学位論文要旨



No 121141
著者(漢字) 星野,智史
著者(英字)
著者(カナ) ホシノ,サトシ
標題(和) 港湾物流におけるAGV搬送システムの設計に関する研究
標題(洋)
報告番号 121141
報告番号 甲21141
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6231号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 太田,順
 東京大学 教授 上田,完次
 東京大学 教授 新井,民夫
 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 大和,裕幸
内容要旨 要旨を表示する

本論文では,港湾物流におけるAGV(Automated Guided Vehicle)搬送システムに対する設計方法論の提案を行う.そのため,AGVが主要な作業機器として稼動しているAGV搬送システムを設計対象とする.なお,本搬送システムにおいて,AGVはそれぞれ自律的に行動することができる.そして,本論文では,(I) 搬送システムを一から設計していく場合,(II) 既存の搬送システムにおいて要求仕様の変更に対する改善・改修設計を行う場合,の二つの設計に焦点を当てる.本搬送システムには,AGVの他にも作業機器として埠頭クレーンであるQCC(Quay Container Crane),自動門型式移動クレーンであるATC(Automated Transfer Crane)や天井クレーンであるOHC(Overhead Hoist Crane)などが稼動している.これらもAGVと同様に,それぞれ自律的に行動することができる作業機器となる.

本論文では海上輸送から陸上輸送といった大域的なコンテナ物流のうち,港湾コンテナ物流に関して,"港湾ターミナルに入港したコンテナ船より運び込まれたコンテナ群が,多種多様な機器により,ターミナル内の所定の蔵置場所までそれぞれ搬送ならびに蔵置されていく作業の流れ"のことをコンテナ搬送システムとして定義する.そして当該搬送システムにおける効率的なコンテナ物流の実現を目指す.本論文における搬送システムの設計とは,ある搬送完遂時間や搬送すべきコンテナの数が与えられた際,これらの要求に対して,当該搬送システム内において作業を行うさまざまな機器の投入台数,搬送システムのレイアウト,ならびにそれらを効率良く稼動させるための運用法について設計することを意味する.

港湾コンテナターミナルに自動搬送システムを導入する際,ターミナルのスペースに一から搬送システムを設計する場合と,すでに操業している搬送システムに対して,それらを改善あるいは改修するかたちで再設計を行う場合とで,それぞれ設計の具体的なアプローチが異なってくる.そこで本論文では,これら2つの場合について,それぞれ設計(I)ならびに設計(II)とし,扱う問題の違い,またそれにともなう設計アプローチの違いなどを明確にしながら議論を進める.

設計(I) に対して,港湾物流における搬送システムには上述したさまざまな機器が投入され,それぞれが決められた作業を実行している.したがって,当該搬送システムは大規模かつ複雑であり,従来その設計方法に関しては,現場設計者の熟練度に依存した試行錯誤的なものにとどまってきた.そのため,設計段階には膨大な時間を必要としてきた.このような従来の設計現場における問題に対するブレークスルーとして,本論文では,さまざまな要求仕様,すなわち搬送完遂時間や,コンテナの数に応じたAGV搬送システムの設計を,短時間で正確に行うための方法論を提案する.その際,作業機器の投入台数とそれに連動して変化する機器の作業時間をいかにして見積もるかが,搬送システムの最適設計方法論を提案する上でのチャレンジングポイントとなる.このチャレンジングポイントに対し,本論文では数理モデルとして待ち行列ネットワーク理論と実搬送システムを模倣するための搬送シミュレータをハイブリッドに組合せた設計方法論を提案する.

AGV搬送システムのレイアウトを選定する際,すでに他の港湾において導入されているシステムレイアウトが選定の候補として考えられることがある.ここで,レイアウトの候補が複数挙げられる場合,それらを別々に発展させるのではなく,同等の要求仕様に対する最適設計を行い,設計結果に基づいた搬送システムの構築コストなどによって,それらの相対的な評価がなされなくてはならない.そのため,ある同等の要求仕様に対して,それらのレイアウトに基づいたAGV搬送システムの最適設計を行い,その結果,得られたコストパフォーマンスを比較するなどといったことを行う必要がある.本論文では,港湾コンテナターミナルとしてもっとも代表的なレイアウトである垂直型と水平型のAGV搬送システムを設計対象とする.このとき,本来であれば各搬送システムの運用までを同時に考慮した上で,要求仕様に対する適切な作業機器の投入台数を設計しなくてはならない.しかしながら,ここでは相対的な評価を行うという観点より,運用モデルは従来型のシンプルかつ天下り的なものにとどめ,さまざまな要求仕様に対する作業機器の最適な投入台数を算出する.

続いて,相対的な評価によりどちらか一方の搬送システムの有効性が示されたら,それに対する運用までを同時に考慮したシステム設計を行う.本論文では,港湾物流におけるコンテナ搬送に注目しているため,ここでは,コンテナの船から蔵置場所までの流れをいかにして効率良くするか,ということに着目する.その際,冒頭でも述べた通り,本論文で扱うAGV搬送システムには,多種多様な作業機器がいるため,作業機器群の投入台数の他に,運用モデルとして,搬送システム内における協調行動則,コンテナ蔵置計画,コンテナ搬送計画を設計対象とする.そして,当該システムに対するもっとも効率的な運用モデルについて明らかにする.

一方,設計(II) に対しては,既存の搬送システムに対する,要求仕様の変更にともなう改善・改修設計のための設計支援方法論を提案する.港湾管理者にとってコンテナ船の停泊時間は,作業を管理する上でもっとも重要な要素となる.そのため,船の停泊時間が短くなったり,コンテナ船に積まれているコンテナの数が従来と比べ増大した場合,既存の搬送システムを改善あるいは改修することにより,対応することが求められる.ただしその際,設計(I)ではさまざまなパラメータを設計対象にしながら設計が行えたのに対し,設計(II)の場合では常に既存システムの制約を考慮しなくてはならないといった問題が存在する.すなわち,設計(II)では,搬送システムの抜本的な設計変更は困難であり,可能な限り部分的な改変により要求仕様を満たす搬送システムを構築しなくてはならない.本論文では,従来のシミュレータをベースにした,あるいは定点観測による実験的な再設計方法論ではなく,待ち行列ネットワーク理論をベースにしたハイブリッドな設計方法論を適用し,搬送システム内に生じているAGV群の搬送渋滞の様子などを数理的に解析する.また,それらに対する改善設計案をロジックツリーとして網羅的に提示する.さらに,搬送システムに対するバランシングも考慮する.すなわち,搬送システムのスペックを与えたとき,それに対する妥当な要求仕様,さらにそれに対する適切な作業機器の投入台数を算出する.最後に,提案する設計支援方法論の有効性の検討を行うため,実際に操業している搬送システムを対象に,要求仕様の変更に対する,システムの改善設計を行う.

審査要旨 要旨を表示する

星野 智史(ほしの さとし) 提出の本論文は「港湾物流におけるAGV搬送システムの設計に関する研究」と題し,全8章より構成される.本論文は,港湾物流におけるコンテナ搬送作業の高効率な自動化を目指し,そのための最適な設計方法論の提案を行っているものである.ここでは,作業要求に対する,作業機器の投入台数,搬送システムのレイアウト,運用モデル,などに対する設計が行われている.また,既存の搬送システムに対する,改善・改修設計のための設計方法論の提案を行い,実搬送システムへの適用といったことも行っている.

第1章では,港湾物流の重要性について述べ,AGV(Automated Guided Vehicle)を適用する際の,ターゲットとする研究領域について述べた.また,従来研究を参照し,それぞれの問題点について指摘し,本論文の目的を明確にした.本論文では,その趣旨を,設計(I)として,港湾コンテナターミナルスペースにAGV搬送システムをはじめから構築していく場合と,設計(II)として,既存の搬送システムの要求仕様変更に対する改善・改修設計を行う場合,の2つに分け,それぞれに対するアプローチを述べた.

第2章では,6章まで設計の対象となる垂直型AGV搬送システムと水平型AGV搬送システムについて,それらの概要,レイアウト特性について述べた.さらに,設計を行うに際して,AGV搬送システムに対して課せられる要求仕様について述べ,設計基準についての説明を行った.

第3章では,AGV搬送システムの最適設計を行うため,数理モデルとシミュレーションモデルをハイブリッドに組合せた設計方法論の提案を行った.そして,数理モデルとして用いられる待ち行列ネットワーク理論を適用したAGV搬送システムのモデル化・定式化について説明した.また,数理モデルと搬送シミュレーション間での入出力パラメータの詳細について述べ,提案する設計方法論のアーキテクチャを説明した.

第4章では,本論文で提案する設計方法論の有効性を検証するため,要求仕様に対する垂直型と水平型のAGV搬送システムの最適設計を行った.垂直型ではAGV,RMGC(Rail-Mounted Gantry Crane),退避経路,水平型ではAGV,RTGC(Rubber-Tired Gantry Crane)をそれぞれ設計対象として,各設計パラメータの組合せ最適設計解を導出した.また,設計プロセスにおける時間コストとシステムスループットに関する入出力パラメータを考察し,設計解の最適性の検証,さらに,計算時間に関する考察を行うことで,シミュレーションに基づいた最適化手法に対する本設計方法論の有効性を示した.

第5章では,さまざまな要求仕様に対する垂直型・水平型AGV搬送システムの最適設計を行った.そして,各コストモデルに基づき,搬送システムの総合構築コストを算出し,これらを比較することで各AGV搬送システムのコストパフォーマンスの評価を行った.その結果,本論文で設定した諸条件,そしてコストモデルの下では,水平型AGV搬送システムがほぼ全ての要求仕様に対して有効であることを示した.

第6章では,水平型AGV搬送システムを題材に,4章,5章では天下り的に与えてきた運用モデル(従来のシンプルな運用モデル)までを同時に考慮したシステム設計を行った.ここでは,AGV,RTGCの作業機器の投入台数の他に,運用モデルとして,各作業機器間での協調行動則,コンテナ蔵置スケジューリング,コンテナ搬送計画に注目し,搬送システムの高効率化に向けた各運用モデルの設計を行った.その結果,従来のシンプルな運用モデルと比べて,最大で48[%]の効率化が行われ,運用までを同時に考慮した搬送システムの設計を行うことの必要性を示した.

第7章では,既存の搬送システムの,要求仕様変更にともなう改善・改修設計のための設計支援方法論の提案を行った.ここでは,既存の搬送システムに対する再設計の際のチャレンジングポイントである,設計制約を考慮した上での限られた範囲における設計,に対して,待ち行列ネットワーク理論を適用し,定式化された結果に基づき,ロジックツリーとして改善設計案を網羅的に列挙した.本設計支援方法論の有効性を検討するため,実搬送システムに対して,設計制約を考慮した上で,改善設計案を選択し,さらに設計政策として経路構成を変更し,ボトルネック箇所に対する改善設計を行った.これにより,本論文で提案する改善設計のための設計支援方法論の有効性を示した.

第8章では,本論文の結論として,港湾物流におけるAGV搬送システムの設計を行ったことを述べた.本論文において提案した,最適設計方法論,ならびに,既存の搬送システムに対する改善・改修のための再設計支援方法論を適用することで,それぞれ高効率なAGV搬送システムが実現可能であることを結論として得た.

以上を要するに,本論文は高効率AGV搬送システムの実現のため,複数の問題を同時に解決するための設計方法論を確立し,実搬送システムに適用することで,その可能性を評価したものである.これによって,本論文は港湾物流におけるAGV搬送システムの設計に寄与するところが大きく,生産業界の発展に対し有用であると考えられ,重要なものである.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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