学位論文要旨



No 121403
著者(漢字) 田嶋,麻紀子
著者(英字)
著者(カナ) タジマ,マキコ
標題(和) junctional cell adhesion molecule 4の細胞内局在と細胞接着における役割
標題(洋) Subcellular localization of junctional cell adhesion molecule 4 and its role in cell adhesion
報告番号 121403
報告番号 甲21403
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2651号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 黒川,峰夫
 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 教授 栗原,裕基
 東京大学 講師 関,常司
 東京大学 講師 関根,信夫
内容要旨 要旨を表示する

背景

membrane-associated guanylate kinase with inverted domain structure-1(MAGI-1)はtight junctionに局在する細胞膜裏打ち蛋白質である。筆者らは、MAGI-1の結合パートナーとして免疫グロブリンスーパーファミリーに属する新規蛋白質を同定した。一連のjunctional cell adhesion moleculeとの間にアミノ酸配列の相同性が認められたことから、この蛋白質をjunctional cell adhesion molecule4(JAM4)と名付けた。

JAM4は、腎糸球体や小腸、乳腺などの上皮細胞に認められ、tight junctionに局在する。この分子が示すCa2+非依存性の細胞接着活性はMAGI-1によって増強される。また、JAM4は単層のChinese hamster ovary細胞の細胞間隙透過性を減弱させる働きを示す。さらに、JAM4はホモフィリックな相互作用によってマウスの線維芽細胞であるL細胞の細胞接着を媒介し、その接触点ではZO-1やoccludinなどのtight junction蛋白質と共にMAGI-1の集積がみられる。tight junctionの構成にはJAM4とMAGI-1との相互作用が重要であることをこれらの観察結果は示している。

本稿では、前回の研究を発展させて、種々の組織でJAM4の細胞内局在を決定すると同時に、それをMAGI-1の局在と比較した。また、JAM4がtight junctionに移動する機序、ならびにMAGI-1の動員におけるJAM4の作用を検討した。これに加えて、JAM4の各Ig様ループが細胞接着に果たす役割の解明も試みた。

結果

ラットの上皮組織でJAM4の局在を調べた。JAM4は、十二指腸ではZO-1と共にtight junctionに局在していたが、空腸と回腸では主に頂側膜に検出された。顎下腺およびエックリン汗腺のJAM4は上皮細胞のtight junctionに局在していた。腎臓においては、集合管ではtight junction、近位尿細管では頂側膜にJAM4が検出された。

種々のFLAG標識JAM4変異体を発現するMadine Darby canine kidney II(MDCK)細胞のstable transformantを作成して各変異体の局在を調べた。蛋白質の全長を含むFLAG-JAM4-1および細胞膜側のIg様ループを欠損するFLAG-JAM4-4は、tight junctionに集積してZO-1と局在を共にした。しかし、N末端側のIg様ループを欠損しているFLAG-JAM4-2は大半が頂側膜に発現した。これらのデータは、tight junctionへのJAM4の動員がN末端側のIg様ループに依存することを表していた。MAGI-1との相互作用ドメインであるPDZ結合モチーフを欠損するFLAG-JAM4-3はtight junctionに局在したことから、PDZ結合モチーフはtight junctionへの動員に必要ではないと推測された。

次に、同じstable transformantを用いて内在性のMAGI-1の局在を確認した。野生型のMDCK細胞と同様に、FLAG-JAM-1を発現するMDCK細胞ではMAGI-1がtight junctionに集積していた。FLAG-JAM4-2を発現するMDCK細胞では、tight junctionと頂側膜のいずれにもMAGI-1が検出された。この傾向は、FLAG-JAM4-2が一過性に導入された場合に一層顕著になった。FLAG-JAM4-2を発現していないMDCK細胞ではMAGI-1がtight junctionに認められたが、FLAG-JAM4-2を発現するMDCK細胞ではMAGI-1が頂側膜に動員された。green fluorescent protein (GFP)標識MAGI-1を発現するMDCK細胞のstable transformantでは、GFP-MAGI-1は細胞質内にびまん性に分布し、細胞接着部位にもわずかに集積した。この細胞にFLAG-JAM4-1を導入したところ、GFP-MAGI-1の信号は細胞質内から消失してtight junctionに選択的に集積し、FLAG-JAM4-1と局在を共にした。PDZ結合モチーフを欠損するFLAG-JAM4-3はGFP-MAGI-1の局在に影響を及ぼさなかった。これらの観察から、過剰発現したJAM4はMAGI-1の動員に関与すると考えられた。しかし、JAM4がtight junctionに検出されないにもかかわらず、回腸のMAGI-1はtight junctionにも集積していた。これは、in vivoでのMAGI-1の局在がJAM4のみによって決定されるのではなく、MAGI-1をtight junctionに動員する蛋白質がJAM4以外にも存在する可能性を示唆する結果であった。

2つのIg様ループの役割を明確にするために、各種FLAG標識JAM4変異体を発現するL細胞のstable transformantを用いてaggregation assayを行った。FLAG-JAM4-1やFLAG-JAM4-3を発現する細胞では著明な凝集が認められた。しかし、いずれかのIg様ループを欠損した変異体を発現する細胞では凝集形成が抑制されており、JAM4のホモフィリックな相互作用には両方のIg様ループが必要であることが明らかにされた。続いて、これらのL細胞を架橋試薬で処理して、ウェスタンプロット法で2量体の形成状況を解析した。FLAG-JAM4-1、FLAG-JAM4-3、およびFLAG-JAM4-4は2量体を形成したが、N末端側のIg様ループを欠損するFLAG-JAM4-2は2量体を形成しなかった。これは、JAM4のcisの相互作用がN末端側のIg様ループに依存することを表していた。

結論

JAM4の局在は組織によって異なり、tight junctionと頂側膜のいずれの局在も生理的であると考えられた。N末端側のIg様ループを欠損する変異型JAM4は、tight junctionに動員されずに頂側膜に集積した。また、transの相互作用には2つのIg様ループのいずれもが不可欠であったが、cisの相互作用にはN末端側のIg様ループのみが必要であった。 以上の結果から、JAM4はまず頂側膜に移動し、次にN末端側のIg様ループによる分子間相互作用を介してtight junctionに動員される可能性が高いという結論が得られた。

JAM4は、L細胞の細胞接着部位にMAGI-1を動員し、MDCK細胞でMAGI-1を過剰発現させた場合にもMAGI-1をtight junctionに動員した。しかし、JAM4が存在しないにもかかわらず、回腸の上皮細胞では内在性のMAGI-1がtight junctionに集積していた。これらの観察から、MDCK細胞におけるMAGI-1の局在はJAM4によって決定されるが、in vivoでのMAGI-1の局在は必ずしもJAM4に依存しないことが明らかにされた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究では、上皮細胞のtight junction(TJ)に局在して細胞接着に関与すると考えられている新規蛋白質junctional cell adhesion molecule 4(JAM4)を題材に、JAM4の細胞内局在決定機序、およびその動員の機序を種々の組織で検討した。また、細胞接着においてJAM4が果たす役割についてさらに解析を進めた。その結果、下記の知見が得られている。

ラットの上皮組織でJAM4の局在を調べたところ、これまでTJに特異的に局在する 蛋白質であると考えられていたJAM4が、近位尿細管、空腸、回腸などでは頂側膜に 検出されることを示した。特に、十二指腸の部位によってJAM4の発現部位が異なる 点は、本研究で初めて確認された。

種々の細胞内ドメインを欠損したFLAG標識JAM4を発現するMDCK細胞のstable transformantを作成して各変異蛋白質の局在を調べたところ、蛋白質の全長を含むFLAG-JAM4-1、および細胞膜側の免疫グロブリン(Ig)様ループを欠損するFLAG-JAM4-4は、tight junctionに集積してZO-1と局在を共にしたが、N末端側のIg様ループを欠損しているFLAG-JAM4-2は大半が頂側膜に発現した。これは、tight junctionへのJAM4の動員は主にN末端側のIg様ループに依存し、PDZ結合モチーフは必要ではないことを示唆していた。

JAM4と結合することが知られているmembrane-associated guanylate kinase with inverted domain structure-1(MAGI-1)はTJに局在する細胞膜裏打ち蛋白質であるが、N末端側のIg様ループを欠損したFLAG-JAM4-2を発現するMDCK細胞では、MAGI-1がTJと頂側膜のいずれにも検出された。また、green fluorescent protein(GFP)標識MAGI-1を発現するMDCK細胞のstable transformantにFLAG-JAM4-1を一過性に導入すると、細胞質内や細胞接着部位にびまん性に分布していたGFP-MAGI-1が、FLAG-JAM4-1と共にTJに選択的に集積した。以上から、過剰発現したJAM4はMAGI-1の局在に影響を及ぼすことが明らかにされた。

JAM4が頂側膜に検出された回腸でMAGI-1の局在を確認すると、これまではTJまたはadherencejunctionでの局在のみが報告されていたMAGI-1が頂側膜で検出された。しかし、回腸のMAGI-1は一部TJにも局在しており、in vivoでのMAGI-1の局在をJAM4のみが決定するのではないことが示唆された。

各種FLAG標識JAM4を発現するL細胞を用いてaggregation assayを行ったところ、2つのIg様ループのいずれかを欠損した変異体を発現する細胞では凝集形成が抑制されていた。このことから、JAM4のホモフィリックなtransの相互作用には両方のIg様ループが必要であることが明らかにされた。

同じL細胞を架橋試薬で処理してウェスタンプロット法で2量体の形成状況を解析したところ、N末端側のIg様ループを欠損するFLAG-JAM4-2は2量体を形成しなかった。これは、JAM4のcisの相互作用がN末端側のIg様ループに依存することを表していた。

本論文は、接着分子JAM4が組織によって特徴的な細胞内局在を示すことを明らかにし、JAM4が上皮細胞で担う作用について新たな示唆を与えるものであった。また、JAM4とMAGI-1の局在をin vitroおよびin vivoで比較し、MAGI-1の動員におけるJAM4の働きも示した。さらにJAM4の各Ig様ループの役割も明らかにされ、これはJAM4の細胞内targetingの機序を解明する上で重要な知見であった。以上の理由から、本論文の貢献は大きく、学位の授与に値するものと考えられる。

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