学位論文要旨



No 121427
著者(漢字) 瀧,史香
著者(英字)
著者(カナ) タキ,フミカ
標題(和) 腹膜透析における酸化ストレスを介した組織・細胞障害機序に関しての検討
標題(洋) Oxidative stress plays a pivotal role in damage in peritoneal dialysis
報告番号 121427
報告番号 甲21427
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2675号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 五十嵐,隆
 東京大学 助教授 岡崎,具樹
 東京大学 講師 野入,英世
 東京大学 講師 久米,春喜
 東京大学 講師 安東,克之
内容要旨 要旨を表示する

腎代替療法として行われる腹膜透析の問題点として、非生理的な腹膜透析液の使用に伴う腹膜機能の低下の問題がある。浸透圧物質として使用される高濃度グルコース、透析液の滅菌の際に発生するGDPなど透析液に含まれる様々な物質が腹膜組織・細胞に障害を与えることが知られているが、これらすべての機序に酸化ストレスが関与していることが報告されている。

今回私は、(1)実際の腹膜透析患者の酸化ストレス指標と腹膜機能、(2)外科手術症例の大網より単離培養したヒト腹膜中皮細胞の酸化ストレス上昇および細胞障害の機序の解明と、薬物によるその回避の可能性について検討した。

腹膜透析患者(N=25)の臨床的検討では、(1)酸化ストレス指標のひとつである血中8-イソプロスタン濃度およびMDA-LDL濃度の平均値は、腹膜透析患者では上昇しており、(2)これらの酸化ストレス指標は、腹膜平衡試験で得た腹膜の溶質除去能を示すD/Pcreatinineの、採血時とその後6ヵ月後との間での変化率(AD/Pcreatinine)との間で有意な相関を認めた。経時的なD/Pcreatinine値の亢進は腹膜機能劣化のひとつの指標であると言われており、これらの酸化ストレス濃度の測定は未来の腹膜機能を予測しうる指標として有用である可能性を示した.さらに、(3)これらのマーカーは血中高感度CRP値と相関があった。

次にこれらの現象を生物化学的に検証するため、ヒト腹膜中皮細胞に透析液と同じ濃度のD-グルコースを加え実際に細胞内酸化ストレスの上昇を確認し、この機序はNADPH経路に依存することを示した。これら酸化ストレスを回避する可能性のある薬物として、アンギオテンシン受容体括抗薬を使用したところ、有意に酸化ストレスを抑えることができた。更にこれらの作用機序について検討したところ、(1)本来のアンギオテンシン受容体の拮抗薬を介したアンギオテンシンII作用阻害に伴う抗酸化効果に加えて、 (2)直接活性酸素種を除去する抗酸化効果によるものであることが解った。更には、特定の種のアンギオテンシン受容体拮抗薬(オルメサルタン)には、(3)亜鉛のキレート作用を介し、PKCの働きを抑制することで抗酸化効果を発揮するという新しい薬剤特異作用機序がある可能性を見いだした。

上記2つの検討を踏まえて、抗酸化作用をもつ薬剤の使用が実際の腹膜透析患者の腹膜機能保護に有用かどうかの検討が今後の臨床的検討が必要であると考える。

審査要旨 要旨を表示する

学位申請者は、自身が従事する腹膜透析医療における問題点に対して、臨床的、基礎的側面の双方からアプローチをし、研究を行った。

まず、臨床研究において、実際の腹膜透析患者では血中の酸化ストレス値が、腎機能の違いの要素を加味した上でも、非透析患者に比べて有意に上昇していることを示し、腹膜透析そのものが酸化ストレスを発生する一因である可能性を示した。また、これらの酸化ストレス値は、腹膜透析患者の6ヵ月後の腹膜機能の変化と相関することを新たに示し、腹膜機能を予測するマーカーとしての側面がこの値にはあることを示した。

次に、基礎研究として、ヒト腹膜中皮細胞を用いて、腹膜透析液に含まれる高濃度のD-グルコースと細胞障害の機序についても検討もおこなっている。高濃度のD-グルコースは、細胞内の酸化ストレスを発生し、細胞に障害を与えることを示し、これらの現象はアンギオテンシン受容体拮抗薬により改善されることを示した。

さらに、アンギオテンシン受容体拮抗薬の種類の違いにより、特異的な細胞保護効果があることも示した。

以上より、当論文は、医学博士論文に値すると審査し、満場一致で学位の授与を認めることとした。

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