学位論文要旨



No 120969
著者(漢字) 山田,琢磨
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,タクマ
標題(和) TST-2球状トカマクにおける密度揺動測定
標題(洋) Density Fluctuation Measurements in TST-2 Spherical Tokamak
報告番号 120969
報告番号 甲20969
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4769号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 半場,藤弘
 東京大学 教授 佐野,雅己
 東京大学 助教授 大橋,正健
 東京大学 教授 高橋,忠幸
 東京大学 教授 牧島,一夫
内容要旨 要旨を表示する

東京大学のTST-2実験装置は中心密度が2×1019m-3程度の球状トカマクプラズマ(ST)である。この実験装置では現在、High Harmonic Fast Wave(HHFW)を用いたRadio Frequency(RF)加熱実験が行われており、HHFWの周波数は21MHz、最大加熱パワーは400kWである。HHFWを用いたRF加熱は、STの加熱で用いられる有効な加熱方法であると期待されている。通常のトカマク装置で加熱に利用される電子サイクロトロン波やLower Hybrid波などの波は誘電率が高いSTプラズマでは中心付近まで伝播することができないのに対し、HHFWは誘電率が高いプラズマ中でも深く伝播することができ、電子によって効率的に吸収されることでプラズマの加熱を行うことができる。HHFWによるSTの加熱はプリンストンプラズマ物理研究所(米国)のCDX-U実験装置で初めて行われ、続くNSTX実験装置でも重要なテーマとして実験が行われている。プラズマのRF加熱による効果を確かめるためには、RF加熱によって励起されるポロイダル電場が引き起こす密度の揺動を検出することが非常に重要である。図1は、TASK/WMコードによってTST-2のRF加熱による効果をシミュレートした結果であり、励起された電場の強度分布を表している。この図から、励起される電場の分布は、プラズマの半径方向に節を持っていることが分かる。これらの節の間隔は、HHFWの波数ベクトルの垂直方向成分と一致する。

マイクロ波反射計はプラズマの電子密度分布や電子密度の揺動を計測するのに非常に適しており、多くのプラズマ装置で用いられている。また、時間分解能が早いことから、RF加熱による周波数の高い振動も検出することができる。入射したマイクロ波は、その周波数に依存する密度に相当するカットオフ層によって反射される。反射計はこの性質を用い、反射波の位相の変化からカットオフ層の径方向の振動を検出する。また、周波数を掃引することでプラズマ中の測定位置を時間的に変化させることができ、密度分布をもとめることができる。反射計を用いたRF加熱による密度振動の検出は、GAMMA10(茨城)などの多くの実験装置で行われてきた。また、NSTXでも反射計による密度分布と密度揺動の測定が行われている。しかし、STにおいて反射計を用いて密度分布と密度振動を同時測定し、HHFWによる加熱が引き起こす密度振動の径方向分布を測定した例は未だない。そこでTST-2での密度分布とHHFW加熱によって生じる密度振動を同時測定するために、26.5GHzから40GHzの周波数帯の反射計装置を設計し実験を行った。この研究の目的は、RF振動を検出するための反射計を設計し、その性能を数値計算により確かめること。反射計の製作、組み立て、試験を行い、TST-2に取り付けること。実際にTST-2においてプラズマ実験を行い、RFによる密度振動の径方向分布を測定することである。

反射計の設計と性能のシミュレーションは、Kirchhoff積分を用いて行われた。Kirchhoff積分は3次元配位におけるマイクロ波の電波を計算するのに有効な方法であり、スクリーン上の電場をスカラー量として仮定することで高速に計算を行うことができる。反射計で用いられる凹面鏡やホーンアンテナの配置や曲率・方向などは、このKirchhoff積分を用いて最適化された(図2).設計結果は特定の条件で反射波のパワーが最大になる配位ではなく、周波数が用いられる周波数帯域内にあり、カットオフ層が予想される位置の範囲内にあるという広い条件で反射パワーが大きくなるような条件を導き出した。反射計は密度揺動に敏感であるが、大振幅、小波長の揺動が存在すると反射波は著しく回折され、測定が不可能となる。そこで、正しい測定ができるための条件を計算した。揺動のポロイダル方向の波長が5λ以上(λはマイクロ波の波長)、また揺動の径方向の振幅が4 rad以下ならば(図3)揺動を検出することができることがわかった。RFによる密度振動のレベルはプラズマ内の誘電率テンソルの計算から0.1%程度と予測されており、これに相当するカットオフ層の揺動の径方向振幅は約0.3 radであり、設計された反射計によって充分検出することのできる範囲内にある。

図4は反射計システムの模式図である。5−25Vの駆動電圧によって26.5−40GHzのマイクロ波が発振され、ホーンアンテナからプラズマに向けて放射される。マイクロ波のパワーは約100mWである。マイクロ波は2つの凹面鏡によって反射されることでプラズマ内のカットオフ面にスポットを作る。カットオフ層で反射された波は再び凹面鏡によって集められ、もう一つのホーンアンテナに戻る。戻った波は参照波と合成され、検出器で検出される。検出された波は密度分布の情報を持つ1MHz程度のビート周波数成分と、RFによる密度振動によって変調された21MHzの周波数成分を持つ。そこで検出波はアンプで増幅された後3つに分けられ、1つはそのままAD変換し、密度分布を得るのに用いられる。残る2つの検出波は周波数18−25MHzのバンドパスフィルターにかけられ、1つはそのまま検波され、1つは21.3MHzの波とミキシングすることによって300kHzの信号となる。

図5,6は、反射計を用いたRF加熱による密度振動を検出した結果である。図5はプラズマ電流とRF入射のタイミング、軟X線のRF入射に対する応答を示した図である。図6は、19.0−19.3msにおける3回の周波数掃引によってRFによる密度振動の径方向分布を求めたものである。同時間帯での密度分布は、マイクロ波干渉計による線積分密度と、平衡計測から得られた磁気面を用い、さらに密度分布が放物型であると仮定して求められた値を用いた。この分布からプローブ周波数とカットオフ密度の関係を用いて密度振動の径方向分布を求めた。RFによって発生するノイズレベルも図中に示してある。図の密度振動の径方向分布にはいくつかの節を持つ構造が現れている。この節の間隔はおよそ30mmであり、TASK/WMコードのシミュレーション結果や、誘電率テンソルの計算から求められるHHFWの波数ベクトルの垂直方向成分とほぼ一致する。

本研究では、反射計を用いてTST-2におけるRFによる密度振動とその径方向の構造体を測定することが出来た。この成果は、HHFWによるST加熱の有効性やTASK/WMコードの妥当性の検証につながると期待される。将来、本実験で使われた反射計によって密度分布が測定できれば、密度振動の正確な径方向分布が求められることになり、さらなる詳しい解析が可能となる。

図1.TASK/WMコードで予測される励起電場の強度分布。

図2.反射計の光学系の配置図。

図3.密度揺動を仮定した場合の反射計の検出結果。

図4.反射計の構成

図5.(a)RFの入射タイミングと軟X線のRF入射に対する応答。

図6.RFによる密度振動の強度の径方向分布とノイズレベル。

審査要旨 要旨を表示する

球状トカマク装置は通常のトカマクに比べて弱い磁場で高い圧力のプラズマを閉じこめることができ、核融合炉として有望な方式の一つである。プラズマの大半径と小半径の比が1.5程度と小さいのが特徴であり、今後さらにこの比を1に近づけて改良するには中心のソレノイドコイルを取り除く必要がある。そのためソレノイドコイルを用いるジュール加熱に替わる加熱方法を開発しなくてはならない。加熱方法の候補の一つがHigh Harmonic Fast Wave(HHFW)を用いた高周波加熱である。HHFWはイオンサイクロトロン高調波帯の速波であり、球状トカマクの誘電率の高いプラズマ中でも深く伝播することができ、電子によって吸収されプラズマを効率的に加熱することができる。

HHFWによる加熱効果を確かめるには、加熱によって励起されたポロイダル電場が引き起こす電子密度の揺動を検出することが重要である。そこで本研究ではTST-2球状トカマク装置においてHHFWによる高周波加熱実験を行い、密度振動を測定した。すなわち振動の検出に必要なマイクロ波反射計の設計を行い、性能を数値計算によって確かめた後、製作した反射計をTST-2装置に取り付けてプラズマ実験を行い、高周波加熱による密度揺動の径方向の分布を測定した。

まず第1章では研究の背景と目的を述べ、第2章ではプラズマの分散関係とマイクロ波反射計・干渉計の原理について説明した。入射したマイクロ波は、その周波数に依存する密度に相当するプラズマの面、すなわちカットオフ層によって反射される。反射計ではこの性質を用い、反射波の位相の変化からカットオフ層の径方向の振動を検出できる。さらにマイクロ波の周波数を掃引することにより、プラズマ中の測定位置を時間的に変化させることができ、密度揺動の径方向の分布を求めることができる。

第3章では数値計算による反射計の設計と性能評価を行った。Kirchhoff積分は3次元配位におけるマイクロ波の伝播を計算するのに有効な方法である。まずKirchhoff積分の原理と電場の計算方法を説明した。そしてマイクロ波を発射するホーンアンテナや反射する凹面鏡の配置と曲率・方向などのパラメータについてKirchhoff積分を用いて最適化を行った。実験に用いるマイクロ波の周波数帯域とカットオフ層の予想される位置の範囲で、十分な反射波の強度が得られるような最適条件を導いた。また、反射計はあまりに大きな振幅や小さな波長の揺動については測定が不可能となる。カットオフ層に揺動を与えて位相の応答を計算し、位相が正確に検出できるための揺動のポロイダル方向の波長と径方向の振幅の条件を求め、実際の実験がその範囲内であることを確かめた。

第4章ではTST-2球状トカマク装置について説明し、HHFWの物理的性質とHHFWによる高周波加熱の方法について記述した。またプラズマ内部で磁力線がつなぎかわりプラズマの粒子やエネルギーが失われる電磁流体現象について述べた。

第5章では計測装置の概略を記しHHFWによる加熱実験の測定結果について考察した。密度振動の分布を求めるにはまず密度の分布を知る必要がある。本研究ではマイクロ波干渉計による線積分密度と平衡計算で得られた磁気面を用い、さらに放物型の分布を仮定して密度分布を求めた。そしてマイクロ波の周波数とカットオフ密度の関係式から密度振動の径方向の分布を求め、約3cm間隔の節をもつ構造があることを示した。この節の間隔は、シミュレーションによって予測されたポロイダル電場分布の構造、およびプラズマの分散関係から得られるHHFWの波数ベクトルの垂直成分の波長とほぼ一致し、この密度振動が実際にHHFWによって励起されたものであることを示している。

以上本論文はマイクロ波反射計を用いてHHFW加熱による密度振動を測定し考察を行った。球状トカマクにおいて密度振動の径方向分布を求めたのは本研究が初めてであり、HHFWによる加熱方法の検証として非常に重要である。これらの成果は球状トカマク装置の改良に役立ちプラズマ物理学の発展に貢献するものである。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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