学位論文要旨



No 121310
著者(漢字) 野副,朋子
著者(英字)
著者(カナ) ノゾエ,トモコ
標題(和) 鉄栄養制御遺伝子に関する研究
標題(洋)
報告番号 121310
報告番号 甲21310
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3023号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 農学国際専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西澤,直子
 東京大学 教授 米山,忠克
 東京大学 教授 阿部,啓子
 東京大学 助教授 松本,安喜
 東京大学 助教授 山川,隆
内容要旨 要旨を表示する

第一章 研究の背景

世界の人口は年々増加しており、2050年には世界人口が現在の65億人から91億人に達すると推定されている。人口爆発に伴う食糧不足は今や他人事ではなく、実現可能な解決策を考えていく必要がある。その打開策として、遺伝子導入手法を用いた高収量・高栄養価作物の創製、あるいは不良土壌でも生育可能な作物の創製による耕作可能面積の拡大が有効であると考えられる。不良土壌の一つである石灰質アルカリ土壌は、世界の陸地の約30%を占めている。石灰質アルカリ土壌における植物の生育阻害の主要因として、pHが高いことにより、鉄が土壌溶液中に充分に溶けていないために植物の利用可能な鉄の量が極少であることがあげられる。石灰質アルカリ土壌で生育した植物は鉄を利用できないために、葉脈間黄白化症(クロロシス)などの鉄欠乏症状を呈し、枯死したりあるいは収量が激減する。現在までに安価な鉄系肥料の開発は成功しておらず、石灰質アルカリ土壌は農業上深刻な問題となっている。

イネ科植物は体内での鉄の要求性が高まると、イネ科植物特有の三価鉄キレーターであるムギネ酸類を合成し、根から分泌する。根圏へ分泌されたムギネ酸類は、土壌中の不溶態の三価鉄をキレートして可溶化し、「三価鉄―ムギネ酸類」錯体として根から再吸収される。この過程は植物の鉄吸収機構の一つであり、Strategy-IIと呼ばれる。これまでに、ムギネ酸類生合成経路の全容はほぼ明らかにされてきた。しかし、ムギネ酸類を介した鉄吸収機構の全体像は複雑であり、まだ解明されていない点が多く残されている。石灰質アルカリ土壌でも生育する鉄欠乏耐性植物を創製するという最終目標を達成するため、イネ科植物のムギネ酸類を介した鉄吸収機構、さらにはそれを含めた鉄栄養制御機構を解明することは重要である。

第二章 ムギネ酸類の分泌機構の解明

ムギネ酸類の分泌に関しては、生理学的な知見が主にオオムギにおいて報告されているが、その分子機構は未知のままである。本章では、イネ科植物の中でも、既にゲノムが解読されており、豊富なデータベースが利用できるイネが分子機構の解析に最適であると考え、イネを対象として用いた。イネはムギネ酸類としてデオキシムギネ酸(DMA)を分泌する。オオムギにおけるムギネ酸類の分泌は鉄欠乏処理により増加し、日の出後3〜4時間にピークを持つ明確な日周変動を示す。そこでまず、イネにおいてもDMA分泌量が鉄欠乏処理により顕著に増加すること、その分泌は朝と昼に比べ夜では少ないという日周変動を示すことを確認した。次に、DMA生合成経路で働く酵素である、ニコチアナミン合成酵素遺伝子(OsNAS1、OsNAS2、OsNAS3)、ニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子(OsNAAT1)、DMA合成酵素遺伝子(OsDMAS1、OsDMAS2)の各遺伝子の根における発現の変化を解析し、DMA合成能に日周変動があるかどうかを調べた。鉄十分条件ではいずれの遺伝子の発現もほとんど検出できず、遺伝子発現の明確な日周変動は認められなかった。一方、鉄欠乏条件ではOsDMAS2を除く5つの遺伝子(OsNAS1、OsNAS2、OsNAS3,OsNAAT1、OsDMAS1)の根における発現量は上昇していた。これらの遺伝子の発現は、日の出に伴い徐々に減少し、日没後から徐々に増加するという日周変動を示し、DMA分泌の日周変動と類似していた。このことより,イネの根におけるDMA生合成は日周変動を示していると考えられた。

オオムギでは、ムギネ酸類の生合成は粗面小胞体由来の顆粒(ムギネ酸顆粒)内で行われている。ムギネ酸類分泌の起こる日の出直前の根端細胞では、ムギネ酸顆粒が細胞膜付近に集まっている様子が観察されることから、ムギネ酸類は日の出前になると細胞内小胞輸送により細胞膜付近へ輸送されると考えられている。鉄欠乏処理を行ったイネの根でもムギネ酸顆粒と同様の顆粒構造が観察され,オオムギ以外のイネ科植物で初めてムギネ酸顆粒が存在することを示した。イネの根においてもオオムギと同様に、DMA合成がムギネ酸顆粒内で行われ、日の出前になると細胞内小胞輸送により細胞膜付近へ輸送されていることが考えられる。オオムギでムギネ酸顆粒の細胞内輸送に関わると考えられている遺伝子のイネのホモログADP ribosylation factor 1 (OsARF1)、Ras-related small GTP binding protein (OsRIC1)を単離した。OsARF1、OsRIC1とGFPとの融合タンパク質はタマネギの表皮細胞において、いずれも細胞質では顆粒状に存在した。また、二つの遺伝子の発現は、鉄欠乏処理による誘導は見られなかったが、日の出に伴い徐々に減少し、日没に伴い増加しており、DMA分泌量の変化と類似した日周変動を示した。OsARF1、OsRIC1はイネにおいてもムギネ酸顆粒の細胞内小胞輸送に関与している可能性が示唆された。

Major facilitator superfamily (MFS)は植物から動物まで、生物界に多数見出されているトランスポーターであり、単糖トランスポーター(MST)やリン酸トランスポーター(PT)等が含まれる。マイクロアレイ解析をもとに、DMAの分泌を担う放出トランスポーターの候補として、イネの根において鉄欠乏処理により発現の誘導されるOsMFS2ファミリー(OsMFS2-1, OsMFS2-2, OsMFS2-3)を単離し、その解析を行った。OsMFS2ファミリーのうちOsMFS2-1の発現のみが鉄欠乏の根において特異的に誘導され、OsMFS2-1とGFPとの融合タンパク質はタマネギの表皮細胞において細胞膜に局在した。OsMFS2-1プロモーターGUS植物を用いた発現解析の結果、鉄十分条件では、根の表皮細胞のみで発現が見られ、地上部での発現は認められなかった。しかし鉄欠乏処理により発現部位が増加することが認められた。鉄欠乏処理3日目ではOsMFS2-1は根の表皮細胞と中心柱付近の内皮細胞で発現し、地上部では鉄十分条件と同様に発現は見られなかった。鉄欠乏処理10日目では維管束、内皮細胞、外皮細胞、表皮細胞、根毛など、根の全体に強く発現し、地上部では葉及び葉鞘の維管束篩部に発現が認められた。OsMFS2-1を過剰発現する形質転換イネを作成し、DMAの分泌量を測定したところ、根から分泌されるDMA量は野生型に比べ減少していた。現在までのところOsMFS2-1の輸送基質は未知であるが、DMA分泌に何らかの関与をしている可能性が示唆された。

第三章 イネ種子発芽時における鉄関連遺伝子群の発現様式

ムギネ酸類生合成の中間体であるニコチアナミン(NA)は、それ自身も二価金属あるいは三価鉄のキレーターであり、イネ科以外の植物も含めた全ての植物に存在する。NAが検出されないトマトの変異体やNAATを過剰発現することによって内生NAが消費された形質転換タバコでは、胚発生が異常となり、種子中の鉄含有量が低下する。このことから、NAは胚発生過程において鉄の輸送や種子への鉄の蓄積に関与していると考えられた。また、イネの完熟種子にはNAやDMAが含まれており、発芽時においてDMAやNAが鉄の運搬体として利用されていると考えられる。DMA合成経路で働く酵素遺伝子OsNAS1、OsNAS2、OsNAS3、OsNAAT1、OsDMAS1、OsDMAS2、及び金属錯体トランスポーター遺伝子OsYSL2、OsYSL15、二価鉄イオントランスポーター遺伝子OsIRT1、そして前述のOsMSF2-1、OsMSF2-2、OsMSF2-3のイネ種子発芽時における発現様式をプロモーターGUS法により解析し、発芽時におけるDMAとNAの合成部位や鉄錯体の輸送経路を考察した。

イネ種子発芽初期(吸水から3日間)の胚乳ではOsNAS1のみが発現しており、胚乳では主にNA合成が行われると考えられた。胚乳から胚への養分を供給する組織である柵状吸収細胞では、鉄錯体のトランスポーター遺伝子であるOsYSL2やOsYSL15の発現が誘導された。OsYSL2及びOsYSL15はそれぞれ「二価鉄−NA」、「三価鉄−DMA」を輸送することが示されており、イネ種子発芽時に鉄はNAやDMAと錯体を形成し、胚乳から胚へと輸送されることが考えられた。またこの際、主にNAが利用されている可能性が高いと考えられた。これに対し胚では、胚盤、胚盤維管束、幼根、鞘葉において、OsNAS1、OsNAS2、OsNAS3、OsNAAT1、OsDMAS2、OsYSL2、OsYSL15の発現が誘導され、NAだけでなくDMAの合成も行われ、これらの鉄錯体を輸送していると考えられた。また、芽鱗・根鞘ではOsNAAT1、OsDMAS2、OsYSL15の発現のみが誘導された。芽鱗・根鞘は種子根の生長に必要な養分が蓄えられていると考えられており、鉄はDMA錯体として種子根へ輸送される可能性が示唆された。一方OsIRT1は他の遺伝子と異なり、吸水に伴い芽鱗・根鞘、胚盤での発現が減少し、葉原基、幼根基部表皮における発現が誘導された。幼根基部表皮におけるOsIRT1の発現は吸水後2日目から誘導されたため、吸水後2日目付近以降は外部からの二価鉄イオンも胚へ吸収されると考えられた。

イネ種子発芽時における鉄栄養制御機構に関する理解を深めるために、完熟種子及び吸水後1-3日目の種子からRNAを抽出し、22Kマイクロアレイ解析を行った。当研究室においては、マイクロアレイ解析により鉄欠乏のイネの根において発現が誘導される93個の遺伝子が既に確認されている。これらの遺伝子は、イネにおける鉄栄養機構に関与していると考えられる。今回用いた22Kマイクロアレイにはこれらの93個の鉄欠乏誘導性遺伝子のうち70個の遺伝子がスポットされており、このうち40個の遺伝子がイネ種子発芽時において強く発現していることが明らかになった。前述のムギネ酸類合成経路で働く酵素遺伝子や、基質となるメチオニンを供給するためのメチオニンサイクルで働く酵素遺伝子、転写因子等が含まれており、イネ種子発芽時において鉄欠乏誘導性遺伝子の多くの発現が認められたことから、発芽時の鉄要求性が極めて高いことが示唆された。OsNAS3、OsNAAT2、OsDMAS2、OsMFS2-2は鉄欠乏処理による発現上昇は少ないが、イネ種子発芽時においてその発現量が高いことが示された。このことより、イネ種子発芽時におけるムギネ酸類の生合成は、鉄欠乏状態とは異なる制御も受けている可能性が示唆された。

第四章 高ニコチアナミン含有ダイズの創製

遺伝子組換え技術による新たな作物の創製は、食糧問題の解決策としてのみならず、栄養価を高めた機能性作物の開発においても今後重要な役割を担っていくものと考えられる。ムギネ酸類生合成経路の中間体であるニコチアナミンは血圧降下作用を持ち、ニコチアナミンを豊富に含む食品は高血圧症を抑える機能性食品として非常に有効であると考えられる。本研究では、オオムギのニコチアナミン合成酵素遺伝子HvNAS1をダイズの種子特異的に発現させ、ダイズ種子中のニコチアナミン含有量を高めることを試みた。ダイズはタンパク質、脂質源として重要性の高い作物であるが、イネやタバコなどに比べアグロバクテリウム法による形質転換効率が非常に低く、遺伝子組換え体の作成はあまり普及していない。アグロバクテリウム法による安定的なダイズの形質転換系を確立できれば、組換え作物の機能性食品への応用範囲がさらに広がるものと期待される。アメリカのミネソタ大学において、アグロバクテリウムをダイズへ感染させる際、還元剤を加えることにより、ダイズの形質転換効率を上げたという報告がなされた。アメリカのミネソタ大学においてダイズの形質転換技術を学び、東京大学においてダイズの形質転換技術を確立しようと試みた。試行錯誤の結果、ダイズの子葉からカルスを誘導し、アグロバクテリウムが感染していることを確認した。現在、湿度や光、培地条件等を検討し、シュート形成の最適化を目指している。

審査要旨 要旨を表示する

第一章 研究の背景

世界の人口は年々増加している。その打開策として、遺伝子導入手法を用いた高収量・高栄養価作物の創製、あるいは不良土壌でも生育可能な作物の創製による耕作可能面積の拡大が有効であると考えられる。不良土壌の一つである石灰質アルカリ土壌では、生育した植物が鉄を利用できないために、葉脈間黄白化症(クロロシス)などの鉄欠乏症状を呈し、枯死したりあるいは収量が激減する。現在までに安価な鉄系肥料の開発は成功しておらず、石灰質アルカリ土壌は農業上深刻な問題となっている。

イネ科植物は体内での鉄の要求性が高まると、根圏から鉄を吸収するために三価鉄キレーターであるムギネ酸類を合成し、根から分泌する。ムギネ酸類は、土壌中の不溶態の三価鉄をキレートして可溶化し、「三価鉄・ムギネ酸類」錯体として根から再吸収される。これまでに、ムギネ酸類生合成経路の全容はほぼ明らかにされてきたが、ムギネ酸類を介した鉄吸収機構の全体像は複雑であり、まだ解明されていない点が多く残されている。石灰質アルカリ土壌でも生育する鉄欠乏耐性植物を創製するという最終目標を達成するため、イネ科植物のムギネ酸類を介した鉄吸収機構、さらにはそれを含めた鉄栄養制御機構を解明することは重要である。

第二章 ムギネ酸類の分泌機構の解明

ムギネ酸類の分泌の分子機構は未知のままである。本章ではイネを用いて分泌の分子機構を解析した。イネはムギネ酸類としてデオキシムギネ酸(DMA)を分泌する。イネにおいてDMA分泌量が鉄欠乏処理により顕著に増加すること、その分泌は朝と昼に比べ夜では少ないという日周変動を示すことを確認した。次に、DMA生合成経路で働く酵素である、ニコチアナミン合成酵素遺伝子(OsNAS1、OsNAS2、OsNAS3)、ニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子(OsNAAT1)、DMA合成酵素遺伝子(OsDMAS1、OsDMAS2)の各遺伝子の根における発現の変化を解析し、DMA合成に日周変動があるかどうかを調べた。鉄欠乏条件ではOsNAS2の根における発現は明確な日周変動を示し、DMA分泌の日周変動と類似していた。このことより,イネの根におけるDMA生合成は日周変動を示していると考えられた。オオムギでは、ムギネ酸類の生合成は粗面小胞体由来の顆粒(ムギネ酸顆粒)内で行われ、ムギネ酸顆粒は日の出前になると細胞膜付近へ細胞内を移動すると考えられている。鉄欠乏処理を行ったイネの根でもムギネ酸顆粒と同様の顆粒構造が観察され,オオムギ以外のイネ科植物で初めてムギネ酸顆粒が存在することを示した。イネの根においてもオオムギと同様に、DMA合成がムギネ酸顆粒内で行われ、日の出前になると細胞内小胞輸送により細胞膜付近へ輸送されていることが考えられる。さらに、マイクロアレイ解析をもとに、DMAの分泌を担う放出トランスポーターの候補として、イネの根において鉄欠乏処理により発現の誘導されるOsMFS2を単離し、その解析を行った。現在までのところ輸送基質は未知であるが、DMA分泌に何らかの関与をしている可能性が示唆された。

第三章 イネ種子発芽時における鉄関連遺伝子群の発現様式

DMA やムギネ酸類生合成の中間物質であるニコチアナミン(NA)は体内において金属の輸送にも関与していると考えられている。イネの完熟種子にはDMAやNAが蓄積されており、発芽時においても鉄の運搬体として利用されていると考えられる。DMA合成経路で働く酵素遺伝子OsNAS1、OsNAS2、OsNAS3、OsNAAT1、OsDMAS1、OsDMAS2、及び金属錯体トランスポーター遺伝子OsYSL2、OsYSL15、二価鉄イオントランスポーター遺伝子OsIRT1のイネ種子発芽時における発現様式をプロモーターGUS法により解析し、発芽時におけるDMAとNAの合成部位や鉄錯体の輸送経路を考察した。イネ種子発芽初期(吸水から3日間)の胚乳ではOsNAS1のみが発現しており、胚乳では主にNA合成が行われると考えられた。胚乳から胚への養分を供給する組織である柵状吸収細胞では、鉄錯体のトランスポーター遺伝子であるOsYSL2やOsYSL15の発現が誘導された。OsYSL2及びOsYSL15はそれぞれ「二価鉄−NA」、「三価鉄−DMA」を輸送することが示されており、イネ種子発芽時に鉄はNAやDMAと錯体を形成し、胚乳から胚へと輸送されることが考えられた。またこの際、主にNAが利用されている可能性が高いと考えられた。これに対し胚では、胚盤、胚盤維管束、幼根、幼芽において、OsNAS1、OsNAS2、OsNAS3、OsNAAT1、OsDMAS2、OsYSL2、OsYSL15の発現が誘導され、NAだけでなくDMAの合成も行われ、これらの鉄錯体を輸送していると考えられた。また、胚が初めて外界と接する組織である芽鱗・根鞘ではOsNAAT1、OsDMAS2、OsYSL15の発現のみが誘導されており、発芽初期においても「三価鉄−DMA」錯体が吸収・利用されていると考えられた。一方OsIRT1は他の遺伝子と異なり、幼根基部表皮において局所的な発現が誘導され、外部からの二価鉄イオンも胚へ吸収されると考えられた。

第四章 高ニコチアナミン含有ダイズの創製

遺伝子組換え技術による新たな作物の創製は、食糧問題の解決策としてのみならず、栄養価を高めた機能性作物の開発においても今後重要な役割を担っていくものと考えられる。ムギネ酸類の生合成中間体NAは血圧降下作用を持ち、高血圧症を抑える機能性食品として非常に有効であると考えられる。本研究では、オオムギのニコチアナミン合成酵素遺伝子HvNAS1をダイズの種子特異的に発現させ、ダイズ種子中のNA含有量を高めることを試みた。本章では、アメリカのミネソタ大学においてダイズの形質転換技術を学び、東京大学においてダイズの形質転換技術を確立しようと試みた。試行錯誤の結果、ダイズの子葉から再生体を得ることに成功した。

以上、本論文はイネにおける鉄栄養制御遺伝子の発現を解析することにより、ムギネ酸類分泌の分子機構の一端を解明し、またイネ種子発芽過程における鉄栄養の重要性を明らかにしたものであり、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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