学位論文要旨



No 121159
著者(漢字) 坂本,織江
著者(英字)
著者(カナ) サカモト,オリエ
標題(和) 超電導発電機の系統における有用性とそのための設計に関する基礎研究
標題(洋)
報告番号 121159
報告番号 甲21159
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6249号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 古関,隆章
 東京大学 助教授 藤井,康正
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,電力系統用の低速応型超電導発電機を主な対象とし,アナログシミュレーションと二次元電磁界解析により導出した発電機特性とを用いて,超電導発電機の系統における有用性とその有用性のための設計について論じたものである。

本論文の内容について「A. 本研究の背景」,「B. 本研究の目的」,「C. 本論文の内容」の順で以下にまとめる。

A. 本研究の背景

超電導発電機は巻線や磁石に超電導体を用いた発電機である。電力系統用途では,同期発電機の界磁巻線に超電導線材を使用した界磁超電導同期発電機が最も実用化に近い段階にある。界磁超電導同期発電機は励磁方式により低速応型と超速応型の2種類に分けられる。低速応機は主に都市周辺の中容量機あるいは都市近郊の小容量機への導入を想定し,超電導機の特長である低リアクタンス化による安定度向上効果と高い無効電力調整能力とを活用する。一方,超速応機は遠隔地大容量機への導入を想定し,系統安定度に関しては低リアクタンス化に加え,超速応励磁により積極的に改善を図る。本研究では低速応型超電導発電機を対象としている。

超電導発電機は当初効率向上を目的として開発されてきたが,それ以上に電力系統に導入することによって系統自身の高性能化が図られることが定性的に明らかになってきた。また,超電導発電機は現用の発電機に比べて,特性の異なる設計・製作が可能であることも定性的に示されてきている。一方,製造技術に関しても多くの国において開発され,特に日本においてSuper-GM(超電導発電関連機器・材料技術研究組合)により実施されたプロジェクトを通してほぼ確立された。このプロジェクトでは70MW級の実機の製作と実電力系統での試験が行われ,更に600MW級への大容量化と,200MW級での現用機とのコストイーブンを狙った高密度化の研究開発が行われた。近年はAmerican Superconductor社の8MVar高温超電導同期調相機に見られるように,高温超電導回転機の開発も進んでいる。

B. 本研究の目的

本研究の目的は大きく次の3点にまとめられる。

(1) 超電導発電機の電力系統における有用性をシミュレーションにより定量的に明らかにする。

(2) 超電導発電機の特性とその構造パラメータ(構造要素の寸法,物理定数)との関係を明らかにする。

(3) 上記の(1)と(2)とを踏まえ,超電導発電機の系統導入効果とそのために必要な超電導発電機の設計について検討を行う。

C. 本論文の内容

(1) 超電導発電機の電力系統における有用性

近年の電力系統においては,電力市場の自由化と自然エネルギーの利用が促進されており,その結果として電源の小型分散化も進んでいる。従って今後の電力系統においては電力潮流の複雑化や偏在化の進展や,需給調整の不確定性の増大が予想され,これらが電力系統の安定度や電力供給品質を低下させるとの懸念がある。これに対し,超電導発電機は現用機に比して大きな系統安定度向上効果,無効電力調整能力,不平衡負荷耐量,電圧変動率,高調波吸収能力等を有するとされており,今後の電力系統においてその導入効果はより一層大きくなると考えられる。

超電導発電機の系統特性については,主に系統安定度向上効果について多くの研究がなされている。本研究では上記の新たな系統状況下にあって,超電導発電機の系統における新たな有用性を提示することを目的とし,シミュレーションによる検証を行った。シミュレーションには三相瞬時値で系統計算を行うことができるアナログ型電力系統シミュレータ(TNS: Transient Network Simulator)と,TNS用に本研究室で開発されたディジタル型実時間発電機モデルを使用した。超電導発電機の新たな有用性として下記(1-a)〜(1-d)の4点について検証を行った。

(1-a) 発電可能量・送電可能容量の増大

(1-b) 長周期動揺を含む系統における動揺モードの改善

(1-c) 風力発電機を含む系統における電圧変動の抑制

(1-d) 高調波の増大した系統における高調波吸収効果・吸収耐量の増大

以下に各項目の概要を示す。

(1-a) 発電可能量・送電可能容量の増大

5機無限大母線系統でのシミュレーションにより,超電導発電機を含む系統の方が現用機よりも単機発電可能量・送電可能容量が増大しすることが示された。これは超電導発電機の導入により電力系統の構成や運用の柔軟性が向上することを示しており,電源の分散化が進む系統において非常に有用な特性である。

(1-b) 長周期動揺を含む系統における動揺モードの改善

超電導発電機の総合的な導入効果をより定量的に評価するための指標のひとつとして,系統の固有値が考えられる。超電導発電機の導入により系統固有値が改善されることを示す先行研究はオフラインでの計算機シミュレーションによるものがいくつかある。本研究ではアナログシミュレーションにより,超電導発電機の導入により系統に存在する最も周期の長い動揺モードが改善されるなど,超電導発電機を含む系統は現用発電機のみからなる系統より固有値が本質的に良い可能性が示された。

(1-c) 風力発電機を含む系統における電圧変動の抑制

自然エネルギーとしては風力発電の導入が積極的に進められている。風力発電には誘導発電機が多く用いられており,今後の電力系統においては誘導機特性を考慮したシミュレーションが重要となる。そこで本研究でTNS用の誘導機型風力発電機モデルを作成した。

また風力発電は出力変動が大きく,その結果生じうる周波数変動や電圧変動の影響を考慮して導入量が制限されている現状がある。本研究では特に電圧変動に注目し,風力発電導入時の超電導発電機の電圧変動抑制効果について検討を行った。検討に際しては,風力発電の出力は様々な振幅と周波数の成分を含むため,周波数特性に注目した。作成した風力発電機モデルとTNSとを用いたシミュレーションにより,風力発電導入時の電圧変動抑制効果について超電導発電機の方が現用の発電機よりも優位である実例を示した。

(1-d) 高調波の増大した系統における高調波吸収効果・吸収耐量の増大

電力系統においては,インバータ等のパワーエレクトロニクス機器の増大による高調波の発生が問題となっている。超電導発電機は超電導界磁巻線の保護のために導電率の高いダンパを備えており,現用機よりも大きなダンパ耐量があるとされているため,設計によっては大きな高調波吸収耐量を持たせることも可能であると考えられる。そこでTNS用の高調波発生源モデルを作成し,超電導発電機の高調波吸収に関する検討を行った。

(2) 超電導発電機の特性と構造パラメータとの関係

低速応型超電導発電機の構造は次の3点で現用機と大きく異なっている。回転子が多重円筒構造である点,低温/常温の2種類のダンパ円筒を有している点,巻線が非磁性材料で支持されており発電機内部に鉄心を持たない点である。超電導発電機のダンパとしては三層ダンパ,かご型ダンパに加え,単層ダンパが近年検討された。単層ダンパは低コスト化を目的として開発されたものであり,今後の主流となると考えられている。

超電導発電機がその系統導入効果を発揮するためには,適切な設計が欠かせない。そのため,超電導発電機の特性と構造要素の寸法や物理定数といった構造パラメータとの関係について研究が行われてきた。超電導発電機は内部に鉄心を持たないため,2,3次元の電磁界解析によってその電気特性をかなり正確に解析することができる。しかし,ダンパ電流を考慮すると,理論式は二次元電磁界解析においても変形ベッセル関数を含む複雑な式となる。そのため,パラメータと発電機特性との関係を知るためには理論式を更に数値計算する必要があった。これに対し本研究では,周波数領域に応じてベッセル関数の近似式を適用することにより,超電導発電機の構造パラメータと発電機特性との関係を有理式の形で簡便かつ正確に得た。ベッセル関数はダンパの構造パラメータをその変数に持つため,近似に際してはダンパの厚さと導電率が重要となる。これらの値は従来の薄型ダンパと近年の単層ダンパでは大きく異なっている。そこで本研究では発電機の構造パラメータについて確認すべき条件を整理した。そのうえで単層ダンパを有する超電導発電機ついて,構造パラメータと発電機特性との関係を直接に与える特性式を導出した。またダンパ電流に関しては一様と仮定されることが多いが,本研究で得た式においてはダンパ電流の分布を考慮している。これは厚型ダンパや高温超電導発電機用のダンパの設計に有用である。

(3) 超電導発電機の系統導入効果のために必要な超電導発電機の設計

(1)と(2)の成果を踏まえて超電導発電機の系統導入効果のために必要な超電導発電機の設計について基礎検討を行った。

この研究では,超電導発電機の構造パラメータと発電機特性とを解析解により直接結び付けている点が大きな特色である。発電機の系統特性は,発電機のリアクタンスや時定数といった発電機定数に基づいて検討されることが多い。本研究では,(1)と(2)の手法を利用することにより,発電機設計にまで踏み込んで超電導発電機の系統導入効果について検討し,その有用性を発揮するような設計を得ることが可能にした。本研究では主に単層ダンパを有する超電導発電機について,超電導発電機の有用性を発揮するような設計に関する検討を行った。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「超電導発電機の系統における有用性とそのための設計に関する基礎研究」と題し,超電導発電機の電力系統における新たな有用性を示すと共にその有用性と発電機の機器定数との関係について考察し,2次元磁界計算とその近似解法により発電機の寸法や物理定数である構造パラメータと特性の関係を簡単に把握できる方法を示したものであり,6章から構成されている.

第1章は,序論で,研究の背景と研究の目的,論文の構成について述べている.

第2章は,「超電導発電機」と題し,超電導発電機の特長,構造について述べ,その中で超電導発電機の低温と常温の二つのダンパが従来の三層構造のダンパからコスト低減により提案された単層構造のダンパに注目している.

第3章は「超電導発電機の系統における有用性」と題し,超電導発電機を系統に導入することで系統の送電可能容量を増大,長距離送電系統における長周期動揺振動の改善,風力発電を含む系統における電圧変動抑制効果に関して,系統解析アナログ型シミュレータとそれに適合する作成した機器モデルを用いて,新しい視点のよる導入効果,新しい有用性を提案すると共に有用性と機器定数との関係を明らかにしたことについて述べている.

第4章は「超電導発電機の二次元電磁界解析」と題し,単層ダンパをもつ超電導発電機の二次元電磁界解析を行い,その解析解に含まれる変形ベッセル関数に機器構造パラメータを考慮して近似解を求め,超電導発電機のオペレーショナル・インピーダンスの有理式近似解を求めた結果を示している.

第5章は「超電導発電機の有用性と設計」と題し,第4章で得られた有理式近似のオペレーショナルインピーダンスを基に,発電機のリアクタンスや各時定数などの機器定数の構造パラメータによる簡単な表現式を示し,3章での超電導発電機の有用性を生かす設計に関する基礎的考察を行っている.

第6章は結論であり,本論文の成果を総括すると共に今後の課題を述べている.

以上これを要するに本論文は,超電導発電機の有用性に関する新たな視点と,新たな導入効果を示すと共に,発電機の二次元電磁界の解析解の精度の良い近似解から求まる機器構造パラメータと機器定数の関係,さらにその有用性と機器構造パラメータの関係を明確にすることによって,有用性と設計の関係を明らかにする道を拓くものであって,電気工学,特に電力系統工学,電気機器工学に貢献することが少なくない.

よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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