No | 121161 | |
著者(漢字) | 宮嵜,悟 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ミヤザキ,サトル | |
標題(和) | 雷放電に伴う電磁界インパルスと雷放電路モデル | |
標題(洋) | Model of Lightning Stroke and Associated Electromagnetic Impulse | |
報告番号 | 121161 | |
報告番号 | 甲21161 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6251号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 雷放電に伴う電圧波、電流波、電界および磁界などの電磁界インパルス(Lightning Electromagnetic Impulse; LEMP)は、電力システムの故障、建築物内の電気設備の故障、電子機器の誤動作やデータ消失などを引き起こすことがある。これら各種システム、機器を合理的に雷から保護するためには、雷放電機構を知るとともに、雷放電に伴う電磁界インパルスの特性を理解する必要がある。しかし、雷放電は不規則に発生する非常に速い現象であるため、その理解は未だ十分でない。本論文では、雷放電に伴って発生する電磁界の観測結果を再現する雷放電路モデルの研究を通じて、雷放電路を流れる電流の空間分布、時間変化を明らかにし、次に数値電磁界解析手法の適用範囲、対象を拡大し、構造物に落雷した際のLEMPの特性を解明した。 雷放電路については、まず後続雷撃の雷放電路上の電流の空間、時間分布の解明をはかった。これを直接観測することは不可能であるが、後続雷撃に伴う典型的な電磁界波形と、これまでに提案されているモデルで計算された波形とを比較検討することによりこれを推定した。さらに、推定した電流の空間、時間分布を満足するモデルを2種類提案した。提案モデルは、従来のモデルでは実現できなかった、後続雷撃に伴う典型的な電磁界波形の全ての特徴の再現が可能である。これを簡易なモデルで達成したのは本研究が初めてである。 次に、より重要な第一雷撃に伴う電磁界波形の再現を目的とする雷放電路モデルを検討した。第一雷撃の至近での電磁界波形の観測例がないため、モデルの評価を完結できないが、本論文の提案モデルは、これまでに観測例がある数kmから数百kmの距離で観測された第一雷撃の電磁界波形を再現する。提案モデルを用いた計算により、雷電流波高値と帰還雷撃速度が第一雷撃と後続雷撃で同じ場合、第一雷撃に伴う電磁界波形の波高値は後続雷撃に伴うそれより小さくなることが示唆された。これは遠方の電磁界観測で推定される第一雷撃電流分布の、鉄塔などでの直接観測の結果とのずれの原因を究明する上で、重要な結論である。更に、第一雷撃に伴う電磁界波形の波頭部分のスローフロントと呼ばれる緩やかな変化の成因について検討し、それを雷放電路上の電荷の拘束が解かれる様相に求めたモデルを新たに提案した。 後続雷撃のダートリーダが大地と結合する過程の解明のため、後続帰還雷撃発生段階のモデル化を試みた。本論文では、地上から上向きに伸びる短いコネクティングリーダを考慮に入れ、ダートリーダとの結合点から電流波が上下両方向に伝搬するモデルを提案し、ロケット誘雷実験で観測された、至近距離での電界、磁界の時間微分波形を計算により再現した。提案モデルは、帰還雷撃電流波が大地から上向きにのみ伝搬する従来のモデルより良好に、観測結果を再現する。 さらに、上向きリーダで開始する雷放電についても、雷雲中から大電流パルスが地上に向けて伝搬するモデルを提案した。提案モデルは、大電流上向き雷放電に特有の、両極性パルス電磁界波形を再現する。上向き雷放電に関するモデルはこれまで提案されたことがなく、本論文が初めてである。提案モデルにより、下向きリーダで開始する落雷の帰還雷撃と同様に、上向き雷の雷撃電流波高値を、遠方で観測される電磁界波高値から推定できる可能性が示された。 LEMPの特性を検討するに当たっては、まずその計算方法について検討した。雷が地上の構造物に直撃した際は、雷放電路上の電流と構造物の電磁的な結合がLEMPに大きく影響するので、系の電磁界を記述するマクスウェル方程式が直接解ければ、正確にこれを評価できる。電磁界の数値解法として、モーメント法と時間領域有限差分(FDTD)法がこれまで適用されてきたが、本論文ではこれらを比較し、双方ともLEMPの評価において有用との結論を得た。導体系の詳細な表現にはモーメント法の方が優れる。 LEMP解析に電磁界の数値解法を適用するために考案された、雷放電路の電磁界モデルを使用して、高構造物に雷撃した際に、それが雷電流や発生する電磁界に与える影響を詳細に検討した。電磁界モデルでは、雷放電路を導体で表現する。数値解法にはモーメント法に基づくNumerical Electromagnetics Code (NEC-4)を用いた。従来の研究では、高構造物によって雷電流やそれに伴う電磁界の波高値が大幅に増大するとされていた。しかし本論文では、大地に雷撃する場合と高構造物に雷撃する場合のモデルの関係を合理的に考察することにより、雷電流波高値の増加は実際には数%に止まることを論証し、さらに有限な大地の導電率を考慮に入れることにより、遠方の電磁界波高値の増分も、100m級の高構造物で10%程度に過ぎないことを示した。 構造物に落雷した際に、その内部に生じるLEMPの特性の解明と、内部の電気設備の保護法について、同じくNEC-4を用いて検討した。IEC/JIS規格では内部の電気設備の保護のため、各種接地導体を接続して電位を等しくする等電位ボンディングが推奨されている。その際設置するSPDのエネルギー耐量選定基準について検討した。アンテナ解析用に開発されたコードNECを、低周波数領域の準定常状態の計算となるエネルギー耐量評価に適用したのは本研究が最初で、独創的な点である。 同じ手法で、雷撃時に建物内に誘導される磁界の分布について検討した。これまでは、構造の決まった建物の中の誘導磁界を計算した例ばかりで、誘導磁界の低減方法は数値的には殆ど検討されていなかった。本論文では、建物の鉄骨による誘導磁界の低減機構を詳細に検討し、合理的に誘導磁界を低減させる金属メッシュの敷設法を提案した。 以上の本研究の成果により、負極性後続雷撃だけでなく、ほとんど検討されてこなかった負極性第一雷撃や、全く検討されたことがなかった上向き雷の放電路上の電流分布について、多くの新しい知見が得られた。更に、従来の研究では誤った結論が導かれていた高構造物への雷撃に伴うLEMPの特性、これまで厳密な検討のなかった直撃された建物内部に生じるLEMPの特性を、数値電磁界解析によって解明し、理解を深めることができた。これらの成果は、雷防護システムのより経済的な設計、各種電気設備やシステムの雷防護性能向上に貢献する。 | |
審査要旨 | 雷害対策の研究の歴史は長いが、その原因となる雷電流、発生電磁界の様相の解明と結びつけた研究は、まだ緒についた段階である。本論文は「Model of Lightning Stroke and Associated Electromagnetic Impulse (雷放電に伴う電磁界インパルスと雷放電路モデル)」と題し,自然雷の電流の空間的、時間的分布にもとづいて、地上の工作物に侵入する雷サージ、電磁界インパルスの特性を、数値電磁界解析によって評価する手法を新規に提案したもので、11章より構成される。 第1章はIntroduction(緒言)で,雷害対策において評価することが必須の、雷放電に起因して生じる電磁界インパルスについて説明し、落雷の分類と典型的な落雷最終過程、本論文の構成について述べている。 第2章は Method for Calculation of Lightning Current and Associated Field(雷電流とそれに伴う電磁界の計算法)と題し,雷放電路上の電流の空間、時間分布を記述する種々のモデルと、それらを用いて発生電磁界を計算する原理を解説している。 第3章は Engineering Models of Subsequent Lightning Return Strokes(後続雷撃の工学モデル)と題し,これまで多くの研究がなされてきた負極性後続雷撃の放電路上の電流分布を記述するモデルを、観測結果の見直しも行いつつ新たに考案し、それが既知の観測された電磁界のすべての特徴を満足することを示した。このような成功を収めたモデルは従来になく、雷放電路上の電流波形の減衰、変歪の状況も帰納されることを述べている。 第4章は Model of Lightning First Return Strokes(第一雷撃のモデル)と題し,雷害対策の上で極めて重要度が高いにもかかわらず、これまでほとんど研究されていなかった負極性第一雷撃の電流分布のモデルを、前章の成果を大幅に取り入れつつ新規に提案した。このモデルは既知の電磁界の特徴を満足するばかりか、雷電流波高値と遠方の電磁界の波高値の関係が、後続雷撃とは異なることを予言しており、注目に値する。 第5章は Engineering Model of Return Stroke in Submicrosecond Range(サブマイクロ秒領域での帰還雷撃の工学モデル)と題し,雷撃点から10〜15mという至近距離での電磁界観測データを再現できる、負極性後続雷撃リーダと大地との最終結合過程のモデルを新たに提案している。 第6章は Model of Upward-Leader-Initiated Lighting Strokes(上向きリーダで開始する雷撃のモデル)と題し,上向きリーダで開始するタイプの雷撃の史上初のモデルを提案している。これは観測された負極性上向き雷撃に伴う両極性電磁界パルス波形をよく再現するため、遠隔観測によるこの種の雷撃の電流波高値値推定に途を拓いたと言ってよい。 第7章は Comparison of Method of Moments and FDTD Method in Application to LEMP Analysis(モーメント法とFDTD法のLEMP解析への適用性の比較)と題し,数値電磁界解析の代表的な2つの方法であるモーメント法とFDTD法の、雷放電に伴う電磁界インパルス(LEMP)解析への適用性を比較し、どちらも有用であることを結論している。 第8章は Influence of Elevated Object on Lightning Current and Associated Fields(雷電流とそれに伴う電磁界への高構造物の影響)と題し、高構造物が雷撃を受けたときの雷電流、電磁界が平地への雷撃時とどのように異なるかという、工学的に重要な問題について、従来の多くの研究の問題点を指摘し、数値電磁界解析を使用して新たな結論を導いている。 第9章は Surge Voltage and Current at Building Directly Hit by Lightning(雷の直撃を受けた建物におけるサージ電圧電流)と題し、建物が雷の直撃を受けたときの、複雑な構造材、電気配線各部への雷電流の分流状況を、初めてモーメント法による数値電磁界解析を使って正確に評価している。この成果により、各部にサージ防護素子を取り付ける場合のそれらのエネルギー耐量について、日本で広く使われていた誤った指針を正すことができた。 第10章は Induced Magnetic Field Inside of Directly Hit Building by Lightning(雷の直撃を受けた建物内の誘導磁界)と題し、雷の直撃を受けた建物内での誘導磁界を数値電磁界解析で正確に計算し、実測やモデル実験に頼らない解析法の実用性を示している。 第11章は Conclusion(結言)で,本論文の成果を総括している。 以上これを要するに本論文は,自然雷の電流の空間的、時間的分布に関する蓋然性の高いモデルを構築し、それに基づいて、雷害対策上きわめて重要な知見となる、地上の工作物に侵入し、影響する雷サージ、電磁界インパルスの特性を、数値電磁界解析によって評価する手法を新規に提案したもので、電気工学、特に電磁環境工学上,貢献するところが大きい。 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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