学位論文要旨



No 121124
著者(漢字) 王,光益
著者(英字)
著者(カナ) ワン,クワンイク
標題(和) 都市構造、通勤・社会人口学パターンが道路交通部門でのCO2排出に及ぼす影響に関する研究 : 韓国の経験を中心として
標題(洋) A study on the Effects of Urban Form and the Commuting and Socio-demographic Patterns on Road Transport derived CO2 Emission : Experiences in Korea
報告番号 121124
報告番号 甲21124
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6214号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 特任教授 MARCOTULLIO Peter John
 東京大学 助教授 城所,哲夫
 東京大学 助教授 小泉,秀樹
内容要旨 要旨を表示する

近年、「エネルギー効率的な都市計画」、「省エネルギー消費都市」に向けた戦略の一つとして、交通エネルギー消費側面での 土地利用・交通統合計画の策定を通じた「持続可能な都市形態」に関する研究が注目を集めている。また、気候変化協約による温室ガス縮減に対する国家間の義務負担規定が強化されている。さらに温室ガスの中で二酸化炭素(CO2)縮減のための様々な分野における戦略が提示されている。その中で都市計画分野においては交通需要のニーズを低減させる土地利用計画を通じた道路運送部門のCO2縮減のための政策が提案されている。

先行研究では、主に概念的な理論によるアプローチが多く、通行形態、またはエネルギー消費との関連性に焦点を当てている。また、それに関連する実証研究は、西欧の都市を対象とした研究結果が主なものであった。従って、韓国を対象とした実証的根拠と政策案を提示するには不足していた。本研究では先行研究への考察を通じ、エネルギー消費に影響を及ぼす都市形態理論を整理し、都市形態に関連した変数を設定した。そして、各変数と道路交通分野のエネルギー消費による CO2との関係を分析することを主な内容としている。また、通勤・社会人口学的パターンを表す変数も追加し、 CO2排出量に及ぼす影響を実証分析した。そして、これに関連し、 CO2縮減のための地方政府レベルでの先進的な政策及びプロジェクト事例と土地利用‐交通需要統合政策を適用している事例を整理し分析した。

本研究は、気候変化防止のための温室ガス縮減次元からのアプローチを試みている点と高層高密都市として代表される韓国の都市を対象とした研究である点で既存研究と異なっている。また、都市形態と道路運送部門のCO2排出量に関する基礎研究として、今後温室効果ガスの低減に向けた土地利用-交通統合政策の実行のための基準を用意することに研究の目的がある。

本研究の内容を各章(Chapter)ごとに要約してみると下記の通りである。

1章では、韓国の急激な都市成長による交通及び環境問題における深刻な問題点と、これに対する統合的な政策の必要性を提起した。2章では、気候変化(Climate Change)に及ぼす交通分野において地球的レベル、または一般論的に明らかになった事実(Facts)を整理し、韓国での交通分野における温室ガス現況と既存交通関連政策による可能性を整理・分析した。

3章では、都市構造(Urban Form)の用語定義と、都市密度がなぜ都市形態の側面で重要なイッシューになるのかを整理した。既存研究及び理論考察を整理し、ヨーロッパのCompact City Policy、アメリカのNeo-Traditional Planning概念としてのNew Urbanismについて整理し、都市構造(Urban Form)関連の変数設定のための文献整理も同時に行った。

4章では、3章の文献レビューを通じた変数を選定し、選定された変数の測定法を整理した。とりわけ、 CO2排出量計算法について、IPCC(International Panel of Climate Change)より提案された排出量計算法に加え学問的な算出方法の問題点も整理した。また、都市構造(Urban Form)に関しては、五つの側面として次のような指標を用いて定義し、指標計算方法論について記述した。(1)人口及び雇用者密度、(2)市級都市の邑面洞(=基礎自治団体)別の人口及び雇用者密度のGini係数を通じた集中度(Concentration)、(3) 市級都市の邑面洞別の人口及び雇用者密度のMoran's I(空間自己相関係数)を用いた空間群集度(Clustering)、(4)用途地域の中で混合用途開発が可能な準住居及び商業地域の面積割合を使用した土地利用混合度(Mixed Land-Use Ratio)、(5) 市級都市の邑面洞別2次及び3次産業雇用人数と密度の空間上の分布を通じた都心及び副都心の確認による単核及び多核都市で区分(Nuclearity)。都市構造変数の他に交通変数(人口100人当たり自動車登録台数、道路の長さの都市面積対比割合、道路面積の都市面積対比割合、自動車1台当たりの駐車場スペース)と通勤形態(手段による割合、都心内通勤者の手段による平均通勤時間)と社会人口学的変数(通勤者の中で、女性の割合、年齢による割合、職業による割合、一人当たりの地方税)等も整理した。

5章では、これらの変数を統計学的分析を用いて結果を整理した。まず、相関関係については、西欧の既存研究と類似した結果である複合土地利用度と人口密度が高い負の相関性を持っていることが明らかになった。しかし、韓国の都市は過剰な人口及び雇用者密度の集中、空間的群集により、これを示す指標であるGini及びMoran's I係数が負の相関関係をもっていることが明らかになった。また、都市を一人当たりの人口及び自動車台数によるCO2排出量で「低/中/高」と区分し、各都市の特徴を調べてみた結果、都市構造の変数が統計的に有効性を持っていることが明らかになった。

6章では、5章の統計的有効性だけでは政策的示唆点を提案し難いため、先進事例の考察を通じ、都市形態的アプローチの可能性を探る事例考察を行った。具体的には、EUの交通-土地利用政策研究であるTRANSLANDの政策現実化可能性整理、フィンランド・ヘルシンキー大都市で土地利用政策による交通CO2排出量の縮減結果、ICLEI(イクレイ- 持続可能性をめざす自治体協議会、以下ICLEI、あるいはイクレイと略す)のCities for Climate Protection Program (CCP事業)の推進事例、オーストラリアのVictoria市のThe Greenhouse Neighborhood Projectの事例、チリでのClean Development Mechanism(CDM)としてLocation Efficient Developmentの可能性を提案した事例、日本の地方自治団体の温暖化防止対策及び政策の現況(市町村レベル自治体における温暖化対策の現状)等である。

7章では、理論的考察、実証的研究及び事例研究を通じた結果を総合的に整理し、都市形態的側面における土地利用-韓国における交通需要統合政策の実効可能性を整理した。高密度開発を維持しながらも都心に集中したり、その中でも特に限定された地域へと凝集される開発は、先進諸国の政策事例で考察したように、集積の環境不利益が生じない、実現可能性のある実践計画案となるよう導かれていくべきである。また、持続可能な発展とは、環境的側面だけではなく、経済・社会的側面との均衡が重要であるため、今後の研究課題として、社会的均衡性と問題点、費用-便益の問題点等も研究の考慮対象になるべきであることを提案したい。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は「エネルギー效率的な都市計画」に向けた戦略の一つとして、交通部門におけるエネルギー消費側面での「持続可能な都市構造」に関する研究を、はじめて韓国の全市にほぼ相当する70市を対象にして行った実証研究である。内容的には、都市計画分野での交通需要を低減させる土地利用計画及び交通の統合に向けて都市構造指標及び道路交通部門のCO2俳出量との関連性分析した点に特色がある。

内容を章別に整理すると以下のようになる。

第1章では、導入部として、韓国における急激な都市の成長と今後の新しい大規模都市開発による交通及び環境問題における深刻な問題点を明らかにしつつ、研究の目的、質問、仮説、構造を整理し、第2章では欧米と韓国の先行研究を通じて、なぜ都市構造が重要なイシューになるのかをまとめている。第3章では、気候変化(Climate Change)に影響を及ぼす交通分野において、地球的レベル、 また一般的な事実(Facts)を整理して、韓国での交通分野における温室ガス排出の現況と既存交通関連政策による可能性を整理・分析した。第4章では、先進事例の考察を通じて都市形態的アプローチの可能性を探る事例考察を行った。

本研究の中心となる第5章、第6章、第7章の内容を整理は次のようである。

研究に際して、韓国ではこれまで存在しなかった各都市別1人当り二酸化炭素俳出量をIPCCのTier1とTier3手法を同時に利用して算定した。既存の都市別エネルギー消費量と広域行政区域(広域市及び道)の通行量データを利用したCO2俳出量算定の限界点も考察している。また、都市構造指標においては人口密度、ジニ係数、平均偏差距離、空間自己相関係数(Moran coefficient)を利用し、仮想の都市構造(10×10セル)を分析することによって、指標別の活用度と限界性を検証した。このような都市構造指標を、手法の妥当性を吟味しつつ Monocentric Compact City、Concentrate Decentralization、Decentralized Concentration、Decentralized Sprawlなどの都市構造の概念を定めたている。さらに、多変量回帰分析を用いて、都市の位置(首都圏都市と地方都市)、人口規模(30万人以下と超過)、自足性(外部通勤率基準)などの指標と、C02排出の関連を分析した。こうした空間分析の数理的な手法を種々適用したことによって、本研究は実証的な意味で説得力のあるものとなっている。その結果、

韓国の都市の場合、人口及び従事者の密度が最も高い負の相関性を持つこと。空間的自己相関係数は統計的に有意ではなく、ジニ係数及び平均偏差距離は正の高い相関を持つこと。また、土地利用混合度が高いほど1人当り二酸化炭素俳出量が低く現われ、商業中心地の場合は多核構造が単核構造よりもエネルギー效率的であることが明らかになった。

密度と類似した相関関係を持つ変数では通勤者の中でもブルーカラー従業者の割合が高く現われ、全70都市の多変量回帰モデルでも重要な変数に選定された。これは韓国都市では製造業の産業立地が都市交通量に大きい影響を及ぼすと推測することができる。

都市構造指標の中で相関分析を通じて1人当りCO2俳出量と類似した値を持つ密度、ジニ係数、平均偏差距離をともに検討した結果、人口100万以上の大都市は高密度の拡散した集中都市構造が、人口100万以下の中小都市は高密度の集中された拡散都市構造が道路交通部門の1人当りCO2俳出量を低減させるという結果を得た。大都市は多核形態に、中小都市は小さな面積に過度に集中される単核形態よりは人口中心を基準とした遠くない範囲に広がりながら均衡が取れているように開発されているとき、エネルギー效率的だと説明することができる。

6個の回帰モデルを比較した結果、人口密度変数は6個中3個の回帰モデルで、人口分布距離変数は5個回帰モデル、1人当り自動車登録台変数は4個のモデルで重要な変数に選定された。これは人口密度と人口分布距離等の都市構造変数が、道路交通部門の二酸化炭素俳出量の減少のために重要な役割を果たすことができるという十分な根拠になると考えられる。

という結果を得た。

これらの定量分析の結果を踏また考察から、都市構造的側面における土地利用は高密度開発を維持しながらも都市内で特に限定された地域に凝集される開発は集積の不利益によって道路交通エネルギーの側面では非效率的となるため、今後の韓国における都市計画の策定時には、過度な単一集中の形態は避け、都市内でも均衡ある開発が可能とならなければならないという計画策定に際して有用な結論を導いた。同時に、今後の研究への示唆として、持続可能な発展とは環境的側面だけではなくて、経済・社会的側面との均衡が重要となるため、社会的均衡性と問題点、費用-便益の問題点等も今後研究対象とされるべきとことを示した。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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