No | 121059 | |
著者(漢字) | 南部,あや | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナンブ,アヤ | |
標題(和) | 免疫応答調節因子としての炎症性サイトカインの機能解析 | |
標題(洋) | The role of inflammatory cytokines as regulators of the immune system | |
報告番号 | 121059 | |
報告番号 | 甲21059 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4859号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 生物化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【緒言】 サイトカインとは、細胞から放出されて造血系、内分泌系、神経系、免疫系など、さまざまな細胞間での主要な情報交換を担う、多種多様なタンパク質性のホルモンの総称である。サイトカインを炎症制御の観点から大別すると、IL-1、IL-6、IL-16といった炎症性サイトカイン、transforming factor-β(TGF-β)、IL-10、IL-1Raなどの抗炎症性サイトカインのグループに分けられる。近年、これらのサイトカインの中で、炎症の制御だけでなく、免疫機構を調節するような性格を持つものも報告されてきている。申請者は、自己免疫疾患や感染症を制御する免疫機構に関心を持ち、これらの疾患に重要な役割を果たすことが知られている炎症性サイトカインであるIL-1とIL-16が、炎症性サイトカインとしてだけでなく、T細胞に対する免疫調節サイトカインとしての機能を持つことに着目して解析を行った。 遅延型過敏症反応におけるIL-1の機能解析 【背景と目的】 IL-1は炎症の惹起や免疫系の活性化を通して外来抗原からの生体防御に重要な役割を持つサイトカインである。IL-1にはIL-1αとIL-1βが存在し、同一のレセプターIL-1RIに結合してほぼ同様な生理活性を示す。一方、IL-1の作用を阻害する分子としてIL-1RIに結合しても生理活性を示さないIL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1Ra)や、IL-1α/βが結合してもシグナルを伝達しないIL-1RIIが生体内に存在する。 IL-1は炎症性免疫応答の一つであるDTH反応の発症に深く関わるとされる。DTHはアレルゲン特異的なCD4+T細胞の活性化と炎症局所への浸潤を介して誘導される。このとき、IL-1はリンパ球活性化因子としてアレルゲン特異的なCD4+T細胞の活性化に関わるのか、または炎症性サイトカインとして局所への細胞浸潤を伴う炎症の惹起に関与するのか不明であり、また、IL-1αとIL-1βの個々の機能分担についても明らかになっていない。本研究では第一章においてDTHの発症機構におけるIL-1の役割をIL-1α、IL-1β、IL-1α/β、IL-1Ra及びIL-1RI遺伝子欠損マウス(KO)を用いて明らかにすることを試みた。 【実験方法】 アレルゲンとしてメチル化BSA(mBSA)を完全フロイントアジュバント(CFA)とともに野生型マウス(WT)とKOに腹腔内免疫した。一週間後に一方の足蹠にmBSAを投与してDTH反応を誘導し、もう一方にはコントロールとしてPBSを投与した。24時間後足蹠の厚さをノギスで測定してDTH反応を評価し、その局所への浸潤細胞の病理像はヘマトキシリン/エオジン染色で観察した。免疫細胞の活性化への関与を評価するために、mBSA特異的なリンパ節細胞の増殖応答を[3H]-チミジンの取り込み量を指標に測定し、同時に、培養上清中のサイトカイン産生量をELISA法で定量した。また、mBSA感作マウスの血中のmBSA特異的な抗体価をELISA法で定量した。抗原感作したWT、KOからリンパ節由来CD4+T細胞を調製し、未感作のWTに移入して(WTのT細胞→WT、KOのT細胞→WT)DTH反応を誘導することによって抗原特異的なT細胞の活性化におけるIL-1の必要性を評価した。また、炎症局所でのIL-1の要求性を評価するために、抗原感作したWTのCD4+T細胞をWT、KOに移入して(WTのT細胞→WT、WTのT細胞→KO)DTH反応を誘導した。 【結果と考察】 IL-1α/β及びIL-1RIKOでは、足蹠の腫れは有意に抑制され、IL-1RaKOでは有意に腫れが亢進した。病理像からは足蹠へのT細胞やマクロファージといった炎症性細胞の浸潤がIL-1α/β及びIL-1RIKOでは減少、IL-1RaKOでは増加していた。また、IL-1α/β及びIL-1RIKOのリンパ節細胞の増殖能はWTに比べて低下し、IL-1RaKOでは増強していた。培養上清中のインターフェロンγ産生量も増殖能と同様の傾向を示した。血中の抗原特異的な抗体価もWTに対しIL-1α/β及びIL-1RIKOでは有意に低く、IL-1RaKOマウスでは有意に高かった。細胞移入実験の結果は、WTのT細胞→WTに比べ、IL-1α/βKOのT細胞→WTではDTH反応が有意に抑制され、逆にIL-1RaKOのT細胞→WTは亢進した。また、WTのT細胞→WTとWTのT細胞→IL-1α/βKOの間に差は見られなかったのに対し、WTのT細胞→IL-1RIKOでは抑制され、WTのT細胞→IL-1RaKOでは亢進した。以上の結果から、IL-1はアレルゲン感作時のアレルゲン特異的なT細胞の活性化に必須であり、IL-1Raはその作用を調節することでDTH反応を抑制することが示された。一方、アレルゲンの再感作による炎症誘導期では、再活性化した記憶T細胞から供給されるIL-1が抗原提示細胞に作用することによって、T細胞自身の増殖に必要であることがわかった。 また、IL-1αでは足蹠の腫れはWTと同程度であったのに対し、IL-1βKOでは抑制された。これらの結果から、DTH反応にはIL-1αではなくIL-1βが深く関わることが明らかとなった。さらに、IL-1とTNFを同時に欠損させたマウスを用いた実験から、DTH反応におけるTNFの産生はIL-1に強く依存することが示された。 以上の結果から、IL-1は炎症性サイトカインとして局所での炎症の亢進への関与だけでなく、アレルゲン感作時のアレルゲン特異的なT細胞及びB細胞の活性化に必須なリンパ球活性化因子としての役割を持ち、通常IL-1Raはその作用を調節することによってDTHに対し抑制的に働くことが明らかになった。 T細胞の活性化におけるIL-16の機能解析 【背景と目的】 IL-16はリンパ球の活性化と抑制作用の二面性を有するサイトカインであり、CD4+T細胞に対する遊走活性を持つ因子である。生体内ではHIVの感染及び複製や関節炎には抑制的に働く一方で、DTHや慢性炎症性大腸炎(IBD)、気道過敏症(AHR)の発症には増悪化に作用することが示唆されるなど、様々な疾患に関与することがわかってきているが、その多くの作用機序が未知である。そこで、IL-16KOを作製し、IL-16が果たす役割を明らかにすることを試みた。 【実験方法】 IL-16の細胞外に分泌される部分の両端にloxP配列を挿入し、Creによる組換え反応によって、IL-16を欠損させるようなターゲッティングベクターを作成した。このベクターにより相同組換えをおこしたES細胞に対し、Cre発現アデノウイルスを感染させ、loxP配列の組換えに成功したクローンを得た。また、このES細胞由来のIL-16KOを作製し、C57BL/6JもしくはBALB/cA背景へ8代戻し交配し、解析に使用した。 T細胞の活性化におけるIL-16の機能を評価するため、WT、IL-16KOからそれぞれMACSカラムにより分離したT細胞を抗CD3抗体のみ、もしくはマウスIL-16共存下にて48時間培養後、増殖応答を[3H]-チミジンの取り込み量を指標に測定した。また、抗CD3抗体による活性化誘導細胞死(Activation induced cell death;AICD)におけるIL-16欠損の影響を評価するため、WT、IL-16KOそれぞれのT細胞を抗CD3抗体で刺激後、0、24、48時間後にAnnexinV/PIによりその細胞死を評価した。 IL-16のリンパ球発生・分化における機能を解析するため、WT、IL-16KOから採取した脾臓細胞中の各リンパ球存在比をFACSにて評価した。 【結果と考察】 IL-16のT細胞に対する機能に関して、活性化と抑制に関与するという、相反する報告がなされているが、本研究ではT細胞に対するIL-16の機能を明らかにすべく、IL-16KOを作製し、解析した。IL-16KOはメンデル比に従って正常に生まれ、野生型に比べて外見上特筆すべき表現型を示さなかった。 IL-16KOのT細胞の抗CD3抗体による増殖活性は、亢進していたが、抗CD3抗体刺激と同時にIL-16を培養上清に添加することによってWTと同程度まで増殖が回復した。また、このときのAICDはWTとIL-16KOで同程度であり、IL-16欠損による過剰な細胞増殖はAICDの抑制によるものではないことが示された。さらに、WTとIL-16KOではT細胞中のCD4、CD8陽性細胞の比率や、記憶・未感作T細胞の比率にも違いはみられなかった。よって、IL-16の欠損はT細胞の発生・分化に影響を与えないと同時に、抗CD3抗体刺激に伴う過増殖はT細胞の発生・分化の異常によるものではないということも明らかになった。 これらの結果から、IL-16はT細胞の増殖を抑制する活性を持つことが明らかとなったが、その一方で、その詳細なメカニズムは不明であり、今後のさらなる解析が必要である。 【結語】 本研究は、炎症を誘導するサイトカインの免疫機構を制御しうる調節因子としての一面を明らかにすることを目的に行った。その結果、IL-1は炎症局所への炎症細胞の誘導と活性化以外に、T細胞の免疫成立とその二次増殖において重要な調節因子として機能することが明らかとなり、またIL-16は炎症局所への細胞遊走のほかにT細胞の活性化を制御していることがわかった。本研究では、免疫機構調節因子としての機能の一部を明らかにしたが、これらサイトカインの機能発現は時空間的に複雑に制御されており、今後もさらに多くの機能を発見・解析し、この複雑な機構を詳細に理解することによって、新しい治療標的を得ることができ、治療に役立つことが期待される。 | |
審査要旨 | 本論文は2章からなる。主題は、炎症性サイトカインの免疫調節因子としての機能の解析であり、第一章は遅延型過敏症(DTH)反応におけるIL-1の機能について、第二章はT細胞の活性化におけるIL-16の機能について述べられている。 サイトカインとは、さまざまな細胞間での主要な情報交換を担う、多種多様なタンパク質の総称である。サイトカインを炎症制御の観点から大別すると.炎症性サイトカイン、抗炎症性サイトカインに分けられる。近年、これらのサイトカインの中で、炎症制御だけでなく、免疫調節機能を持つものも報告されてきている。申請者は、自己免疫疾患や感染症を制御する免疫機構に関心を持ち、これらの疾患に重要な役割を果たすことが知られている炎症性サイトカインであるIL-1とIL-16の、T細胞に対する免疫調節サイトカインとしての機能に着目して解析を行っている。 第一章において、申請者はIL-1のT細胞を中心とした免疫調節機構に着目し、DTH反応におけるIL-1の機能をIL-1遺伝子欠損マウス(KO)を用いて解析している。 IL-1は炎症の惹起や免疫系の活性化を通して外来抗原からの生体防御に重要な役割を持つサイトカインである。IL-1にはIL-1αとIL-1βが存在し、他に受容体のIL-1RIや抑制性因子であるIL-1Ra、IL-1RIIによってそのシグナルが調節されている。申請者はIL-1α/β、IL-1RIKOではDTH反応が低下し、逆にIL-IRaKOでは増悪化することを見いだした。足蹠へのT細胞やマクロファージといった炎症性細胞の浸潤がIL-1a/β及びIL-1RIKOでは減少し、IL-1RaKOでは増加していることを病理像によって示した。免疫後の、抗原に対するリンパ節細胞増殖試験の結果は、IL-1a/β、IL-1RIKOでは増殖能が低下しており、それに伴いIFN-νの産生量も低下していた。またIL-1RaKOではそれらが亢進していることから、IL-1が抗原特異的な記憶T細胞の生成過程に重要な役割を果たしていることを示した。更に、血中の抗原特異的な抗体価もWTに対しIL-1a/β及びIL-1RIKOでは低く、IL-IRaKOマウスでは高かった。T細胞におけるIL-1の役割を明らかにするため、抗原感作後のT細胞の移入実験と樹状細胞との共培養試験を行った。その結果、IL-1は抗原感作時の抗原特異的なT細胞の活性化に必須であり、IL-1Raはその作用を調節することでDTH反応を抑制することが示された。一方、抗原の再感作による炎症誘導期では、再活性化した記憶T細胞から供給されるIL-1が抗原提示細胞に作用することによって、T細胞自身の増殖を促進していることがわかった。また、IL-1αKOでは足蹠の腫れは野生型と同程度であったのに対し、IL-1βKOでは抑制したことから、DTH反応にはIL-1αではなくIL-1βが関わることを明らかにした。 このように、これまでIL-1は主に炎症性サイトカインとして局所での炎症の亢進へ関与すると考えられていたが、申請者はDTH反応においてIL-1が炎症性サイトカインとしてだけでなく、アレルゲン感作時のアレルゲン特異的なT細胞及びB細胞の活性化に必須なリンパ球活性化因子としての役割を持つことを初めて明らかにした。また、IL-1Raはその作用を調節することによってDTHに対し抑制的に働くことを示した。 第二章において、申請者は炎症性サイトカインであるIL-16がT細胞の活性化にも重要な役割を果たすことを、IL-16KOの解析によって明らかにした。IL-16は炎症局所において発現し、炎症性細胞の遊走活性を持つ。近年、リンパ球の活性と抑制の両方の作用を持つことが示唆されているものの、その作用機序は未知である。そこで、申請者はIL-16のT細胞の活性化における役割を解析するため、IL-16KOを作製した。IL-16KOは生後1年齢まで発育・繁殖ともに正常であることを示した。また、IL-16のT細胞における作用に着目し、IL-16KO由来T細胞のTCR刺激に対する反応を比較した。その結果、IL-16KO由来T細胞は過剰に増殖することを示した。また、この過剰な増殖はマウスIL-16を加えることによって、野生型と同程度まで抑制できた。 IL-16は活性化誘導細胞死(AICD)やリンパ球の初期発生に重要な機能を果たしていることが示唆されている。そこでIL-16KOの異常なT細胞活性化がこれらの機能欠損による影響の可能性を考え、T細胞の分化とAICDを解析した。その結果、IL-16KOはT細胞の分化やAICDには影響しないことを示した。これらの結果から、IL-16がT細胞活性化において重要な機能を担っていることが明らかとなった。 申請者は、IL-1が炎症誘導以外に、T細胞の免疫成立とその二次増殖において重要な調a節因子として機能することを明らかにし、またIL-16は炎症局所への細胞遊走の他にT細胞のa活性化を制御していることを示した。本論文で示された知見は、基本的な免疫反応機構の理a解にとどまらず、多剤耐性結核菌感染やHIV感染に対する治療の観点からも重要な発見であaり、治療に役立つことが期待される。 なお、本論文第一章は、中江進、岩倉洋一郎と、また第二章は、角木基彦、中江進、須藤カツ子、岩倉洋一郎との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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