学位論文要旨



No 121142
著者(漢字) 道川,隆士
著者(英字)
著者(カナ) ミチカワ,タカシ
標題(和) 多重解像度表現に基づく高品質な形状補間手法
標題(洋)
報告番号 121142
報告番号 甲21142
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6232号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 教授 木村,文彦
 東京大学 助教授 増田,宏
 東京大学 助教授 高橋,成雄
 理化学研究所 研究員 金井,崇
内容要旨 要旨を表示する

形状デザインや娯楽産業では,複数の形状間を滑らかかつ違和感のないように補間させたいという需要が高い.このような需要を満たす技術にメッシュモーフィングがある.メッシュモーフィングは,複数間の形状間を補間する形状モデリング技術の一つである.従来の研究により,任意のメッシュ間で補間形状を構築できるようになったものの,いくつかの問題点が残っている.最も大きな問題は,時間tを与えて補間形状を計算するときに,補間形状に自己干渉,歪み,縮退が発生して,品質が悪くなるという点である.これは,ソースとターゲットの座標値を線形補間することによって計算しているためである.本研究では,メッシュモーフィングにおいて高品質な補間を実現することを目的とする.本論文における「高品質」とは,線形補間で見られるような自己干渉,歪み,縮退を出来るだけなくす近似剛体補間と,品質を損なうことなくユーザによる制御が可能な補間形状制御のことをいう.以上の目的を達成するために,本論文では,メッシュモーフィングに多重解像度表現の枠組みを導入することで,高品質かつ制御可能な形状補間を実現する手法を提案する.

はじめに,多重解像度表現に基づく補間メッシュ表現,「多重解像度補間メッシュ」を提案する.従来手法では,補間メッシュをパラメータ空間における二つのメッシュを重ね合わせる「合成操作」によって計算していた.しかし,合成操作によって構築された補間メッシュは,面の質が低いだけでなく,面数も多いことから,補間問題における障害となっていた.本研究では,合成操作の代わりに,細分割処理を用いて入力メッシュに近似させることで補間メッシュを構築する手法を提案する.本手法は,ユーザがベース補間メッシュを定義することから始まる.ベース補間メッシュは,通常のメッシュと同様に,頂点と面から構成されるが,各頂点に複数の座標値が割り当てられている点が異なる.次に,ベース補間メッシュの各面を再帰的に細分割し,新しくできた頂点を入力メッシュにフィッティングさせることで,補間メッシュを構築する.新しくできた頂点の座標値は,パラメータ化を利用することで計算する.こうして計算された補間メッシュは,多重解像度表現を保持しているため,任意の解像度における補間形状を取り出すことができる.

次に,多重解像度補間メッシュを用いて,近似剛体補間を行う手法を提案する.本手法は,粗いレベルにおいて厳密な近似剛体補間を計算したあと,詳細なレベルに関しては,差分を追加することで計算する(図 1).

本手法は,四面体補間メッシュと呼ばれる,各頂点につき複数の座標値を持つ四面体メッシュを構築することから始まる.ユーザは,ソースのメッシュと,内部点と呼ばれる点を入力として与えて四面体メッシングを適用することで,ソースの幾何情報を持った四面体メッシュを構築する.次に,四面体メッシュの表面にある頂点座標値を対応関係がある,ターゲットの頂点座標値に置き換えることで,ターゲットの幾何情報をもった四面体メッシュを構築する.このとき,内部点は位置が確定していないので,スムージングにより適切な位置に配置する.次に,四面体補間メッシュを用いて近似剛体補間を計算する.これは,各四面体に定義された理想的な補間関数と,実際の補間関数との誤差が最小になるように計算する.ただし,補間中に裏返る四面体は,理想的な補間関数を計算できないため,計算が破綻する.これに対応するために,裏返る四面体に対して隣接する補間関数から仮想的な補間関数を計算する.これにより,四面体補間メッシュに裏返りが発生したとしても適切に計算が出来る.粗いレベルにおいて,近似剛体補間を計算した後は,ピラミッド座標を用いて,詳細レベルの補間形状を構築する.ピラミッド座標は,頂点とその近傍で定義される相対的な座標系の一つであり,ピラミッド座標から形状を再構築するためには,非線形の繰り返し計算を必要とする.本研究では,粗いレベルから詳細なレベルへと順番にピラミッド座標を用いて補間形状を再構築する.すでに粗いレベルの頂点は計算済みであることと,粗いレベルの補間メッシュから良好な初期値を得られることから,オリジナルのピラミッド座標による補間形状の再構築と比較して高速に計算できる.

最後に,近似剛体補間の枠組みを用いて,補間形状を制御する手法を提案する.従来の補間メッシュは,構造が不規則であったため,局所的な品質を保ったまま補間形状に制御を加えることは困難であった.多重解像度表現に基づく近似剛体補間手法は,この問題を解決する.はじめに,粗いレベルにおいて近似剛体補間を計算する.ここで得られた補間形状に対して,ユーザの制御を加える.制御が加えられた粗いレベルの補間形状に対して,ピラミッド座標を用いた再構築を行う.本手法で制御する形状は,粗いレベルであるため,制御すべき頂点数は,従来手法と比較して格段に少ない.詳細なレベルは,ピラミッド座標による再構築によって計算されるため,補間形状の局所的な品質を低下させることなく補間形状を制御できる.この枠組みに基づいて,本研究では次の三手法を提案した.第一の手法は補間経路編集に基づく制御手法である.ユーザは,補間形状の頂点に対して,補間経路を定義する.また,補間経路によって影響を受ける範囲をROI(Region of Interest)として指定する.ROIに含まれる頂点は,近似剛体補間を計算した直後のピラミッド座標を保つように,補間経路の変化に従って変形する.あとは,ピラミッド座標を用いた再構築を行うことによって,補間経路を制御したモーフィングが実現する.第二の手法は,変形情報転送手法に基づく制御手法である.変形情報転送手法は,ソースメッシュの変形前から変形後の変換情報を,対応関係が構築されているターゲットメッシュに適用することで,ソースメッシュに割り当てられた変形情報をターゲットメッシュに転送する.この手法を,本研究で提案した近似剛体補間手法と組み合わせることで,モーフィングしながら他のアニメーションを追加することが可能となる.第三の手法は,非一様な形状補間手法である.従来のモーフィングの研究では,補間形状には全て同じパラメータを与えていた.従来手法でも非一様な補間は可能であるが,姿勢が大きく異なるメッシュ間のモーフィングでは,局所的な品質の保持が困難であるという問題があった.本研究では,粗いレベルの四面体補間メッシュの各四面体に対して個別のパラメータを与えることにより,非一様な近似剛体補間を計算する.また,詳細なレベルへの再構築でも非一様再構築を行う.このときのパラメータは,隣接する粗いレベルの頂点に割り当てられているパラメータを平均化させることで計算する.さらに,各四面体に割り当てられたパラメータを時系列に管理することで非一様な補間アニメーション(スケジュールドモーフィング)が実現する.本手法により,大きく姿勢が異なる形状間においても,剛体性を保持したまま非一様な補間が可能となる.

本論文では,以上で提案した手法に対して,例題を適用し,品質,計算時間,データ量において評価を行い,その有用性を検証した.

図 1.多重解像度表現に基づく近似剛体補間

審査要旨 要旨を表示する

道川隆士(みちかわたかし)提出の本論文は「多重解像度表現に基づく高品質な形状補間手法」と題し、全7章よりなり、メッシュモデルに対するモーフィング(形状補間) に関する問題を扱っている。

第1章では、コンピュータアニメーション分野における形状モデリングの密接な関係を示し、形状モデリング分野の一つであるメッシュモーフィングの重要性について論じた。そして、従来手法におけるメッシュモーフィングの問題点を指摘し、本研究の目的を示した。その後、多重解像度表現に基づく手法の枠組みを提案した。

第2章では、本研究の背景を示した。はじめに、形状モデリングにおけるデータ表現、多重解像度表現、メッシュの幾何処理、メッシュの変形技術など、本研究で必要となる技術について、各種手法を紹介した。また最後に、メッシュモーフィングについて、既存研究を紹介し、手法の特徴および問題点を指摘した。

第3章では、高品質な形状補間を実現するための多重解像度表現に基づく補間メッシュ表現(多重解像度補間メッシュ)について提案した。手法は、ユーザが入力メッシュを近似したような粗いメッシュ(ベース補間メッシュ) を構築することから始まる。ベース補間メッシュによって粗いレベルにおける一対一対応を構築した後は、ベース補間メッシュを繰り返し細分割して、新規にできた頂点を入力メッシュに近似させることで補間メッシュを構築する。構築された補間メッシュは、あくまでも入力メッシュの近似であるものの、視覚的には十分な精度を持ったメッシュを従来手法よりも少ない面数で表すことを可能にした。また法線マップや3つ以上のモーフィングなど従来困難であった様々なモーフィング手法が可能であることを示した。

第4章では、第3章で提案した多重解像度補間メッシュを用いた近似剛体補間手法を提案した。手法は、3段階からなる。始めに、多重解像度補間メッシュからベース補間メッシュを取り出し、四面体メッシュの位相を持った四面体補間メッシュを構築する。次に四面体補間メッシュに対して近似剛体補間を計算して、粗いレベルにおける大まかな補間形状を計算する。このとき、ソース、ターゲットともに裏返りの無い四面体補間メッシュが必要とされるが、そのようなメッシュを構築することは難しい。そこで、四面体補間メッシュに裏返りがある場合でも近似剛体補間が計算できるように手法を拡張した。最後に、多重解像度表現に基づく再構築により、詳細レベルにおける補間形状を計算する。以上の手法は、多重解像度表現を利用したことで、従来の補間メッシュでは困難であった近似剛体補間手法を実現した。

第5章では、第3章、第4章で提案した手法に関する実験を行い、品質、データ量、計算時間についてそれぞれ評価を行った。多重解像度補間メッシュについては、十分な細分割により、入力メッシュに十分な近似精度を持った補間メッシュが得られることを確認した。また、そのときのデータ量は、従来手法と比較してコンパクトであることを確認した。また、近似剛体補間手法については、大域的および局所的な観点からの評価を通して、高品質な補間が行われていることを確認した。計算時間は、従来手法より数倍高速であることを確認した。データ量もコンパクトであることも確認した。

第6章では、第4章で提案した近似剛体補間手法の枠組みを基に、ユーザによる制御を加える手法を提案した。第4章における粗いレベルに対する近似剛体補間を計算した後にユーザによる制御を加える。あとは、多重解像度表現に基づく再構築により、詳細なレベルにおける補間形状を計算する。第6章では、この枠組みを利用した補間形状制御手法として、補間経路編集による手法、変形情報転送手法に基づく手法、非一様補間手法をそれぞれ提案し、従来手法では困難であった補間形状とユーザによる制御を両立させた形状補間手法を実現した。

第7章では、本研究の成果をまとめ、今後の展望に関して論述した。

以上を総括すると、本研究は、既存手法では困難であった、歪みのない高品質な補間形状の計算を可能にした。更に、補間形状の品質を保持しながらユーザによる制御を可能にした。特に、本論文で提案した多重解像度表現に基づく枠組みは、ゲームのような対話性を要求するアプリケーションから、形状デザインのような品質を要求するアプリケーションまで幅広い分野に応用できる可能性を持っている。このことから本論文は、形状モデリング分野において大きな貢献を行ったといえる。

よって本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる。

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