学位論文要旨



No 120898
著者(漢字) 木本,健二
著者(英字)
著者(カナ) キモト,ケンジ
標題(和) 建築プロジェクトマネジメントにおけるコンピュータ支援システムの開発手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 120898
報告番号 甲20898
学位授与日 2006.03.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6175号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 松村,秀一
 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 助教授 野口,貴文
 東京大学 助教授 清家,剛
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,建築プロジェクトマネジメントの高度化として「マネジメントプロセスにおける合理性の実現」,「マネジメントの効率化」,そして「プロジェクト多様性への対応」をねらいとしたシステム開発手法を提案している。提案手法はコンピュータ利用を前提とし,エンドユーザとシステム開発者が共同でプロジェクト対応のシステム構築を行う手法の提案である。

エンドユーザとシステム開発者が共同でシステム設計を行うためのUMLモデリングを提案している。UML(Unified Modeling Language/統一モデリング言語)はコンピュータシステムの構築を主たる目的とし,システムの静的な構成,動的な振る舞いを記述できるグラフィカルなモデリング言語である。9種の多様なダイアグラムを用意しており,エンドユーザにも直感で理解可能な言語である。

次にシステム設計において,システム論理とGUI(Graphical User Interface)において,パターン概念を用いることを提案している。システム論理は,エンドユーザがシステムを利用するときの処理手順を決定するものである。またGUIは,エンドユーザがシステムと直接,接する部分であり,情報の入出力に相当する部分でもある。パターンとはその有用性を実証済みの定型処理のことである。パターンを利用することによって,効率的で,多様性に対応可能なしくみを構築することが可能であることを示している。

本論文では建築のプロジェクトマネジメントにおいて重要な項目である工程・原価・品質・安全の管理項目から3つのシステム開発事例:高層RC造建築物のための工程計画システム,長期修繕計画とLCC算定システム,建築工事管理支援モバイルシステムを選定し,具体的にその開発手法と手順を示した。

第1章:序論では,背景として日本の建設業,建築プロジェクトについてその歴史,成り立ちおよび特徴について記述し,マネジメントに関する史的考察を行い,目的指標として合理性,有効性,生産性や能率があることを指摘した。システム化が期待される業務は計画業務,データ整理業務,書類作成業務であることを示した。そして日本の建築プロジェクトマネジメントに関連する技術開発について整理し,この20年間ではマネジメント業務の支援としては特にコンピュータが多く利用されるようになっていることを示した。知的手法としてネットワークや2次元・3次元建物モデル,シミュレーション,グラフや回帰分析,QC七つ道具があり,情報技術としてはワープロ・表計算・CADなどの汎用ソフトウエア,データベース・ネットワーク・会議システムなどの情報共有ツール,2次元および3次元CADなどの可視化ツール,PDA・デジタルカメラ・携帯電話・ICタグなどのモバイルツールがあることを指摘した。既往研究および技術開発の失敗事例について分析し,建築プロジェクトのマネジメントを高度化するには「マネジメントプロセスにおける合理性の実現」,「マネジメントの効率化」,そして「プロジェクト多様性への対応」が必要であることを示した。

第2章では,マネジメント業務の高度化手法として1)コンピュータ支援システムの構築,2)EUD(End User Development)によるエンドユーザ主導のシステム構築,3)UMLによるマネジメント業務のモデリング,4)パターン概念に基づいたシステム設計,を提案している。コンピュータ支援システムの開発手法として,まず汎用ソフトウエアと専用ソフトウエアの適切な選択と利用,発展的配布モデルのような繰り返し性を考慮した開発プロセス,そしてエンドユーザとシステム開発者が共同するEUDモデルによる開発手順を示している。EUDを進めるには,エンドユーザとシステム開発者間のコミュニケーションツールとしてのシステムのモデリングが必要かつ重要であり,システムを多面的に記述可能なUML(Unified Modeling Language/統一モデリング言語)を採用している。本論文では建築生産におけるコンピュータ利用の観点からダイアグラムを機能ごとに分類し,モデリングフローとして5つのSTEPを提案している。順に,利用形態,業務フロー,情報フロー,システム要素,システム構成のモデリングである。パターンは再利用が容易であり,効率性を実現する。コンピュータプログラミングレベルでのパターンとしてはデザインパターンが知られている。本論文ではアーキテクチュアレベルを対象とし,システム論理のパターン検討においてデザインパターンの援用を試みた。またユーザインターフェイスのパターン検討をおこなった。

第3章:UMLによる建築プロジェクトマネジメント業務のモデリングでは,工程管理における「高層RC造のための工程計画システム」,原価管理における「長期修繕計画とLCC算定システム」,品質管理と安全管理における「建築工事管理支援モバイルシステム」について,UMLモデリングと,「システム論理」と「GUI」に対してパターン化を行った。

「高層RC造建築物のための工程計画システム」は,基準階が何度も繰り返されるという特徴をもつRC造躯体の基準階工程計画をシステム化するものであり,表計算ソフトウエアとスケジューリングソフトウエアを用いたシステム構成を示した。

「長期修繕計画およびLCC算定システム」は,竣工後の建物の維持保全を計画的に行うための長期修繕計画と,企画または設計段階において建物のLCC(Life Cycle Cost / ライフサイクルコスト)の算定をシステム化するものであり,表計算ソフトウエアを用いたシステム構成を示した。

「建築工事管理支援モバイルシステム」は工事管理者が現場フィールドにて行う検査,進捗管理,建方精度管理をシステム化するものであり,PDA(携帯情報端末)と表計算ソフトウエアを用いたシステム構成を示した。

第4章:UMLモデリングからのコンピュータ支援システムの実装では,3つのシステムについてシステムの概要,システムの操作手順,そしてシステムの評価について記述した。

高層RC造建築物のための工程計画システムでは,工程評価で用いる指標としてバランスロスと平滑度指数の論理を採用した。これらの指標はラインバランシング理論の適用である。バランスロスは基準階工程の評価指標として機能していることを確認した。

長期修繕計画およびLCC算定システムでは両システムの試行事例と特徴を示した。また集合住宅と事務所についてはシステムの算定精度と構成比率の特徴を分析し,システムの有効性を確認した。

建築工事管理支援モバイルシステムでは,6種類のGUIパターンを用いて検査および進捗管理,建方精度管理の3つの多様なシステムを構築できることを示した。

第5章:結論では,本論文を総括するとともに,今後の課題について整理した。

コンピュータ支援システムによる成果は利用者のコンピュータに関する理解と知識の水準に無関係というわけではない。利用者のコンピュータリテラシの維持,向上が必要かつ重要である。システム開発の観点からは,ユースケースモデリングにおいて,これらの要素を十分に考慮する必要がある。

本論文では開発手法として,エンドユーザとシステム開発者がともに理解し,システムを共同設計できるUMLモデリングの採用とその利用方法を提案した。UMLモデリングの記述方法の更なる向上,ダイアグラムからコード実装への自動化などは今後の課題である。

本論文におけるパターンの適用はシステム設計レベルのアーキテクチュアを対象とし,その効果を確認した。プログラムグレベルのデザインパターン,本論文で対象としたシステム設計レベルのアーキテクチュアパターン,最上位のビジネスパターンへの展開と全体の体系化が今後の課題である。

審査要旨 要旨を表示する

提出された学位請求論文「建築プロジェクトマネジメントにおけるコンピュータ支援システムの開発手法に関する研究」は、建築プロジェクトマネジメントの高度化としてマネジメントプロセスにおける合理性の実現、マネジメントの効率化、そして「プロジェクト多様性への対応」をねらいとしたコンピュータ利用型システムの構築手法を提案した論文であり、全5章からなっている。

第1章では、先ず、研究の背景、目的、既往の関連研究の成果等を明らかにしている。その中で、日本の建設業、建築プロジェクトの歴史、成立ち及び特徴について記述し、目的指標として合理性、有効性、生産性や能率があることを指摘した上で、システム化が期待される業務は計画業務,データ整理業務,書類作成業務であることを示している。更に既往研究および技術開発の失敗事例に関する分析により、建築プロジェクトのマネジメントを高度化するには、マネジメントプロセスにおける合理性の実現、マネジメントの効率化、プロジェクト多様性への対応が必要であることを示している。

第2章「建築プロジェクトマネジメント支援システムの構築方法」では、先ず、マネジメント業務の高度化手法として1)コンピュータ支援システムの構築、2)EUD(End User Development)によるエンドユーザ主導のシステム構築、3)UMLによるマネジメント業務のモデリング、4)パターン概念に基づいたシステム設計を提案し、コンピュータ支援システムの開発手法として、汎用ソフトウエアと専用ソフトウエアの適切な選択と利用、発展的配布モデルのような繰り返し性を考慮した開発プロセス、そしてエンドユーザとシステム開発者が共同するEUDモデルによる開発手順を示している。更に、ダイアグラムを機能ごとに分類した上で、利用形態、業務フロー、情報フロー、システム要素、システム構成から成るモデリングフローを提示している。また、再利用可能なパターンとして、システム論理のパターン検討におけるデザインパターンの援用方法を提案している。

第3章「建築プロジェクトマネジメント業務のモデリング」では、工程管理における「高層RC造のための工程計画システム」、原価管理における「長期修繕計画とLCC算定システム」、品質管理と安全管理における「建築工事管理支援モバイルシステム」について、UMLモデリング、システム論理とパターン化の方法を開発、提案している。具体的には、「高層RC造建築物のための工程計画システム」では、RC造躯体の基準階工程計画の表計算ソフトウエアとスケジユーリングソフトウエアを用いたシステム構成を提示している。「長期修繕計画およびLCC算定システム」では、建物の長期修繕計画とLCC算定をシステム化するためのシステム構成を提案している。また、「建築工事管理支援モバイルシステム」では、工事管理者が現場フィールドにて行う検査、進捗管理、建方精度管理のシステム化の方法を提案している。

第4章「UMLモデリングからのコンピュータ支援システムの実装」では、3つのシステムについてシステムの概要、システムの操作手順、そしてシステムの評価を示している。先ず、高層RC造建築物のための工程計画システムでは、工程評価で用いる指標としてバランスロスと平滑度指数の論理を採用し、バランスロスが基準階工程の評価指標として機能していることを確認している。次いで、長期修繕計画およびLCC算定システムでは、両システムの試行事例と特徴を示した上で、システムの算定精度と構成比率の特徴を分析し、その有効性を確認している。そして、建築工事管理支援モバイルシステムでは、6種類のGUIパターンを用いて検査および進捗管理、建方精度管理の3つの多様なシステムを構築できることを明らかにしている。

第5章「結論」では、前4章で新たに得られた知見を整理した上で、建築プロジェクトマネジメントにおけるコンピュータ支援システムの開発手法を提案し、本論文の結論としている。

以上、本論文は、建築プロジェクトマネジメントにおけるコンピュータ支援システムの実際の開発研究を通して、建築プロジェクトマネジメントの実態に即した効果的な支援システムの構築方法を具体的に提案した論文であり、建築学の発展に寄与するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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