学位論文要旨



No 121209
著者(漢字) 千野,直孝
著者(英字)
著者(カナ) チノ,ナオタカ
標題(和) 表面修飾メソポーラスシリカの作製とその常磁気特性
標題(洋) Preparation of Surface Modified Mesoporous Silicas and Their Paramagnetic Properties
報告番号 121209
報告番号 甲21209
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6299号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 大久保,達也
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 教授 堂免,一成
 東京大学 教授 中尾,真一
 東京大学 助教授 引地,史郎
内容要旨 要旨を表示する

多孔質シリカは吸着剤、触媒の担体として汎用されており、他の金属酸化物では例がない程、多種多様の細孔径、細孔構造、形態を制御することができる。細孔径のサイズはミクロ孔からマクロ孔まで、その分布までも制御可能である。また、粉末から薄膜まで形態を制御することができる。吸着剤及び触媒の担体としての利用に目を向けると、シリカ表面特性の制御が重要な課題として挙げられる。これまでに有機官能基修飾・金属イオンの担持・固定化といった手法により表面を機能化・制御することで、触媒・吸着剤への応用を可能にしてきた。これらの特性を理解・制御するうえでシリカの表面・界面科学は重要な役割を果たしてきたといえる。

本博士論文では、「新しい異種分子・表面の組み合わせによる表面処理法の検討」・「光・磁気特性の視点からシリカ表面に展開される界面現象の理解」によるシリカの表面・界面科学の発展に貢献することを目的としている。まず、シリカ表面と異種分子の様々な相互作用を利用した表面処理手法を検討している。次に「シリカ表面と異種分子の組み合わせにより発生する光・磁気物性から解析する手法」と「解析容易な異種分子の光・磁気物性をプローブとする手法」を用いて、表面処理による状態変化を考察している。最後に作製された表面状態の特異性を主に電子スピンサイエンスの技術で汎用性のある電子スピン共鳴法(ESR)を用いて検討している。

Chapter 2ではLiClを吸着させたシリカ表面の熱処理による光・磁気物性の変化を観察することで、この系に特有の常磁性種が生成することを明らかにしている。また、その生成メカニズム及びシリカ表面の役割を明らかにした。Chapter 3では高温アンモニア処理によるシリカ表面の窒化反応について論じている。表面基の種類・分布、及び欠陥種の同定とその役割を推測することで、従来と比較し詳細な反応経路を検討している。Chapter 4では窒素を導入したシリカ表面への銅イオンの吸着挙動について論じている。銅イオンのもつ光・磁気物性をプローブとすることで、窒素原子の表面密度による銅イオンの吸着状態の変化、表面窒素原子の配位子強度を考察している。さらに'Interfacial Coordination Chemistry'の観点からシリカ表面への銅アンミン錯体の吸着挙動との違いを議論している。Chapter 5では主に電子スピン共鳴を用いて、本論で作製した表面修飾メソポーラスシリカの常磁気特性を調べている。常磁気特性の評価が表面状態に対するより深い理解が可能になること、及び新たな機能の発見に繋がることを明らかにしている。

審査要旨 要旨を表示する

多孔質シリカは吸着剤、触媒の担体として汎用されており、他の金属酸化物では例がない程、細孔構造、形態を制御できることが知られている。細孔径のサイズはミクロ孔からマクロ孔まで制御可能であり、粉末から薄膜まで形態を制御することができる。吸着剤及び触媒の担体としての利用に目を向けると、シリカ表面特性の制御が重要な課題として挙げられる。これまでに有機官能基修飾、金属イオンの担持、固定化といった手法により表面を制御することで、触媒・吸着剤への応用が可能となって来た。これらの特性を理解・制御する上でシリカの表面・界面科学は重要な役割を果たしている。

本博士論文は、"Preparation of Surface Modified Mesoporous Silicas and their Paramagnetic Properties"(表面修飾メソポーラスシリカの作製とその常磁気特性)と題し、異種分子−表面の新しい組み合わせによる表面修飾法の検討と光・磁気特性の視点からシリカ表面に展開される界面現象の理解を通して、シリカの表面・界面科学の発展に貢献することを目的としており、全6章から構成される。まず、シリカ表面と異種分子との様々な相互作用を利用した表面修飾法を検討している。次にシリカ表面と異種分子との組み合わせにより発現する光・磁気特性を解析する手法と解析が容易な異種分子の光・磁気特性をプローブとする手法を用いて、表面修飾による表面状態の変化を考察している。最後に作製された表面状態の特異性を主に電子スピンサイエンスの技術で汎用性の大きな電子スピン共鳴法(ESR)を用いて検討している。均一なメソ細孔と高表面積を有するが故に、分子拡散や分子−表面間の相互作用が表面修飾に与える影響を均一に取り扱うことが可能で、表面種の検出が容易になることが期待されるメソポーラスシリカを用いて検討を行っている。

Chapter 1では、多孔質シリカの種類や特徴等、本研究の背景について述べている。多孔質シリカを有効に利用するための問題点を示し、本研究の意義について記している。

Chapter 2では、LiClを担持したシリカ表面の熱処理による光・磁気特性の変化を紫外可視吸収、電子スピン共鳴により検討することで、この系に特有の常磁性種が生成することを明らかにしている。また、その生成メカニズムを解明し、常磁性種と水素吸着特性との関係を導き出している。

Chapter 3では、高温アンモニア処理によるシリカ表面の窒化反応について論じている。SBA-15タイプのメソポーラスシリカに対し高温アンモニア処理を行い、表面反応機構を追跡している。従来報告されている手法に加え、ESRによる表面欠陥種の同定、29Si SP MAS NMRによるSi原子周りの窒素原子分布の定量により、反応経路の詳細な議論が可能となっている。また、メソポーラスシリカの多孔性の解析の容易さを利用して、細孔構造変化を明らかにしている。

Chapter 4では、窒素を導入したシリカ表面への銅イオンの吸着挙動について論じている。表面窒素原子が表面配位子として機能するならば、イオン交換法や有機金属錯体の固定化法にかわる金属イオン固定化法となることが期待される。そこで本章では、表面窒素原子の種類・密度が銅イオンの吸着挙動に与える影響を検討し、表面窒素原子の配位能力を検討している。銅イオンは溶液中で一つの表面窒素原子と結合できるが、多座配位は主に乾燥過程において進行すること、多座配位の条件は表面窒素原子密度に依存し、1.5 atoms nm-2が必要であることを明らかにしている。また、 、 基による配位子場強度の違いは観察されず、一方、 基が生成する高密度に表面窒素原子を有する表面では表面自体の配位子場強度が減少し、銅イオン吸着能が低下することが示唆されている。

Chapter 5では、主に電子スピン共鳴を用いて、本論文で作製した表面修飾メソポーラスシリカの常磁気特性を調べている。まず、LiCl修飾シリカ表面に生成した常磁性種の水素吸着による変化をin situ ESR測定により検討している。ESRシグナルの強度及び線幅が可逆に変化することが見出され、水素との弱い相互作用の起源が解明されている。また、CW-ESR法を用いて、窒素原子含有シリカ表面に配位された銅イオンの評価をおこなっている。室温乾燥後、銅イオンは6配位であり、有機配位子等と比較し強い共有結合性をもって窒素含有シリカ表面に結合していることが明らかとなっている。熱処理を行うと、銅イオンの配位環境は4配位へと変化し、一部の銅イオンが1価に還元されることが示唆されている。しかしながら、150℃熱処理後も銅イオン間の相互作用は検出されず、銅イオンは孤立した状態を保持していることが明らかとなっている。

Chapter 6では、本研究で得られた結果を総括している。

以上要するに、本論文はシリカ表面の機能化に向けた新規表面修飾法の開発と表面修飾されたシリカ表面の特性評価を行ったものであり、本研究の成果は表面・界面科学及び化学システム工学の発展に寄与するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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