学位論文要旨



No 121003
著者(漢字) 奥田,武志
著者(英字)
著者(カナ) オクダ,タケシ
標題(和) 近傍の早期型銀河の中心領域における分子ガスと星形成
標題(洋) Nuclear Molecular Gas and Star Formation in Nearby Early-type Galaxies
報告番号 121003
報告番号 甲21003
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4803号
研究科 理学系研究科
専攻 天文学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坪井,昌人
 東京大学 教授 祖父江,義明
 国立天文台 教授 有本,信雄
 東京大学 教授 川邊,良平
 国立天文台 助教授 和田,桂一
内容要旨 要旨を表示する

早期型渦巻銀河は晩期型渦巻銀河に比べて、原子・分子ガス質量が少なく、また銀河全体の星形成率も低い。銀河の中心領域については、可視光の分光観測において星形成とハッブルタイプとの関係が調べられてきた。中心領域でのHα検出率は、E:0%、SO:8%、Sa:22%、Sb:51%、Sc-Im:80%にとなっており、早期型渦巻銀河になるほど星形成率が起こる頻度が低い。一方、Hαフラックスでは、SO/a-SbcがScの9倍大きいことがわかってきた。10μmフラックスでも同様な傾向が見られる。これらは、早期型銀河では星形成が起こる頻度は少ないが、星形成が激しい銀河があるということを示している。なぜ、ハッブルタイプにより、このような違いが見られるのかは未解決の問題である。干渉計を用いたC。輝線の高分解能観測は、星形成の材料である分子ガスが、どのように分布し、かつ、それがどのような力学的状態にあるかという情報をもたらすため、中心領域の星形成を理解する上で重要なプローブとなり得る。しかしながら、これまでの干渉計を用いた渦巻銀河の高分解能COサーベイは晩期型渦巻銀河に偏っていた。

我々は、野辺山ミリ波干渉計(NMA)を用いて、近傍のHII領域を伴う早期型渦巻銀河12天体について高空間分解能12CO(J=1-0)サーベイ観測を行った。銀河の中心領域の星形成を理解するために、数百pcスケールの分解能のC。輝線データから、早期型渦巻銀河の中心領域の分子ガスの分布と運動を明らかにする。そのため、以下のようなサンプルの選択基準を取った。Ho et al.1997(ApJS、112、315)から、(1)ハッブルタイプがSO、Sa、Sab、(2)nucleus typeが、SO/a: HII nuclei、Sab:HII nuclei or Trasition(HII nuclei + LINERs)、(3)inclination<70°、(4)距離が30Mpc以内、(5)強<相互作用していない銀河、(6)IRAS 100μmフラックスが2Jy以上、(7)最近、干渉計による観測が行われていない。また、大質量星形成を行っていないSO銀河のNGC383について、NMAとRAINBOW干渉計(NMAと野辺山45m電波望遠鏡を組み合わせた高感度干渉計)を用いて、C。輝線の観測を行った。

我々が新しく得た天体と文献からの天体を合わせた早期型銀河16天体と、これまでに観測されていた晩期型銀河15天体(両者は、いずれも中心領域の星形成率がa few×0.1MΘ yr-1 〜 a fbw MΘyr-1程度の範囲にあるサンプルである)と比較することにより、以下に挙げる観測的事実を得た。

銀河の中心領域(半径500pc)の分子ガス質量-力学的質量比(Mgas/Mdyn)は、晩期型銀河(15%)と比較して早期型銀河(4%)では有意に低い。

銀河の中心領域(半径500pc)でのガス面密度と星形成面密度を比較したところ、晩期型銀河では従来知られているSchmidt則の冪によく一致したが(N = 1.4)、早期型銀河では(1)冪が異なり(N = 0.79)、(2)Schmidt則からの分散も晩期型と比較して有意に大きい(σ2(early) = 2.7×σ2(late))ことが分かった。

SO銀河NGC383に大質量星形成を伴わないガス円盤を見つけた。この円盤の半径500pc 内のガス面密度は4.6×102MΘpc-2であり、これはスターバースト銀河と同程度である。

上記の新しく得られた結果から、早期型銀河の中心領域の星形成についての以下のような説明を提案する。

Mgas/Mdyn比の低い早期型渦巻銀河の星形成において、Toomre'sQ値を評価したところ、これらの銀河のおけるガス円盤は重力的に安定となることがわかった。これは、従来の星形成シナリオ(重力不安定性の成長→ガス円盤の分裂→星形成)と相容れない。

NGC383では、「晩期型のスターバースト銀河と同程度のガス面密度(4.6×102MΘ)を持つ、星形成を伴わない大質量ガス円盤」を見つけた。これは、非常に早い回転速度(Vrot = 460km s-1)により、ガス円盤は重力的に安定に保たれ(Q≫1)、星形成を起こすための闘値をまだ超えていないことが分かった。

晩期型棒渦巻銀河では、棒構造を持たない晩期型銀河に比べて、星形成効率の上昇が見られた。また、早期型銀河の一部において、ガス消費時間(=ガス質量/星形成率)が極めて短い銀河が存在している。このことから、特に星間物質の比較的少ない早期型渦巻銀河では、棒構造による質量輸送が星形成の重要な役割を担っていると考えられる。

棒構造による効率的な中心領域へのガスの集積(例:NGC972,NGC3504)、相互作用による星形成の促進(例:NGC3593やNGC4424など)、早期型銀河の深いポテンシャルによる臨界ガス密度の上昇(例:NGC383)などが原因となり、幅広い星形成の活動性(星形成・星形成効率)を示している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は5章からなる。第1章はイントロダクションであり、第2章は本論文の基礎である近傍早期型渦巻き銀河のCO輝線サーベイ観測の戦略と観測自体について述べられている。第3章はCO輝線サーベイ観測の結果であり本論文の主要部分である。第4章はその結果を使った銀河中心部の分子ガスの性質について述べられている。第5章は本論文のまとめである。

早期型渦巻き銀河の中心領域における星形成を理解するために、野辺山ミリ波干渉計を用いて、近傍の早期型渦巻き銀河のCO輝線による銀河内分子ガスの2次元分布とその運動をサーベイ観測した。これまではミリ波干渉計を使用したCO輝線による撮像サーベイは、晩期型渦巻き銀河についてだけが存在した。このため渦巻き銀河の分子ガスについての議論は晩期型に限ったものだけが可能であった。干渉計技術の進展によって早期型渦巻き銀河のCO輝線についても2次元分布の観測が可能に成りつつあったが、その観測数は輝線強度の弱さからこれまでは少数の個別観測に限られていた。本論文のサーベイの天体数は1 2個である。このように多数の早期型渦巻き銀河についての撮像サーベイは世界初のものである。このサーベイの完成により早期型渦巻き銀河の分子ガスについてCO輝線による統計的な議論を初めて可能にした点は非常に高く評価できる。

晩期型渦巻き銀河の中心領域における力学的質量に対するガス質量の比は15%程度であるが、このサーベイデータを基にした解析で早期型渦巻き銀河の比は3.9%と極めて小さいことを発見した。サンプル天体としてはHII領域を伴った早期型渦巻き銀河を選択してあるにも関わらず、このような小さな比が求まったことは重要な結果であると判断される。晩期型渦巻き銀河については単位面積あたりの星形成率と分子ガス量の間にはベキ指数1.4のSchmidt lawが成立していることが知られているが、早期型渦巻き銀河についてはばらつきが大きく、様相が大きくことなることを明らかにした。またサンプル内では中心領域で高い星形成効率を持つ早期型渦巻き銀河は全て棒渦巻き銀河であるという事実を得た。これは棒状構造により中心領域の星形成が活発になるという仮説を支持するものである。これらの結果は最初のサーベイの結果として大変興味深い。

晩期型渦巻き銀河ではToomreのQ値が星形成の活発化の指標となっていた。観測した早期型渦巻き銀河の中にはQ値としては安定な領域にありながら星形成が盛んな例が多く存在することを示した。これにより早期型渦巻き銀河ではToomreのQ値がもはや有効な指標には成り得ないことを証明した。

また電波源3C31を持つS0銀河NGC383を野辺山45m電波望遠鏡を野辺山ミリ波干渉計に結合させたRainbow干渉計で観測してCO輝線の2次元分布を得ることにも成功した。この観測はハッブル宇宙望遠鏡によって発見されたシルエットディスクの初めてのCO輝線撮像観測である。これは十分な分子ガス面密度を持ちながら星形成をしていないガスディスクの発見であり、意義が大きい。

このように野辺山ミリ波干渉計を駆使し世界初の早期型渦巻き銀河の中心領域の分子ガスの撮像サーベイを完成させて、多数の新たな知見を得たことは大変高く評価される。なお本論文の一部は共同研究によるものであるが、論文提出者が主体となって観測、データ解析および解釈を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。したがって博士(理学)の学位を授与できると認める。

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