No | 121425 | |
著者(漢字) | 金子,知代 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カネコ,トモヨ | |
標題(和) | メタボリックシンドロームにおける臓器障害と新しい抗酸化薬について | |
標題(洋) | Platinum nanoparticles as a novel antioxidant for rescuing organ damage in metabolic syndrome | |
報告番号 | 121425 | |
報告番号 | 甲21425 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2673号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | メタボリックシンドロームは現代医療にとって克服すべき最も大きな課題の一つである。とりわけ心血管障害を中心としたメタボリックシンドロームに合併する臓器障害は、非常に深刻な問題であり、そこには酸化ストレスが深く関与していると考えられている。メタボリックシンドロームに対する有効な治療の開発は医学にとって現代の医学にとって重要な課題である。酸化ストレスに由来すると考えられる臓器障害は殊にメタボリックシンドロームにおいては非常に深刻な問題である。しかしながら、これまでの研究においてビタミンC、ビタミンE、ベータカロテンといった従来の抗酸化薬はメタボリックシンドロームの臓器障害には有効とはいえないばかりか、時として有害でさえあることが分かっている。ナノテクノロジーは近年発達が目覚しく、その産物である貴金属コロイドは科学的研究のみならず、その他多くの目的で使用されている。また、白金を含むいくつかの金属では触媒作用によってフリーラジカルを消去することが知られている。 この研究において、私は、新しい抗酸化薬である白金ナノコロイドのメタボリックシンドロームにおける心血管障害に対する有効性について検討した。メタボリックシンドロームのモデルとしては2型糖尿病モデル動物であるdb/dbマウスにアンジオテンシンIIと食塩を負荷し、耐糖能異常、脂質代謝異常、肥満、高血圧を呈するモデルを作製した。全身性および局所の酸化ストレスは尿中イソプロスタグランジンF2αとジハイドロエチジウム染色によって評価した。両者はメタボリックシンドロームモデルマウスで明らかな上昇を認め、また、冠血管障害もメタボリックシンドロームのモデルで増悪していた。 電子スピン共鳴法を用いて白金ナノコロイドが生体内で持続的に酸化ストレスを除去する作用があることを示した。これは貴金属のもつ触媒作用によるものと考えられた。また、 白金ナノコロイドがsuperoxide dismutase (SOD)様作用とカタラーゼ様作用の両方を持つことを確認した。 白金ナノコロイドを作製したdb/dbマウスに経口投与し、4週間観察したところ、全身性および局所の酸化ストレスが明らかな低下を認め、また病理組織学的所見ならびに分子マーカーを指標とした心血管障害が回復した。 以上の結果より、白金ナノコロイドはsuperoxide dismutase(SOD)様作用とカタラーゼ様作用の両方を持ち、触媒作用もあることより、生体内で持続的かつ広範に酸化ストレスを除去する作用があることが示唆された。 メタボリックシンドロームの臓器障害の原因として酸化ストレスが考えられるが、白金ナノコロイドはその酸化ストレス即ち活性酸素種(reactive oxygen species)に対する消去能を持つ新しい抗酸化薬である。この新しい抗酸化剤は酸化ストレスによる臓器障害を改善させ、ナノテクノロジーと医学との学際的治療の新境地を開拓するものと考えられる。 | |
審査要旨 | 本研究はメタボリックシンドロームにおける臓器障害と酸化ストレスとの関与について検討した後に、新しい抗酸化物質である白金ナノコロイドを用いて、メタボリックシンドロームに合併する心血管障害を回復させることを試みたものであり、下記の結果を得ている。 db/dbマウスにアンジオテンシンIIと食塩を負荷することで血圧を上昇させ、メタボリックシンドロームのモデルを作製し、メタボリックシンドロームの状態において冠血管障害が惹起されることが病理組織学的所見および RT-PCR法による心血管障害関連遺伝子の発現上昇によって示された。またメタボリックシンドロームでは全身性の酸化ストレスが上昇することが尿中イソプロスタグランジンF2αの上昇によって示され、局所の酸化ストレスの上昇についてはin situのジハイドロエチジウム染色によって示された。 新しい抗酸化物質である白金ナノコロイドが抗酸化力を持つことを電子スピン共鳴法によって示された。またELISA法を用いて白金ナノコロイドの持つ抗酸化力がSOD様作用とカタラーゼ様作用の両方を持ち、貴金属の持つ触媒作用により、持続的かつ広範囲な酸化ストレスを消去できることが示された。 白金ナノコロイドをメタボリックシンドロームのモデルに経口投与して検討した結果が示された。白金ナノコロイドの投与により全身性の酸化ストレス上昇の改善が尿中イソプロスタグランジンF2αの結果により示された。局所の酸化ストレスについてはin situのジハイドロイチジウム染色の結果より示された。冠血管障害の改善が病理組織学的所見およびRT-PCR法の結果より示された。 白金ナノコロイドの投与は血圧、体重、血清コレステロール、尿糖などには明らかな影響を与えないことが示された。 白金ナノコロイドの体内分布については、心臓、肝臓、腎臓、血清、血球、尿について検討され、腎臓、肝臓、尿中で比較的高濃度で検出されたことおよび、tempolおよびapocyninを経口投与した結果を白金ナノコロイドの抗酸化作用と比較した結果が審査会で示された。Tempol、apocynin投与群では全身性の酸化ストレスは低下傾向を示すものの、統計学的に有意なものではなかった。また、病理組織所見はtempol、apocyninの投与によっても冠血管障害は改善を認めていた。 以上、本論文はメタボリックシンドロームの臓器障害の原因に酸化ストレスが大きく関与していることを示し、白金ナノコロイドは酸化ストレスに対する広範かつ持続的な消去能を発揮する物質であることを示した。この新しい抗酸化薬は、酸化ストレスに関与した臓器障害を改善し、ナノテクノロジーと医学との学際的治療の新境地を開拓するものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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