学位論文要旨



No 121379
著者(漢字) 根岸,秀雄
著者(英字)
著者(カナ) ネギシ,ヒデオ
標題(和) IRFファミリー転写因子によるToll様受容体シグナル伝達経路の調節機構 : IRF-4による負の制御
標題(洋)
報告番号 121379
報告番号 甲21379
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2627号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 三宅,健介
 東京大学 教授 吉田,進昭
 東京大学 助教授 木,智
 東京大学 助教授 石川,昌
 東京大学 客員助教授 小川,誠司
内容要旨 要旨を表示する

Toll様受容体(toll-like receptorTLR)を介するシグナルの活性化は自然免疫系と適応免疫系の連携において重要な役割を担っており、そのほとんどはmyeloid differentiation factor 88(MyD88)と呼ばれるアダプター分子を介してシグナルを伝達することが知られている。MyD88には様々なアダプター分子や転写因子が会合し、その下流の遺伝子誘導が複雑に調節されていると考えられる。MyD88に結合するIFN regulatory factor(IRF)ファミリー転写因子としてはIRF-5とIRF-7が知られており、それぞれTLR下流の炎症性サイトカイン、I型IFN誘導に重要な役割を果たすことが報告されている。

今回私は、TLRを介するシグナル伝達系におけるIRFファミリー転写因子の役割をさらに解析した。その結果、今までに知られているIRF-5、IRF-7に加え、IRF-4がMyD88と結合し、TLR下流のシグナルを負に制御していることが示されたIRF-4はMyD88のIRF-5結合領域に結合することで、競合的にIRF-5とMyD88の結合を阻害し、IRF-5の活性化を阻害するが、IRF-7に対しては全く影響を与えなかった。この結果と一致し、IRF-4欠損マウス由来の腹腔マクロファージではTLRリガンド刺激に際して炎症性サイトカイン産生の顕著な増大がみられた。一方、同刺激に対する形質細胞様樹状細胞(plasma cytoid dendritic cellpDC)におけるIRF-7依存性のI型IFN産生は正常であった。さらにIRF-4をマクロファージ系細胞株に過剰発現させたところTLRリガンド刺激時の炎症性サイトカイン産生が抑制された。また、IRF-4欠損マウスは野生型マウスと比べてTLRリガンド刺激によるショックに対する感受性が高く、血中炎症性サイトカイン産生の増大を示し早期に死亡したことから、実際に生体内においてもIRF-4がTLRシグナルを負に制御していることが示された。

本研究により、IRF-4によるMyD88依存的なシグナル経路の負の調節機構の存在が示された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究では病原体に特異的なパターンを認識し、自然免疫系と適応免疫系の連携において重要な役割を担うToll様受容体(toll-like receptor:TLR)下流におけるIFN regulatory factor(IRF)ファミリー転写因子の役割を特にIRF-4に着目し解析を行ったものであり、下記の結果を得ている。

FRET(fluorescence resonance energy transfer)解析および免疫沈降による解析から、IRF-4はTLR下流のアダプター分子であるMyD88結合することが分かり、この結合はTLR下流で炎症性サイトカイン産生に重要な役割を果たす転写因子であるIRF-5とMyD88の結合に阻害的に働くことが示唆された。

IRF結合配列の繰り返しを持つレポーターを用いた解析から、IRF-4はIRF-5、MyD88、TNF-receptor-associatedkinase 6(TRAF6)の共発現によるレポーターの活性化を抑制することが分かり、さらにIRF-4は非メチル化合成オリゴヌクレオチド(ODN1668)刺激によるIRF-5の核移行を阻害したことから、IRF-4がMyD88下流におけるIRF-5の活性化に対して抑制的に働くことが示唆された。

IRF-4欠損細胞においてはODN1668、リボ多糖(LPS)、一本鎖RNA、peptideglycan(PGN)で刺激した際の炎症性サイトカイン産生に増強がみられ、一方でIRF-4を過剰発現した細胞においてはODN1668で刺激した際の炎症性サイトカイン産生に減弱がみられたことから、IRF-4はTLR下流の炎症性サイトカイン産生を負に制御することが示唆された。

IRF-4欠損マウスを用い、ODN1668投与によるショックの実験を行ったところ、IRF-4欠損マウスは野生型マウスと比べてショックに対する感受性が高く、血中炎症性サイトカイン産生の増大を示し早期に死亡したことから、生体内においてもIRF-4がTLRシグナルを負に制御していることが示唆された。

以上、本論文はIRF-4によるMyD88依存的なシグナル経路の負の調節機構の存在を明らかにし、これまで全く未知であったTLR下流におけるIRF-4の役割を明らかにした。本研究は病原体に対する宿主免疫応答への理解を深めるための分子基盤として重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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