No | 121386 | |
著者(漢字) | 山下,英臣 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマシタ,ヒデオミ | |
標題(和) | 放射線治療後の味覚障害 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121386 | |
報告番号 | 甲21386 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2634号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生体物理医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景:頭頚部癌の放射線治療により味覚障害が起こることはよく知られているが、その経過およびその機序についての詳細は今だ不明である。目的:ヒトにおける分割照射後の味覚障害の発生時期・経過と、味覚障害の程度との関係を明らかにすることである。さらに、ラットにおいて味蕾組織の放射線障害として、細胞周期の停止やアポトーシスがどのように関与するか観察し、照射による味覚消失の機序を解明することである。 方法1:頭頚部癌患者で放射線治療を行った51症例において、味覚障害の発生時期、経過と程度との関係について味質毎に検討した。照射前、照射中、並びに照射後に4基本味の味覚認知閾値を濾紙ディスクによる味覚検査法で測定した。その他、うま味に関しては全口腔法を用いた。 方法2:ラット舌への15GyのX線単回照射後、HE染色TUNEL染色BrdU標識染色・p21免疫染色を行った。 結果1:ヒトにおいて、舌が照射野に含まれる頭頚部腫瘍に対する放射線治療では、分割照射開始後5週目で味覚感度が最も低下し、11週目には有意に回復した。 結果2:ラットへの15GyのX線単回照射により、HE染色上、味蕾は照射後6日目に一旦消失したのち13日目以降再出現した。照射後TUNEL陽性細胞の増加は見られなかった。基底層細胞のBrdU標識陽性細胞は照射後10時間から2日まで消失し、それと同調してp21は照射後4時間から2日まで発現していた。結論:放射線治療による味覚障害は、味蕾に対する直接障害が主な原因と推察された。味蕾の消失にアポトーシスは関与しておらず、味蕾の消失と回復はp21が介する細胞周期の停止・再開で説明可能である。 | |
審査要旨 | 本研究は頭頚部腫瘍に対して放射線治療を受けた患者で最も頻度の高い訴えの1つである放射線性味覚障害に関して、分割照射後の味覚障害の発生時期・経過と、味覚障害の程度との関係を明らかにし、さらに、味蕾組織の放射線障害として、細胞周期の停止やアポトーシスがどのように関与するかをラット舌で観察し、照射による味覚消失の機序を解明することを試みたものであり、下記の結果を得ている。 ヒトにおいて、4基本味質にうま味を加えた5種類全ての味覚で、分割照射開始後5週目(総線量約45Gy時点)に味覚感度平均値が有意に低下し、照射開始後5週目と比較し11週目には有意に回復することが示された。 この変化パターンは化学療法併用の有無には影響されないことが示された。 ラット舌への15Gy単回照射後、H-E染色で見ると、形態的には、照射後6日目で味蕾は周囲の上皮組織とともに消失し、照射後13日目ごろより幼若な味蕾組織が再出現し、18-23日目には形態的にはほぼ回復することが示された。 BrdU標識の結果、照射後10時間目には上皮組織のDNA合成が停止し、6-8日目ごろからDNA合成に再開がみられることが示された。 照射後4時間目で、基底層の細胞にp21の発現を認め、6日目以降に消失することが示された。 照射後の味蕾の消失と再出現の過程でアポトーシスの増減は見られないことが示された。 味蕾の消失は、アポトーシスの関与は大きくなく、味蕾の消失と回復には、p21を介する細胞周期の停止と再開で説明できる可能性が高いと考えられた。 以上、本論文は、ヒトにおいて、舌が照射野に含まれる頭頸部腫瘍に対する放射線治療では、照射開始後5週目で味覚感度が最も低下し、11週目(照射終了後4週目)には有意に回復することを明らかにした。さらに、これと等価な線量に関しての照射応答を見た、ラットへの15GyのX線単回照射により、味蕾の消失は、アポトーシスの関与は大きくなく、味蕾の消失と回復には、p21を介する細胞周期の停止と再開で説明できる可能性が高いことを明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、放射線治療後の味覚障害の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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