学位論文要旨



No 121472
著者(漢字) 竹腰,知紀
著者(英字)
著者(カナ) タケコシ,トモノリ
標題(和) マウスランゲルハンス細胞の成熟関連遺伝子の解析
標題(洋)
報告番号 121472
報告番号 甲21472
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2720号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 助教授 滝澤,始
 東京大学 助教授 天野,史郎
 東京大学 助教授 菊池,かな子
 東京大学 助教授 武内,巧
内容要旨 要旨を表示する

我々はprofessionalな抗原提示細胞である樹状細胞(dendritic cell:DC)の1つであるマウスLangerhans細胞(Langerhans cell:LC)の抗原提示能を制御する新規遺伝子を同定することにより、接触性皮膚炎や乾癖、アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患に対する治療の新しいターゲットとして、あるいは悪性腫瘍に対する樹状細胞療法の標的分子として将来的に利用することを目的として本研究を計画した。我々はBALB/cマウスの表皮細胞サスペンジョンからパンニング法により精製した高純度のLC(>95%)を用いて、精製直後のLCと、GM-CSF存在下に24時間培養して成熟したLCとの遺伝子発現をsubstraction PCRを用いて比較し、培養したLCにより特異的に発現している遺伝子を同定することを通して、LCの成熟に関連する新しい遺伝子とその遺伝子がコードする蛋白質の検出を試みた。同定された遺伝子の中で、特にこれまでその機能が未知の蛋白質をコードしている遺伝子をクローニングし、Gene Aと名付けた。次にGene Aをvectorに組み込み、HeLa細胞にtransfectし、Gene Aの遺伝子産物であるProtein Aが細胞質に存在することを認めた。同時にreal-time PCRを用いて、成熟度の異なるDC(bone-marrowDC,脾臓由来CD11c+DC,LC)でのGene Aの発現を比較検討したところ、いずれのDCにおいても成熟に伴い発現が増強する傾向がみられた。さらに、Protein Aに対する抗体を作成し、LCとbone-marrowDCにおけるProtein Aの発現がその成熟に伴って増強することを確認した。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は樹状細胞の成熟過程において重要な役割を演じていると考えられる遺伝子を明らかにするため、パンニング法でランゲルハンス細胞を精製する系にて、精製したランゲルハンス細胞(fLC)と培養したランゲルハンス細胞(cLC)のmRNAの発現の差をPCR-Select Subtraction法にて解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

精製直後のLC(fLC)と48h培養後のLC(CLC)のmRNAの発現の差を解析した結果をClontech PCR-select cDNA subtraction法にて検討し、fLCで1個、cLCで2個の新規の特異遺伝子を検出した。

同定された遺伝子の中で、特にこれまでその機能が未知の蛋白質をコードしている遺伝子において最長のopen reading flameをクローニングし、Gene Aと名付けた。次にGene AをpEGFP-C1に組み込んだvector(Gene A-pEGFP-C1と名付けた)を作成し、FuGENE6を用いてHeLa細胞にtransfectした。EGFPの蛍光の分布から、Gene Aの遺伝子産物であるProtein Aが細胞質に存在することが示唆された。

リンパ節、胸腺、脾臓の各リンパ臓器および脳、肝臓、腎臓におけるGene Aの発現をreal-time PCRを用いて解析したところ、リンパ節においてGene Aの有意に強い発現を認めた。胸腺、脾臓ではわずかにGene Aの発現がみられたものの、脳、肝臓、腎臓ではGene Aの発現はみられなかった。さらにreal-time PCRを用いて、成熟度の異なる樹状細胞(dendritic cell;DC、bone marrow DC、脾臓由来CD11c+DC,LC)でのGene Aの発現を比較検討したところ、いずれのDCにおいても成熟に伴い発現が増強する傾向がみられた。これらのことより、Gene Aが樹状細胞において成熟に伴い発現が増強し、その傾向が生体内でもみられる可能性が示された。

Protein Aに対する抗体(抗Protein A抗体)を作成し、抗Protein A抗体を用いた免疫染色による検討を行ったところ、LCとbonemarrow DCでは成熟に伴って染色の増強を認めた。これにより、樹状細胞の成熟に伴いProtein Aの発現も増強することが示された。さらに、抗Protein A抗体をもちいたFACSではBMDCの成熟に伴うProtein Aの増強は検出できなかったが、抗Protein A抗体とBD Cytofix/Cytoperm kitを用いたBMDCのFACSではBMDCの成熟に伴うProtein Aの増強が認められた。このことより、抗Protein A抗体が認識する部位はBMDCでは細胞内に存在する可能性が示唆された。

以上、本論文はマウスランゲルハンス細胞において、成熟に伴い発現する新規分子の存在を確認した。この分子はランゲルハンス細胞のみならず、bone marrow DC、脾臓由来CD11c+DCでも成熟に伴い発現の増強みられることが明らかにした。本研究は樹状細胞の成熟に関する新たな知見をもたらすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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