学位論文要旨



No 121066
著者(漢字) 辻田,和也
著者(英字)
著者(カナ) ツジタ,カズヤ
標題(和) エンドサイトーシスにおけるアクチン細胞骨格と細胞膜変形の協調的役割
標題(洋) Coordination Between Actin Cytoskeleton and Membrane Deformation by a Novel Membrane Tubulation Domain of PCH Proteins is Involved in Endocytosis
報告番号 121066
報告番号 甲21066
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4866号
研究科 理学系研究科
専攻 生物化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 秋山,徹
 東京大学 教授 齋藤,春雄
 東京大学 教授 宮島,篤
 東京大学 教授 山本,雅
 東京大学 教授 竹縄,忠臣
内容要旨 要旨を表示する

FCHドメインは真核生物において高度に保存されており、FBP17, CIP4, Toca-1, Syndapins/PACSINs, cdc15、PSTPIPsなどのPCHタンパク質ファミリーにおいて見つかっている。これらのタンパク質はエンドサイトーシスやアクチン細胞骨格制御に関与していることが知られている。例えば、FBP17とSyndapinsはエンドサイトーシスにおいて必須なタンパク質であるDynaminと結合する。またToca-1はN-WASP/Arp2/3複合体依存的なアクチン重合過程に必須なタンパク質である。

現在FCHドメインの機能は不明である。興味深いことにPCHタンパク質においてFCHドメインを超えたアミノ酸配列相同性の高い領域が存在し、私はFCHドメインを含めたこの領域をextendedFC(EFC)ドメインと名づけた。EFCドメインはBARドメインに弱い相同性を示す。FBP17のEFCドメインは細胞膜脂質であるホスファチヂルセリンとホスファチヂルイノシトール 4,5-二リン酸に強く結合することが分かった。またEFCドメインを細胞に発現すると細胞膜を強く変形することが分かった。さらに他のEFCドメインも同様にこれらの脂質に結合し細胞膜を変形することが分かった。この結果よりEFCドメインは新規膜変形ドメインであり、その機能は進化上保存されていることを示している。次にEFCドメインが直接膜を変形するのか確かめるためにin vitroの実験を行ったin vitroにおいてEFCドメインと人工リポソームを加えたところ、EFCドメインのみで人工リポソームをチューブ状に変形することが分かった。そして、EFCドメイン内に保存されている塩基性アミノ酸残基がリポソームの結合と変形に必要であった。この結果から、EFCドメインは直接膜を変形し、これらの塩基性アミノ酸残基が酸性脂質との直接的な結合と変形に重要であることが明らかとなった。

FBP17はエンドサイトーシスに関わっていることが示唆されている。そこでFBP17とエンドサイトーシスについてより詳しく調べた。FBP17の強発現はEGFのエンドサイトーシスを強く阻害した。興味深いことにこの効果はEFCドメイン依存的であった。また弱い発現の場合、FBP17は細胞膜においてEGFと共局在することから、FBP17はエンドサイトーシスの初期段階において何らかの機能を果たしていると推測される。さらに内在性のFBP17とCIP4をノックダウンすることにより、EGFのエンドサイトーシスが阻害された。よってこれらのタンパク質は生理的にエンドサイトーシスに必要であることが示唆された。

多くのPCHタンパク質はDynaminとN-WASPに結合することが知られているSH3ドメインを持っている。重要なことに、FBP17はN-WASPを細胞膜にリクルートすることが分かった。SH3ドメインを欠いた変異体ではこの効果は見られなかったことから、FBP17はSH3ドメインを介してN-WASPを細胞膜にリクルートすることが明らかとなった。さらにin vitroにおいてFBP17はN-WASP-Arp2/3複合体依存的なアクチン重合を促進することが分かった。よってFBP17はエンドサイトーシスにおいて、N-WASPを細胞膜にリクルートし、そこでアクチン重合を促進することが示唆された。

これまでにいくつかのPCHタンパク質のSH3ドメインがDynaminやWASP/N-WASPに結合することが報告されている。さらに免疫沈降法により、FBP17はエンドサイトーシスの初期段階において、N-WASP, Dynamin-2と複合体を形成することが示された。また細胞内においてもFBP17とDynamin-2, N-WASPは細胞膜が陥入している場所で複合体を形成していることが分かった。

次にFBP17は細胞膜の変形とアクチン重合を促進することから、両者の関係を調べた。アクチン重合を強く促進することが予想されるFBP17とN-WASPの共発現はFBP17依存的な細胞膜の変形を阻害した。同じく、IatrunculinB処理によりアクチン重合を阻害すると、これらの細胞膜変形は増加した。これらの結果はFBP17の下流に位置するアクチン重合が細胞膜の変形に重要な役割を果たすことが示唆される。

本研究により、私は新規膜変形ドメインであるEFCドメインを同定した。FBP17はEFCドメインを介して直接細胞膜に局在し、この直接的な相互作用により、エンドサイトーシスに必要な細胞膜の変形、陥入を誘導すると考えられる。次にFBP17はそこにN-WASPとDynaminをリクルートする。Dynaminは膜を切るタンパク質として確立されている。そしてN-WASPによるアクチン重合は陥入している膜を切る力に寄与していると示唆される。よってこれらの力とDynaminによる膜を切る作用が協調的に働いて、エンドサイトーシスにおける効率よい小胞の発生に寄与していることが示唆される。以上の結果からFBP17はエンドサイトーシスの初期段階において協調的に細胞膜の陥入、細胞膜の分裂、アクチン重合を結びつけるタンパク質であることが示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は新規膜変形ドメインの同定と、その膜変形とアクチン細胞骨格がどのように生理的にエンドサイトーシスに関わっているのか述べられている。細胞は膜に覆われた構造であり、細胞内小器官も膜で囲まれている。よって細胞の基本的機能であるエンドサイトーシスや細胞内輸送、細胞運動等は膜の変形を必要とする。しかしながら膜の変形がどのように誘導されるのかほとんど不明であった。近年の研究によりタンパク質が直接膜に結合して膜の変形を誘導することが分かってきた。

ここで本論文により新規膜変形ドメインが同定された。膜変形ドメインであるEFCドメインは直接膜に結合し膜の変形を誘導することが明らかとなった。EFCドメインは約100種以上のタンパク質に保存されており、この発見により、EFCドメインを持つタンパク質は膜変形活性を持つことが明らかとなった。さらに本論文によりこの膜変形がどのように生理的に関わっているのか明らかとなった。EFCドメインを持つタンパク質であるFBP17の機能解析が行われ、その結果、FBP17はエンドサイトーシスに生理的に関わっており、この膜の変形はエンドサイトーシスの初期段階である細胞膜の陥入に必要であることが示唆された。またFBP17はアクチン重合マシーンであるN-WASPと膜切断タンパク質であるDynaminに直接結合することが明らかとなった。そしてin vitroにおいてFBP17はN-WASP依存的なアクチン重合を促進し、さらに内在性のN-WASPを細胞膜へリクルートすることが分かった。次にFBP17は細胞膜変形とアクチン重合を促進することから、両者の関係が調べられ、アクチン重合は細胞膜の陥入を負に制御することが示された。また免疫沈降法により、FBP17はエンドサイトーシスの初期段階においてN-WASP, Dynaminと複合体を形成することが示された。よって本論文によりFBP17はEFCドメインを介してエンドサイトーシスに必要な細胞膜の陥入を誘導し、次にその陥入部位にN-WASP, Dynaminをリクルートする。そしてDynaminが陥入している膜を切断し、N-WASPによるアクチン重合はこの膜を切る力に寄与していると示唆された。以上の結果からFBP17はエンドサイトーシスの初期段階において協調的に細胞膜の陥入、分裂、アクチン重合を結びつけるタンパク質であると示唆された。

本論文により、新規膜変形ドメインが同定され、初めて膜の変形と細胞骨格が生理的に協調して働くことが示された。この発見は非常に重要であると考えられ、細胞の基本的機能、例えば、細胞分裂等においても膜変形活性を持つタンパク質と細胞骨格の協調的役割が存在することが示唆される。またこの発見により EFCドメインを持つタンパク質の多くはエンドサイトーシスや細胞分裂、細胞運動に関わっていることが示唆されており、本論文によりこれらのタンパク質もこれらの過程で膜の変形を誘導すると考えられる。

したがって本論文は博士の学位を授与するに値する。なお本論文は末次志郎、佐々木信成、古谷昌広、及川司、竹縄忠臣との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって博士(理学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク