学位論文要旨



No 121456
著者(漢字) 李,東輝
著者(英字) Li,DongHui
著者(カナ) リ,ドンフイ
標題(和) ツメガエルにおける前期腎臓発生の分子生物学的解析
標題(洋) Molecular Analysis of Pronephric Kidney Development in Xenopus Laevis
報告番号 121456
報告番号 甲21456
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2704号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 助教授 上妻,志郎
 東京大学 講師 関根,孝司
 東京大学 教授 栗原,裕基
 東京大学 助教授 武内,巧
内容要旨 要旨を表示する

腎臓は生命維持に必要不可欠な臓器である。腎疾患の発病原因を究明するために、腎臓発生における分子生物的メカニズムの解明は、非常に重要な研究課題である。脊椎動物の腎臓は構造の複雑さや機能する時期の違いから、前腎、中腎、後腎の3種類に分けることができる。哺乳類では後腎がいわゆる「腎臓」として機能する。後腎は前腎と比べると複雑な構造と機能をもっているが、構成単位であるネフロンの構造は前腎とほぼ同様である。したがって前腎を未分化細胞から誘導することは、中腎から後腎へとつながる腎臓発生の仕組みを理解するうえで非常に重要な手段である。

アフリカツメガエルの初期胚は体外で発生するため観察しやすく操作も加えやすいなど、とても優れた材料の一つである。腎臓発生における分子生物的メカニズムを解明するために、私はアフリカツメガエルで実験を行ってきた。前腎は両生類の幼生期における排泄器官であり、水分を集める前腎細管と水分を排泄する前腎導管、糸球小体によって構成される。ツメガエルの前腎予定域は体節と側板中胚葉原腸胚期の後期に決定され、尾芽胚期の初期に他の組織から分離されて形態形成を進め、発生三日目に前腎全体の管化が完成されてから、初めて排泄器官として機能する。現在まで数多くの前腎関連遺伝子が報告されてきたが、前腎形成のメカニズムは既知の遺伝子で解明できないという結果から、さらに未知の遺伝子が前腎形成に関与していることが考えられる。

前腎形成との関連遺伝子を探索するために、whole-mount in situ hybridization screening法を用い、初期ツメガエル胚の前腎に発現している遺伝子の単離及び同定を行った。ツメガエルの神経胚の予定腎管域を材料に由来するcDNAライブラリーの一部を、単鎖のcDNAプラスミドライブラリーに変換し、この単鎖のcDNAライブラリーとstage7のツメガエル胚由来のmRNAの間でサブトラクションを行った。そして、得られたライブラリーをプレートに移して、シークエンスを解析した後、whole-mount in situ hybridizationを行い、ツメガエル胚での発現様式を調べ、その結果XTRAP-γを単離した。次にこの遺伝子の前腎形成に対する作用を調べた。

XTRAP-γは新生タンパク質が細胞の膜を貫通する際に貫通用のトランスロコンに関連するタンパク質である。 XTRAP-γは153個アミノ酸から構成され、4つの膜貫通領域を持つ膜タンパク質であることが、マウスやラットのTRAP-γの解析報告から判明している。XTRAP-γは未受精卵の中にも存在し、ツメガエルの原腸胚の神経板中軸に局在が見られた。また、尾芽胚期ツメガエル胚の前腎細管域に発現の局在が確認された。

XTRAP-γの前腎への作用を調べるために、私はXTRAP-γのmRNAを合成し、初期ツメガエル歴に注入したが、注入されたツメガエルH王の発生に変化が見られなかった。ツメガエルルエでは近年、遺伝子の機能欠損の方法として生体内でも安定なモルフォリノオリゴヌクレオチドの微量注入が行われている。このオリゴヌクレオチドを翻訳開始点より上流の5、UTR領域または翻訳開始点を含む領域に設計すると、遺伝子特異的な翻訳阻害が可能である。そこでXTRAP-γの腔内での機能を解析するため、XTRAP-γに対するモルフォリノオリゴヌクレオチドを作製した(XTRAP-γMO)。このオリゴヌクレオチドをツメガエルの予定前腎領域に注入すると、ツメガエル歴の前腎形成が阻害され、前腎構造中の前腎細管の形成が強く抑制されることを確認した。

浅島研究室では、ツメガエルの後期胞胚から切り出した予定外胚葉片(アニマルキャップ)を、誘導因子であるアクチビンとレチノイン酸で処理すると、アニマルキャップの中に前腎管が誘導され、機能も正常のツメガエル胚の前腎と同様であることが確認された。さらに前腎形成における役割を確認するために、私はXTRAP-γMOを初期胚に注入し、アニマルキャップ誘導系を使って、前腎形成について検討した。その結果、ツメガエルのアニマルキャップの中に、前腎を誘導できなかった。以上の結果から、XTRAP-γの機能の維持は前腎形成に必要であることが示唆された。

さらにXTRAP-γMOを予定前腎領域に微量注入した胚を前腎のマーカー遺伝子のwhole-mount in situ hybridizationで解析したところ、前腎のマーカー遺伝子であるXpax-2とXwnt-4の発現の著明な減少が見られた。この結果からXTRAP-γMOはXpax-2とXwnt-4の発現を阻害することによって、前腎形成を阻害すると考えられた。このことを確認するために、Xpax-2とXwnt-4のmRNAを合成し、XTRAP-γMOと一緒に初期胚の予定前腎領域に注入すると、XTRAP-γMOによる前腎形成の阻害が見られなくなった。推測したようにXpax-2とXwnt-4の合成mRNAによって、XTRAP-γMOによる前腎形成の阻害がレスキューされた。

私は前腎形成の機構を解明するために、前腎形成関連の遺伝子XTRAP-γを単離した。そして、この遺伝子について解析の結果から、XTRAP-γが前腎形成に必要不可欠であり、またこの遺伝子はマーカー遺伝子であるXpax-2とXwnt-4を通じて、前腎形成に深く関与すると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は初期ツメガエル歴の前腎発生過程において重要な役割を演じる遺伝子を探索するために、whole-mount in situ hybridization screening法を用い、初期ツメガエル胚の前腎に発現している遺伝子の単離及び同定を行ったものであり、下記の結果を得ている。

ツメガエルの神経胚の予定腎管域を材料に由来するcDNAライブラリーの一部を、単鎖のcDNAプラスミドライブラリーに変換し、この単鎖のcDNAライブラリーとstage7のツメガエル胚由来のmRNAの間でサブトラクションを行った。そして、得られたライブラリーをプレートに移して、シークエンスを解析した後、whole-mount in situ hybridizationを行い、ツメガエル胚での発現様式を調べ、その結果XTRAP-γを単離した。

XTRAP-γは新生タンパク質が細胞の膜を貫通する際に貫通用のトランスロコンに関連するタンパク質であるXTRAP-γは153個アミノ酸から構成され、4つの膜貫通領域を持つ膜タンパク質であることが、マウスやラットのTRAP-γの解析報告から判明している。XTRAP-γは未受精卵の中にも存在し、ツメガエルの原腸胚の神経板中軸に局在が見られた。また、尾芽腔期ツメガエル胚の前腎細管域に発現の局在が確認された。

XTRAP-γの前腎への作用を調べるために、XTRAP-γのmRNAを合成し、初期ツメガエル胚に注入したが、注入されたツメガエル胚の発生に変化が見られなかった。ツメガエル胚では近年、遺伝子の機能欠損の方法として生体内でも安定なモルフォリノオリゴヌクレオチドの微量注入が行われている。このオリゴヌクレオチドを翻訳開始点より上流の5'UTR領域または翻訳開始点を含む領域に設計すると、遺伝子特異的な翻訳阻害が可能である。そこでXTRAP-γの胚内での機能を解析するため、XTRAP-γに対するモルフォリノオリゴヌクレオチドを作製した(XTRAP-γMO)。このオリゴヌクレオチドをツメガエルの予定前腎領域に注入すると、ツメガエル胚の前腎形成が阻害され、前腎構造中の前腎細管の形成が強く抑制されることを確認した。

浅島研究室では、ツメガエルの後期胞胚から切り出した予定外胚葉片(アニマルキャップ)を、誘導因子であるアクチビンとレチノイン酸で処理すると、アニマルキャップの中に前腎管が誘導され、機能も正常のツメガエルH工の前腎と同様であることが確認された。さらに前腎形成における役割を確認するために、XTRAP-γMOを初期胚に注入し、アニマルキャップ誘導系を使って、前腎形成について検討した。その結果、ツメガエルのアニマルキャップの中に、前腎を誘導できなかった。以上の結果から、XTRAP-γの機能の維持は前腎形成に必要であることが示唆された。

さらにXTRAP-γMOを予定前腎領域に微量注入した胚を前腎のマーカー遺伝子のwhole-mount in situ hybridizationで解析したところ、前腎のマーカー遺伝子であるXpax-2とXwnt-4の発現の著明な減少が見られた。この結果からXTRAP-γMOはXpax-2とXwnt-4の発現を阻害することによって、前腎形成を阻害すると考えられた。このことを確認するために、Xpax-2とXwnt-4のmRNAを合成し、XTRAP-γMoと一緒に初期胚の予定前腎領域に注入すると、XTRAP-γMOによる前腎形成の阻害が見られなくなった。推測したようにXpax-2とXwnt-4の合成mRNAによって、XTRAP-γMOによる前腎形成の阻害がレスキューされた。

以上、本論文は前腎形成の機構を解明するために、前腎形成関連の遺伝子XTRAP-γを単離した。そして、この遺伝子について解析の結果から、XTRAP-γが前腎形成に必要不可欠であり、またこの遺伝子はマーカー遺伝子であるXpax-2とXwnt-4を通じて、前腎形成に深く関与すると考えられた。そのことによって前腎形成の機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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