学位論文要旨



No 121119
著者(漢字) 金,恵園
著者(英字)
著者(カナ) キム,ヘウォン
標題(和) 韓国の伝統的木造建築の構造特性に関する研究
標題(洋)
報告番号 121119
報告番号 甲21119
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6209号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 高田,毅士
 東京大学 助教授 松村,秀一
 東京大学 助教授 藤井,恵介
 東京大学 助教授 腰原,幹雄
内容要旨 要旨を表示する

阪神・淡路大震災以降、現代住宅の寿命は100年も持っていないが、木造建築は数百年も風や地震などに耐えられていることから、木建築の優れている点が主目されてきた。その中で地震に対する研究や実験が行われている日本では数mmの微動を測る常時微動測定や建物を乗せて振動台を加振するなどのさまざまな研究がなされている。その結果、伝統的な建築の柱や壁、貫、組物などの接合部剛性や履歴特性が明らかになっている。

1990年代以降、韓国でも地震が活発に起きている。そして、今までの地震の歴史を見ると中国の北東部と日本の西南部は韓国の地震発生と関連が強いという話が中国と日本からも出ている。1920〜1950年、1970年半ば〜1980年、1990年半ば〜現在まで同じ時期の地震発生が多いことから、地震帯の関連性の声も高くなっている。それを見ると、韓国における地震の危険性は近くにある中国と日本からの影響も無視できないのがわかる。そして、海で地震が起きると津波も伴って起き、1983年5月26日に日本の本州の北部で起きた地震(M7.7)と1993年7月12日の北海道地震(M7.8)により韓国の東海に津波を受け被害を受けたことがある。

そういうことから、地震がないと言われている韓国も、実際には昔から大きな地震による被害があり、最近は日本、中国による地震にも影響を受けたことがあるので、日本で研究されてきた常時微動測定や水平抵抗要素による解析を韓国の建物を対象にするのである。

韓国の文化財は国が指定する国宝と宝物(日本の重要文化財に相当)と市が指定する市指定文化財がある。韓国文化庁の資料で、国が指定した文化財の全体対象数は木造建造物325件(国宝、宝物、重要民族資料、史跡及び他)であるが、2000年まで木造建造物146件(46.2%)、石造物76件(35.2%)について調査が完了し、2001年まで調査された建築文化財の実測調査現状は木造建造物35件(国宝1件、宝物34件、史跡2件など)である。

韓国の木造文化財の常時微動測定は1997年大場新太郎氏により計測された法住寺の五重塔(捌相殿)が唯一である。本論の韓国の常時微動測定はあまり研究されていなかった韓国の木造建築に関する振動特性を得るのが目的である。全国にある民家、社寺、城門などの建物を対象にして基本的な振動特性として、地盤周期、建物の固有周期、減衰などを計測した。

その結果、五重塔を入れた社寺建築(5棟)では高さが増加するのにつれて固有振動数と減衰定数が減少していることがわかる。社寺建築は単層で建物の高さは5〜10mほどで、固有振動数は2〜4Hz、減衰定数は0.02〜0.04程度であることがわかる。客舎門を入れた門建築(4棟、興仁之門は2回測定)は2層(客舎門以外)建物で高さは12〜14mほどで、固有振動数は1〜2Hz、減衰定数は0.01〜0.03程度であることがわかる。民家を入れた12棟の結果から、おおむね建物の高さが増加するにつれて固有振動数と減衰定数が減少する傾向があるのがわかる。

その常時微動測定の中から、少ない高麗時代の建物の一つでもあり、歴史的に重要な価値がある「江陵客舎門」が屋根の重さにより部材の破損やひび割れ、接合部の緩みなどが入り、構造的な異常で解体修理を行った建物であることと、柱−貫フレームを基本にしている建物でもあることから研究対象にして理論式の貫剛性を入れたモデル化を行う。貫部材に接合部の緩みを防ぐため補強金物も入っており、実際に地震が来た時どの程度の剛性を発揮するかが研究の目的である

高麗時代の建物である江陵客舎門について構造解析を行った結果、鉛直荷重による静的解析では構造変更以降の柱と梁の断面性能をしらべた。静的解析では木部材のめり込みによる貫の回転剛性を計算し解析を行った。接合条件が違うピン、半剛性(貫の回転剛性)、剛接合モデルにそれぞれKOBEのEW波(1995年)を入れた結果、一番上の桁の変位はピン接合の場合26.9cm、半剛性は18.7cmになり、貫が水平抵抗要素としての機能をしている。

今後の課題や問題は、もっと適切なモデルにその他の水平抵抗要素である組物と柱の傾斜復元力についての考慮をすべきである。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、韓国において寺院や民家に代表される伝統的木造建築の保存・修復活動が盛んに進んでいる中で、構造的検討、特に地震荷重に対する検討のための基本データが極めて少ないことに鑑み、韓国の伝統木造建築の構造特性を実測・解析を用いて検討したもので、5章からなっている。

1章「はじめに」では、日本では伝統木造建築の構造特性に関する研究が古くから行われ、特に阪神・淡路大震災以降、耐震性に関する研究が活発化し、さまざまな実験・実測・解析が行われ、その耐震性能が明らかになりつつあるとしたうえで、近年は大きな地震が起きていないが、歴史的には大きな地震被害のある韓国においても、伝統木造建築の耐震性能評価が重要であることを述べ、本論文の目的としている。

2章「既往の研究」では、韓国でも歴史的にはMMI震度7以上の地震が発生し被害が生じており、日本・中国など国外で起こる地震も含め、地震に対する安全性の確保が必要としている。あわせて、耐震性に関わる日本と韓国それぞれの木構造の特徴、法規についても説明している。さらに、日本での伝統木造建築の代表的な耐震要素の評価法についてまとめた上で、韓国での近年の実験的研究がおこなわれつつある現状と、その内容について説明している。

3章「常時微動測定による動的特性」では、韓国では、伝統木造建築に対する常時微動計測例がほとんどないとした上で、韓国に実在する伝統木造建築12棟の常時微動を測定し、その結果についてまとめている。建物種別は、民家・社寺・樓・塔・城門など多岐にわたるさまざまな伝統木造建築を対象としている。建物の規模・建設年代などと固有振動数・減衰定数の関係を説明した上で、建物種別による韓国の伝統木造建築の固有周期・減衰定数の値の概算値を算出している。

4章「江陵客舎門の構造解析」では、解体修理が行われた江陵客舎門を例にとり、鉛直荷重・地震荷重に対する構造解析を行い、その構造性能を検証している。解析にあたっては、日本で提案されている水平抵抗要素の理論式を韓国の木造建築の接合部評価に応用して用いている。韓国の伝統木造建築においても日本と同様に貫のめり込みによる回転抵抗が、大きな水平抵抗要素となっていることを指摘している。

5章「まとめ」では、本研究の結果明らかにされた韓国の伝統木造建築の構造特性についてまとめている。常時微動計測を用いた建物種別・規模による固有振動数・減衰定数の概算値、日本で提案されている水平抵抗要素の理論式を韓国の建物に適用できる可能性が示されている。

以上、本論文は、韓国の伝統木造建築の構造特性、特に耐震性能を評価する上で重要となる基礎データの蓄積と、解析手法の提案を行い、今後、韓国の伝統木造建築の保存・修復を実施する上で、貴重な知見を得たものであり、建築学上の発展に寄与するところがきわめて大きい。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として、合格と認められる。

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