学位論文要旨



No 121400
著者(漢字) 田中,紘
著者(英字)
著者(カナ) タナカ,ヒロシ
標題(和) ストレス応答におけるIRF-3転写因子の役割 : 紫外線照射によるアポトーシス制御機構の解析
標題(洋)
報告番号 121400
報告番号 甲21400
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2648号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長瀬,隆英
 東京大学 教授 片岡,一則
 東京大学 教授 橋,孝喜
 東京大学 連携教授 中村,卓郎
 東京大学 助教授 中川,恵一
内容要旨 要旨を表示する

転写制御因子IRF-3はIFN-regulatory factor(IRF)ファミリー因子の1つで、ウイルス感染時のI型IFN (IFN-α,-β)の制御に重要である。これまでに、IRF-3がDNA損傷にも関与しうることが報告されているが、どのような役割を果たしているかについては全く不明である。本論文ではストレス応答におけるIRF-3の役割の中で、特に紫外線照射によるアポトーシスの制御機構に関して検討した結果を報告する。

IRF-3遺伝子欠損(IRF-3-/-)マウス由来の胎児線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast,以下MEFとする)を用いて、 DNA損傷におけるアポトーシス応答について調べたところ、IRF-3-/-MEFは紫外線照射によるアポトーシスに抵抗性を示した。また、野生型MEFにおいて、紫外線照射によりIRF-3が細胞質から核内へ移行し、転写活性を示すことが認められた。次に、紫外線照射によるアポトーシスに重要とされるp53を介する経路において、IRF3がどのような役割を果たしているのかについて調べた。IRF-3-/- MEFとp53-/- MEFは、紫外線照射によるアポトーシスへの誘導に対し、共に抵抗性を示した。p53の機能調節には、 p53タンパク質の発現量とリン酸化が重要であるが、IRF-3-/- MEFでも、紫外線照射によるp53タンパク質の発現やリン酸化の増強が野生型MEFと同様に認められた。興味深いことに、IRF-3-/- MEFでは、 p53の標的遺伝子であるプロアポトーティック因子のPumaやNoxaのmRNAの誘導が、野生型MEFと比較して部分的に抑制されていた。一方、同じくp53の標的遺伝子として知られるp21Waf1/Cip1及びMDM2のmRNAの誘導には著明な違いは認められなかった。以上の結果より、IRF-3がp53標的遺伝子誘導の一部に選択的に関与することが考えられる。一方で、注目に値するのは、IRF-3-/- p53-/-MEFでは、紫外線照射によるアポトーシスに対して、それぞれの単独欠損MEFと比較してより強い抵抗性を示したことであり、 IRF-3が、 p53とは独立したアポトーシス誘導経路にも寄与していることが示唆された。紫外線照射によるアポトーシスにおいて、上記の経路以外でのIRF-3の関与を追及するために、 DNAマイクロアレイを行い、紫外線照射によってIRF-3特異的に誘導される遺伝子を検索した。その結果、アポトーシスへの関与が報告されていた遺伝子p53bp2がIRF-3特異的に誘導される遺伝子の一つであることが判明した。さらに、マウス表皮への紫外線照射において、IRF-3-/-マウスは野生型マウスと比べて、アポトーシスを起こした表皮細胞の数が有意に減少した。よって、生体においても、紫外線照射によるアポトーシスにIRF-3が重要な役割を果たしていることが示唆された。

本研究により、 IFN系の制御に重要である転写因子IRF-3が、紫外線照射によるアポトーシスの制御機構にも密接に関与していることが明らかとなった。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、ウイルス感染時のI型IFN(IFN-α,-β)の制御に重要である転写制御因子IRF-3のストレス応答における役割を明らかにするために、紫外線照射によるアポトーシスの制御機構に関して解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

各IRFファミリー遺伝子欠損マウス由来のマウス胎児線維芽細胞(MEF)を用いて、DNA損傷によるアポトーシスについて解析した結果、IRF-3-/-MEFのみが紫外線照射によるアポトーシスへの抵抗性を示した。従って、IRF-3が紫外線照射によるアポトーシスに関与することが示された。

内在性のIRF-3が紫外線照射により核内へ移行することがイムノブロットにより示された。レポーター・アッセイの結果、紫外線照射によりIRF-3が転写活性を有することが示された。従って、紫外線照射によりIRF-3が活性化されることが示唆された。

ストレス因子によるアポトーシス誘導に重要であるp53経路におけるIRF-3の役割について検討した結果、IRF-3は、紫外線照射によるp53 mRNAの誘導、p53タンパク質の発現量及びリン酸化には関与していないが、p53標的遺伝子であるプロアポトーティック因子のPumaやNoxaのmRNAの誘導に部分的に関与していることが示された。さらに、紫外線照射によるアポトーシス誘導経路におけるIRF-3とp53の協調的な役割について、IRF-3-/- p53-/-MEFを新たに作成し解析した結果、IRF-3-/- p53-/-MEFは、紫外線照射によるアポトーシスに対して、それぞれの単独欠損MEFよりも強い抵抗性を示した。従って、IRF-3がp53とは独立したアポトーシス誘導経路にも寄与している可能性が示唆された。

上記の可能性を追求するために、DNAマイクロアレイを行い、紫外線照射によってIRF-3特異的に誘導される遺伝子を検索した結果、アポトーシスへの関与が報告されていた遺伝子p53bp2が判明した。

紫外線照射によるマウス表皮のアポトーシスについて解析した結果、IRF-3-/-マウスは野生型マウスと比べて、アポトーシスを起こした表皮細胞の数が有意に減少した。従って、生体においても、紫外線照射によるアポトーシスにIRF-3が関与していることが示された。

以上、本論文はinvitro及びin vivoにおいて、紫外線照射によるアポトーシスの制御機構における転写因子IRF-3の役割の一端を明らかにした。本研究はストレス応答のメカニズムの解明に重要な貢献を成すと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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