学位論文要旨



No 121465
著者(漢字)
著者(英字) Mohammed Rafiqul Islam Mamw
著者(カナ) モハメド ラフィクル イスラム マムン
標題(和) CYPIAI遺伝子多型は前立腺癌に対するリン酸エストラムスチン療法による消化器障害と関連する
標題(洋)
報告番号 121465
報告番号 甲21465
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2713号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 武谷,雄二
 東京大学 客員助教授 馬渕,昭彦
 東京大学 教授 鈴木,洋史
 東京大学 講師 久米,春喜
 東京大学 助教授 中川,恵一
内容要旨 要旨を表示する

目的:前立腺癌に対するリン酸エストラムスチン療法において消化器障害は発現頻度の高い副作用である。消化器障害によって服薬のコンプライアンスが低下し、治療中断に至る症例も少なくない。CYP1A1はリン酸エストラムスチンの代謝に関わる酵素であり、その遺伝子上の一塩基多型によってリン酸エストラムスチンの代謝に個体差が生じ、消化器障害の発現に関与している可能性があると考えられる。そこで我々はCYP1A1遺伝子上の一塩基多型の遺伝子型と消化器障害の発現との関連を検討することにした。

方法:未治療進行前立腺癌患者126人を対象とした。全例に対して経口投与による低用量リン酸エストラムスチン療法を行った。CYP1A1遺伝子多型(m1,m2,m4,IVS1-728)の解析はPCRを用いたdirect sequencing法にて行った。

結果:126人中42例(33.3%)の患者において消化器障害が認められた。消化器障害のオッズ比は他の因子(年齢、baseline PSA、performance status、臨床病期、グリソンスコア、EMP用量)に関係なくm1およびIVS1-728多型のメジャーアレルホモ接合において他の遺伝子型群(ヘテロ接合及びマイナーアレルホモ接合)に比して有意に増加した(m1多型,オッズ比2.70,95%信頼区間1.25-5.99,P=0.01;IVS1-728多型,オッズ比3.33,95%信頼区間1.52-7.51,P<0.01)。ハプロタイプ解析ではm1多型でチミン、m2多型でアデニン、IVS1-728多型でグアニンを持つアレルの組合せでは他の組合せに比して消化器障害発現リスクが約12倍高かった(オッズ比11.86,95%信頼区間5.11-27.53,P<0.01)。

結論:CYP1A1遺伝子多型はリン酸エストラムスチン療法における消化器障害発現に有意な関連があった。CYP1A1遺伝子多型の遺伝子型をリン酸エストラムスチン療法開始前に把握する事で、消化器障害発現リスクの高い患者を発見する事が可能となり、患者のQOL及び服薬コンプライアンスを向上させる可能性があると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、前立腺癌に対するリン酸エストラムスチン療法の副作用のうち消化管障害の発現リスクが、チトクロームP450 1Al遺伝子多型の遺伝子型によって異なるか否かを検討したものであり、下記の結果を得ている。

(リン酸エストラムスチン療法を受けた126人の患者のうち、42人に消化器障害を発現した。消化器障害の重症度はNational Cancer Institute-Common Toxicity Criteria のgrade lが30人、grade 2以上が12人であった。

(ml多型でメジャーアレルホモ接合を有する患者群はそれ以外の遺伝子型を有する患者群に比べて有意に消化器障害の発現リスクが高かった。単変量解析:オッズ比,278;95%信頼区間,1.31-6.07;p値,<0.01.多変量解析:オッズ比,270;95%信頼区間,1.25-5.99;p値,0.01.

IVS1-728多型でメジャーアレルホモ接合を有する患者群はそれ以外の遺伝子型を有する患者群に比べて有意に消化器障害の発現リスクが高かった。単変量解析:オッズ比,3.41;95%信頼区間,1.59-7.56;p値,<0.01.多変量解析:オッズ比,3.33;95%信頼区間,1.52-7.51;p値,<0.01.

ml、m2両多型によるハプロタイプのうち、両多型がメジヤーアレルであった場合の消化器障害の発現リスクは、オッズ比,2.08;95%信頼区間,1.15-3.75;p値,0.02であった。

m1、IVS1-728両多型によるハプロタイプのうち、両多型がメジャーアレルであった場合の消化器障害の発現リスクは、オッズ比,2.18;95%信頼区間,1.21-3.92;p値,<0.01であった。

m2、IVS1-728両多型によるハプロタイプのうち、両多型がメジャーアレルであった場合の消化器障害の発現リスクは、オッズ比,2.33;95%信頼区間,1.28-4.23;p値、<0.01であった。

m1、m2、IVS1-728の3多型によるハプロタイプのうち、全ての多型がメジャーアレルであった場合の消化器障害の発現リスクは、オッズ比,11.86;95%信頼区間,5.11-27.53;p値,<001であった。

以上、本論文はチトクロームP450 1A1多型の遺伝子型が前立腺癌に対するリン酸エストラムスチン療法による副作用のうち、消化器障害の発現リスクと関連することを明らかにした。同多型が個別の症例におけるリン酸エストラムスチン療法の消化器障害発現の予測に有用である可能性が示され、学位の授与に値するものと考えられる。

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