No | 121371 | |
著者(漢字) | ウィリアムズ,祐子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ウィリアムズ,ユウコ | |
標題(和) | 細胞接着分子群TSLC1ファミリーの局在と機能解析 | |
標題(洋) | Localization and functional analysis of the immunoglobulin cell adhesion molecules,the TSLC1 gene family | |
報告番号 | 121371 | |
報告番号 | 甲21371 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2619号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 要約 TSLC1遺伝子ファミリーには現在、TSLC1、TSLL1そしてTSLL2の3遺伝子が属し、免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子群(IgCAMs)に新しいサブクラスを成している。最近のTSLC1に関する精力的な研究結果から、TSLC1が、がん抑制遺伝子としてのみならず細胞浸潤、シナプス形成、精子形成、そして獲得免疫など多様な分野で重要な役割を担うことが解明されてきている。この研究の目的は、TSLC1ファミリーの新たな生物学的特徴を明らかにし、その多様な役割にさらなる一面を加えることである。特にTSLC1ファミリーの中で未だにその性状がほとんど知られていないTSLL2に焦点をあて、細胞接着分子としての生物学的性状解析と前立腺がんにおける腫瘍抑制効果を検討したので報告する。 TSLL2遺伝子は、がん抑制遺伝子として報告されているTSLC1と構造上の高い相同性を示し、IgCAMをコードする。またウエスタンプロット解析では、TSLL2が分子量約55キロダルトンの糖蛋白質であり、神経に加え、おもに腎、膀胱、そして前立腺などの泌尿器系で強く発現していることが示された。そこでTSLL2の泌尿器系組織におけるIgCAMとしての生物学的特徴と前立腺がんにおける腫瘍抑性能を検討した。 はじめに我々の研究室で作成したウサギ抗TSLL2ポリクローナル抗体、BC2、の特異性を検討し、BC2がウエスタンプロット、免疫沈降、そして免疫組織化学分析において、TSLL2に特異的に反応する抗体であることを確認した。 このBC2抗体を用いた免疫組織化学解析では、TSLL2が尿細管上皮、腎孟から尿管にかけての移行上皮、膀胱、そして前立腺の腺上皮に強く発現していることが示された。イヌ腎上皮由来の極性細胞、MDCKを用いた共焦点顕微鏡解析ではTSLL2がラテラル側面に細胞内局在することが示された。またTSLL2の遺伝子導入による強制発現細胞においてはIgCAMsに特徴的なCa2+/Mg2+に非依存性の細胞凝集能を示した。このことからTSLL2が生体内ではホモニ量体のトランス結合を通して細胞一細胞間接着に関与しているであろうことが示唆された。 さらにTSLL2遺伝子が第19染色体長腕13.2領域に存在することに注目した。この遺伝子領域はヒト前立腺がんにおいてヘテロ接合性の消失(LOH)が多数報告されている。そこで免疫組織学的方法により正常前立腺および前立腺がんにおけるTSLL2の発現を解析したところ、正常組織の全4例では腺上皮の細胞膜上に強い発現が認められたのに対し、原発性前立腺がん組織9例中全例とヒト前立腺がん細胞株のPPC1ではその発現を失っていた。さらにTSLL2をPPC1細胞に遺伝子導入させることにより、PPC1のヌードマウス皮下における腫瘍形成を強く抑制した。 以上の結果からTSLL2は細胞接着能を有する新しいIgCAMのメンバーであり、前立腺がんにおけるがん抑制遺伝子の候補である事が示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究はTSLC1のファミリー遺伝子であるTSLL2の生物学的性状を明らかにするために、上皮組織における細胞接着分子としての同定と前立腺がんにおける腫瘍抑制効果の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 TSLL2遺伝子は免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子(IgCAMをコードする。ウサギ抗TSLL2ポリクローナル抗体(BC2)を用いたウエスタンプロット解析においてTSLL2は、分子量55キロダルトンの糖鎖修飾を受ける蛋白質であることが示された。TSLL2は脳に加え腎、膀胱、そして前立腺などの泌尿器系組織で強い発現が認められた。またこれらの組織におけるTSLL2の発現は、細胞と細胞の接着面に局在することが示された。 極性上皮細胞においてTSLL2はラテラル面に細胞内局在すること、TSLL2の強制発現によりMDCK細胞がIgCAMに特徴的なCa2+/Mg2+に非依存的な細胞凝集能を示したこと、また免疫沈降法によりTSLL2がホモフィリックな相互作用をすることが認められた。これらの結果はTSLL2がシスとトランス両方の相互作用を介して細胞間接着に関与していることを示唆するものである。 TSLL2遺伝子は染色体19q13.2に存在するが、この遺伝子領域は前立腺がんにおいてヘテロ接合性の消失(Loss of Heterozygosity,LOH)が多数報告されている。実際に、ヒト原発性前立腺がん由来PPC-1細胞を用いてTSLL2の発現を調べると、TSLL2蛋白質、TSLL2mRNAともに発現の欠損が認められた。また染色体19q13.2のTSLL2近傍でDNA多型マイクロサテライトマーカーを用いてPPC-1由来のゲノムDNAのアレルステイタスを解析したところ、一方のアレルでこの領域が欠損していることが示唆された。 免疫組織化学法により正常前立腺および前立腺がんにおけるTSLL2の発現を解析したところ、正常組織では腺上皮の細胞膜上に強い発現が認められたのに対し、原発性前立腺がん組織ではその発現を失っていた。さらにTSLL2をPPC-1細胞に遺伝子導入させることにより、PPC-1のヌードマウス皮下における腫癌形成を有意に抑制した。 以上、本論文はTSLC1遺伝子ファミリーTSLL2の細胞接着分子としての生物学的性状の同定をおこない、前立腺がんにおける腫瘍形成の抑制効果をin vitroで明らかにした。本研究は新しいIgCAMを同定し、細胞接着分子を介した腫瘍形成の抑制のメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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