学位論文要旨



No 121096
著者(漢字) 並河,努
著者(英字)
著者(カナ) ナミカワ,ツトム
標題(和) セメント改良砂の引張及びせん断破壊特性に関する研究
標題(洋)
報告番号 121096
報告番号 甲21096
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6186号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 井上,純哉
 東京大学 講師 内村,太郎
内容要旨 要旨を表示する

深層混合工法などによるセメント系地盤改良工法は、構造物基礎、掘削時の山留め、液状化対策などに広く用いられてきており、近年では改良体の高強度化などにより、柱状、壁状といった改良形式が利用されるようになってきている。柱状、壁状といった改良形式の場合、曲げ変形等による応力が発生するため、設計において内的安定の検討が重要となる。セメント系改良地盤の設計における内的安定に関しては、改良体を弾性体と仮定して許容応力度の照査を行うのが一般的な設計手法であるが、性能設計の導入によりこのような従来型の許容応力度の照査だけでは対応できない場合が生じてきている。特に、兵庫県南部地震以来大地震時におけるセメント改良体の安全性が要求されるようになってきており、改良地盤の終局状態における評価が必要となってきている。

改良地盤の設計においてFEM解析を用いることが多くなってきているが、改良体を弾性体としてモデル化し、解析により得られた応力と設計強度を比較する手法が一般に用いられている。このような手法では、解析結果において局所的な応力が設計強度を上回る場合、その部分破壊が改良体に要求される性能に対し許容されるか否か判断できないため、改良体の形状を変更し改良体内の全ての領域において算定される応力が設計強度を下回るように設計し直さなければならない。このような現行の手法では、条件により改良体の終局限界状態を過小評価し、保守的な設計になる場合があると考えられる。そして、改良土のピーク応力後の挙動を明らかにし、改良体の部分的な破壊を許容した設計手法を用いれば、改良体の大幅な合理化が可能となると考えられる。

そこで、本研究では、セメント改良砂のせん断及び引張破壊特性を明らかにし、改良砂のピーク応力状態後の力学挙動を表現できるモデルを開発することにより、部分破壊を許容した改良体の終局状態を評価できる手法を構築することを目的とした。特に、ピーク応力状態後の引張及びせん断軟化関係を明らかにし、その挙動をモデル化することをねらいとしている。以下では、各章ごとの検討内容と得られた成果を述べる。

1章では、研究の背景、目的及び既往の研究について述べている。

2章では、引張ピーク応力及びその後の軟化挙動を調べることを目的とした曲げ試験について述べている。切欠を入れた供試体を用いた曲げ試験結果より、コンクリートと同様にセメント改良砂においても、引張ピーク応力後ひずみ軟化型の応力-ひずみ関係が存在することが明らかとなった。そして、引張破壊時におけるセメント改良砂(一軸圧縮強度1800kPa程度)の破壊エネルギーGfが7〜12N/m程度であることがわかった。さらに、荷重-たわみ関係と荷重-ひび割れ開口変位より、セメント改良砂の引張軟化関係を同定し、その引張軟化関係がバイリニアモデルで表現可能であることを示した。

3章では、せん断ピーク応力及びその後の軟化挙動を調べることを目的とした平面ひずみ圧縮試験について述べている。中間主応力の大きさを変えた擬似平面ひずみ圧縮試験を実施し、三軸圧縮条件に比較して平面ひずみ条件では最大軸差応力が1.2倍程度になること、平面ひずみ条件では中間主応力が最大軸差応力に与える影響が少ないことを明らかにした。平面ひずみ圧縮試験では、画像解析を行いピーク応力状態後の軟化過程での供試体表面のひずみ分布を観測した。その結果、圧密拘束圧が低い場合(9.8kPa)縦割れ破壊が生じ、圧密拘束圧が高くなると(88kPa)せん断破壊が生じることが明らかとなった。ピーク応力状態後の軟化関係は、画像解析の結果を用いて、破壊領域(せん断帯)における局所的な変形より算定した。また、試験後の供試体表面の顕微鏡観察結果より、せん断帯の初期幅が0.6mm程度(砂粒径の3倍程度)であることを明らかにした。さらに、せん断軟化過程での破壊エネルギーを算定し、引張破壊エネルギーとせん断破壊エネルギーの差は、セメンテーションの分離面積の違いによりある程度説明できることを示した。

4章では本研究で構築したセメント改良砂の弾塑性モデルについて述べている。本モデルでは、既往の研究及び本研究での室内試験結果より、引張とせん断の2つの破壊基準を設けた。引張とせん断のピーク応力後の軟化関係は、 2章曲げ試験と3章平面ひずみ圧縮試験の結果より定めた。軟化関係においては、ひずみの局所化によるメッシュサイズ依存性を低減するために、特性長さとメッシュサイズに関する変数を導入した。さらに、損傷テンソルを導入することにより、引張軟化過程における誘導異方性の表現を試みた。

5章では提案したモデルの検証解析について述べている。4つの室内試験、三軸圧縮試験、三軸引張試験、平面ひずみ圧縮試験、3点曲げ試験(切欠あり)を対象としたFEM解析を実施し、ひずみ硬化及び軟化挙動に関するモデルの検証を行った。試験結果と解析結果の比較より、三軸圧縮及び引張条件下でのピーク応力状態までのひずみ硬化挙動、切欠入り曲げ試験条件でのピーク荷重及び荷重一変位関係、平面ひずみ圧縮条件でのひずみの局所化を伴う軟化挙動に関して提案モデルの妥当性を示した。

6章では、引張強度を決定するために実施される一軸引張試験、割裂試験、曲げ試験のFEM解析について述べている。これら3試験から算定される引張強度の違いの原因を明らかにすることと、提案モデルの検証が解析の目的である。解析結果は一軸引張試験、割裂試験、曲げ試験結果をほぼ再現できており、提案モデルの妥当性が確認された。また解析結果より、3試験から算定される引張強度に関して以下のことが明らかとなった。一軸引張試験で得られる引張強度は材料としての引張強度と概ね一致する。割裂試験では荷重帯下の圧縮力によりせん断破壊が発生するため荷重が抑制され、得られる引張強度は過少評価となる。曲げ試験では梁引張側の応力が引張強度に達した後も軟化挙動により応力が再配分されるため荷重が増加し続け、その結果引張強度が過大評価される。

7章では、遠心模型実験のFEM解析について述べている。実際の境界値問題における提案モデルの検証を行うことを目的とし、実物構造物の応力状態に近い条件で実施された遠心模型実験を対象としたFEM解析を実施した。曲げの破壊形態を示す条件で実施された2種類の実験を対象にFEM解析を行ったが、解析結果は概ね実験結果を再現しており、提案モデルの妥当性が確認された。また、解析結果より、改良体が曲げの破壊形態を示す条件では、従来行われている改良体を弾性体でモデル化した解析により算定される改良体内部応力と引張強度を比較する手法では、保守側の判定となることがわかった。このことは、本研究で開発した提案モデルを用いたFEM解析を実施すれば、部分破壊を考慮して改良体の全体挙動を予測できるため、部分破壊後直ちに全体破壊が生じない条件では、改良体の合理的な設計が可能となることを示唆している。

8章では格子状地盤改良による液状化防止工法のFEM解析について述べている。提案したモデルを用いたFEM解析の効果の確認を目的とし、格子状地盤改良の動的3次元解析を実施した。解析結果より、改良体を弾性体としてモデル化する従来の手法では、格子間隔が広がると大地震時において改良壁交差部に大きな引張応力が生じ、内的安定が満足できなくなることがわかった。一方、改良体を提案した弾塑性モデルでモデル化した場合、地震中改良体はコーナー部より進行的に引張破壊するが、液状化抑制効果は保持されることがわかった。そして、提案したモデルによる解析を用いると、部分破壊を考慮した解析結果が得られるため、構造物が要求する性能に応じた設計が可能となり、液状化防止工法の合理化が図れることを示唆することができた。

9章では本論文の結論をまとめている。

審査要旨 要旨を表示する

深層混合処理工法などの地盤改良としてセメント改良土を用いる場合、その施工方法や使用材料が工夫されるに従って、近年では従来よりも高強度でばらつきの少ない地盤改良の実施が可能になってきた。そのため、全面改良ではなく壁状改良、格子状改良など各種の改良形式が利用されるようになり、コスト縮減にも役立っている。また、セメント改良土は盛土やダムなどの土構造物の建設材料としても用いられているが、近年ではその高度な利用技術の開発も進められており、例えば、セメント改良礫を補強土擁壁の裏込め材料として用いた耐震橋台が実用化されている。

これらのようにセメント改良土の利用形態が多様化する一方で、その設計に際しては性能設計が導入されつつあり、従来のような極限釣り合い状態を仮定した安定計算や許容応力度の照査だけでは対応できない場合が生じてきている。例えば、重要構造物の設計においては、極めて稀に生じるような巨大地震動に対してある程度の変位・変形を許容するような評価手法が導入されつつある。セメント改良土による構造物支持地盤や土構造物も例外ではないが、このような終局状態の適切な評価法と設計への導入に関する研究例は限定されている。

以上のような背景のもとで、本研究では、セメント改良した砂質土を対象として、せん断破壊および引張破壊の発生条件とこれらの破壊が生じてからの変形挙動に着目した検討を実施している。

第一章は序論であり、既往の関連研究をレビューするとともに研究の背景と目的を説明し、最後に論文の構成を記述している。

第二章では、引張破壊挙動を調べるために実施した曲げ試験および割裂試験について記述している。これら2種類の試験で得られる引張強度の大きさが異なることと、切り欠きを入れた供試体の曲げ試験の結果から引張破壊後もひずみ軟化挙動を示すことを明らかにしている。

第三章では、せん断破壊挙動を調べるために実施した平面ひずみ圧縮試験について記述している。平面ひずみ条件下でのせん断強度は三軸圧縮条件下よりも高いこと、および、せん断破壊後のひずみ軟化過程で吸収される破壊エネルギーが引張破壊後の破壊エネルギーよりも大きいことを明らかにしている。

第四章では、セメント改良砂の弾塑性モデルの構築について記述している。引張とせん断の2つの破壊基準を設け、それぞれのひずみ軟化挙動を第二章と第三章の試験結果に基づいて設定し、ひずみの局所化に起因するメッシュサイズ依存性も低減したモデルを提案することに成功している。

第五章では、提案した弾塑性モデルを用いて実施した検証解析について記述している。計4種類の室内土質試験を対象とした有限要素解析を実施することにより、引張とせん断のそれぞれのモードにおいて、破壊後のひずみ硬化挙動までを含めたモデル化が適切に行われていることを確認している。

第六章では、一軸引張試験、割裂試験、曲げ試験で得られる引張強度の違いについて実施した詳細な解析的検討について記述している。一軸引張試験で得られる引張強度は材料としての引張強度と概ね一致するが、割裂試験では引張強度が過少評価され、逆に曲げ試験では引張強度が過大評価される理由を明らかにしている。

第七章では、セメント改良砂の曲げ破壊に関する遠心模型実験を対象とした解析について記述している。提案モデルを用いることにより、境界値問題においても妥当な解析結果が得られることを確認する一方で、改良砂を弾性体でモデル化する従来手法に基づく解析では、過度に安全側の評価となることを明らかにしている。

第八章では、地盤内で格子状のセメント改良を行う液状化対策工法の効果に関して、提案モデルと従来手法を用いた解析結果を比較している。改良体を弾性体としてモデル化する従来手法では大地震時において設計が成立しなくなる場合でも、提案モデルを用いることにより、液状化抑制効果を保持したまま大地震時における改良体の部分破壊を許容するような設計が可能となることを明らかにしている。

第九章では、結論と今後の課題を記述している。

以上を要約すると、本研究は、セメント改良砂を対象として系統的に実施した各種の室内土質試験結果に基づいて、引張・せん断破壊後のひずみ軟化挙動を考慮できる弾塑性モデルを構築し、その妥当性を検証している。さらに、大地震時の液状化対策工法の設計においてこのモデルを適用することにより、大幅な合理化が可能となることを明らかにしたものであり、地盤工学の発展に貢献するところが大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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