学位論文要旨



No 121192
著者(漢字) 山路,哲史
著者(英字)
著者(カナ) ヤマジ,アキフミ
標題(和) スーパー軽水炉の炉心・燃料設計
標題(洋)
報告番号 121192
報告番号 甲21192
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6282号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡,芳明
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 教授 古田,一雄
 東京大学 教授 越塚,誠一
 東京大学 教授 高橋,浩之
 東京大学 助教授 劉,傑
内容要旨 要旨を表示する

スーパー軽水炉(超臨界圧軽水冷却炉;Super Light Water Reactor)は原子炉冷却材に高温高圧の超臨界圧軽水(約500℃、25MPa)を用いた貫流型の熱中性子炉で、炉心流量が低い。炉心での冷却材エンタルピ上昇、温度及び密度変化も大きい。このため燃料の冷却と中性子の減速を両立する炉心・燃料設計と燃料棒健全性の考え方を包括した炉心概念を示す必要がある。本研究では、炉心冷却材平均出口温度500℃以上のスーパー軽水炉の炉心概念を設計及び解析により、通常運転時の炉心及び燃料ふるまいから、異常な過渡変化時の基準合理化まで包括的に検討した。

本研究により、スーパー軽水炉の三次元核熱結合炉心計算手法が確立されたことで、初めて正確に炉心出力分布や冷却材温度及び密度分布を評価できるようになった。これにより、燃料被覆管表面最高温度の評価に基づくスーパー軽水炉の炉心設計手法が確立された。すなわち、三次元炉心計算で得られた結果に対して、サブチャンネル解析を行い、統計的な熱設計手法の知見と合わせて、工学的な不確定性も考慮した燃料被覆管の表面最高温度を評価する手法である。燃料被覆管に対する機械的強度要求は、このようにして得られた最も厳しい条件における燃料棒解析によって示すことができる。さらに、運転時の異常な過渡変化時における基準を、異常過渡事象のモデル化と燃料棒解析によって、合理化する考え方を定量的に示した。

スーパー軽水炉の燃料棒は現行軽水炉と同様に自立型で、濃縮ウランの高密度(理論密度の97%)ペレットとガスプレナム、燃料被覆管から構成される。但し、冷却材が高温高圧になることから、強度の観点よりジルカロイ被覆管を用いることはできない。本研究では、燃料棒外径を10.2mmとし、燃料被覆管には肉厚0.63mmのニッケル合金を用いて炉心設計を行ったが、ステンレス鋼被覆管についても燃料棒解析により検討した。

燃料集合体設計は、四角格子の燃料棒配列中に多数の下降流四角水減速棒を配置する設計とし、燃料棒の効果的な冷却と、中性子の一様な減速を両立するために適した設計であることを示した。この設計では、沸騰水型軽水炉のように燃料集合体断面において、燃料棒間で濃縮度分布をつける必要がない。

炉心核計算には、日本原子力研究開発機構のSRAC、ASMBURN、COREBNコードとJENDL3.3核データライブラリを用い、これらと東京大学の単チャンネルモデルに基づく熱流動計算コード(SPROD)を結合して、三次元核熱結合炉心燃焼計算による、スーパー軽水炉の平衡炉心設計手法を確立した。このような手法による炉心計算で、冷却材平均出口温度500℃以上の炉心を設計するためには、炉心径方向出力分布の平坦化と、燃料集合体出力に合わせた冷却材流量配分が必要であることが示された。

全ての燃料棒を上昇流で冷却する場合、炉心の外側で冷却材出口温度が低下してしまうために、平均出口温度の高温化が困難となった。このような流動方式の炉心では、各燃料集合体を4区画して、集合体断面での出力勾配を考慮してそれぞれの区画に対して異なる冷却材流量を配分した場合で、冷却材平均出口温度が500℃となった。そこで、炉心の外側に装荷されている燃料集合体を下降流で冷却した後に炉心下部プレナムで折り返し、炉心中央部の燃料を上昇流で冷却する流動方式を設計により検討した。この場合、燃料集合体を4区画する必要はなくなり、冷却材平均出口温度も530℃に向上した。よって、炉心外側を下降流で冷却する流動方式が冷却材平均出口温度の高温化に適していることが示された。

スーパー軽水炉の炉心は超臨界圧の単相流により冷却されるため、炉心の熱的制限としては限界熱流束ではなく、被覆管表面最高温度を用いなくてはならない。被覆管表面最高温度の評価には詳細な熱流動計算が必要となることから、本研究では、平衡炉心設計の結果をもとに、核熱結合集合体燃焼計算により、集合体内の燃料棒間相対出力分布を求め、サブチャンネル解析を行った。サブチャンネル解析には、東京大学のスーパー軽水炉燃料集合体のサブチャンネル解析コードを用いた。その結果、燃料集合体の水平断面を均質化し、単チャンネル熱流動計算モデルに基づいた全炉心計算と比較して、燃料被覆管表面最高温度は最大で約58℃高く評価された。温度上昇の主な要因としては、全炉心計算では考慮されていなかった、集合体内の冷却材流量分布と制御棒の集合体内への挿入や引き抜きやガドリニア入り燃料棒の使用に伴う局所ピーキングの悪化が挙げられる。

本研究で得られた解析結果に、スーパー軽水炉の統計的熱設計の知見から、工学的不確定性の被覆管表面最高温度に及ぼす影響(約32℃の温度上昇)を考慮すると、スーパー軽水炉の被覆管表面最高温度は通常運転時に740℃に達する可能性がある。本研究により、スーパー軽水炉の炉心設計では、三次元炉心計算による平衡炉心設計と、サブチャンネル解析及び統計的熱設計手法の知見を合わせて、被覆管表面最高温度を評価する必要があることが定量的に示された。被覆管表面最高温度の正確な予測には今後、数値流体計算や実験による知見とデータの拡充が必要で、特に炉心出口付近の高い冷却材温度領域における熱伝達率を、集合体バンドル形状やスペーサも考慮して精度良く予測できる伝熱相関式の開発が必要である。

現在、研究開発段階にあるスーパー軽水炉の燃料被覆管に対する通常運転時の機械的強度要求は、工学的不確定性の影響も考慮された被覆管表面最高温度条件における、燃料棒解析によって示すことができる。本研究により、通常運転時にも被覆管温度が高温となることが示されたため、機械的強度要求としては、クリープ破断強度が最も支配的になると考えられる。

燃料棒設計と日本原子力研究開発機構のFEMXI-6による燃料棒解析の結果、被覆管には寿命初期には冷却材圧力により圧縮応力が働くが、燃焼が進むにつれて、FPガス放出に伴う内圧上昇とペレットのスエリングに伴うペレット-被覆管機械的相互作用(PCMI)によって、引張応力が働くことが分かった。また、被覆管が最も高温となる部分に働く応力は燃料棒設計と設計条件に大きく依存することが分かった。被覆管に働く最大応力は、燃料棒内圧を冷却材圧力以下に制限しないことで、低減することができる。また、ガスプレナムの大型化やガスプレナムの設置位置を燃料棒の上部から下部へ変更することによっても低減できる。これらの異なる燃料棒設計に対する解析の結果、設計によって被覆管に働く応力の最大値は約36MPa〜約140MPaと4倍近く異なることが示された。よって、被覆管に対する機械的強度要求は、従来検討されていたニッケル合金等以外にも、高温クリープ強度ではやや劣るステンレス鋼の改良等で対応できる可能性がある。

本研究では、運転時の異常な過渡変化時における燃料棒健全性の評価において、従来の被覆管応力解析手法に替えて、過渡時間スケールを考慮に入れた被覆管歪み解析手法を用いることにより、基準の合理化を検討した。運転時の異常な過渡変化事象を過出力型事象と冷却低下型事象に分類し、それぞれの事象に対する基準の検討を、燃料棒解析を用いて行った。その結果、過出力型事象については、出力上昇率と許容最高出力によって基準を定めることができることを示した。また冷却低下型事象については、被覆管の許容最高温度によって基準を定めることができることを示した。このような、過渡時間スケールを考慮した基準合理化の考え方により、スーパー軽水炉の運転時の異常な過渡変化時における被覆管許容最高温度を従来の800℃(ニッケル合金被覆管)から850℃(ステンレス鋼被覆管)とすることができる可能性がある。

以上のような設計及び解析から本研究により、スーパー軽水炉の包括的な設計の方法と炉心概念が示された。

審査要旨 要旨を表示する

本論文はスーパー軽水炉の炉心及び燃料を設計検討したもので論文は7章より構成されている。

第1章は序論でスーパー軽水炉の炉心・燃料設計の課題について述べている。先行研究のR-Z二次元炉心計算による設計では、燃料集合体毎にモデル化した非均質炉心の計算が不可能であったため、主要な設計及び研究開発要素を考慮して、炉心設計で最も重要である炉心平均出口温度を示すことができなかったとしている。また、設計の熱的制限値やプラントの異常な過渡変化時における基準が保守的であったため、燃料被覆管の候補材料の選択や開発、炉心平均出口温度等の炉心性能、安全系の設計等が過度に制限されてしまう可能性があるとしている。そこで炉心・燃料設計の考え方と手法を確立し、主要な設計及び研究開発要素を考慮して炉心平均出口温度を示す必要があるとしている。

第2章は本研究で確立された炉心・燃料設計の考え方と平衡炉心の設計手法について述べている。設計の考え方は、目標とする炉心平均出口温度を達成するために必要となる主要な設計及び研究開発要素を炉心及び燃料の設計と、三次元炉心計算、サブチャンネル解析、統計的熱設計、燃料棒解析によって定量的に示すというものであるとしている。設計目標は炉心平均出口温度500℃以上としている。設計手法は、汎用の炉心核計算コードと先行研究で開発された熱計算コードを結合した三次元炉心計算を用いたものであるとしている。

第3章は平衡炉心設計について述べている。炉心設計における主要な設計要素は冷却材の炉内流動と炉心出力分布であることが定量的に示されている。炉内流動は、炉心の外側に装荷されている燃料集合体を下降流で冷却した後に、炉心下部プレナムで折り返し、中央部に装荷されている燃料集合体を上昇流で冷却して、タービンへと冷却材を送る方式が、炉心平均出口温度の高温化に適していることが示されている。効果的な燃料の冷却のためには、炉心の径方向出力分布は平坦で且つ、運転中の変動が小さいことが望ましいとされている。軸方向の出力分布は、炉内の冷却材温度上昇が大きいため、下部ピークで運転すると熱的な余裕が増すとされている。一方で、超臨界水の伝熱流動の研究により、バンドル体系でスペーサによる伝熱促進効果も考慮した伝熱相関式を上昇流と下降流に対してそれぞれ新たに開発する必要があると指摘されている。

第4章は炉心設計の熱的制限となる被覆管表面最高温度の評価手法と結果について述べている。通常運転時の炉心のふるまいと燃料集合体の熱流動特性の考慮が可能となる、炉心計算とサブチャンネル解析を結合した評価手法が述べられている。この手法による評価結果に、先行研究から得られている工学的不確定性が被覆管温度に及ぼす影響の知見を合わせることで、主要な設計及び研究開発要素を考慮した被覆管表面最高温度と炉心平均出口温度が示されている。燃料集合体中に生じるホットスポットを低減するためには、燃料装荷パターン、制御棒パターン、集合対中のガドリニア入り燃料棒の配置の改善が効果的であるとされている。

第5章は目標とされる炉心平均出口温度を達成するために、通常運転時に被覆管に期待される機械的な強度要求について述べている。被覆管は炉心上部で高温となるため、期待される機械的強度要求で支配的となるのはクリープ破断強度であるとしている。クリープ破断強度に対する要求は燃料棒設計により大幅に低減できることができ、特に燃料棒ガスプレナムの下部設置や、燃料棒の内圧高設計が効果的であることが示されている。また、炉内冷却材温度上昇が大きいため、下部出力ピーク運転とすることで、燃料最高温度を低減し、PCMIを低減できるとしている。商用のステンレス鋼のクリープ破断強度を上回る高クリープ強度の被覆材料を開発する必要があるが、近年は高温クリープ強度に優れた改良ステンレス鋼が開発されており、これらと類似のステンレス鋼の改良により、必要となるクリープ強度が得られる可能性があるとしている。

第6章は通常運転時の異常な過渡変化時の基準合理化について述べている。被覆管の機械的破損をその塑性歪みで判断し、異常な過渡変化事象の時間スケールを考慮することで基準を合理化する考え方が、燃料棒解析によって示されている。実際の基準合理化には、異常な過渡変化事象の時間スケールを考慮した燃料棒の破損実験が必要と指摘されている。

第7章は結論であり、本研究のまとめが述べられている。

以上を要するに本論文はスーパー軽水炉の炉心及び燃料設計を研究し、主要な設計及び研究開発要素を明らかにしている。この成果はシステム量子工学の進歩に貢献することが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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