学位論文要旨



No 121383
著者(漢字) 若林,靖貴
著者(英字)
著者(カナ) ワカバヤシ,ヤスタカ
標題(和) PRAT4A(Protein Associated with Toll-like receptor 4 A)はTLR4の細胞表面への発現を調節する
標題(洋) A Novel Protein Associated with Toll-like Receptor 4 A(PRAT4A)Regulates Cell surface expression of TLR4
報告番号 121383
報告番号 甲21383
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2631号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 清野,宏
 東京大学 教授 渡辺,すみ子
 東京大学 教授 中内,啓光
 東京大学 教授 北村,俊雄
 東京大学 助教授 木,智
内容要旨 要旨を表示する

【目的】

生体内に侵入してきた細菌からは菌体膜脂質など菌体成分が遊離する。Toll-like receptors(TLRs)は菌体成分を認識することで生体の免疫応答を誘導する。TLRsはTLR1からTLR13まで報告されており、認識するリガンドについて研究が進んでいる。菌体膜成分の中でもGram陰性細菌の外膜を構成するLipopolysaccharide(LPS)の活性は最も強力である。LPSはTLR4によって認識される。TLR4はMD-2と会合しTLR4/MD-2複合体となる事で細胞表面への発現とLPSの認識が可能になる。しかし近年、気道上皮細胞やHEK293細胞などMD-2を発現していない細胞でもTLR4が細胞表面に発現すると報告された。本研究ではMD-2以外にもTLR4の発現を制御する分子が存在する可能性を考えそのような分子の検索を行なった。

【結果】

TLR4単独での細胞表面への発現と、その発現を制御する分子の同定

マウスTLR4(mTLR4)を単独で発現させたHEK293細胞(HEK293/mTLR4-GFP細胞)をmTLR4に対する抗体で細胞表面の染色をした結果、mTLR4が検出された。MD-2 -/- mouse骨髄由来の樹状細胞およびマクロファージでも同様の結果を得た。これら結果からTLR4がMD-2非存在下でも細胞表面に発現し得る事が確認された。

上記の結果からTLR4を細胞表面に発現させる分子がMD-2以外にも存在する可能性を考えた。HEK293/mTLR4-GFP細胞からmTLR4-GFPを免疫沈降し、mTLR4-GFPと共沈する分子を検索した結果40kD付近に単一のバンドを検出した。この分子のN末端アミノ酸配列はhuman CAG repeat containing proteinの38〜47番目のアミノ酸配列と一致した。この分子を私はPRAT4A(Protein associated with TLR4 A)と名付けた。PRAT4Aのマウスの臓器での発現を調べた結果、PRAT4Aは調べた臓器全てに発現していた。PRAT4Aの細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡で検討したところPRAT4Aは小胞体とゴルジ体に局在していた。

PRAT4Aの機能を解析するために、siRNAによりPRAT4Aの発現を低下させ、mTLR4-GFPの発現を検討したところ細胞表面のmTLR4-GFP発現量が減少した。siRNAを導入してもmTLR4-GFPタンパクの発現量に影響はなかった。コントロールとして用いたsequence scrambled RNAは何の影響も及ぼさなかった。以上の結果からTLR4の発現には今回新たに同定したPRAT4Aが重要である事が分かった。

PRAT4Aの機能についての更なる検討

PRAT4AがTLR4/MD-2複合体に対しても機能するのか次にを検討した。mPRAT4AはmTLR4と特異的に会合したがmMD-2やmTLR2、mRP105、mMD-1とは会合しなかった。mPRAT4Aを免疫沈降するとmTLR4のimmature formのみが共沈した。このときmMD-2もサイズの小さい、immature formと考えられるバンドが共沈した。PRAT4AはMD-2とは会合しない事からPRAT4Aと共沈するimmature TLR4にはimmature MD-2が会合していると考えられる。

mPRAT4Aに対するshort hairpin RNA (shRNA)を作製し、TLR4-FH/MD-2-FHを安定発現するBa/F3細胞(Ba/mTLR4-FH/mMD-2-FH)に導入した。導入したshRNAはmPRAT4A mRNA発現を抑制したがmTLR4、mMD-2のmRNAの発現に影響は無かった。mPRAT4A shRNA導入細胞では細胞表面のTLR4/MD-2が顕著に低下していたがTLR2、CD43の発現量に影響はなかった。このshRNAをマウス骨髄由来樹状細胞に導入し、PRAT4Aを抑制することで、同様に細胞表面のTLR4/MD-2が低下する事も確認した。

shRNAを導入したBa/mTLR4/mMD-2細胞からmTLR4を免疫沈降したところ細胞表面に発現するサイズの大きなmTLR4のみが低下していた。この結果はPRAT4Aの発現低下によりTLR4のmaturationが障害された事に起因すると考えられる。

この細胞をTLR4/MD-2のリガンドであるLPSで刺激し、転写因子NF-κBの活性化をルシフェラーゼアツセイで測定した。shRNA導入細胞ではLPS応答性が低下した。コントロールとして用いた発現ベクターのみ導入した細胞はそのような低下は認められなかった。これら結果からPRAT4Aの抑制がTLR4/MD-2複合体の細胞表面への発現を減少させる事でLPS応答に影響を及ぼす可能性が示された。

【結論】

TLR4はMD-2が無くても細胞表面に発現する事を示した。TLR4に会合しその発現を調節する新規分子PRAT4Aを同定した。PRAT4AはTLR4/MD-2複合体にも会合し、細胞表面への発現を調節する事を示した。PRAT4Aを抑制することでLPS応答性が低下することを示した。PRAT4Aはエンドトキシンショックに対する新たな創薬のターゲットとなり得ると考える。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はMD-2を発現していない細胞でもToll-like receptor4(TLR4)が細胞表面に発現する可能性があるという報告を受け、MD-2以外にTLR4の細胞表面への発現を調節する分子が存在する可能性を考えそのような分子の検索を行ない、その結果同定した分子の機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

TLR4を単独で発現させたHEK293細胞(HEK293/mTLR4-GFP細胞)を抗TLR4抗体で染色することでMD-2非存在下でもTLR4が細胞表面に発現する事を確認した。MD-2-/-マウスの骨髄由来樹状細胞およびマクロファージにおいてもTLR4が単独で細胞表面に発現する事を確認した。上記の結果からTLR4は単独で細胞表面に発現し得る事を明らかとした。

TLR4が単独で細胞表面に発現する細胞を用いてTLR4と共沈する分子の検索を行なったところ、40kD付近に単一のバンドを検出した。この分子のN末端アミノ酸配列はhuman CAG repeat containing proteinの38〜47番目のアミノ酸配列と一致した。この分子をPRAT4A(Protein associated with TLR4 A)と名付け、その機能を解析するためにsiRNAによりPRAT4Aの発現を抑制したところHEK293/mTLR4-GFP細胞の細胞表面に単独で発現しているTLR4の発現量が減少したが、このとき細胞表面に発現している他の分子の発現量に影響は無かった。上記の結果からTLR4が単独で細胞表面に発現するにはPRAT4Aが重要であることを明らかとした。

PRAT4AとTLRsとの物理的会合の特異性を検討した。PRAT4AはTLR4と会合したがMD-2やTLR2との会合はみられなかった。またPRAT4Aと会合するTLR4はサイズの小さなimmature formであり、同時にサイズの小さなimmature formと考えられるMD-2も会合していたがmatureTLR4/MD-2複合体とは会合しなかった。PRAT4Aはimmature TLR4およびimmature TLR4/MD-2複合体と会合することを明らかとした。

PRAT4ATLR4/MD-2を安定発現するBa/F3細胞にshRNA発現ベクターを導入し、PRAT4Aの発現を抑制するとTLR4/MD-2複合体の細胞表面の発現が顕著に低下したが、このとき細胞表面のTLR2、CD43の発現量には影響が無かった。このshRNA発現ベクターを野生型マウス骨髄由来樹状細胞に導入したところ同様の結果を得た。TLR4/MD-2を安定発現するBa/F3細胞にshRNA発現ベクターを導入しTLR4/MD-2のリガンドであるLPSで刺激し、転写因子NF-KBの活性化を測定したところshRNA導入細胞ではLPS応答性が低下していたが、コントロールとして用いた発現ベクターのみ導入した細胞のLPS応答性は元の細胞と変わらなかった。上記の結果からPRAT4Aの抑制がTLR4/MD-2複合体細胞表面への発現を減少させることでLPS応答性を調節する可能性を示した。

以上、本論文はHEK293細胞にTLR4を単独で発現させた細胞を用いることでTLR4と特異的に会合しその細胞表面への発現を調節する新規分子PRAT4Aを同定した。PRAT4AはTLR4/MD-2の細胞表面への発現も調節する事を明らかとした。本研究は臨床において重要な疾患であるエンドトキシンショックの予防、治療法を開発する上で重要な貢献をなし、免疫学の発展に寄与するところが大きいと思われる。したがって、本論文は学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク