学位論文要旨



No 121443
著者(漢字) 兪,雪氷
著者(英字) Yu,Xuebing
著者(カナ) ユ,セツヒョウ
標題(和) Lecithin-conjugated SODによる肺高血圧の治療の可能性
標題(洋) HYPOXIA-AND MONOCORTALINE-INDUCED PULMONARY HYPERTENSION AND REMODELING ARE ATTENUATED BY LECITHIN-CONJUGATED SOD
報告番号 121443
報告番号 甲21443
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2691号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,譲二
 東京大学 助教授 平田,恭信
 東京大学 助教授 三村,芳和
 東京大学 講師 安東,克之
 東京大学 講師 下澤,達雄
内容要旨 要旨を表示する

論文要旨

背景と目的:急性低酸素症は急性の肺高血圧を引き起こす。また慢性の低酸素症およびMonocrotalineは肺高血圧、肺の血管及び右心の構造変化を引き起こす。肺高血圧は右心室の負荷を招き右心不全及び死に最終的に導く病態である。Superoxide Dismutase (SOD)は活性酸素を除去して、体内の重要な抗酸化酵素である。しかし、SODは非常に短い半減期と低い細胞膜の親和力のため、臨床応用が限られている。Lecithinzed-SODは血液中の半減期及び細胞膜の親和力を高めることによって、普通のSODよりはるかに安定し、高い透過性である。Lecithinzed-SODは普通のSODより活性酸素代謝100倍に有効である。

この実験で、私達は低酸素状態とMonocrotalineによって引き起こされた肺高血圧や付随した心臓と肺の血管変化を対するLecithinized-SODの効果を主に研究した。併せて急性低酸素による急性肺高血圧に対するLecithinized-SODの効果や摘出肺血管での低酸素下での血管反応性に対するLecithinized-SODの効果も検討した。

方法:実験は8週齢SDラット(オス、SPF,220-250g)使用した。

急性低酸素に対するLecithinized-SODの肺血行動態の検討。

ラットを20分間10%の低酸素人工呼吸を行い肺血圧や心拍出量を測定し、Lecithinized-SODの静脈効果を検討した。

慢性の低酸素症による肺高血圧ラットモデルの検討。慢性低酸素モデルラットは3週間の慢性低酸素環境のチャンバーで(低気圧0.5atoms)飼育し作成した。Lecithinzed-SOD 治療グループは静脈内にLecithinzed-SODを注入した(3000u/kg/daily)。3週後に肺平均動脈圧、肺小動脈の厚さおよび右心室の重量を測定した。また肺の病理、過酸化脂質の定量も行った。

Monocrotalineによる肺高血圧ラットモデルの検討。monocrotaline(55mg/kg)を皮下に一回注入し肺高血圧を作成した。3週間後に2)と同様の検討を行った。

摘出肺動脈の発生張力の低酸素による変化に対するLecithinized-SODの効果を検討した。

結果:1.急性低酸素状態でLecithinized-SOD効果の実験:肺動脈圧は急性低酸素状態で上昇した。この急性低酸素状態によって引き起こされた肺血圧の上昇がLecithinized-SODによって減少した。通常のSOD(rh-SOD)ではこの効果はなかった。ラットの心拍出量は急性低酸素状態で減少したが、Lecithinized-SODグループラットの心拍出量は低下しなかった。2.慢性の低酸素状態による肺高血圧モデルにおけるLecithinized-SOD効果の実験:低酸素状態3週間後、肺高血圧や、肺小動脈血管壁の厚さの増加および右心室の肥大が引き起こされたが、Lecithinized-SODが投与されたラットでは肺動脈圧、肺小動脈血管壁の厚さの増加および右心室の肥大は抑制された。一方通常のrh-SOD投与グループでは効果がなかった(p<0.05、n=6)。

また低酸素により肺の過酸化脂質量は増加したが、Lecithinized-SODはこの上昇も抑制した。また低酸素により肺の炎症性変化が起きるが、Lecithinized-SODはそれも抑制した。

Monocrotalineによる肺高血圧モデルでのLecithinized-SOD効果の実験:Lecithinized-SODの投与により、肺高血圧の発症や右室重量の増加や、肺血管の変化は抑制された。

ラットの摘出肺動脈のphenylephrineによる収縮張力は低酸素状態で増強した。この増強現象はLecithinzied-SODの存在下では消失した。

考察および結論:この実験の結果より慢性低酸素状態およびmonocrotalineによって引き起こされた肺高血圧、肺血管の変化および炎症性変化がLecithinized -SODによって抑制されたことが示めされた。また急性の低酸素による肺血管の収縮もLecithinized-SODは抑制することから、酸化ストレスがこの低酸素での肺血管の収縮に関与していることが示唆された。Lecithinized-SODには低酸素症により引き起こされた肺高血圧を防ぐ治療上の潜在的可能性がある。

Keyword:

Lecithinized-SOD,肺の高血圧、低酸素症、monocrotaline、肺、ラット

審査要旨 要旨を表示する

本研究は低酸素状態とmonocrotalineによって引き起こされた肺高血圧や付随した心臓と肺の血管変化を対するlecithin-conjugated superoxide dismutase(lecithinized-SOD)の治療効果および併せて急性低酸素による急性肺高血圧に対するlecithinized-SODの予防効果や摘出肺血管での低酸素下での血管反応性に対するlecithinized-SODの効果を検討した。下記の結果を得ている。

肺動脈圧は急性低酸素状態で上昇した。この急性低酸素状態によって引き起こされた肺血圧の上昇がlecithinized-SOD によって減少した。通常のSOD(unmodified-SOD)ではこの効果はなかった。同時に、ラットの心拍出量は急性低酸素状態で減少したが、lecithinized-SODグループラットの心拍出量はまた維持されているある事が示された。

慢性の低酸素状態による肺高血圧モデルにおけるlecithinized-SOD効果の実験:低酸素状態3週間後、肺高血圧や、肺小動脈血管壁の厚さの増加および右心室の肥大が引き起こされたが、lecithinized-SODが投与されたラットでは肺動脈圧、肺小動脈血管壁の厚さの増加および右心室の肥大はかなり抑制された。また低酸素により肺の過酸化脂質量は増加したが、lecithinized-SODはこの上昇も抑制した。また低酸素により肺の炎症性変化が起きるが、lecithinized-SODはそれも抑制している事が示された。

ラットの摘出肺動脈のphenylephrineによる引き起こす収縮張力は低酸素状態で増強した。Lecithinizied-SODの存在下で、この低酸素症引き起こされた張力の増加を緩めている事が示された。

Monocrotalineによる肺高血圧モデルでのlecithinized-SOD効果の実験:Lecithinized-SODの投与により、肺高血圧の発症や右室重量の増加や、肺血管の変化は抑制されている事が示された。

慢性の低酸素症及びmonocrotalineによって引き起こされたラットの肺の炎症性変はIecithinzed-SODの処置によって減少されている事が示された。

以上、本論文の結果は低酸素状態およびmonocrotalineによって引き起こされた肺の高血圧と肺の血管収縮、右心室肥大および炎症性変化Iecithinized-SODによって扱われると緩和されたことを示した。また急性の低酸素による肺血管の収縮もlecithinized -SODは抑制することから、酸化ストレスが低酸素での肺血管の収縮に関与していることが示唆された。lecithinized-SODに低酸素症引き起こされた肺の高血圧を防ぐ治療上の潜在開発性があると考えられた。

この論文はlecithinized-SODを用いることで、低酸素における肺血管収縮のメカニズムに関して新たな知見が得られており、また肺高血圧に対する治療薬としてのlecithinized-SODの有望性を示したもので、学位の授与に値するものと考えられる。

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