学位論文要旨



No 120905
著者(漢字) 西川,弘之
著者(英字)
著者(カナ) ニシカワ,ヒロユキ
標題(和) 自己組織化を利用したコロイド粒子の配列過程に関する研究
標題(洋)
報告番号 120905
報告番号 甲20905
学位授与日 2006.03.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6182号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 大久保,達也
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 助教授 岡田,文雄
 東京大学 助教授 山口,猛央
 東京大学 教授 丸山,茂夫
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、自己組織化によるコロイド粒子の配列過程を計算機シミュレーション・実験の両面から検討したものである。特に、学術・産業の両面で注目されているコロイド粒子の二次元配列膜(単粒子膜)についての検討を行った。コロイド粒子の二次元配列膜についてはこれまでに様々な作製方法が提案されているが、本研究では作製プロセスが簡便で生産面で有利な液膜法に着目した。目的の構造を得るためには、粒子の配列ダイナミクスを明らかにすることが欠かせない。しかし、コロイド粒子のサイズはマイクロメートル以下と小さいため、直接ダイナミクスを観察することは困難である。そこで、配列過程の詳細を検討するために、個々の粒子を追跡できる離散要素法を適用して計算機シミュレーションを行った。シミュレーションコードについては共同研究者の指導の下で自ら開発した。開発したコードを用いて、まず様々な粒子濃度で計算を行い、計算結果が実験で得られている粒子群の配列構造と定性的に一致することを示している。続いて、規則的な二次元配列膜が得られる可能性のある粒子濃度において、様々なプロセスと構造の関係を明らかにしている。それらの結果より、規則的な粒子配列膜を得るための指針を提案している。本論文は全6章から構成されており、各章の内容は以下のように要約できる。

第1章では、本研究の背景と既往の研究について述べ、本研究の目的および本論文の構成を述べている。

第2章では、液相中コロイド粒子にはたらく様々な力に関して、その理論を述べている。力の表式については、背景と表式の導出を含めて詳細に述べている。

第3章では、本研究で適用した離散要素法、ならびに解析手法について述べている。

第4章では、様々な粒子濃度の条件で計算を行い、計算結果が実験で得られた粒子配列構造と定性的に一致することを示している。また、配列過程において粒子構造がどのように変化して終状態に至るかを議論している。

第5章では、規則的な二次元配列膜に焦点を絞り、様々なプロセスにおいて計算を行い各因子の影響について詳細に述べている。まず、ブラウン揺動力と基板摩擦力に着目し、得られた配列構造との関係を定量的に述べている。続いて、液膜法による粒子配列膜作製実験を行い、計算結果との比較することで、粒子径が10nm程度の場合、水和斥力の存在が配列形成を阻害する可能性を示唆している。それらの結果を基に、規則的な二次元配列膜を得るための指針を提案している。

第6章では、本研究で得られた結果を総括している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、自己組織化によるコロイド粒子の配列過程に関して、計算機シミュレーションを中心に検討したものである。特に、学術・産業の両面で注目されているコロイド粒子の二次元配列膜(単粒子膜)についての検討を行っている。コロイド粒子の二次元配列膜についてはこれまでに様々な作製方法が提案されているが、本研究では作製プロセスが簡便で生産面で有利な液膜法に着目した。粒子の配列ダイナミクスを明らかにすることができれば、目的の構造を作製する指針となる。しかし、コロイド粒子のサイズはマイクロメートル以下と小さいため、ダイナミクスを直接観察することは困難である。そこで、配列過程の詳細を検討するために、個々の粒子を追跡できる離散要素法を適用して計算機シミュレーションを行っている。自ら開発したコードを用いて、まず様々な粒子濃度で計算を行い、計算結果を実験で得られている粒子群の配列構造と比較し、モデルの妥当性を検証している。続いて、規則的な二次元配列膜が得られる可能性のある粒子濃度において、様々なプロセスと構造の関係を明らかにしている。それらの結果より、規則的な粒子配列膜を得るための指針を提案している。本論文は以下の全6章から構成されている。

第1章では、コロイド粒子配列膜の作製法と応用を中心に既往の研究をまとめている。その上で、コロイド粒子配列膜の作製に関する問題点を挙げ、それらを解決するためには計算機シミュレーションを利用することが有望であることを述べている。続いて、本論文の構成を述べている。

第2章では、液相中コロイド粒子にはたらく様々な力に関して、その理論を述べている。力の表式については、背景と表式の導出を含めて詳細に述べている。具体的には、横毛管力、縦毛管力、van der Waals力、電気二重層力、溶媒和力(非DLVO力)、摩擦力などについて述べている。

第3章では、本研究のシミュレーション手法である離散要素法と配列構造を評価するための解析手法を述べている。具体的には、動径分布関数、配位数分布、等方配列度(Isotropic Ordering Factor)、無次元境界長さ(Non-dimensional Boundary Length)について述べている。

第4章では、様々な粒子濃度の条件で計算を行い、計算結果が実験で得られた粒子配列構造と比較し、モデルの妥当性を検証している。まず二次元系で、液膜高さを粒子径の半分の状態を初期状態とし、被覆率が0.4 - 0.8相当の粒子濃度の条件でシミュレーションを行っている。その結果、主に横毛管力により粒子群は凝集し、被覆率に応じて鎖状クラスターや最密充填構造からなるドメインを形成する。これらの構造は、実験で得られた粒子配列膜の構造に定性的に一致する。また三次元系で、液膜高さが粒子径の3倍を初期状態として、液膜高さの低下を模擬し、被覆率が0.8 - 1.4相当の粒子濃度の条件でシミュレーションを行っている。その結果、被覆率が1付近では大多数の粒子が基板に接し、最密充填構造から成るドメインを形成する。これに対し、被覆率が1より大きい場合、被覆率が大きいほどCubic bilayer構造を形成し、最密充填構造から成るドメインの形成を阻害する。すなわち、密な単粒子膜を形成させるには、被覆率が1付近になるよう粒子濃度にコロイド分散液を調製する必要があることを明らかにしている。

第5章では、規則的な二次元配列膜に焦点を絞り、様々なプロセスにおいて計算を行い各因子の影響について詳細に述べている。まず、ブラウン揺動力と基板摩擦力に着目し、得られた配列構造との関係を定量的に述べている。その結果、粒子径が10nm程度の場合はブラウン揺動力の影響が顕著になり、ある範囲の基板摩擦力がある場合でも凝集が進行することを明らかにしている。続いて、液膜法による粒子配列膜の作製実験を行い、得られた配列膜の構造とシミュレーション結果を比較している。その結果、実験において、粒子径が10nm程度の場合は被覆率が0.7以上の配列膜が得られないことを明らかにしている。一方、シミュレーション結果では、粒子径が10nmの場合でも被覆率が0.9以上の配列膜が得られる。これらの結果より、シミュレーションで想定していない水和斥力が、粒子径が10nmでは密なドメインの形成を阻害すると考察している。さらに、被覆率が1になるような粒子濃度において様々なプロセスでシミュレーションを行い、欠陥のない密なドメインを形成するにはどのようなプロセスを経ればよいのかを検討している。その結果、密なドメインを得るには、基板‐粒子間、粒子‐粒子間の摩擦を小さくすることが重要であることを示している。また、乾燥直前の液膜高さ(粒子直径の2倍以下)において液膜低下速度を遅くすれば、作製速度を若干遅くする程度で配列膜の秩序度が改善されることを示している。

第6章では、本研究で得られた結果を総括している。

以上、本論文は自己組織化によるコロイド粒子の配列過程を計算機シミュレーションを中心に検討し、得られた結果を基にして規則的な単粒子膜を得るためのプロセスを提案しており、化学システム工学の発展に寄与するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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