学位論文要旨



No 121352
著者(漢字) 飯塚,佳子
著者(英字)
著者(カナ) イイヅカ,ヨシコ
標題(和) マウスロイコトリエンB4第二受容体mBLT2の機能解析
標題(洋) Characterization of a Mouse Second Leukotriene B4 Receptor, mBLT2
報告番号 121352
報告番号 甲21352
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2600号
研究科 医学系研究科
専攻 分子細胞生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 栗原,裕基
 東京大学 教授 長瀬,隆英
 東京大学 教授 児玉,龍彦
 東京大学 助教授 菊池,かな子
 東京大学 助教授 中田,隆夫
内容要旨 要旨を表示する

ロイコトリエンB4(LTB4)は、アラキドン酸から5-リポキシゲナーゼ、LTA4水解酵素によって産生される脂質であり、白血球の炎症部位への遊走、好中球からの活性酸素産生・リソゾーム酵素の放出などを促す強力な白血球走化性因子として知られている。LTB4受容体(BLT)はGタンパク質共役型受容体であり、1997年に当研究室においてヒト白血病細胞HL-60から単離された(BLT1)。その後、この受容体遺伝子の近傍から新たなGPCRが単離され、第2のLTB4受容体(BLT2)であることが見いだされた。本研究ではBLT2の生体内での役割を明らかにする目的でマウスゲノムライブラリーからマウスBLT2遺伝子を単離し、機能解析を行った。

マウスBLT2を安定的に発現させたCHO細胞はBLT1発現細胞に比べて高濃度のLTB4に対して細胞内カルシウム上昇、百日咳毒素感受性のGタンパク質を介したアデニル酸シクラーゼ抑制、extracellular-signal regulated kinase(ERK)のリン酸化を示した。ノザンブロッティング、定量的RT-PCRによって小腸、皮膚にBLT2の発現が認められた。この結果は牌臓に最も強い発現を認め、卵巣、肝臓、白血球を始めとする広い臓器分布を示すヒトBLT2と大きく異なっていた。マウスBLT2の発現は好中球、マクロファージ、好酸球を高発現部位とするマウスBLT1とも大きく異なっていた。さらにIn situ hybridizationによってマウスBLT2は皮膚の表皮ケラチノサイトに発現していることが確認された。初代培養ケラチノサイトを用いてLTB4、BLT2特異的アゴニスト濃度依存的なERKのリン酸化が確認された。また10μM BLTl特異的拮抗薬(CP105696)で前処理したケラチノサイトにおいても100 nMLTB4刺激によって未処理と同等のERKのリン酸化が見られた。またLTB4、BLT2特異的アゴニスト刺激の両者において、濃度依存的なケラチノサイトの細胞遊走が認められたことより、BLT2は皮膚で何らかの生物学的役割を担っているものと推定される。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はマウスロイコトリエンB4第二受容体(mBLT2)の生物学的な役割を明らかにする目的で過剰発現細胞を用いた薬理学的な解析、発現臓器・発現細胞の同定、発現細胞における機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

mBLT一過性過剰発現HEK293細胞を用いて[3H]LTB4に対する結合実験を行ったところBLT2発現細胞は0.3nM[3H]LTB4に対しては特異的な結合を示さなかったが、3 nM[3H]LTB4に対しては特異的な結合を示した。これらのことより、BLT2はBLT1と比較して低親和性のLTB4受容体であることが示唆される。

mBLT2を安定的に発現させたCHO細胞はmBLT1発現細胞と比べて高濃度のLTB4に対して細胞内カルシウム上昇と百日咳毒素感受性のGタンパク質を介したアデニル酸シクラーゼ抑制、extracellular-signal regulated kinase(ERK)のリン酸化を示した。これらのことより、BLT2の活性化にはBLT1と比較して、より高濃度のLTB4が必要であることが示された。BLTアンタゴニストとして知られるCP105696はBLT1を介した細胞内カルシウム上昇反応を抑制したがBLT2を介したそれには全く影響しなかった。

mBLT安定的過剰発現CHO細胞を用いてmBLT1およびmBLT2のLTB4の立体異性体(12-epi LTB4,6-trans-12-epi LTB4)に対するリガンド認識について調べた。12-epi LTB4はBLT1とBLT2の両者に対して特異的な結合を示し、また両者を介して細胞内カルシウム上昇反応、ERKのリン酸化を引き起こした。12-epi LTB4はBLT1、BLT2に対してアゴニスティックに働くことが示された。また12-epi LTB4によるカルシウム上昇反応の最大反応はBLT1に対してはLTB4の最大反応の約50%、BLT2に対しては80%を示した。BLT2と比較してBLT1は12位のOH基の立体構造を厳密に認識することが示された。一方6-trans-12-epi LTB4はBLT1にもBLT2に対しても全く作用しないことが示された。

Compound A {[pentanoyl(phenyl)amino]methyl}-1,1'-biphenyl-2-carboxylic acidがBLT2に対して特異的な結合を示すこと、細胞内カルシウム上昇反応、ERKのリン酸化を引き起こすことが、mBLT2安定的過剰発現CHO細胞を用いて示された。LTB4と比較して低濃度でBLT2を活性化することからCompound AはLTB4よりも強力なBLT2アゴニスト活性を持つことが確認された。

マウス(C57BL/6)におけるBLT2の臓器分布をノザンブロッティングと定量的RT-PCRによって調べた。mBLT2は小腸と皮膚に発現していることが示された。

In situ hybridizationによって皮膚(C57BL/6)における発現細胞を同定した。mBLT2は皮膚のケラチノサイトに発現していることが示された。またBALB/cマウスからケラチノサイト、ランゲルハンス細胞、ファイブロブラストを採取し、定量的RT-PCRによってBLT2の発現を確認したところ、ケラチノサイトに最も多い発現が、続いてランゲルハンス細胞にも発現が確認された。

初代培養ケラチノサイトを用いてBLT2を介したシグナル解析を行った。LTB4、BLT2特異的アゴニスト刺激の両者において濃度依存的なERKのリン酸化が引き起こされた。またBLTl特異的アンタゴニストであるCP105696の前処理によってもLTB4によるERKのリン酸化が阻害されなかったことよりケラチノサイトにおけるLTB4依存的なERKのリン酸化にはBLT1の関与が小さく、BLT2の関与が大きいと考えられる。ケラチノサイトにおけるBLT2は細胞内シグナルを伝達する機能的受容体であることが示された。

LTB4、BLT2特異的アゴニスト刺激の両者は濃度依存的な初代培養ケラチノサイトの細胞遊走を引き起こした。ケラチノサイトにおけるBLT2の発現が機能的な発現であることが示された。

以上、本論文では薬理学的な解析から、mBLT2はmBLT1と比較して高濃度のLTB4をその活性化に必要とすることが明らかとした。生体内でのmBLT2発現臓器・発現細胞の同定を行い、さらに生体内細胞を用いた内在的なBLT2を介したシグナル、細胞応答を明らかにした。本研究で得られた知見はこれまで未知に等しかったBLT2の生物学的な役割の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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