学位論文要旨



No 121378
著者(漢字) 加野,真一
著者(英字)
著者(カナ) カノ,シンイチ
標題(和) IRFファミリー転写因子によるIL-12応答性の制御機構
標題(洋)
報告番号 121378
報告番号 甲21378
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2626号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 教授 津,聖志
 東京大学 教授 三宅,健介
 東京大学 助教授 堀本,泰介
 東京大学 助教授 菊池,かな子
内容要旨 要旨を表示する

IL-12は、病原体感染に対する免疫応答において重要な役割を担うサイトカインであり、主に、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞から産生され抗原刺激により活性化されたCD4+T細胞がTh1細胞へと分化する過程で、必須の役割を果たす。IL-12の生理作用の発現には、リガンドと共に、その受容体の発現誘導が重要である。本論文では、IRF(Interferon Regulatory Factor)ファミリー転写因子であるIRF-5およびIRF-1によるIL-12/IL-12受容体システムの制御機構について解析を行った。

第1章では、抗原提示細胞において、IRF-5によるIL-12発現の制御を解析した。IL-12は、p40およびp35の2つのサブユニットからなるヘテロニ量体サイトカインである。Irf-5遺伝子欠損マウス樹状細胞を用いて、Toll様受容体(Toll-like receptor: TLR)のリガンドの1つである、非メチル化オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)のCpG-Bで刺激したところ、IL-12p70産生が顕著に低下しており、IL-12を構成するp40、p35いずれのmRNA誘導も大きく低下していた。一方、IRF-1は、従来IL-12の誘導に必須とされてきたが、CpG-B刺激に対して、Irf-1遺伝子欠損マウス樹状細胞は、p35 mRNAの誘導のみ低下していた。よって、樹状細胞においては、IRF-5が、IL-12発現誘導の根幹を担っている可能性が示唆された。実際、IRF-5は、CpG-B刺激に対して、p40遺伝子プロモーターのIRF結合配列(ISRE:interferon-stimulated response element)に結合することが明らかとなった。さらに、Irf-5遺伝子欠損マウスでは、in vivoでのCD4+T細胞によるIFN-γ産生が障害されており、IRF-5が、抗原提示細胞によるIL-12産生を介して、Th1分化誘導に重要な役割を果たすことが示唆された。

第2章では、CD4+T細胞において、IRF-1によるIL-12受容体発現の制御を解析した。IL-12受容体は、IL-12Rβ1およびIL-12Rβ2の2つのサブユニットから構成される。未だ抗原刺激を受けていない、いわゆるナイーブCD4+T細胞が、抗原刺激により活性化されると、IL-12受容体の発現が誘導される。Irf-1遺伝子欠損マウスCD4+T細胞では、IL-12シグナル伝達の異常によりIFN-γの産生が低下しており、IL-12受容体の発現誘導を確認したところ、IL-12Rβ1の発現が特に障害されていることが判明した。一方、Irf-5遺伝子欠損CD4+T細胞においては、IL-12受容体β1の発現誘導は正常であった。また、これまで、IL-12受容体の発現に重要であるとされてきた転写因子T-betは、IL-12Rβ1の誘導には関与しないことがわかった。実際、IRF-1は、活性化CD4+T細胞において、Il-12rβ1遺伝子プロモーターのIRF結合配列(ISRE)に結合し、転写を活性化することがわかった。さらに、Irf-1遺伝子欠損マウスCD4+T細胞に、レトロウイルスベクターを用いて、IL-12Rβ1を人為的に発現させると、IFN-γ産生の回復がみられた。よって、IRF-1は、CD4+T細胞において、Il-12rβ1遺伝子の発現を制御し、Th1分化誘導の根幹を担っていることが明らかとなった。

以上の研究により、IRF-5、IRF-1は、それぞれ異なった細胞で異なった標的遺伝子を発現誘導しながら、協調的に、IL-12によるTh1分化誘導を制御していることが示された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、Thl分化誘導に必須のサイトカインであるIL-12のリガンドおよび受容体の発現制御において、IRFファミリー転写因子の関与を解析したものであり、下記の結果を得ている。

Irf-5遺伝子欠損マウス牌臓CD11c+細胞では、TLR9リガンドであるCpG-B刺激に対するIL-12p70の産生が著明に減少しており、IL-12p70を構成しているp40およびp35両サブユニットのmRNA量がいずれも大きく低下していた。IRF-5は、CpG-B刺激に応じて核移行し、レポーターアッセイにて、IRF-5をTLRのシグナル伝達分子であるMyD88およびTRAF6と共発現させると、IRF結合配列依存性の転写が活性化された。さらに、クロマチン免疫沈降法により、IRF-5が、CpG-B刺激に応じて、Il-12p40遺伝子プロモーターのIRF結合配列に結合することが示された。実際、Irf-5遺伝子欠損マウスCD4+T細胞は、in vivoの抗原刺激に対し、顕著なIFN-γ産生の低下を示しており、IRF-5によるIL-12の発現制御が、適応免疫応答において重要であることが示唆された。

Irf-1遺伝子欠損マウスナイーブCD4+T細胞を、IL-12および抗IL-4中和抗体を用いてin vitroでThl分化させると、IFN-γ産生が大きく低下していた。Irf-1遺伝子欠損マウスCD4+T細胞は、IL-12シグナルの下流で活性化される転写因子STAT4の活性化が減弱しており、IL-12受容体発現の低下をみとめた。特に、IL-12受容体を構成するサブユニットのうち、β1サブユニット(IL-12Rβ1)の発現が顕著に低下しており、IL-12受容体発現を制御すると報告されている転写因子T-betをレトロウイルスベクターで導入しても、発現は回復しなかった。Il-12rβ1遺伝子プロモーターには、IRF結合配列が存在することが明らかとなり、同配列を含むプロモーター領域を用いたレポーターアッセイにおいて、IRF-1依存性の転写活性化が示された。実際、CD4+T細胞において、IRF-1がIl-12rβ1遺伝子プロモーターのIRF結合配列に結合することがクロマチン免疫沈降法により示された。さらに、レトロウイルスベクターを用いてIL-12Rβ1を人為的に発現させると、Irf-1遺伝子欠損マウスCD4+T細胞のIFN-γ産生が回復することが示され、CD4+T細胞において、IRF-1が、主にIL-12Rβ1の発現制御を通してThl分化誘導を担っていることが明らかとなった。

以上、本論文は、IRF-5およびIRF-1が、それぞれIL-12およびIL-12Rβ1の発現誘導に必須の役割を果たすことを明らかにしたものであり、IL-12産生およびその応答性制御の理解を大きく深めるものであるだけでなく、病原体感染や自己免疫疾患・アレルギー疾患の新たな治療法開発に貢献しうるものであり、学位の授与に値するものと考えられる。

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