強く結合し、中性分子は純粋なアゾールの結晶中でファンデルワールスカにより繋がっている。クーロンカはファンデルワールスカよりも強いことから金属錯体は1HT分子結晶と比較して融解することは難しい。また、1HT金属錯体の発熱ピークは純粋な1HTと比較してシャープになり、分解開始温度も増加した。感度試験の結果から、 1HTおよび1HT金属錯体は摩擦感度および静電気感度において同じ級だった。どの試料の結果も16-36Nであり、それぞれ6級および3級であった。 1HTの50%爆点(E50)は26.92cmとなり、 5級となった。金属錯体の場合では感度試験は50cmの高さにハンマーを設置し、6回行った。これはこれらの金属錯体はこの感度試験で爆発しなかった。

1H-テトラゾール金属錯体の量子化学計算

量子化学計算および構造最適化にガウシアン03プログラムを方法と基底系にB3LYP/LanL2DZで行った。金属錯体の分子軌道にジーオープンモルを用いた。前報告から、置換基を有する1HTの芳香族性は分解開始温度(TDSC)の影響を受けた。Bird'sの芳香族指標(I1)が増加するとTDSCも増加した。本研究では1HT金属錯体を調査し、1HT金属錯体として金属が配位した1HTの場合、I1はTDSGに関係しなかった。一方、 ESEを取り入れ、全体の電子の結果TDSCに関係した。ESEの結果が高いとTDSCも高くなるということを明らかになった

爆燃試験

1HT金属錯体の燃焼性の評価を52ml爆燃試験により行った。試験装置は圧力トランスデューサ(PE-200kws)、熱伝対およびガス出口の安全弁付き密閉容器である。第一の着火剤としてTi/KNO3粉末100mgおよび、第二着火剤としてペレット状のB/KNO3(250mg)を組み合わせた点火装置を1HT金属錯体の着火として用いた。酸化剤にKCIO4を用いた。爆燃試験の全ての試料は化学量論に基づいて酸素バランスがゼロになるように調製した。1HT金属錯体の爆燃試験の結果は、銀錯体についてはペレット状にできなったため、試験を行えなかった。1HTの爆燃の挙動は熱挙動と同様に金属イオンの調整によって変化した。(dp/dt)最大はほとんど増加した。とくに1HT-Cu錯体は1HTの(dP/dt)の約2倍となった。適切な組成の触媒や置換基は実際燃焼速度を上げると考えられる。1HT金属錯体中に適切な量の金属が含まれるとき、燃焼速度は上がる。IHT-Cu、1HT-Co金属錯体は1HT-Niに比べその両方の錯体は増加したが、1HT-Niの爆燃速度は1HTに比べ減少した。

まとめ

1HT金属錯体の分析結果について次の結果をまとめた。

一つ目は1HT金属錯体の熱安定性は1HTと金属の相互作用により高くなった。二つ目に、1HT金属錐体の摩擦感度は全て6級であり、静電気感度試験は3級であった。落追感度試験ではどの錯体も爆発しなかった。JIS規格により8級に分類される。三つ目に、1HT金属錯体のI1はTDSCには関係しなかったがESEに関係し、 1HT金属錯体の電卓全体はTDSCに関係した。最後に、物質中の金属の量は充分な影響を持ち、金属の割合の関係と最大圧力速度によって燃焼速度に充分な影響を持つことが明らかになった。

1H-1、2、4-トリアゾール金属錯体

合成と分析

1Htri-Cu、 iHTri-Co、 1Htri-Ni、 1Htri-Ag錯体は前報告にしたがって合成した。元素分析、 IR、 NMRおよび再結晶をおこなった。前報告に従い、錯体の構造はすでに明確にした。構造確認にFT-IRおよびNMRを行った。ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて金属錯体の再結晶を行った。1HTri、金属塩、混合物、錯体のようにそれぞれの試料においてSC-DSCを行った。錯体の場合、 1HTriと金属塩の吸熱ピークは消失した。1Htri金属錐体の再結晶前と彼のNMRスペクトルから1Htriのプロトンピークが1HTri錯体の場合、ピークが消失した。元素分析の結果が1%以上だったとしても、再結晶前の1HTri金属錯体と再結晶後では同じ結果が得られた。これらの結果から、1Htri金属錯体を再確認した。

感度試験

1HTri金属錯体のSC-DSCの結果から、分解温度前に、 1HTriは融解を示す吸熱ピークを示した。金属錯体の場合、この吸熱ピーク、は確認できなかった。この現象は分子構造の電子状態の変化に起因すると考えられる。さらに、 1Htri金属錯体の発熱ピークは純粋な1HTriと比較してシャープになり、 1HTri-Ni錯体のTDSCは増加したが、 1Htri-Cuの場合、感度試験の結果は減少した。1HTriおよび1HTri金属錯体は摩擦感度および落追感度において同じクラスだった。どの試料の結果も353Nであり、それぞれ7級、 8級であった。静電気感度はJISに従い、銅と銀錯体は3級であった。また、ニッケルおよびコバルトの結果は純粋な1Htriと同じ4級に分類された。

量子化学計算

前報告にしたがって、 1HTriの芳香族性のTDSCは置換基の影響を受けた。Bird'sの芳香族の指標(I1)が増加するとTDSCも増加した。このように、本研究では1HT金属錯体を調査し、 1Htri金属錯体の場合、 I1はTDSCにお互い関係するということが分かった。もしI1が高ければTDSCも上昇する。

爆燃試験

1Htri金属錯体の結果から銀錐体の爆燃試験は試料をペレット状にできなかったため行えなかった。 1HTriの爆燃の挙動は金属イオンの1Htriの調整によって変化した。(dp;/dt)最大が減少した。特に1Htri-Ni錯体のとき、 1Htriの約2倍を示した。錯体中の金属の割合と燃焼速度は相関があった。1Htri金属錯体の燃焼速度が減少したら、触媒と置換基の間の割合に一致することで減少すると考えられる。錯体中における金属の割合の並べ方は1Htri-Co、 1Htri-Cu、 1Htri-Niとそれぞれ燃焼速度の資質はこの配列と一致する。

まとめ

一つ目に、 1Htriの熱安定性は1Htri金属錯体の相互作用により向上する。二つ目に1Htri金属錯体、 I1はESEよりもTDSCに関係する。三つ目に1Htri金属錯体は摩擦感度試験では7級、落追感度試験では8級に分類された。また、静電気感度試験では、 JISに従い、銅と銀の錯体の両方が、 3級に分類された純粋なアゾールから違っていた。最後に、物質中の金属の割合は金属の割合の関係と最大圧力速度の価値によって検証され、燃焼速度に大きく影響することが明らかになった。

置換基を有する1H・テトラゾール金属錯体

本研究では1HT金属錯体の芳香族に注目した。 1HTが金属を配位しても、芳香族は錯体のTDSCに影響しなかった。このように1H金属錯体の置換基の役目もまた実験した。ガウシアン03の計算によれば、置換気を持つ1HT金属錯体の芳香族性は1HT金属錯体の場合と同様の結果を示した。1HTの芳香族は金属が配位しても失われる。

置換基を有する1H-1、2、4トリアゾール金属錯体

本研究では1Htriの芳香族性に注目し、金属が配位しても芳香族性はまだ鐸体のTDSCに影響する。このよう1HTri金属錯体の置換基の役目を調べた。

合成と分析

[(1Htri-NO2)Cu]および[(1Htri-NH2)cu]を前報告にしたがって合成した。元素分析およびIRスペクトラを文献値と比較した。

感度試験

1Htri、 [(1Htri-NO2)Cu]、 [(1Htri-NH2)Cu]のSC-DSCの結果から分解温度前に、 1HTriは融解を示す吸熱ピークを示した。金属錯体の場合、この吸熱ピークは確認できなかった。この現象は分子構造の電子状態の変化に起因すると考えられる。さらに感度試験の結果から置換気を持つ1HTri金属錯体の結果はどれも摩擦感度と落対感度試験は同じ級だった。どの試料の結果も353Nで、それぞれ7級と8級だった。静電気感度はJISに従い、 (1Htri-NO2)Cuは3級に分類された。しかし、ニッケルおよびコバルト錯体は1Htriと同様に4級となった

量子化学計算

置換基を持つ1Htri金属錯体のI1とTDSCの関係は1Htri金属錯体と同様の結果を示した。さらに、1Htri金属錯体と置換気を持つ1Htri金属錯体の両方とも、I1はTDSCに影響した。

まとめ

置換基効果を調べるため、 1Htri-Cu錯体の場合を調べた。はじめに、熱分析より、 1Htriは置換基および銅の配位により熱安定性と純粋なトリアゾールの熱反応性の向上が期待できる。二つ目に置換基を持つ1Htri金属化合物のI1はESEよりもTDSCに関係があることが分かった。

総括

本研究の目的は遷移金属を持ったテトラゾールおよびトリアゾールなどを分析することにより、窒素含有エネルギー物質の錯体の熱的挙動について知見を得て、解明することである。

1HTおよび1Htriの熱安定性および衝撃感度試験を行い、金属錯体として金属が配位することにより向上することがわかった。1HTおよび1Htri金属錯体の熱安定性の場合、 TDSCは最小でも36-39℃増加し、衝撃感度は純粋な1HTおよび1Htriよりも鈍感になった。さらに、 1Htri金属錯体は錯体の芳香属性に依存する。1HTおよび1Htriは金属や置換基を導入することによって芳香族性を失った。1HTの場合は1HTの芳香族のパターンが1Htriと比べて完全ではないことから1Htriよりも芳香族性を失うことがわかった。

本研究の結果として、高い安定性と反応性に着眼し、エネルギ一物質を有用な特性に改良する手段を提案した。そして金属が配位した窒素含有エネルギー物質の熱的挙動の影響について知見を得てその手法を構築した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「A Study on Thermal Behaviors of the Nitrogen Containing Metal Complex Energetic Materials(含窒素金属錯体エネルギー物質の熱的挙動に関する研究)」と題し、窒素含有エネルギー物質としてテトラゾール(1HT)およびトリアゾール(1Htri)を選択し、それらの金属錯体の熱的挙動の支配要因に関する知見を得ることを目的として行った研究の成果をまとめたもので6章からなる。

第1章は序論であり、含窒素金属錯体エネルギー物質の熱的挙動について背景および既往の研究を紹介し、現状の問題点を提起するとともに、本論文の目的と研究方針について述べている。

第2章では、1HT金属錯体の熱的挙動の把握と解析を行っている。1HT金属錯体のSC-DSC測定の結果、1HT単体では分解開始温度より低温側に見られる融解による吸熱ピークが、金属錯体では確認されなかった。これは1HT単体と金属錯体の電子状態の変化に起因するものであると考えた。金属錯体は、隣接する金属の陽イオンが1HT分子の電子を引き付け、わずかに負に帯電させることによってイオン化されているため、1HT分子と金属の錯体はクーロンカで強く結合したイオン性結晶となっていると考えられる。一方で、中性分子である1HT単体は、ファンデルワールスカによる分子結晶を成していると考えられ、一般にクーロンカの方がファンデルワールスカよりも強いことから、1HT金属錯体は1HT単体と比較して融解し難くなると考えた。また、 1HT金属錯体の発熱ピークが1HT単体と比べてシャープになり、分解開始温度が上昇することも、1HT金属錯体と1HT単体の結晶性状の違いにより説明できることを示した。

1HT単体および1HT金属錯体の量子化学計算および構造最適化は、ガウシアン03プログラムにより、密度汎関数法(B3LYP)、基底関数LanL2DZを用いて行った。計算の結果、1HT単体では、電子が非局在化しているのに対し、金属錯体では、電子の局在化が顕著になることが示された。これにより、既往の研究により明らかにされている、置換基の異なる1HT単体における芳香族性(Birdによる芳香族指数(I1))と熱安定性(分解開始温度(TDSC))との相関、および、今回確認された1HT金属錯体における芳香族性と熱安定性の無相関を説明できることを示した。

感度試験の結果では、1HT金属錯体の感度は、摩擦感度および静電気感度においては、1HT単体とほぼ同程度、また、打撃感度においては不爆となり、金属錯体化することで、安全性の向上が計れる可能性を示した。

第3章では、1Htri金属錯体の熱的挙動把握と解析を行っている。1Htriの構造は1HTの構造とよく似ているが、5員環中の窒素原子数が4と3の違いがある。1Htri金属錯体のSC-DSC測定の結果、第2章で示した1HTの場合と同様、1Htri単体では分解開始温度より低温側に見られる融解による吸熱ピークが、金属錯体では確認されなかった。しかしながら、発熱ピークの形状は、1HTの場合と違って、金属錯体においても比較的ブロードであること、分解開始温度の上昇もそれほど顕著でないことから、金属錯体においてイオン性結晶となっている可能性は、1HTの場合ほど高くないと考えた。

量子化学計算および構造最適化を行った結果からは、1Htriでは、単体のみならず金属錯体においても電子の非局在化が見られ、金属の陽イオンによるイオン化が顕著でないことが示された。また、1Htri金属錯体においては、芳香族指数と分解開始温度に正の相関が認められ、このことも1Htri金属錯体ではイオン化が顕著ではなく、芳香族性を失っていないことを示している。

1Htri金属錯体の摩擦感度および打撃感度は、1Htri単体よりも鈍感になり、また、静電気感度は、ほぼ同等であった。このことから、1Htriにおいても1HTの場合と同様に、金属錯体化することで、安全性の向上が計れる可能性を示した。

最後に、爆燃実験より1Hti金属錯体はエアーバックガス発生剤として用いることはできないが、その物質中の金属の割合と最大圧力速度に相関があることが確認され、燃焼速度に影響を持つことが明らかになった。

第4章では、1HT金属錯体の熱的挙動に及ぼす置換基の効果について検討を行っている。ここでは1HT金属錯体の芳香族指数と置換基の効果に注目した。1HT単体では、置換基の種類により1HTの芳香族指数が変化し、芳香族指数と分解開始温度との間に正の相関があることが知られている。しかしながら、1HT金属錯体の場合、芳香族指数と分解開始温度に相関は確認できなかった。このことは、1HTの場合、金属錯体となることで芳香族性が失われ、芳香族指数が意味を為さなくなるものと考えられる。このことは、第2章で示した量子化学計算結果によっても支持されるものである。

第5章では1Htri金属錯体の熱的挙動に及ぼす置換基の効果について検討を行っている。ここでも第4章と同様に、1Htri金属錯体の芳香族指数と置換基の効果に注目した。1Htri単体では、置換基の種類により1Htriの芳香族指数が変化し、芳香族指数と分解開始温度との間に正の相関があることが知られている。1Htri金属錯体では、置換基として電子供与基であるNH2基および電子吸引基であるNO2基を選択して熱的挙動を解析した結果、芳香族指数と分解開始温度にも同様に正の相関が確認された。このことから、1Htriの場合には、金属錯体となっても芳香族性を失うことはなく、その芳香族性が分解開始温度を支配する要因となることが確認された。このことは、第3章に示した量子化学計算よっても支持されるものである。

第6章は総括であり、本論文の成果をまとめている。

以上要するに、本論文は、窒素含有エネルギー物質金属錯体としてテトラゾールとトリアゾールの金属錯体をとりあげ、それらの熱的挙動と分子の電子状態が密接に関連することを明らかにするとともに、その熱的挙動の制御に関する知見を提供しており、エネルギー物質化学、安全工学ならびに環境システム学の発展に寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士(環境学)の学位請求論文として合格と認められる。

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